第19話(1)村の聖火 -明宵と雪奈-
前回までのあらすじ
功を焦り、弥生も巻き込んで窮地に立たされた紫黄里だったが、幸紀の登場によって敵を撤退に追い込むことに成功する。
紫黄里たちへの攻撃の指揮を執っていた悪魔ポラリスは、幸紀の攻撃によって左手を切り飛ばされたが、命からがら逃走に成功していた。
6月24日 18:00 山取県 笠頭村
「いってええええええ!!!!」
悪魔回廊から転がり出てきたポラリスは、黒い煙を出している自分の腕を押さえながら、その場の木に寄りかかった。
「ちくしょぉ…!!こんな傷…!!」
「ボロボロだな!ポラリス!」
「誰だ…?」
傷ついた体のポラリスを見下ろすように、何人かの人間が現れる。しかし、ポラリスはその人間たちの正体を見破った。
「…妖族の悪魔か…会ったことはないはずだが...」
「俺はミツニィ。ここの管轄を任されている悪魔だ。ポラリス、ここまで逃げてきたということは、敵が来ているのだろう?ここは我らに任せて早く撤退するがいい」
「…やたらと物分かりのいいやつだな」
「紫虫ごときに軍の指揮など荷が重いだろう?さっさと尻尾を巻いて逃げるんだな」
ポラリスはミツニィの態度に感心していたが、ミツニィの発言に一気に顔をしかめる。しかし、怒りを一気に飲み込むと、ゆっくりと立ち上がり、その場を後にした。
「…ひとつだけ言っておく。奴らとまともに戦おうとするな。同士討ちを誘発させろ」
「ふん。覚えておいてやろう」
背中越しに指示を出すポラリスに対し、ミツニィは背を向けて鼻で笑い飛ばす。ポラリスはそれを聞くと、目の前の悪魔回廊へと足を踏み入れていくのだった。
数時間後 20:00 笠頭村付近
霜山雪奈と冥綺明宵のふたりは、夜の森と茂みの中、悪魔を追いかけて走っていた。
「待て…!」
「『スノー・ゲイル』!」
雪奈は声を上げると、ステッキを悪魔の背中に向け、そこから鋭く尖った氷の弾丸を放つ。しかし、悪魔はそれを回避すると、森から飛び出た。
「逃がさない…!『ネクロ・バスター』…!!」
明宵も森から飛び出ると、霊力で作った本から、霊獣人の幻影を発射する。霊獣人は逃げていく悪魔の背を追いかけ、すぐに追いつくと、悪魔を抱き抱えて空中浮遊し、そのまま地面へ真っ逆さまに悪魔の頭を叩きつけ、黒い煙に変えた。
黒い煙は風に吹き流され、明宵たちの近くにあった、背の高い灯火の炎を消す。
明宵と雪奈はそれを気にせず、悪魔を倒せたことに安堵し、微笑み合った。
「明宵さん!さすがのパワーです!すごく頼もしいです!」
「…ふふふ、雪奈さんのおかげですよ…それにしても…深追いし過ぎてみなさんと逸れてしまいましたね…戻りましょう。私が案内しますから、逸れないでくださいね、雪奈さん」
「はい!うふふ、明宵さんは、お姉さんみたいです!」
明宵と雪奈は明るく和やかに言葉を交わしつつ、明宵が霊力で作った本を開き、本の上に矢印を浮かび上がらせた。
「…皆さんはどちらにいるでしょうか…」
「あああ!!我らの聖火が…!」
明宵と雪奈がその場を立ち去ろうとしたその瞬間、先ほど消えた灯火の側に、少なくない数の民衆が集まり、嘆くように声を上げる。明宵と雪奈が振り向くと、民衆はその灯火の近くに跪き、声をあげて泣き叫んでいた。
民衆のひとり、鞭を持った若い男がふと明宵と雪奈の存在に気がつく。彼はふたりのそばににじり寄った。
「お前たち、この聖火が消えた理由を知らないか!」
男に尋ねられると、明宵が不思議そうにしながら答えた。
「…悪魔との戦闘の弾みで、私が消してしまいました…しかし、火はまたつければ…」
「この不信心者がぁっ!!」
明宵の言葉が終わるのを待たず、男は鞭を振るい、明宵の体に叩きつける。明宵は、鞭の鋭い痛みに、声もあげることができず、その場にうずくまった。
そんな光景に、雪奈は明宵を庇いつつ声をあげた。
「明宵さん!!おじさん、なんで明宵さんをぶつんですか!明宵さんは、悪魔を倒したんですよ!?」
「黙れ小娘!」
罵声と共に、雪奈にも鞭が飛ぶ。雪奈の胸の辺りに鞭が直撃すると、その男は声を荒げながら話し始めた。
「この聖火は100年にわたって我らの村を守っているのだ…!予言書にもある…『4つの灯火が消えた時、この村に災いが起きるだろう』と…!そしてそのひとつが今消えた!貴様のせいでだ!」
「…そんな非科学的な伝承は」
「黙れ!」
男は反論しようとした明宵に対して鞭を振るう。痛みのあまりに倒れ込んだ明宵に、男はさらに何度も鞭を振るい下ろした。
「貴様悪魔なのだろう!?我らの村に災いを呼びにきた、悪魔の子なのだろう!」
「ち…ちが…いたっ…!」
「やめてください!!雪奈たちは悪魔と戦うのがお仕事なんです!悪魔なんかじゃありません!」
悲鳴をあげる明宵に対し、雪奈が必死に訴えるが、男が雪奈を強く睨みつけると、雪奈は怯んで言葉を失った。
そんな中、男の背後から誰かが駆け寄ってきた。
「村長!!東から、あ、悪魔が来てる!!みんな殺されてる!!」
「なんだって!?」
報告を受けた、鞭を持った村長は、雪奈たちを改めて睨んだ。
「おいお前ら!悪魔と戦うのが仕事と言ったな!」
「は、はい!」
「だったらさっさと行け!!何をボサっとしているんだ!」
村長はそう声を荒げ、雪奈と明宵の足元を鞭で叩き、音を鳴らす。悲鳴をあげた雪奈と明宵だったが、すぐに雪奈が返事をした。
「は、はいっ!みなさんを守ります!」
雪奈はそういうと、明宵と目線を合わせてから頷き、報告のあった村の東側へと走り始めた。




