第六話:ヴェールを剥いだら恍惚の微笑。祭壇の上で大剣を振り下ろした王子、フリーズする
1.【騎士団・場外】絶望の静寂
教会の外で倒れ伏す騎士たちは、中から響いてきた「音」に戦慄しました。
それは、悲鳴ではありません。
ギィィィィィィ……ッ。
重い鋼が、大理石の床を無慈悲に削り取る、耳障りな金属音。
「……アメリア様……っ」
騎士団長が血を吐きながら祈ります。
彼らには分かっていました。今、あの中で「処刑人」が一歩ずつ、愛しき生贄へと歩み寄っているのだと。
◇◇◇
2.【アメリア視点】期待に震える聖域
私は、ヴェールの奥でその音を聞いていました。
ズゥン……。ギィィィィ……。
一歩踏み出すたびに地響きが鳴り、大剣が床を這う音が近づいてくる。
それは、死神の足音。いいえ、私を「永遠」へと連れ去る馬車の音。
(ああ……殿下。なんて、なんて重苦しくて……素敵な音なの……!)
私は、組んだ指にさらに力を込めました。
ヴェールの下、隠された私の唇は、我慢できずに小さく弧を描きます。
殿下の鋼のような肉体が放つ熱が、扉を突き破ってここまで届いている。
私の肌は、その熱を吸い込むたびに瑞々しさを増し、吸い付くような白磁の質感を湛えて、主の牙を待っています。
◇◇◇
3.【ギルバート視点】重圧の新郎
「……あ、あ、……メリア……ッ!」
私は、歯を食いしばりました。
ギリギリと奥歯が軋み、口の中に鉄の味が広がります。
手にしたのは、儀式用ではない、戦場を渡り歩くための武骨な鋼の大剣。
常人には持ち上げることすら叶わぬその「鉄の塊」が、今の私のやり場のない独占欲を象徴しているかのようでした。
ズゥン……。
一歩。
限界まで研ぎ澄まされた大腿部の筋肉が、床を割り、私を前へと進めます。
呪いが囁く。「殺せ」と。
嫉妬が叫ぶ。「誰にも見せるな」と。
相反する感情を抑え込むたびに、薄い皮膚の下で筋繊維が爆発しそうなほどに膨張し、全身から蒸気が立ち上ります。
大剣が床を削り、火花が散る。
祭壇の前に立つ「白い影」が、ヴェール越しでも分かるほど豊かな曲線を揺らしているのを見て、私の視界は真っ赤に染まりました。
(……そんな格好で、神に何を祈る。……誰に、その体を捧げるつもりだ……!)
俺の指以外、その肌に触れさせてなるものか。
俺の剣以外、その胸を貫かせてなるものか。
例え、死でしか君を独占できないというのなら――。
「……アメリア、君を……ッ!」
私は、最後の一歩を踏み出し、大剣を振り上げました。
逆巻く血管が浮かび上がった剛腕が、月光を反射する鋼を、彼女の細い首筋へと振り下ろさんとした――その瞬間。
◇◇◇
4.【魔女視点】最高潮の「ワクワク」!
「キタァァァァァ! 行け! 振り下ろせ! 叩き潰せぇぇ!!」
魔女は水晶玉に鼻を擦り付けんばかりに身を乗り出していました。
高揚感で頬を赤らめ、絶頂を待つかのように拳を握りしめます。
「これよ、これが見たかったの! 王子の鍛え抜かれた肉体が、愛ゆえの狂気でヒロインを両断する! 最高にグロテスクで、最高に美しい愛の終焉よ!!」
魔女の指先が、期待で小刻みに震えます。
彼女の水晶玉には、振り下ろされる大剣と、それを受け入れようとするアメリアの姿が、スローモーションのように映し出されていました。
「さあ! 絶望の叫びを上げなさい! アメリア!!」
◇◇◇
5.【衝突】ヴェールが舞う
「――っ!!」
ギルバートの大剣が、風を切る音を立てて振り下ろされました。
しかし、その刃は彼女の首を撥ねる直前で、強引に軌道を逸らされます。
ドォォォンッ!!!
大剣はアメリアのすぐ横の石畳を粉砕し、深々と突き刺さりました。
その衝撃で巻き起こった風が、彼女のヴェールを鮮やかに剥ぎ取ります。
「は、はぁ……っ、はぁ……っ!!」
剥き出しの牙を見せ、獣のように彼女を見下ろすギルバート。
その限界まで絞り込まれた、鋼線のような筋肉が、衝撃で激しく波打っています。
そこで彼は、見てしまったのです。
ヴェールの下、恐怖で凍りついているはずの彼女が――。
「……ああ、あと少しでしたのに♡」
とろけるような瞳で、不満げに、けれどこの上なく幸せそうに微笑む「肉感的な獲物」の姿を。
「……え?」
ギルバートの思考が、真っ白に停止しました。




