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第18話 炎上 -弥生と紫黄里- その4

「敵を抑えなきゃ…これじゃ火なんて消せない…!」


「でも、火が大きくなってきてます!!敵を倒してたら、間に合わなくなりますよ!?」


「ううーん…!こんなの、どうやっても…!」


 2人が悩んでいる間にも、窓に向けて悪魔の大軍が迫り、小屋の外側の火の手は勢いを増していく。


「しょうがない、ここは諦めて、小屋から出よう!紫黄里ちゃん、さっきの、ばら撒いて!」


「はい!」


 弥生の指示を受けると、紫黄里は悪魔たちが迫ってくる進路に向けて弓矢を放ち、毒沼を作り出す。その間に、弥生は入り口に仕掛けた爆弾を解除していた。


「毒、撒きました!」


「うん!こっちも解除できた!さっそく逃げ…」


 扉の前にしゃがみ込んでいた弥生を、吹き飛ばすように乱暴に扉が開く。床を転がった弥生の視界に、扉から入ってくる無数の悪魔たちが見えた。


「こ、こんなに…!」


 思わずたじろいだ紫黄里だったが、すぐに弓を構え、悪魔たちを撃ち倒す。すぐに弥生も援護射撃に加わり、敵を撃ち倒していくが、彼女たちが敵を倒すよりも多く敵は増えていく。

 2人は武器の都合上、敵から距離を取るように扉から離れていく。しかし、すぐに彼女たちは背後から強い熱を感じた。


「っ!火が、ここまで…!!」


 紫黄里は自分の背後を見ると、燃えていく自分の黒い翼を投げ捨て正面から迫ってくる敵を見る。やはり、どんなに見返しても敵の数は減るどころか増えていた。


「シネェエアア!!」


 銃撃の間を掻い潜ってきた悪魔が、弥生に向けて駆け寄り、棍棒を振り下ろしてくる。

 弥生はすぐさまライフルで受け止めたが、押し負けていく彼女の背後は燃え盛る炎で包まれていた。


「うぅぅぅああぁ!!」


「や、弥生さん!!」


 このままでは弥生が火炙りにされる。紫黄里がそんな心配をするのもよそに、悪魔は紫黄里の元にも駆け寄り、紫黄里の首を締め上げ、持ち上げると、炎の中へと歩き出す。


(し、しまった、このままじゃ、燃えちゃう…!!)


 必死に身を捩って抜け出そうとする紫黄里だが、息ができないことと自分の周りを包む熱に、死を間近に感じていた。


「い、いや、だ…死にたく…ない…!」


 紫黄里が涙をこぼしながら言葉を発している間にも、弥生は両腕を悪魔に持たれ、紫黄里と同じように炎の中で宙吊りのような形にされていた。


「うああああ!!!あ、ああ!!!助けてえええ!!」


 弥生は、紫黄里が聞いたこともないような絶叫をあげて助けを求める。しかし、ふたりとも悪魔に拘束されたまま、ゆっくりと火炙りにされていく状況に変わりはなかった。


「ごめん…なさい…」


 息ができなくなっていく中、紫黄里は、その言葉を絞り出すのが精一杯だった。




「誰に謝っている」



「…え…?」


 目を瞑った紫黄里の耳に聞こえてくる、低くてもしっかり聞こえる男の声。

 そして、次の瞬間に聞こえてきたのは、自分の首を絞めている悪魔たちの悲鳴。

 紫黄里と弥生の体が燃える床に叩きつけられるその寸前、ふたりの体を抱え込む、太い両腕。

 紫黄里は、自分を助けたその腕の先に、日本刀が握られているのをはっきり目にした。


(ま、まさか…!)


 紫黄里はその刀が握られている手と逆側を見上げる。

 傷だらけの顔に、どうみても悪人にしか見えない鋭い眼光。

 東雲幸紀は、彼女たちを両脇に抱え、黒いロングコートをたなびかせながら、炎の中を堂々と歩いていた。


「幸紀…さん…!?」


「全く…この暑い時期に...」


 幸紀はそう言いながら、窓枠を乗り越え、紫黄里が設置した毒沼の上に降り立つ。しかし、それすらも平然とした様子で歩くと、毒沼の広がっていないところに、紫黄里と弥生を転がした。


「そこで寝ていろ。俺はそっちに用がある」


 幸紀は一方的に紫黄里と弥生に言うと、毒沼の上に立ちながら正面に見える悪魔軍の隊列を睨む。そして、盾を構える悪魔たちの後ろにいるポラリスを見つけた。


「おい、ポラリス。いい加減に決着をつけてやる。10秒でそっちにいくから大人しくしていろ」


「バカが。誰がお前相手に10秒も待つか。盾を持った部隊はその場で食い止めろ!それ以外は撤退!俺も逃げる!」


 ポラリスはそう指示を出すと、早速幸紀に背中を向け、走り始める。

 一方の幸紀は、盾を持って横一列に並ぶ悪魔たちと向き合った。


「邪魔だ」


 幸紀はひと言だけ言うと、日本刀を握り直し、盾に向かって突き出す。瞬間、刀はあっさりと盾を貫通し、盾を持っていた悪魔ごと貫くと、逃げていた悪魔たちの背中も串刺しにしていき、悪魔たちでごった返していた山の広場に次々と黒い煙を蔓延させていく。


「ポラリス様!アギャ!」


「!」


 幸紀の串刺し攻撃で、悪魔の多くが犠牲になり、刀の切っ先がポラリスを貫こうとしたその瞬間、部下の声によってポラリスは間一髪で幸紀の攻撃を回避し、地面に転がると、悪魔から刀を抜いて構え直した幸紀と向き合った。


「おい、約束は守れ!10秒って言ったくせにまだ8秒しか経ってないぞ!」


「悪魔が約束など守るものか。死ね」


「断る!」


 刀を振り下ろしつつ死を宣告する幸紀に対し、ポラリスは地面に転がっていた悪魔用の盾で幸紀の刀を受け止めるが、すぐに盾は真っ二つになり使い物にならなくなった。


「ええいこの野郎!」


 ポラリスはもう一度地面を転がってから、ポケットから閃光手榴弾を取り出す。しかし、それを作動させるよりも早く、幸紀が刀を振るってポラリスの手を斬り飛ばした。


「ほわぁぁぁあ!!!」


 あまりの痛みに、ポラリスは絶叫する。そんなポラリスを追撃するように、幸紀は刀を頭上に掲げた。


「これで最後だ」


「…死んでたまるかぁっ!!」


 ポラリスはそう叫ぶと、背後を確認し、崖になっているのを確認すると、思い切って飛び降りる。


「逃がさん」


 そんなポラリスを追いかけ、幸紀も崖を勢いよく飛び降り、ポラリスの方へと刀を向けながら重力に身を任せた。


「うぉおおおっ!!!悪魔回廊ォォオ!!」


 ポラリスは幸紀に背を向け、迫ってくる地面に顔を向けると、残っていたもう一方の手を地面に伸ばす。

 ポラリスの目前に白と黒の円が広がり、ポラリスの体はその中に吸い込まれるように入っていく。

 そして、ポラリスの全身が回廊の中に入ったその瞬間、回廊の入り口が閉まり、幸紀の目の前に、地面が広がった。


「ちぃっ」


 幸紀は轟音を立てながら地面に着地し、刀を突き立てる。凄まじい音を立てたのにも関わらず、幸紀はあっさり刀を抜き、何事もなかったかのように膝を少し曲げてから飛び跳ね、自分が急降下した崖の上へと飛び乗った。


 崖の上、弥生と紫黄里が横になっていた場所には、幸紀から遅れて星霊隊の女性たちがやってきていた。


「弥生!紫黄里も!しっかりして!」


「心愛!ふたりを治療して!」


 日菜子と四葉が、声を張って指示を出す。その指示に従って心愛がマイクを発現させて歌うと、少なからず火傷を負っていた弥生と紫黄里の体はみるみるうちに負傷する前の状態に戻っていた。


「みんな…」


 紫黄里は、自分を心配そうに見下ろす仲間たちの顔を見て、自分がかけてしまった多くの迷惑と、自分が抱えていたちっぽけな不安を思い知らされた。


「…ね、紫黄里ちゃん...誰も紫黄里ちゃんのこと、忘れてなかったでしょ?」


 そんな紫黄里に、隣で横になっていた弥生が声をかける。弥生の言葉に、紫黄里は頷いた。


「迷惑かけてごめんなさい…でも、なんでみんなここがわかったの…?」


「気づかなかったのか?」


 紫黄里の言葉に、幸紀の声が入ってくる。紫黄里が振り向くと、幸紀は黒い羽のようなものを右手に摘んでいた。


「それは…!」


「お前のつけている羽だ。これが山道に向けて落ちていた…尤も、それに気がついたのは、四葉たちだが」


「…えっ…?」


 紫黄里は四葉の方に振り向く。四葉と、その隣にいたすみれは笑顔で頷いた。


「紫黄里は、いつもたくさん偵察行ってくれてるじゃない?そのとき、いつもこの羽が落ちてるのを見てたの」


「そう。この羽は、紫黄里がいつもみんなのために頑張ってくれてる証。これが同じところにふたつ落ちてる時は、紫黄里が行って、戻ってきて、そこが安全だったって証拠」


 四葉とすみれの言葉に、紫黄里は感極まって涙ぐむ。そんな紫黄里を冷やかすように、望がクールに言葉をかけた。


「ま、今日からはその判定も使えないけどね。ご自慢の翼は焼けちゃったみたいだし。結構見てるの面白かったんだけどな」


 望にも言われると、紫黄里は涙を飲み込み、満面の笑みで話し始めた。


「…ふふふ、貴様ら、何を勘違いしている…『永遠エタニティダークウィング』は不滅!貴様らが望むなら、何度でも蘇ってみせようぞ!」


「あ、もしかして衣装作り!?心愛も混ぜて!」


「ちょっと、心愛が作っちゃったら全部ハートになっちゃうからだめだよ!」


 紫黄里はいつも通りの笑顔を取り戻し、四葉たちと笑い合うのを見届けた日菜子は、手を打ち鳴らした。


「さ!じゃあみんな、一旦戻ろうか!」


「はい!」


 日菜子の指示に従い、星霊隊のメンバーたちは山を下りていく。紫黄里は四葉に肩を担がれ、弥生は日菜子に肩を担がれながら、幸紀は紫黄里と四葉の間を歩いていた。


「あ、あの…幸紀さん、本当にありがとうございました…」


 紫黄里は幸紀に礼を言う。すかさず、弥生も幸紀に礼を言った。


「私からも、ありがとう!幸紀くん!」


「…礼はいい。ポラリスに傷を負わせることができた。今日はそれで収穫だ。お前たちの協力、忘れないでおく」


 幸紀は礼を言うふたりに対しても、ぶっきらぼうに返し、先に進んでいく。何気ない幸紀の言葉に、紫黄里は思わず弥生の方を見た。


「弥生さん…!幸紀さんが、私のこと、忘れないって…!」


「ふふふ、よかったね!」


「はい!弥生さんのおかげです!」


「私は面白そうだからついていっただけだよー!でも、よかったら、これからも一緒に、偵察がんばろ?」


「はい!」


 山を下っていく彼女たちの、明るい声が山道に響いていた。

隊員紹介コーナー


隊員No.5

名前:辰馬たつま弥生やよい

年齢:19

身長:160cm

体重:45kg

スリーサイズ:B79(C)/W55/H80

武器:スナイパーライフル

外見:緑白色の長い髪に、緑の帽子を被ったスレンダーな体型

能力:霊力を込めた銃弾で長距離射撃をおこなう

家族構成:無し(両親は既に他界)

所属班:偵察班

過去

母は弥生を産んだ直後に他界。父は弥生を連れて山で猟師をしていたが、弥生が8歳の時に動物に襲われて死亡。

それ以降、弥生は父の技術の見よう見真似で狩猟を行い、猟師として生きてきたが、山が冥綺財閥に買収されて以降は、山のガイドとして働くこともある。


隊員No.16

名前:柳生やぎゅう紫黄里しおり

年齢:17

身長:154cm

体重:46kg

スリーサイズ:B78(B)/W57/H79

武器:弓

外見:紫色のロングヘア、制服の上に黒い眼帯と黒い帽子、黒い翼をつけている

能力:毒や麻痺などの状態異常を操る霊力を持つ

家族構成:両親、兄2人姉1人弟3人妹2人

所属班:偵察班

過去

大家族の中でもかなり自己主張が控えめな性格であり、手のかかる弟や妹に比べて存在感がないことから、家族旅行ではひとり置いて行かれたことも2度ほどある。

それを見返すために中二病になり、さらには白鷺女子校というそれなりに難しい学校にも入試を成功させて入った。

そんな彼女の支えだったのがアニメ「エタニティ・ダークエンジェル」であり、孤独を恐れず戦う主人公が彼女にとって憧れ。




最後まで読んでいただき、ありがとうございました

次回もお楽しみいただけると幸いです

今後もこのシリーズをよろしくお願いします

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