勇者の実験
ある日、神様が一つの実験をした。
それは魔王に立ち向かう勇者に対するものだ。
「魔王はあまりも強い。だが、勇者は必ず魔王を倒せるように祝福をしたが……それにしたって魔王が強すぎる」
具体的には勇者を10とするなら魔王は100くらいには実力が離れているのだ。
「――試しに試練を与えてみるか」
神様はまず勇者に数えきれないほどの試練を与えた。
その過程で勇者は片腕と片目を失い、さらには大切な仲間の一人と死別した。
――しかし、勇者は試練を耐えきった。
「素晴らしい。では心を責めるか」
神様はさらに勇者の残った仲間や家族、そして恋人を凄惨に殺した。
勇者の心は崩壊しながらも、それでもどうにか耐えきった。
「おぉ……」
神様は感嘆の声を漏らす。
勇者は挫けたりしなかった。
心身ともに徹底的に甚振られても――。
「まさに勇者と言うほかない。魔王になど決して負けないだろう」
神様はそう言って満足気に笑った。
――自らの行動が魔王よりも魔王らしいと気づくのは、勇者に首を刎ねられる寸前まで気づくことはなかった。