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「愛する君を殺したくない」と王子様から断罪されたので、大人しく殺されに行ったら、私の愛が重すぎて呪いが壊れました  作者: ましろゆきな


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第四話:鉄鎖すら食い千切る独占欲。最愛を奪われるくらいなら、俺がこの手で殺す

 1.【アメリア視点】揺れる馬車、最高の「最期」を求めて


 ガタゴトと揺れる豪華な馬車の中で、私は手鏡を覗き込み、自身の「死にゆく姿」を厳密にチェックしておりました。


「……いいえ、もう少しだけ、顎は上げたほうがよろしいかしら?」


 窓から差し込む陽光を浴びて、私の肌は瑞々しく熟れた果実のごとき輝きを放っています。

 入念な手入れによって、指先で触れれば吸い付くような湿り気を帯び、その下にある豊かな柔肉の弾力は、ギルバート様の荒々しい指が食い込んだ際、最高の「抵抗たしなみ」となることでしょう。


 私は、純白のベールをそっと持ち上げ、鏡の中の自分に微笑みかけました。


「もし、殿下が私のこの首を愛おしそうに絞めてくださるのなら……白目は剥かないように気をつけなくては。……でも、あまりに気持ちよくて、だらしない表情かおになってしまったらどうしましょう」


 私は、自分の首に細い指を添え、彼の鋼のような腕が巻き付く瞬間を予行演習します。


「ああ……。彼のあの、浮き上がる血管が美しい逞しい手。あれで、私のこの無防備な喉をぐいと……」


 想像するだけで、心臓の鼓動が激しくなり、胸元のたわわな膨らみが激しく上下します。

 聖女のベールの下で、私は獲物としての歓喜に震え、頬を火照らせておりました。

 外で護衛している騎士たちが、私の溜息を「死への恐怖に耐える悲痛な祈り」だと勘違いして、さらに涙を流しているとも知らずに。


 ◇◇◇


 2.【ギルバート視点】鎖を食いちぎる執着


 その頃、王城の地下では――。

「アメリア様が……純白の、花嫁の装いで、教会へ向かっておられます……」


 側近のその報告が、私の理性を完全に焼き切りました。


「……何、だと?」


 花嫁? 誰の?

 俺が彼女を捨てたから、彼女は他の男のものになるというのか?

 俺が触れることすら我慢している、あの温かな肌を、他の誰かが、俺以外の不埒な男が奪おうというのか。


「……ア、アァァァァァッ!!!」


 咆哮。

 それはもはや人間の声ではありませんでした。

 私の薄い皮膚の下に張り巡らされた鋼の筋肉が、怒りと絶望で爆発的な膨張を見せます。


 バキィィィィィィィンッ!!!


『対竜種用』の重い鉄鎖が、私の腕の筋力に耐えきれず、まるで錆びた糸のように弾け飛びました。

 手首からは血が噴き出しますが、そんな痛み、彼女を失う恐怖に比べれば羽毛のようなものです。


「アメリア……アメリアアアアッ!!」


 私は監禁室の分厚い石壁を拳一つで粉砕し、瓦礫の山を蹴散らして地上へと飛び出しました。


「馬を、出せ!!」


「で、殿下!? そのお姿で、どちらへ――」


「邪魔をするなッ!!」


 私は、呪いの衝動と、それを上回る「独占欲」に突き動かされ、血まみれのまま漆黒の愛馬に飛び乗りました。


 今の俺は、呪われた化け物だ。

 アメリアに会えば、俺は間違いなく彼女を殺す。

 ……だが、他の男に抱かれる彼女を見るくらいなら、この手で、俺の手で、彼女を永遠の静寂へと引きずり込んでやる。


 馬の脇腹を蹴り、私は嵐のような速度で王都を駆け抜けました。

 脳内に響く魔女の声さえ、今の私の「殺意あい」の咆哮にかき消されていきます。


 待っていろ、アメリア。

 君を、誰にも、渡さない。

 たとえ、神が許しても、この俺が、君を逃さない――!!


 ◇◇◇


 3.【魔女視点】高みの見物と、忍び寄るバグの予感


 薄暗い魔女の館。怪しく光る水晶玉を前に、彼女は優雅にワイングラスを傾けていました。


「ふふ……。今日もギルバートは素敵ね♡」


 水晶玉に映し出されているのは、血まみれで監禁室を脱出し、馬を駆るギルバートの姿。

 呪いの熱に浮かされ、皮膚の下で鋼のごとき筋肉が怒濤の如く波打つその肢体は、魔女の審美眼から見ても「極上の獲物」でした。


「見てなさい。あの研ぎ澄まされた肉体が、最愛の女をその手でバラバラに引き裂くのよ。……ああ、想像するだけでゾクゾクしちゃう! その瞬間の絶望こそが、私の最高の栄養デザートなんだから!」


 魔女は上機嫌で高笑いしました。

 彼女の計算では、もうすぐ「悲劇の幕」が上がるはず。

 愛すれば愛するほど殺意が募る――その矛盾に耐えきれなくなった男が、ついに獲物を仕留める瞬間。


「これで貴方の恋も、あの小生意気な聖女の命も、全部おしまいよ!」


 そこで魔女は、ふと思い出したように水晶玉の端に映る、別方向の映像――アメリアの乗る馬車――に視線を移しました。


「……あら? そういえばあの女、さっきから何をしているのかしら?」


 水晶玉を指先でなぞり、アメリアの姿を拡大します。

 そこには、豊潤な肉体を白い絹に包み、うっとりと自分の首筋をマッサージする聖女の姿がありました。


「…………は?」


 魔女の動きが止まります。

 絶望して泣き叫んでいるはずの女が、なぜか「一番美味しく食べられる角度」を鏡の前で研究している。

 しかも、その表情はどう見ても「死への恐怖」ではなく、「初夜を待つ新婦のそれ」。


「な、なによあの女……。なんであんなに嬉しそうなの? ドレスの胸元、開きすぎじゃない? 殺される準備にしては、あまりに……その、肉欲的すぎるというか……」


 魔女は知る由もありません。

 ギルバートが鎖を引きちぎった「破壊の力」が、アメリアにとっては「愛の強さ」に変換され、

 アメリアが磨き上げた「受け入れの肉体」が、ギルバートにとっては「殺意への誘惑」として機能していることを。


「ま、まあいいわ。どんなに頭がお花畑でも、実際に刃を向けられれば絶望するに決まっているもの! さあ、ギルバート! 行きなさい! その獣の牙で、あの気味の悪い聖女を黙らせておしまいなさい!!」


 魔女は自分に言い聞かせるように、再び高笑いを上げました。

 しかし、その指先はわずかに震えています。

 彼女の「呪いのシステム」が、かつてないほどの『愛の質量』を検知して、ピシピシと音を立て始めていたのです。

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