木枯らし
「ママ、ここを右だよ」
自転車の後ろから、たーくんの声がする。
えっ、左だよ?
「ちがう、右!」
スマホで位置情報を確認すると、本当に右だった。
「いつも幼稚園のバスで見てるもん」
日に照らされる公園の落ち葉に、木々の影が映っている。光と影のコントラストがとても美しい。
「ママ、落ち葉あつめて!」
落ち葉をあつめると、たーくんは嬉しそうに横になる。
「すごいフカフカ〜! ママもやりなよ」
たーくん、落ち葉ベッドは一回でも虫を見たらやらなくなるだろうな。寝姿が可愛いのでいつまでもやってほしいのだが、たぶんすぐにやらなくなる。
たーくんの背中についた枯れ葉を払っていると、急に冷たい風が吹いて、大量の枯れ葉が広い公園をカラカラカラと一斉に駆けていく。
「たーくん見て! 葉っぱがかけっこしてる!」
「わーっ!」
たーくんも駆けていく。木枯らし吹いて枯れ葉と競争、大運動会だ。
先週、イチョウの黄色がとても綺麗で、スマホとキッズカメラでイチョウの木の写真を撮った。今日はもう葉がすべて落ちて、黄色い絨毯が広がっている。
「葉っぱ落ちちゃったんだ、でも、一面黄色で、綺麗だね」
「ね」
たーくんは同意してくれるが、子どもの頃の私は、イチョウの美しさがわからなかった。大人になったある日、桜の白やイチョウの黄色、紅葉の赤にハッとした。
子どもの頃は足元の、たんぽぽ、オオイヌノフグリ、カタバミなどに夢中だった。
頭身の高さによるのかな? と考える。
たーくんも同じかどうかは、わからないけれども。
たーくんが花や実や木を「これなあに」と指さす。わからない、と答えると、
「ぐるぐるレンズに聞いてみたら?」
便利な時代だね。
帰り道は落ち葉だらけだった。落ち葉を自転車で踏む感触がわからない。ああ、こんな感じなのか、と知る。
新しく知ることって面白い。
ものを何も知らない。
小説を書いているとよく思う。
たーくんとだって、たーくんより知っていることもあれば、道みたいに、たーくんのほうが知っていることもある。
たくさん教えるから、たくさん教えてね。
街路樹のなかでひときわ大きな樹を、たーくんが指さす。
「ママ、見て!」
「あれはね、世界で一番大きな樹!」
知らなかったなあ。
そんな、秋の日の思い出。




