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第19話(3)悪魔の子 -明宵と雪奈-

数分後 村中央 留置場


「入ってろ!」


 村の中央にある地下の留置場に連れてこられた明宵と雪奈は、乱暴に鉄格子の内側に放り込まれる。冷たいコンクリートの上に投げ出されたふたりは、ひとまずその上に座ることにした。


「明宵さん!大丈夫ですか?」


 雪奈は、正座をしたまま俯くだけの明宵に声をかける。明宵は何も言わずに首を横に振った。


「…ごめんなさい…雪奈さん…私がもっとしっかりしなきゃいけないのに…鞭で叩かれたところが…痛くて…」


 明宵が言葉を絞り出すようにいうと、鞭で叩かれた部分を手で押さえる。雪奈はそれを見ると、すぐさま霊力を自分の右手に集中させ、氷を作り出した。


「冷やしましょう!痛みも引くはずですよ!」


「…ありがとうございま…冷たっ…!」


 明宵が手をどかし、服が破けた部分から見える素肌に、雪奈は氷を当てる。明宵は小さく悲鳴をあげたが、すぐに慣れるのだった。


「大丈夫ですよ、明宵さん。早く傷を治して、また戦いましょう。今度こそ、敵をちゃんとやっつければ、きっと村の人たちもわかってくれます」


「…そうでしょうか…私には…もう…」


 明宵が雪奈の意見に賛同できないでいると、鉄格子の外側から人の気配が近づいてくる。ふたりが顔を上げると、村人たちが鉄格子の鍵を慌てて開けていた。


「...?」


「どうしたんですか?」


「悪魔の襲撃だ!ほら、さっさと戦え!」


 村人たちは横柄に言うと、雪奈と明宵の腕を引っ張り、鉄格子の中から二人を引きずり出すと、背中を無理に押していく。抵抗できないふたりは、それにされるがままに地上への階段を上らされていくのだった。




数分後 笠頭村 西側

 地上に出てきた雪奈、明宵、そして村人たちは、村の西側にある灯火の近くにやってきた。雪奈はその灯火を見上げると、改めて肩に力を入れた。


「ひっ!で、出た、悪魔だ!!」


 村人たちは正面から歩いてくる人影に対してそう声を上げると、雪奈と明宵を置いてその場から逃げていく。残った雪奈と明宵は、真正面から歩いてきたその人影と向き合った。


 ピンク色の髪に、白色の肌。女性として最低限の部分だけ隠した際どい服装。しかし何よりも異常なのは、黒い翼と尻尾が生えていることだった。


「明宵さん、あれも見たことがないタイプの悪魔ですね」


「…江美さんからの報告にあった4種族のいずれにも該当しない悪魔…こちらにはまだ気づいていない様子…先制攻撃するなら今でしょう…」


「やりましょう!」


 明宵と雪奈は打ち合わせを済ませると、鞭で叩かれた痛みを堪えながら、こちらに気づいていないその悪魔に駆け寄った。

 悪魔はふたりに気づくと、ゆっくりと振り向いた。


「あ、おふた…」


「はぁあああっ!!!」


 悪魔が何か言おうとしたのを気にせず、雪奈はステッキを向け、氷の弾丸の嵐をその悪魔に放つ。不意を突かれたその悪魔は単純に身を守ることしかできなかった。


「いたたた!!」


「…行きます…!」


 怯んで体勢を崩した悪魔めがけて、明宵は霊獣人の腕でラリアットを放つ。凄まじく太い腕で殴られた悪魔は大きく吹き飛ばされるが、空中で一度宙返りをすると、両手に紫のかぎ爪を発現させ、地面に爪を突き立ててバランスをとった。

 土煙の中、悪魔は首を軽く回すと、改めて構え直した。


「へー…そう?そっちがやる気なら、こっちも本気出すよ?いいの?」


「村の人たちを守るため、雪奈たちは退きません!いくら脅されても、あなたを倒します!」


「村の人…?...ふーん?」


 悪魔は不思議そうに呟く。それを気にせず、明宵は霊獣人の幻影を悪魔へと発射した。


「『ネクロ・バスター』…!」


 一直線に飛んでくる霊獣人の幻影を直視しながら、悪魔は大きく空に飛び上がり、それを飛び越えると、逆に一気に明宵へとかぎ爪を突き出しながら急降下し、明宵の首を狙う。一方の明宵は、間一髪で本で爪を受け止めた。


「コーキに媚び売りやがって!死ねっ!!」


「明宵さん!!」


 悪魔の言葉と共に、明宵に2発目のかぎ爪攻撃が飛ぼうとする。

 そんな悪魔に対して、雪奈が咄嗟に体当たりをする。

 悪魔が姿勢を崩すと、すぐに明宵は霊獣人の腕で悪魔の首を掴み上げた。


「ぐぅうっ…!」


「…捕まえましたよ…!あなたは…絶対に…!!」


 明宵が殺意に満ちた声で目の前の悪魔を地面に叩きつけようとしたその瞬間、心地が悪いとしか言えない、不気味な風が辺りを吹き抜ける。

 同時に、雪奈と明宵は目の前の悪魔ではなく、自分たちの背後にある灯火へと顔を上げた。


「まさか…!!」


 二人が見たその瞬間、灯火の近くに、別個体の悪魔が1体風によって浮かび上がり、灯火へと手を伸ばしていた。


「消し飛ばせぇっ!!ロックンロォオル!!」


「ダメです!!!」


 雪奈の絶叫は届かず、悪魔は声と共に風を放つ。灯火から離れているはずの明宵と雪奈まで怯むほどの暴風が吹き荒れると、灯火は、その台ごと折れるように消え去った。


「…!!」


 雪奈と明宵は言葉を失う。ふたりが呆然として立ち尽くしていると、明宵が掴んでいた悪魔は、明宵の顔を蹴り飛ばすと、ふたりに背を向けて走り去っていく。

 ふたりは2体の悪魔のうちどちらかだけでも倒そうとしたが、そのときにはすでに遅く、悪魔たちの姿はそこになかった。


「に、逃げられちゃいました…!」


「…嫌だ…また…また…!!」


 折れてしまった灯火台と、消え去った悪魔たちの影を見つめ、雪奈と明宵は弱々しく声を漏らす。



 そんな彼女たちの正面に、村人たちが横一列になって壁のように押し寄せる。村人たちの最前列には、当然鞭を持った村長がおり、地面を鞭で叩きながら、ふたりに迫ってきていた。



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