婚約破棄されそうな悪役令嬢ですが、ヤンデレ蠱毒を観察します
あ、これ乙女ゲームの世界に転生してるわ。
突然脳裏にひらめいたのは、私の婚約者アラン様が、男爵令嬢ジュネー様に寄り添っているのを見た瞬間だった。
私の名はレティシア・オールド。
いわゆる悪役令嬢ポジで二人の恋を邪魔した結果、断罪される。
問題はそのゲームだ。
『監☆禁☆愛 〜小鳥は愛の鎖に囚われる〜』 略して禁鳥。
攻略対象は腹黒陰険メガネ、腹黒陰険エセ王子、腹黒陰険年下、腹黒陰険訳あり騎士、腹黒陰険神官候補。
全員腹黒陰険じゃねーか!というツッコミはもちろんだが、クソゲーなのが全員ヤンデレからの監禁エンドというところ。
制作陣のヤンデレの解像度が低い!とヤンデレ好きにも評価は微妙だったゲームだ。
そして私の婚約者であるアラン様は、将来の宰相候補、腹黒陰険メガネ様なのだ。
さすが攻略対象なので、造形はばっちりだ。
青みがかった前髪長めの銀髪に青い目、その外見を裏切らない、落ち着いていつも冷静な言動。
クールなインテリメガネ枠がアラン様だ。
それが恋に落ちたら監禁するのか〜はぇ〜。
貴族令嬢らしからぬ声が出そうになって、慌てて飲み込んだ。
とりあえずアラン様に気づかれぬように、そうっと後ずさりしながらその場から脱出した。
学園が終わって帰宅し、自室で今後の作戦を練ることにした。
相手は、好きな子は監禁、それ以外は生死など気にしないタイプのヤンデレだ。
下手に刺激するのは良くない。
ジュネー様は、ヒロインらしいふわふわピンク髪の庇護欲をそそる外見をしていた。
彼女も転生者なのかどうかは分からないが、あのヤンデレを引き受けてくれるなら願ったり叶ったりだ。
あの二人を応援しつつ、私は断罪回避するために穏便に離脱しなければならない。
まずアラン様への対応だが、急に距離を置いたり、ジュネー様との仲を応援すると、逆に気を引きかねない。
かといって好意があるように嫉妬してみせたりすれば、それはそれで気になってしまうかもしれない。
あくまでも当たり障りなく、貴族ですから良く思ってはいませんよ?くらいの温度で対応しなければ。
ジュネー様とは接触しないように心がけよう。
ゲームの強制力がどこで働くかわからないし。
確かレティシアの断罪って、暴漢に襲われて大怪我を負った上に娼館に売り飛ばされてたのよねー。
さすが腹黒陰険メガネ、浮気しといてやることがえげつない。
とにかく、二人には関わらないようにしつつ、でも動向を見ておかなくちゃ。
そんな感じで行動方針を立てて、明日からの学園生活に備えた。
翌日からこっそりジュネーちゃん観察を始めたのだが、アラン様ルートを選んだと思っていたのに、ほかの攻略対象とも親しくしているようだ。
今隣にいるのは、サラサラの金髪にロイヤルブルーな瞳、高貴さがにじみ出ている美形のリチャード様。
Theプリンス!な見た目のリチャード様は、実際に第二王子ではあるんだけど。
誰とも分け隔てなく紳士的に接し、成績も常に首位で生徒会長も務める、完璧王子様だ。
…でも実はヤンデレ監禁エンドなのよねぇ…。人は見かけによらないわ〜。
学園内のカフェテラスで、リチャード王子の隣に座り、時折軽く腕に触れたりしながら楽しそうに笑っている。
そんなジュネーちゃんを、微笑ましく見つめているのはアラン様含む他の攻略対象たち。
騎士団長の息子だが、父親とあまり関係がうまくいってないという事情持ちの、騎士枠ドルク様。
教皇の息子であり、将来は高位神官が約束されている神官見習いミハエル様は、中性的な雰囲気の優男枠。
かわいい年下弟系なのは、大商人の息子であるロディマス様。
そしてインテリメガネ枠のアラン様。
5人のヤンデレ候補を侍らせて、ジュネーちゃんは楽しそうにしている。
もしかして、逆ハー狙いなのかしら。
でも、ゲーム内に逆ハールートはなかったはず。
だって、彼らはみんな、独占欲激強の監禁まっしぐらなヤンデレよ?
好きな女の子を共有なんてできるはずがない。
現に今だって、攻略対象たちはジュネーちゃんに笑顔を向けているけれど、目の奥が笑ってない雰囲気よ。
え、もしかして、ヤンデレ蠱毒始まっちゃう感じ?
ジュネーちゃん、とんでもないことやろうとしているの、わかってないんだろうなぁ。
私は涼しい顔でお茶を飲みつつ、横目で彼らの観察を続けた。
ところでジュネーちゃん争奪戦から、もしもアラン様が脱落したら、「やっぱり君が…」とか起きちゃうんじゃないかしら。
そうなるのも困るのよね。
なんてことを考えていたら、学園の廊下でアラン様に呼び止められた。
「来週の夜会なのだが、君をエスコートすることができなくなった」
「まぁ、どうしてですの?」
ジュネーちゃんですよね!と内心思いつつ、貴族令嬢らしく、表情を変えぬまま問いかける。
「ジュネー嬢をエスコートする」
ほらきたー!
1.さっさと了承する
2.抗議する
3.軽く牽制する
どう答えようかしらと瞬時に思考を巡らせて、ひとまず軽く不服を伝えることにした。
「婚約者を置いて、ほかの女性をエスコートなさると?」
このくらいの軽い嫌味なら、アラン様も少しイラッとくる程度だろう。
「彼女はまだ華やかな夜会には慣れていないからな。私が付き添うことにした」
先程より一段冷たい声で、アラン様は言う。
相談もなく決定事項として伝えてくるあたり、こちら下に見ているのがよくわかるが、私はそこで引き下がった。
無駄に心象を悪くしたいわけではないからね。
「了承いたしましたわ」
私が答えると、用は済んだとばかりにアラン様はサッサと行ってしまわれた。
元々可もなく不可もなく、な関係だったけど、政略的な婚約なんてこんなものだと思ってた。
でも今ならわかるわ。
アイツ全然私に興味ないな。
アラン様が立ち去った方を見ながらそんなことを考えていたら、脇から可憐な声がした。
「あのっ…、ごめんなさい!」
おめめうるうるさせて胸の前で手を組んだ、必殺!お願いポーズのジュネーちゃんが私を見ていた。
「わたしがっ慣れてなくて不安だって相談したら、アラン様が付き添ってくださるっておっしゃったんです」
このお願いポーズにヤンデレ共は落ちたのかぁ…なんてことを脳内で考えつつ、微塵も表情には出さずに私は答えた。
「アラン様がお決めになったのだから仕方ありませんわ」
「でもっ!わたし、知らなくて…」
いや、知らないはずはないでしょうよ。夜会に婚約者と出かけるのは普通なのに。
面倒だなあと思いながら返事を考えていると、後ろからズイッと割って入ってきた男子生徒がいた。
「ジュネーちゃんがこう言ってるんだから、許してあげてよ」
ふわふわの猫っ毛に甘い琥珀色の瞳。
背は私とそんなに変わらないくらいの小柄な男子生徒。
甘えんぼ後輩枠のロディマス様だ。
「許すもなにも。アラン様はもうお決めになっているのだから、わたくしから申し上げることはなにもありませんわ」
「そんな冷たい言い方しなくてもいいじゃないですか。ジュネーちゃんかわいそうに」
いきなりやってきて、ごめんなさいだの許せだの、当たり屋に絡まれた気分だわ。
「やっぱり僕がエスコートしたほうがよかったのに!」
口をとがらせて不満げなロディマス様。
「失礼さていただきますわ」
勝手にやっとれ!を言外ににじませて、サッサッと退散することにした。
あっ!と、2人は声を上げたが、それ以上追ってくるつもりはないようで助かった。
こうやって、「悪役令嬢」にされていくのかしら。
そして、夜会の日がやってきた。
私は兄にエスコートを頼み、会場入りする。
そこにはすでに、アラン様とジュネーちゃんがいて、リチャード様以外のいつもの面々が取り囲んでいた。
やがてリチャード様が、ご自分の婚約者であるキャロライナ様を伴って現れた。
ところがリチャード様は、義務は果たしたとばかりにキャロライナ様を置いて、ジュネーちゃんのほうに向かうではないか。
キャロライナ様のお顔が怖い…っ。
それによく見ると、ジュネーちゃんのドレスは黃色の布地の上から光沢のあるオーガンジーをふんわりかぶせたデザイン。
これってリチャード様の色に見えなくもないわよね。
身につけてる耳飾りとネックレスは青石。
アラン様ともリチャード様の瞳とも取れる。
今夜のエスコートはアラン様に譲ったけど、その身にまとう色はリチャード様、ということなのかしら。
「噂はまことのようだな」
隣に立つ兄が小さく呟いた。
そりゃあ噂になりますよねー。
「アラン殿はいつもああなのか?」
「ええ、最近はずっとこうでしてよ」
ふむ、と兄は考え込んでいるようだった。
これはお父様にも報告が行くわね。
婚約破棄される前に、穏便に解消できたらいいんだけど。
アラン様は公爵家なので、伯爵である我が家からの解消は難しいのよね。
そうこうしてるうちに音楽が流れ、ダンスが始まった。
注目のファーストダンスはリチャード様とジュネーちゃん。
うわぁ、という周りの空気などお構いなしに、密着して楽しげに言葉を交わす二人。
無分の高いリチャード様かアラン様が本命なのかしら。
エスコートもファーストダンスも奪われた三人は真顔で見つめている。
「どういうことですの!」
一曲目が終わったあと、リチャード様にキャロライナ様が詰め寄った。
当事者であるのに、ジュネーちゃんはアラン様に手を引かれてその場から救出される。
リチャード様とキャロライナ様は、会場の隅の方に移動して話していたようだが、般若のようなお顔をして、キャロライナ様は会場から出て行ってしまった。
微妙な雰囲気の中、ジュネーちゃんとヤンデレ達だけが楽しそうな、地獄の夜会となった。
ゲームでは、最後は卒業パーティでの婚約破棄というお約束の流れだったはず。
アラン様とリチャード様は一学年上なので、今年卒業だ。
今のところ、私はほぼジュネーちゃんとの接触はないけど、と思っていたら来ましたよ向こうから。
「ジュネー嬢に嫌がらせをしている令嬢たちがいるそうですが、あなたはご存じないですか?」
口調はやわらかだが、お前がやってるんだろうという圧を滲ませて、言いがかりをつけてきたのはミハエル様。
教皇の息子であり、優男枠だ。
見た目は金茶のロン毛ストレートで、女性的な顔立ちで言葉遣いもやわらかい。
だがコイツも惚れたら監禁まっしぐらのヤンデレだ。
刺激してはいけない。
「どうしてわたくしにお聞きになるのかしら」
いつもは薄く微笑をたたえているのに、その目に鋭さを忍ばせてミハエル様は続けた。
「アラン殿がジュネー嬢に親身になっているのを、よく思われていないのでは?」
「あらまあ、まるで誘導尋問ですわね。わたくしがなにをやったと?」
ミハエル様の後ろで、ドルク様にささえられていたジュネーちゃんが、例のうるうるお願いポーズで口を開く。
「レティシア様が、て言ったわけじゃないんです!でも、アラン様のことで、私のこと嫌ってるんじゃないかと思って…」
伏し目がちにそう言えば、ドルク様がそっと肩に手を置く。
「かわいそうにこんなに怯えて。教科書やノートが破られたり、捨てられたりしたそうだ」
普段寡黙なドルク様も、責めるように私を見た。
「まるでわたくしが犯人だと言わんばかりですのね。わたくしは何もしておりませんわ」
「あなたがしていなくても、他の人たちがしているところや、悪意がありそうな人がお分かりになるのでは?」
「わたくしは何もしておりませんし、知りません!。お話がそれだけなら、失礼させてもらいますわ」
ピシャリと言い切ると私はその場を離れた。
前もあったわね、こんな場面。
ジュネーちゃんへの嫌がらせが、誰かがやってるのか自演なのかは分からないが、本っ当に私は知らないので勘弁して欲しいわ。
そしてジュネーちゃんの逆ハーが出来上がり、まともな生徒たちは遠巻きに見るようになった頃、事件は起きた。
ドルク様の母君の不貞が明るみに出て、ドルク様はその不貞相手との子で、騎士団長とは血の繋がりがないことまで明らかになったらしい。
ドルク様の母君は離縁され、ドルク様と共に実家に戻されたという。
そして学園も退学してしまった。
いずれは騎士団長かと将来を嘱望されていたが、今回のことでそれも難しくなっただろう。
あっけない退場だった。
次に異変が起きたのは、ロディマス様。
ご実家である大商会が、奴隷商人などの闇商人と裏で繋がっており、王都での犯罪にも関与していることが明らかになったのだ。
当然商会は潰され、父である会長は処刑、息子であるロディマス様は犯罪者が送られる北の鉱山行きとなった。
商会のお金を使い込んで、ジュネー様に貢いでいたらしい。
短期間で、逆ハー要員が二人消えた。
ヤンデレ蠱毒始まってるのでは、と私はゾッとした。
そんななか、アラン様から面会が申し込まれ、久しぶりに二人で会うことになった。
以前は交流のために、月に二、三度は機会を設けていたのに、最近はずっと忙しいと断られていた。
「単刀直入に言う。婚約を解消してほしい」
予想通りともいえた。
卒業パーティで婚約破棄じゃないだけマシかもしれない。
「家同士のことですし、わたくしの一存では決められませんわ」
両手を挙げて大歓迎したいのをぐっと堪えて、アラン様の顔を見ないように答えた。
宰相候補の腹黒陰険メガネ様ですからね。こちらが喜んでるのを鋭く察してしまったら、面倒な気がしますもの。
「君が受け入れてくれれば、後は私がどうにかする」
愛しいジュネーちゃんのためですものね。
待って、二人が脱落したのもアラン様の策略なのかしら。
「アラン様のお気持ちはわかりましたわ。わたくしは家の決定に従うのみです」
OKあとは任せたわ!の意が伝わって、アラン様は少しだけ笑った。
それはそれはもう、冷酷な微笑みだったと記しておく。
そして次に盤上から消えたのは、ミハエル様だった。
あろうことか、教会内部で黒魔術に傾倒した一派があり、ミハエル様もそれに属していたらしい。
ロディマス様の商会と、裏で繋がって生贄を調達したり、依頼を受けて呪ったりしていたそうだ。
ミハエル様がリチャード様を呪っていた証拠も出て、ミハエル様は一派共々処刑された。
残ったのはリチャード様とアラン様。
三人が次々と消えて、ジュネーちゃんの様子も不安そうになってきた。
そんなある日、ちょうどひとけのない廊下で、ジュネーちゃんがいきなり私の腕を掴んで捲し立ててきた。
「ねぇ!アンタも転生者なんでしょ?!ここがどこか知ってたの?!」
「え、むしろ知らなかったの?」
うっかり素で答えてしまった。
「やっぱりそうなんだ!ここなんなの?みんなだんだん怖くなってくるし…」
「キントリ知らずにやってたの?」
「なによキントリって!」
「全員ヤンデレの…」
そこまで言いかけで、アラン様が視界に入ってきて私は口を閉じた。
「ジュネー、レティシアと何を話しているんだい?」
優しい声がこんなに恐怖を感じるなんて、誰がわかるだろうか。
「仲の良かった方々がいなくなって、不安になられてるようですわ」
私はジリジリと距離を取りながら、貴族の微笑で答えた。
「私がいるじゃないか」
声は優しいけど、ジュネーちゃんの腕を掴む手はガッチリ力入ってますよね?
「待って!まだ話は終わって…」
引きつった顔のまま、ジュネーちゃんは回収されていった。
そうかージュネーちゃん、知らずにヤンデレ蠱毒しちゃったのかー。
残りはアラン様とリチャード様の一騎打ち。
そんな怖いもの、関わりたくないわ。
そんな不安はありつつ、私とアラン様の婚約は無事解消された。
穏便に断罪回避したわ!
だがそのことで、リチャード様が今度は焦ったらしい。
ジュネーちゃんを挟んで、両隣にリチャード様とアラン様の図を頻繁に見るようになった。
キャロライナ様はもう呆れて、関わらないようにしているようだ。
それから間もなく大事件が起こった。
お忍びで城下町をデートしていたリチャード様とジュネーちゃんが、ならず者に襲われたのだ。
リチャード様は護衛をまいて裏通りに行ってしまったため、大怪我を負いジュネーちゃんもわずかではあるが怪我をした。
このことでついに、リチャード様とキャロライナ様の婚約は、リチャード様有責の破棄になった。
元々キャロライナ様の公爵家に婿入り予定だったのが無くなり、廃嫡まではいかないが醜聞により次の婚約相手も見つからず、事実上幽閉状態となった。
私は知らなかったが、リチャード様をジュネーちゃんの男爵家へ婿入させる話が出ていたらしい。
ある意味当然だと言える。
そこでアラン様は急いでジュネーちゃんと婚約してしまおうとしたのだが。
リチャード様を襲ったならず者が、アラン様の計画によるものだとどこからかバレた。
アラン様はギリギリ処刑は免れたが、貴族籍を抜かれた上でロディマス様と同じ鉱山送りになった。
策士策に溺れるってこういうことなのかしら。
結局、ジュネーちゃんも男爵家との養子縁組を解消され、平民に戻されたらしい。
それとなく消息を探らせてみたが、行方不明になっていた。
私はそれ以上の深入りは止めた。
ヤンデレ蠱毒は誰も残らなかった。
男爵家に引き取られて鏡を見たとき、ピンク色のふわふわの髪の愛らしい美少女が写っていて、私は前世を思い出した。
「これ、どう見てもヒロインじゃん!」
ジュネーという名前に覚えはなかったけど、学園に行ってみると王子様や公爵家の令息や、美形たちがたくさんいて、やはりここは乙女ゲーの世界なんだわ!と思った。
攻略対象らしき彼らと仲良くなるのは難しくなかった。
イケメンに囲まれて、彼らからチヤホヤされるのは最高だった。
みんなちょっと独占欲強いかな〜と思ったけど、嫉妬されるのは気持ちいいし。
うまくなだめながら逆ハーを楽しみつつ、本命は誰にしようかなーて考えていた。
やっぱり王子様は強いよね。
見た目もすごく王子様っぽいし、頭もいいし。
アラン様もクールだけど、私にはとても優しいところが優越感くすぐられるし。
ドルク様はあんまり喋らないけど、たくましい筋肉系で頼りがいありそうだし。
ミハエル様は美形でちょっと神秘的なんだけど、神官は将来どうかなぁって思った。
将来のこと考えたら、贅沢できそうなロディマス様も悪くないんだよね。何でも買ってくれるし。
そんな風に嬉しい悩みを楽しんでたのに、だんだんおかしくなっていった。
最初はドルク様がいなくなった。
ドルク様は悪くないのに、お家のゴタゴタで学園辞めちゃって。
すぐあとにロディマス様もいなくなった。
奴隷商人や闇取引とかしてたんだって。
そんな怖い人からたくさんプレゼントもらってたんだ、てちょっと怖くなった。
ロディマス様のお父さんは処刑されて、ロディマス様は鉱山送りになったって聞いて、急にこの世界が怖くなってきた。
ミハエル様も最悪だった。
黒魔術で人呪ってたとかなんなのよ。でも怖いのは、それで処刑になっちゃうこと。
仲良しだと思ってたのにリチャード様を呪ってたって、それ私のせいなのかな?
残ったアラン様とリチャード様は相変わらず優しいけど、なんだか二人とも絡みつくような視線で見てくる気がして不安になった。
それで思い出したの、レティシア様。
キャロライナ様は悪役令嬢ぽかったけど、レティシア様は関わらないようにしてたみたいだし。
きっとあの人も転生者で、断罪回避狙ってたんだわ!
そう思って突撃したら案の定だった。
キントリとか知らないけど、ヤンデレっていいかけてたと思う。
大事なところだったのに、アラン様に邪魔されてしまった。
その後はリチャード様と街でデートしてたら怖い人達に襲われて、リチャード様は血まみれになってて。
私は助かったけど、外に出るのが怖くなっていた。
なのにアラン様は笑顔で会いに来るから、この人おかしいんじゃって思い始めたところで、あの暴漢はアラン様がやらせたんだって聞かされた。
男爵家も私の扱いに困って養子縁組を解消するって言うから、私は喜んで平民に戻ることにした。
それから街を歩いていたとき、名前を呼ばれて、口に何かを当てられて私は気を失った。
ジャラ…
なんの音だろう…
ジャラ…
私どこにいるんだろう…
ばっと目を開けた。
頭がなんだか重い。
そう言えば街を歩いてたのに、ここはどこだろう。
見知らぬ部屋の中で、私は寝かされていたベッドから身体を起こした。
ジャラ…
違和感を感じて足元を見たら、足に鎖が繋がっていた。
「え…なにこれ」
私が混乱していると、ドアが開いた。
「起きたんだね、ジュネー」
「ドルク様?!」
入ってきたのは、学園を辞めたはずのドルク様だった。
「やっと二人きりになれたね」
蕩けるように甘い声で、昏い目をしたドルク様は笑った。
「なにこれ…ここはどこなの…」
「これからは、ずっとここで、二人きりで暮らすんだよ」
ドルク様の優しい声が怖くて、私はガタガタ震えた。
「ああ、こんなに怯えて。怖い目にあったね。アランのせいで」
「え…知ってるの?」
「知ってるよ。アランが手配したならず者の中に、俺もいたのさ。何もかもなくして、家を飛び出してたんだ」
ドルク様は今まで見たことのないような、ねっとりとした笑い声をあげた。
「俺が何もかも失ったのも、多分アランかリチャードが手を回したんだろうさ。ライバルを潰すために。アイツらの気持ちは俺もわかるよ。邪魔者はみんな消えればいいってね」
ドルク様はそういいながら、ベッドに腰かけた。
「やだっ来ないでっ!」
私は暴れたが、ドルク様にあっさりと抑え込まれた。
「暴れないで、ジュネー。もし君が逃げようとするなら、足の腱を切らなくちゃいけなくなる。痛いことはしたくないけど」
私は涙をボロボロ流しながら震え続けた。
「ずっと一緒だよ、ジュネー」
ドルク様はやっぱり、優しい顔で私を見つめていた。
ドルクルート 監禁END




