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第25話(3)トラウマ -焔と真理子-

その頃 秋露城観光案内所


 菜々子は、スマホに届いたデータを、他のメンバーたちに見せていた。


「これ、幸紀くんから届いたデータ。こいつを警戒してだって」


 菜々子はそう言うと、順々にスマホの画面を見せていく。


「複数方向に偵察部隊を展開しましょう!メンバーを編成します」


 画像を見た四葉が提案し、日菜子が四葉に頼む。


 その間に、たまたま順番で最後になった焔と真理子が菜々子のスマホの画面を覗きこむ。


「真理子...!」


 スマホの画面を見た焔は目を見開いて真理子に目をやる。真理子の表情は青ざめ、震えていた。


「あの...悪魔だ...」


 真理子は小さく呟き、後ずさる。真理子の発した言葉が聞き取れなかった菜々子は、思わず聞き返した。


「真理子ちゃん、今なんて?」


「...ごめんなさい、ちょっと...」


 真理子はそれだけ言うと、菜々子たちに背を向け、逃げるようにその場を離れる。


「上入さん?」


 真理子が居なくなったことに気付いた四葉は声をかける。しかし、すぐに焔が話し始めた。


「千条さん。真理子は...大丈夫。しばらく、ひとりにさせてあげて」


「焔さん、さっきから、真理子さんの様子が変ですけど、何かあったんですか?」


「そーそー。『黒い悪魔』って単語が出てから、なんか様子が変だよ。


 日菜子と菜々子は疑問に思っていたことを口にする。


 焔は、少し視線を伏せ、そうして顔を上げてから話し始めた。


「その悪魔は...10年前、清峰屋敷を襲った悪魔よ」


「えっ...」


 驚く周囲をよそに、焔は淡々と話をつづけた。


「悪魔なんておとぎ話だと言われていた時代...突然の襲撃を受け、早苗様は人質に取られ、メイドにも少なくない死傷者が出た...そのメイドの死者のひとりに...真理子のお姉さまがいた」


「真理子さんの...お姉さんが...」


 驚く日菜子に、焔は頷き、目を伏せた。


「...悲惨だった。真理子のお姉さま...いちるさんは、当時メイド長だった。だから最前線であの悪魔と戦って...でも...リンチに遭って...最後は...幸紀が持って帰ってこれたのは...首だけになった彼女だった...幸紀も、あの悪魔と相打ちになって...一時は生死の境をさまよった...」


「東雲さんが...相打ち...」


「あの明るい真理子さんに、そんな...」


 焔の話に、四葉や日菜子が思わず言葉を漏らす。焔は静かに頷いていた。


「あの事件は...当時を知る人間たちにはトラウマなのよ...敵を倒して終わったはずの、もう二度と思い出したくない事件...なのに...奴が再び現れた...」


 焔は顔を上げ、厳しい表情で声を発した。


「もう二度と、あの悲劇は繰り返してはならないの。私たちは、絶対に、あの悪魔を倒さなければならない」





 同じころ、建物の外にやってきていた真理子は、過呼吸になりながら膝に手をつき、荒れた息を戻そうとしていた。


「はぁ...はぁ...ああ...おち、落ち着かなきゃ...」


 真理子は自分に言い聞かせると、大きく一度深呼吸をする。

 そうして、腰のポーチに入った小さな手帳を取り出し、開く。

 その中には、10年前に殺された姉と撮った、プリクラが、いくつも貼られていた。


「...お姉ちゃん...お姉ちゃん...」


 真理子はその手帳を閉じ、胸に抱えながらその場にしゃがみこみ、目を閉じる。浮かび上がるのは、首だけになって帰ってきた姉の姿だった。


「お姉ちゃん...怖いよぉ...なんで...なんで...」


 真理子の口から、思わず言葉が溢れてくる。真理子は、涙を落しながら、強く、手帳を抱きかかえていた。


「真理子」


 そんな真理子の背後から声が聞こえてくる。真理子は慌てて涙を拭き、平静を装い、笑顔を作ると、そちらへ向き直る。見ると、幸紀がそこに立っていた。


「...幸紀。無事でよかった...」


 真理子は何事もなかったかのように、明るい声を作って話す。幸紀は気にせず話し始めた。


「四葉が偵察部隊の編成で動いてる。お前も頼む」


「任せといて。バッチリ決めるから」


「ああ。敵は手強いからな」


「...う、うん」


 幸紀の言葉に、真理子は少し言葉をよどませる。

 気にせずその場を去ろうとする幸紀の背中を、真理子は呼び止めていた。


「...幸紀、あのさ」


 幸紀は足を止め、少しだけ真理子の方を向く。真理子は、明るい表情を取り繕うのをやめ、不安な表情で尋ね始めた。


「...幸紀は、怖くないの...?あの悪魔...10年前のあいつだよね...?お姉ちゃんはあいつに殺されたし、幸紀だって死にかけた...なのに...怖くないの?」


「お前はどうなんだ」


「怖いよ...!もう...言葉が出ないくらい怖い...!私も、お姉ちゃんみたいに殺されるんじゃないかって思ったら...!」


 真理子は青ざめた表情で、両手で自分を守るようにしながら、泣くような声で言う。幸紀は改めて真理子の方に向いた。


「俺は楽しみだぞ」


「...え?」


「強い相手だからこそ、恐ろしい相手だからこそ、倒す価値がある。違うか」


 幸紀の表情はわずかに笑っていた。一方の真理子は首を横に振った。


「私にはそんな考え方できないよ...!」


「そうか」


 幸紀は自信を失っている真理子を見て、内心戸惑っていた。


(あの複製品を操っているのはおそらくポラリス...俺との戦闘は避け、星霊隊のメンバーを少しずつ確実に殺しに来るだろう...倒せる可能性があるのは、真理子と焔の組み合わせだと思ったのだが...このままではまずいが...どうするべきか...)


(真理子ハ...他人ノ為二頑張レル子ダ...皆ノ為ト言ッテ、励マシテヤレ)


 突然、幸紀の脳内に男の声が聞こえてくる。幸紀は少し苛立ちながら、内心、聞こえてきた声に答えた。


(今は貴様の助言に従ってやる...だが次勝手に余計なことをすれば、殺す)


(俺ハモウ死ンデルヨ)


(何度でも死ね)


 幸紀は脳内に聞こえてくる声に答えると、真理子に話しかけた。


「真理子、なら、こう考えるのは、どうだ。『他者のために戦おう』と」


「『他者のため』...」


「お前には実力がある。あの悪魔を倒せるほどの。だが恐怖でその本領を発揮できなければ、恐れていた通り死ぬだろう」


「...」


「奴が狙っているのは、俺ではなく星霊隊の女たちだ。他のメンバーたちには、お前ほどの実力はない。お前と、焔でなければ、あの悪魔は倒せないだろう。皆を守るため、恐怖を乗り越え、お前の姉の、いちるの仇を取らないか」


「...!」


 幸紀の言葉を聞き、真理子は顔を上げる。

 一瞬、目を伏せてから、真理子は、幸紀を見つめ、頷いた。


「...わかった。やってみせる...正直、今も怖いけど...ビビったら死ぬって言うなら、ビビらない。皆のために、そしてお姉ちゃんのためにも、明るく、かっこよく、行くよ!」


 真理子はそう言ってハツラツとした笑顔を見せる。幸紀も、その笑顔を見て、口角をわずかに上げた。


「頼むぞ」


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