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信じて送り出した美少年が、「筋肉」になって帰ってきた

作者: 霧原いと
掲載日:2025/10/29

 私は魔女のコハリーヌ!

 僻地にあるイナカ村で、住人たちと仲良く暮らしているの。


 ある日、私が鍬を持って畑を耕していると、村外れの方から叫び声が聞こえてきた。


「「「魔物がでたぞー!」」」


「いけないっ、出番だ!」


 私はこの村で唯一、魔法を使えるのだ。

 だから、ときどき襲ってくる魔物を退治するのは私の役目!


 ……だったはずなんだけど。



「いやぁ、助かったよカイル君!」

「君はこの村の誇りだ!」


「いえ、当然のことをしたまでです」


 私が現場に辿り着くと、既にそこには倒された魔物が横たわっていた。


 村の住人から感謝されているのは、さらさらの銀髪、長い睫、透き通るような白い肌、細身の身体――輝くばかりの美少年、カイルだった。


「うっ、相変わらず美少年オーラで眩しい……!」


 思わず顔を覆っていると、私の到着に気づいたカイルが近づいてきた。


「お疲れ様です、コハリーヌさん! 畑仕事、手伝います」


「えっ、ありがとう! それにしても、カイルは凄いわねぇ。こんなに大きな魔物を、一人で退治しちゃうなんて」


「いえ、これもいつもよくしてくださる、コハリーヌさんと村の皆さんのおかげです!」


「はうっ! 心まで美少年っ!」


 カイルはもともとは捨て子だった。村を通過していった旅人が無責任にも置き去りにしていったのを、私が拾って育てたのだ。


 そして、彼はすくすくと美少年に成長し――


「まさか、魔物に美少年オーラが有効だったとは思わなかったよなぁ!」


「カイル君は救世主だ!」


「これでコハリーヌちゃんも少し休めるなぁ、あっはっは!」


 陽気な村の人たちが、わいわいと騒いでいる。そう、なんと村を襲ってくる魔物には美少年オーラが有効のようで、最近のカイルは大活躍なのだ。


「うーん、平和って最高!」


 こうして、いつまでも穏やかで幸せな生活が続いていく……そう、思っていたのだけど。


◇ ◇ ◇


「皆さん、大変です!」


 私は村の住人たちを集会所にあつめると、魔女の力で得たお告げの内容を伝えた。


「今から5年後……村に、強大な魔物が襲撃してくるようです」


「なんだって!?」

「それは倒せるのかい?」

「村はどうなるんだ……!」


 どよめく住人たちに、私は暗い顔をしてうつむいた。


「おそらく私の魔法でも、カイルの美少年オーラでも、太刀打ちできません。幸い、まだ襲撃まで時間はあります。悲しいですが、村を移転することを考えるのが良いかと……」


「そんなぁ!」

「住み慣れた村を離れるなんて」

「悲しいけど、どうしようもないのか……」


 そのとき、落胆ムードに陥った集会場を、ひとつの光が照らした。


「村を移転することはありません!」


 カイルが、すっと姿勢正しく挙手をしたのだ。


「僕がこれから旅に出て……村を救うために、今より更に強い力を身につけてきます!」


「ええっ、カイル、良いのよそんなことまでしなくても。危ないわ!」


 思わず心配する気持ちが先にきて叫ぶ私に、カイルは静かに首を横にふる。


「いいえ、行きたいんです。僕は皆さんを……コハリーヌさんを守れる力が欲しい!」


「きゅん!」


 こうして、カイルは旅に出た。

 私は付いていきたかったけれど、魔物退治できる人間が同時に村を離れる訳にはいかない。


 私は彼の成長を信じて、送り出すしかなかったのだ。


◇ ◇ ◇


 そして、5年後。

 カイルは約束通り帰ってきた。


 巨大なムキムキマッチョマンに成長して。


「いえ、知っていましたけどね! 何ならタイトルに既に書かれていましたからね!」


「むうっ、どうした、コハリーヌ! タイトルとはなんだ?」


「メタ発言に突っ込まないで! というか、なんで喋り方まで変わっているの!?」


「心の筋肉に従ったまでだ! ふんっ!」


 ――パァン!


 カイルの服の上着が、分厚い胸筋に押し出されて弾けとんだ。


 芸術的な隆起を誇る上腕二頭筋、闘志の盾のごとき威厳を示す大胸筋、沈黙の覇気を纏った背の翼である僧帽筋、努力の聖なる石畳ともいうべき腹直筋。


 その全てが、惜しみなく晒される。


「なんという神々しさ!」

「ありがたや、ありがたや!」

「筋肉神だ! 筋肉神が降臨なすったぞ!」


 村人たちはその衝撃的な光景に、群れをなして拝み出した。


 私は頭を抱えた。


「どうしてこうなった! どうして、どうして……!」


 そのとき、悲鳴に近い叫び声が轟いた。


「「「大変だっ! 強大な魔物が近づいてくるぞ!!」」」


「なんですって! このタイミングで!?」


 私が顔をあげたときには、既にカイルはそちらに向かって駆け始めていた。


「ま、まって、カイル……っていうか、速っ!」


◇ ◇ ◇


「あ、あれは、一体……!」


 村外れまで辿り着いた私たちを待っていたのは、村を囲む森の木々を薙ぎ倒しながら迫ってくる、山のように大きなドラゴンだった。


『ウオオオオォォォッ!!』


 ドラゴンが咆哮すると大地が震え、その圧だけも気絶しそうになる。


「駄目よ、カイル! いくらなんでも、相手が悪すぎるわ、逃げましょう!」


 私は仁王立ちで村の前に立ち尽くし、じっとドラゴンを見据えるカイルの手を引く。


「貴方が頑張って、旅をしてきてくれたのはわかるし嬉しい。でも、村も大事だけど、カイルも大事なの。貴方に何かあったら、私、生きていけない……!」


 必死に言いながらカイルを引っ張ろうとするけど、びくともしない。

 

 カイルはしばらくはドラゴンを見上げ続けていたが、やがて私へ視線を移すと、ふっと笑った。

 昔の名残のある、どこか幼い笑みだった。


「ありがとう、コハリーヌ」


 そして、優しく私の手を振り払う。


「だが、俺は負けない」


 カイルはドラゴンに向かって、一歩前へ踏み出した。


「コハリーヌを守り抜いてみせる!」


 カイルを中心に強風が渦巻くように吹き始め、彼の筋肉が光輝く。


「これが筋肉の力だ!!!!」


 腰を低く据えると、カイルは鬼神の如き迫力で拳を振り抜いた。


「ふんっ!!」


 ――ドォン!!


 放たれた衝撃波はドラゴンに直撃し、その怪物を跡形もなく蒸発させた。


 それだけでカイルの一撃の威力は収まることなく、更にその先の辺り一帯の森の木々を吹っ飛ばし、南西方面に新たな道を作り出した。


 周辺では地割れが多発し、そこから温泉が吹き出していた。


「………………」


 私はあまりの展開に、数十秒間、硬直して動けなかった。

 ようやく我にかえると、思わず口から言葉が零れ落ちた。


「つっよ!!!!!!」


◇ ◇ ◇


 あのドラゴン騒動から一年、イナカ村は目覚ましい発展を遂げていた。


 涌き出た温泉には筋肉を強くする効能が認められ、世界各地からマッチョたちが押し寄せてきた。

 これまで村を閉ざしていた森に立派な道が作られたことも、村の発展に寄与している。


「うーん、平和だなぁ」


 私は温泉まんじゅうを頬張りながら、のんびりとベンチに腰かけている。


 村の大広場ではカイルを先頭にして、多数のマッチョたちや魔物たちが筋トレに励んでいた。

 ドラゴン討伐後、森にいた魔物たちは次々と降伏してきて、最終的にはカイルの筋肉指南を受けることになったのだ。


 とりあえず、みんな幸せそうだから良いかなと思う。


「おーい、コハリーヌ!!」


 トレーニングが終わったのか、カイルが此方に駆け寄ってきた。


「カイル、お疲れ様……って、わわっ!?」


 そのまま突然抱き上げられて、私はあたふたしてしまう。


「な、なにっ、どうしたの急に!?」


「トレーニングの追加をしようと思ってな!」


「なっ! カイルの使ってるバーベルほど、私は重くないわよ!?」


「そうか、ならば更に負荷をかけないとな!」


「きゃーっ!!」


 私を抱き上げたまま走り出すカイルに、思わずしがみつく。

 最初は動揺してしまったけど、彼の楽しそうな顔を間近で眺めているうちに、私も笑みが込み上げてきた。


◇ ◇ ◇


 ――そんなコハリーヌとカイルの様子を、村の長老たちと筋肉スライムの長が見守っている。


「青春じゃのう」

「しかしあの二人、いつになったらくっつくんじゃ」

「あれで結婚してないとか、詐欺じゃろ」

「ぷるるんっ」

「まあ、二人とも案外、奥手なタイプじゃからな」


 村人と魔物たちにより「コハリーヌとカイルくっつけ筋肉大作戦」がこの後展開されるのだが、またそれは別の話である!!


◇ ◇ ◇


 ともあれ、私は改めて思うのだ。


 ――筋肉は全てを解決する! ってね!

お読みくださり、ありがとうございました!

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この短編は、同じ作者の小説「転生したら推しの軍人様が「筋肉信者」になっていたんですが!? ~そして私は筋肉聖女~」のパロディ作品となっています!

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