信じて送り出した美少年が、「筋肉」になって帰ってきた
私は魔女のコハリーヌ!
僻地にあるイナカ村で、住人たちと仲良く暮らしているの。
ある日、私が鍬を持って畑を耕していると、村外れの方から叫び声が聞こえてきた。
「「「魔物がでたぞー!」」」
「いけないっ、出番だ!」
私はこの村で唯一、魔法を使えるのだ。
だから、ときどき襲ってくる魔物を退治するのは私の役目!
……だったはずなんだけど。
「いやぁ、助かったよカイル君!」
「君はこの村の誇りだ!」
「いえ、当然のことをしたまでです」
私が現場に辿り着くと、既にそこには倒された魔物が横たわっていた。
村の住人から感謝されているのは、さらさらの銀髪、長い睫、透き通るような白い肌、細身の身体――輝くばかりの美少年、カイルだった。
「うっ、相変わらず美少年オーラで眩しい……!」
思わず顔を覆っていると、私の到着に気づいたカイルが近づいてきた。
「お疲れ様です、コハリーヌさん! 畑仕事、手伝います」
「えっ、ありがとう! それにしても、カイルは凄いわねぇ。こんなに大きな魔物を、一人で退治しちゃうなんて」
「いえ、これもいつもよくしてくださる、コハリーヌさんと村の皆さんのおかげです!」
「はうっ! 心まで美少年っ!」
カイルはもともとは捨て子だった。村を通過していった旅人が無責任にも置き去りにしていったのを、私が拾って育てたのだ。
そして、彼はすくすくと美少年に成長し――
「まさか、魔物に美少年オーラが有効だったとは思わなかったよなぁ!」
「カイル君は救世主だ!」
「これでコハリーヌちゃんも少し休めるなぁ、あっはっは!」
陽気な村の人たちが、わいわいと騒いでいる。そう、なんと村を襲ってくる魔物には美少年オーラが有効のようで、最近のカイルは大活躍なのだ。
「うーん、平和って最高!」
こうして、いつまでも穏やかで幸せな生活が続いていく……そう、思っていたのだけど。
◇ ◇ ◇
「皆さん、大変です!」
私は村の住人たちを集会所にあつめると、魔女の力で得たお告げの内容を伝えた。
「今から5年後……村に、強大な魔物が襲撃してくるようです」
「なんだって!?」
「それは倒せるのかい?」
「村はどうなるんだ……!」
どよめく住人たちに、私は暗い顔をしてうつむいた。
「おそらく私の魔法でも、カイルの美少年オーラでも、太刀打ちできません。幸い、まだ襲撃まで時間はあります。悲しいですが、村を移転することを考えるのが良いかと……」
「そんなぁ!」
「住み慣れた村を離れるなんて」
「悲しいけど、どうしようもないのか……」
そのとき、落胆ムードに陥った集会場を、ひとつの光が照らした。
「村を移転することはありません!」
カイルが、すっと姿勢正しく挙手をしたのだ。
「僕がこれから旅に出て……村を救うために、今より更に強い力を身につけてきます!」
「ええっ、カイル、良いのよそんなことまでしなくても。危ないわ!」
思わず心配する気持ちが先にきて叫ぶ私に、カイルは静かに首を横にふる。
「いいえ、行きたいんです。僕は皆さんを……コハリーヌさんを守れる力が欲しい!」
「きゅん!」
こうして、カイルは旅に出た。
私は付いていきたかったけれど、魔物退治できる人間が同時に村を離れる訳にはいかない。
私は彼の成長を信じて、送り出すしかなかったのだ。
◇ ◇ ◇
そして、5年後。
カイルは約束通り帰ってきた。
巨大なムキムキマッチョマンに成長して。
「いえ、知っていましたけどね! 何ならタイトルに既に書かれていましたからね!」
「むうっ、どうした、コハリーヌ! タイトルとはなんだ?」
「メタ発言に突っ込まないで! というか、なんで喋り方まで変わっているの!?」
「心の筋肉に従ったまでだ! ふんっ!」
――パァン!
カイルの服の上着が、分厚い胸筋に押し出されて弾けとんだ。
芸術的な隆起を誇る上腕二頭筋、闘志の盾のごとき威厳を示す大胸筋、沈黙の覇気を纏った背の翼である僧帽筋、努力の聖なる石畳ともいうべき腹直筋。
その全てが、惜しみなく晒される。
「なんという神々しさ!」
「ありがたや、ありがたや!」
「筋肉神だ! 筋肉神が降臨なすったぞ!」
村人たちはその衝撃的な光景に、群れをなして拝み出した。
私は頭を抱えた。
「どうしてこうなった! どうして、どうして……!」
そのとき、悲鳴に近い叫び声が轟いた。
「「「大変だっ! 強大な魔物が近づいてくるぞ!!」」」
「なんですって! このタイミングで!?」
私が顔をあげたときには、既にカイルはそちらに向かって駆け始めていた。
「ま、まって、カイル……っていうか、速っ!」
◇ ◇ ◇
「あ、あれは、一体……!」
村外れまで辿り着いた私たちを待っていたのは、村を囲む森の木々を薙ぎ倒しながら迫ってくる、山のように大きなドラゴンだった。
『ウオオオオォォォッ!!』
ドラゴンが咆哮すると大地が震え、その圧だけも気絶しそうになる。
「駄目よ、カイル! いくらなんでも、相手が悪すぎるわ、逃げましょう!」
私は仁王立ちで村の前に立ち尽くし、じっとドラゴンを見据えるカイルの手を引く。
「貴方が頑張って、旅をしてきてくれたのはわかるし嬉しい。でも、村も大事だけど、カイルも大事なの。貴方に何かあったら、私、生きていけない……!」
必死に言いながらカイルを引っ張ろうとするけど、びくともしない。
カイルはしばらくはドラゴンを見上げ続けていたが、やがて私へ視線を移すと、ふっと笑った。
昔の名残のある、どこか幼い笑みだった。
「ありがとう、コハリーヌ」
そして、優しく私の手を振り払う。
「だが、俺は負けない」
カイルはドラゴンに向かって、一歩前へ踏み出した。
「コハリーヌを守り抜いてみせる!」
カイルを中心に強風が渦巻くように吹き始め、彼の筋肉が光輝く。
「これが筋肉の力だ!!!!」
腰を低く据えると、カイルは鬼神の如き迫力で拳を振り抜いた。
「ふんっ!!」
――ドォン!!
放たれた衝撃波はドラゴンに直撃し、その怪物を跡形もなく蒸発させた。
それだけでカイルの一撃の威力は収まることなく、更にその先の辺り一帯の森の木々を吹っ飛ばし、南西方面に新たな道を作り出した。
周辺では地割れが多発し、そこから温泉が吹き出していた。
「………………」
私はあまりの展開に、数十秒間、硬直して動けなかった。
ようやく我にかえると、思わず口から言葉が零れ落ちた。
「つっよ!!!!!!」
◇ ◇ ◇
あのドラゴン騒動から一年、イナカ村は目覚ましい発展を遂げていた。
涌き出た温泉には筋肉を強くする効能が認められ、世界各地からマッチョたちが押し寄せてきた。
これまで村を閉ざしていた森に立派な道が作られたことも、村の発展に寄与している。
「うーん、平和だなぁ」
私は温泉まんじゅうを頬張りながら、のんびりとベンチに腰かけている。
村の大広場ではカイルを先頭にして、多数のマッチョたちや魔物たちが筋トレに励んでいた。
ドラゴン討伐後、森にいた魔物たちは次々と降伏してきて、最終的にはカイルの筋肉指南を受けることになったのだ。
とりあえず、みんな幸せそうだから良いかなと思う。
「おーい、コハリーヌ!!」
トレーニングが終わったのか、カイルが此方に駆け寄ってきた。
「カイル、お疲れ様……って、わわっ!?」
そのまま突然抱き上げられて、私はあたふたしてしまう。
「な、なにっ、どうしたの急に!?」
「トレーニングの追加をしようと思ってな!」
「なっ! カイルの使ってるバーベルほど、私は重くないわよ!?」
「そうか、ならば更に負荷をかけないとな!」
「きゃーっ!!」
私を抱き上げたまま走り出すカイルに、思わずしがみつく。
最初は動揺してしまったけど、彼の楽しそうな顔を間近で眺めているうちに、私も笑みが込み上げてきた。
◇ ◇ ◇
――そんなコハリーヌとカイルの様子を、村の長老たちと筋肉スライムの長が見守っている。
「青春じゃのう」
「しかしあの二人、いつになったらくっつくんじゃ」
「あれで結婚してないとか、詐欺じゃろ」
「ぷるるんっ」
「まあ、二人とも案外、奥手なタイプじゃからな」
村人と魔物たちにより「コハリーヌとカイルくっつけ筋肉大作戦」がこの後展開されるのだが、またそれは別の話である!!
◇ ◇ ◇
ともあれ、私は改めて思うのだ。
――筋肉は全てを解決する! ってね!
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この短編は、同じ作者の小説「転生したら推しの軍人様が「筋肉信者」になっていたんですが!? ~そして私は筋肉聖女~」のパロディ作品となっています!




