第五話:魔女、高みの見物。「殺せ! 殺し合え!」……えっ、なんで聖女は喜んでるの?
1.【魔女視点】「いいわよ!もっと殺り合いなさい!」
「アハハハ!最高、最高だわ!」
魔女の館では、水晶玉が放つ「殺意と絶望」の芳醇な香りに、魔女がうっとりと身を委ねていました。
「見てなさい、あの騎士たちの顔!『狂った王子から聖女様を守るんだ』なんて、なんて美しい自己犠牲かしら。そしてギルバート、貴方のその姿……! 皮膚の下で荒れ狂う鋼の筋肉が、怒りと呪いで今にも弾けそうよ!」
彼女はまだ気づいていません。この戦いの熱源が、実は「絶望」ではなく、「重すぎる独占欲」と「歪みきった愛」であることを。
◇◇◇
2.【戦場視点】騎士団 vs 獣の王子
王都の大教会の前。アメリアを送り届けた騎士たちが、抜き放った剣を震わせながら立ち塞がっていました。
「で、殿下! お止まりください! この先にはアメリア様が……!」
そこへ現れたのは、もはや人間とは思えぬ威圧感を纏ったギルバートでした。
漆黒の愛馬は泡を吹き、彼自身の体からは呪いの熱で蒸気が立ち上っています。
「……どけ。彼女は、俺の、ものだ……ッ!」
「いけません! 殿下は正気ではない! アメリア様の最後のお祈りを、これ以上汚させるな!」
騎士団長が叫びます。彼らにとってギルバートは、愛を殺意に変えた忌むべき暴君。しかしギルバートにとっては、彼らこそが「俺と彼女を引き裂き、アメリアをどこかへ隠そうとする邪魔者」に他なりませんでした。
「邪魔をするなぁぁぁッ!!」
ギルバートが馬から飛び降り、大地を蹴ります。
その瞬間、鋼を編み上げたような大腿筋が爆発的に膨張し、石畳を粉砕しました。
彼は剣さえ抜きません。
向かってくる騎士たちの剣を、無駄を削ぎ落とした捕食者の動きでかわし、その剛腕で盾ごと彼らを弾き飛ばしていきます。
「ガハッ……! な、なんだ、この力は……!?」
「アメリア……アメリアアアッ!!」
血走った瞳、剥き出しの牙。
最愛を奪われるという恐怖に支配された野獣は、忠義の騎士たちを「羽虫」のように薙ぎ倒し、教会の重厚な扉へと迫ります。
◇◇◇
3.【アメリア視点】祭壇で待つ、至福のカウントダウン
一方、教会の奥――。
外部の喧騒、剣戟の音、そして愛しい人の咆哮を聞きながら、私は祭壇の前でうっとりと膝をついておりました。
(ああ……聞こえますわ。ギルバート様が、私を求めて暴れていらっしゃる……!)
ステンドグラス越しに差し込む光を浴びて、私の肌はかつてないほどの発光を見せています。
エステで極限まで柔らかく仕上げた私の肢体。
深く切り込んだドレスから覗く豊かな柔肉の膨らみは、外で鳴り響く破壊の音に合わせて、期待に小さく波打っていました。
「ふふ……。騎士様たちも、頑張ってくださっているわね。彼らが『壁』になればなるほど、それを壊して私を奪いに来る殿下の情熱が燃え上がるのだわ」
私は自らの白磁の首筋を指先でなぞり、そこに刻まれるであろう「愛の印(傷跡)」を想像します。
「さあ、早く。その血まみれの逞しい腕で、この扉を、そして私を――」
私は祈るように胸の前で手を組み、その瞬間に備えました。
最高に肉感的で、最高に清楚で、そして最高に狂った「供物」の完成です。
◇◇◇
4.【魔女視点】「……え、ちょっと待って?」
「アハハ! いよいよ扉が壊されるわ! さあ、絶望の叫びを聞かせて――」
魔女が身を乗り出した、その時でした。
水晶玉の数値が、物理的な限界を突破して点滅し始めました。
「な、なによこれ。……『絶望』の数値がゼロ? 代わりに……『期待』と『独占欲』が……計測不能……?」
水晶玉に映るアメリアの、「早く食べて(殺して)♡」と言わんばかりの蕩けた笑顔。
魔女の顔から、急速に余裕が消えていきました。
「いや、おかしいわ。これ、何かがおかしいわよ……!?」




