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第16話 元の世界へ -晴夏と千鶴-

前回までのあらすじ

 順調に悪魔軍の拠点を攻撃していく星霊隊。その進攻を止めるため、悪魔軍は人のトラウマを刺激する罠を仕掛ける。

 罠にかかってしまったすみれは四葉に襲いかかるが、四葉の懸命の説得によって罠を跳ね除け、星霊隊は次の目的地を目指す。

6月24日 8:00 心泉府 北区


「うわぁあっ!?」


 木村千鶴は、悪魔の攻撃で吹き飛ばされ、地面の上を転がっていた。

 彼女は右手に握りしめた自分の武器であるサイを地面に突き立て、自分の体勢を立て直し、顔を上げる。だが、すでに彼女は、5体ほどの悪魔たちに取り囲まれ、棍棒を構えるそれらに見下ろされていた。


「キヘへ...!!」


「...!」


 千鶴はすぐさま武器を構える。しかし、なんの能力も持たない彼女が相手をするのには、敵の数が多すぎた。


(なんで私がこんな目に遭うわけ...!?もう嫌だ...!!)


「来ないで!!来ないで!!」


 千鶴は叫びながら周囲の悪魔1体1体に釵の切っ先を向けるが、悪魔たちは怯みもせず、千鶴ににじり寄ってきていた。


「シネェェエア!!」


「!」


 悪魔の1体が、棍棒を千鶴に振り下ろそうとする。千鶴はそれに気づいたものの、悲鳴を上げながらその場にしゃがみ込むことしかできなかった。


「いやぁああっ!!」


「ウォラァ!!」


 そんな千鶴の耳に、女性の気合のひと声と、雷が轟くような音が聞こえてくる。千鶴が顔を上げると、彼女の親友でもある同じチームの女性、鳴神晴夏が、雷を纏ったトンファーをふるって悪魔の顔面を殴りぬいていた。


「ハルくん!」


「下がってろ千鶴!オラァ!」


 晴夏は声を張ると、残っていた悪魔たちに対してもトンファーを振るい、片っ端から黒い煙へと変えていく。千鶴が瞬きする間に、晴夏はその場にいた悪魔たちを全て殴り倒していた。


「へっ!どうだ!伊達に毎日戦ってねぇぜ!」


 晴夏は得意げな顔をして手に持っていたトンファーを光の粒に変える。そして、その場にしゃがみこんでいた千鶴のほうに手を伸ばした。


「ほら、千鶴!」


 晴夏は明るい表情で声をかける。千鶴は複雑な表情でその手を取り、晴夏に引っ張られる形で立ち上がった。


「晴夏!そっちはどう!?」


「おう!ばっちりだぜ!日菜子!そっちは!?」


「こっちも片付いた!合流しよう!」


「わかった!今行く!」


 晴夏は別の場所で戦う日菜子にも短く返事をすると、千鶴の方を向いて話し始めた。


「ほら、行こうぜ、千鶴!」


「...もういや!!」


 千鶴の手を取って進もうとする晴夏に対し、千鶴は背を向けて走り始める。急に変化した千鶴の態度を見て、晴夏は千鶴を説得するために後を追い始めた。


「千鶴!おい千鶴!待てよ!!」


 足の速い晴夏はすぐに千鶴に追いつくと、千鶴の正面に回り込み、腕を広げた。


「どうしたんだよ千鶴?日菜子が待ってる、早く行こうぜ?」


「いやだよ!行ったってどうせまた戦いに巻き込まれるんでしょ!?」


「そりゃオレたちは悪魔と戦うのが任務だから当たり前だろ!」


「当たり前じゃないよ!戦闘、戦闘、また戦闘!傷は増えるし、悪魔は減らない!こんなのになんの意味があるの!?」


「でもオレたちが戦わなきゃいろんな人が苦しむだろ!?」


「幸紀さんが戦えば十分じゃない!いつも幸紀さんひとりでどんな悪魔にだって勝ってるでしょ!?」


「ま、まぁ、そりゃあ、そうかもしれないけど...」


「私たちなんて必要ない!私が戦う必要もない!だったらもう戦いたくない!!」


 千鶴は思いの丈をぶちまけると、晴夏を押しのけて、日菜子たちのいる方向とは真逆の方向へと走り始める。姿勢を崩した晴夏は、地面に膝をついてから、すぐに立ち上がり、千鶴の背中を追いかけ始めた。


「千鶴!おい!!」


 晴夏は千鶴の背中に近づきながら、彼女の名前を呼ぶ。


 走り続ける二人の正面に、横にあった物陰からスーツの男性が堂々と歩いて姿を現す。


 突然の出来事に、千鶴は思わず足を止め、遅れてやってきた晴夏も、千鶴の半歩前に立って、その男性と向き合った。


「誰ですか?」


「気をつけろ千鶴、悪魔かもしれねぇぞ」


「悪魔?一体なんのことですか?」


 警戒する晴夏と千鶴に対し、スーツの男性は何もわからないといわんばかりに尋ね返す。その言葉に、晴夏と千鶴の警戒はより一層強まった。


「この世界の人間で悪魔を知らないなんておかしい...」


「こいつ、やっぱり怪しいぞ...!」


「あぁ、待ってくださいおふたりとも、そういうことでしたら、大丈夫ですよ」


 男性はそういうと、懐から黒の名刺入れを取り出し、その中から紙の名刺を取り出す。


「わたくし、こういうものでございます」


 男性は名刺を差し出す。千鶴が恐縮しながらその名刺を受け取ると、晴夏と千鶴は一緒にその名刺を覗き込んだ。


「『松本彰智』?」


「『国立宇宙開発研究所』...『所在地:東京都江東区』!?」


 見慣れた文字列に、千鶴は思わず声を上げる。晴夏も驚きのあまり言葉を失っていると、松本は柔和な物腰で話し始めた。


「その様子と、チヅル、というお名前から見るに、あなたが木村千鶴さんですね?」


「は、はい!そうです!」


「よかった。もうひとり、鳴神晴夏さんという男性とはお会いしませんでしたか?」


「お、オレですけど?」


 松本の問いに対し、晴夏が遠慮がちに答える。松本は晴夏の姿を見ると、目を丸くした。


「おや?男性とお聞きしていたのですが...こんなに綺麗な女性だったとは」


「いや、そっちの世界じゃ男だったんすよ。でも、こっち来ちゃってから、体が女になっちゃってて...」


「世界間移動に伴う肉体の変化...!これはまた研究しがいのある新しい事例だぞ...!」


 晴夏の返答を聞き、松本はやや興奮したような様子でつぶやく。しかし、晴夏と千鶴が少し離れたのを見て、咳ばらいをしてから改めて話し始めた。


「失礼。実は、我々『宇宙研』はあなた方を探していたのです。昨今、日本各地で相次ぐ『神隠し』と呼ばれる失踪現象。我々の使命は、その『神隠し』の被害者を救出することなのです。我々はあなた方おふたりを被害者第1号と考え、あなた方の捜索を続けておりました」


「なんで私たちを?」


「消えた時間帯と身元がはっきりしていたのがあなた方だけだったのです。ほかの失踪者は足取りを追いきれなかった人ばかり。とても今回の『神隠し』の原因調査には適さず、追跡も困難だと考えました。しかしおふたりは学生。身元も活動時間帯もはっきりしており、追跡が可能でした」


 松本の発言に、間違ったところはなさそうに見えた。実際、元の世界では晴夏も千鶴も高校生である。ふたりの心は警戒しながらも、徐々に信頼へ傾きつつあった。

 それを見てか、松本はポケットからレーザーポインターペンのようなものを取り出す。彼は自分の背後の空間にそのペンを向けてスイッチを押すと、3人の前に、空間の穴のようなものが開き、風が吹き荒れ始めた。


「な、なんだこりゃ!?」


「これは『世界間移動トンネル』です!簡単に言えば、これを通れば、お二人が失踪した直後の、元の世界に戻れます!」


「本当ですか!?」


「ええ!後ほど、失踪したときのことを伺いに上がりますが、今まで通りの日常を過ごしていただいて構いません!」


 松本の説明に、千鶴の目が輝く。今にも穴の中に飛び込もうとする千鶴を、晴夏は諫めた。


「待てよ千鶴!このおっさんの言ってることが本当とは限らねぇんだぞ!?」


「でも...!」


「おふたりとも!急いでください!このトンネルは長く持ちません!チャンスを逃せば、二度と戻れないのですよ!?」


 ためらう晴夏と千鶴に対し、松本は追い打ちをかけるように急かす。松本は違う方向を見ていたが、千鶴にはそれを気にしている余裕はなかった。


「ごめんハルくん!先行くね!」


 千鶴はそれだけ言うと、穴の中に飛び込んでいく。そのまま千鶴の姿は、穴の中に消えた。


「千鶴!」


「さぁあなたも急いで!」


 千鶴の背中に手を伸ばす晴夏に、松本は声をかける。晴夏はためらったが、目をつぶった。


「日菜子、幸紀さん、みんな、オレ絶対戻ってくるから!」


 晴夏はそう決意を口にすると、穴のなかへと飛び込んでいく。晴夏の姿も穴の中に取り込まれたのを見ると、松本も何かから逃げるようにしてその穴の中に身を投げるのだった。

 穴がふさがる。

 その場所には、何もなかったかのような光景が広がっていた。




東京都内 某所 19:00


「うわっぷ!」


 気がつくと、千鶴はコンクリートの上に転がるように倒れ込んでいた。同時に、顔を上げた彼女は周囲の建物に目をやる。

 どこも崩壊はおろか、傷ひとつない建物ばかりの、見慣れた住宅街がそこに広がっていた。


「帰ってこれたんだ…!!あぁ…!!私んちだ!」


 千鶴は立ち上がり、目の前にある自宅を見て声を上げる。そんな千鶴の背後から、誰かが倒れ込む音と、うめき声がきこえてきた。


「いってー…」


 千鶴はその声に振り向く。そこに膝をついていたのは、ブレザー姿の、若々しい青年だった。


「ハルくん!元の姿に戻ってるよ!」


 千鶴はその青年、本来の姿の晴夏に明るく声をかける。晴夏は立ち上がって自分の姿を見ると、自分の胸と股ぐらを触った。


「…ホントだ…!男に戻ってる…!」


「よかったね、ハルくん!これで戦わなくてもいいんだよ!元の世界に戻ってこれたんだよ!」


「よくはねぇよ!」


 千鶴の言葉に対して、晴夏は思わず声を大きくする。戸惑う千鶴をよそに、晴夏は周囲を見回しながら話し始めた。


「オレたちがこうしてる間にも、星霊隊のみんなは戦ってる…早く戻ってやらねぇと!」


「もういいじゃん!こっちに来ちゃったんだったら、もう無関係だよ!」


「薄情な奴だな!お前仮にも一緒に戦ってきた仲間だぞ!?心配にならねぇのかよ!!」


「成り行きで数日間一緒にいただけの他人だよ!!」


「テンメェみんなに助けられておきながらよくも!!」


 晴夏は千鶴の胸ぐらを掴みあげる。そんな晴夏と千鶴の横から、扉が開くような音が響くと、女性の声がした。


「こら、晴夏!千鶴ちゃんに暴力を振るうんじゃないよ!」


 晴夏にとって聞き覚えのある声。晴夏が声のしたほうに振り向くと、彼の母が晴夏の方に向かってきていた。


「げぇっ!おふくろ!」


「女の子に乱暴して!こっち来な!」


 言うが早いか、晴夏の母親は晴夏を捕まえ、晴夏を家の中に引っ張っていく。晴夏はギャーギャーと文句を言っていたが、それも無視されて家の中に連れていかれるのだった。

 一方、その場にひとり残された千鶴は、そんな光景になつかしさを覚えていた。


(そうだったなぁ...昔から暴れん坊のハルくんを、ハルくんのお母さんがああやって抑えてたなぁ)


 千鶴はそんな感傷に浸りながら、晴夏が連れていかれた家の、その隣の家の扉へと歩き、中にへと入った。


「ただいまー」


「おかえりー」


(あぁ...やっと聞けた…ママの声だ…!!)



4時間後 23:00

 千鶴は、夕食を終え、数日ぶりの風呂を堪能し、家族との会話も楽しみ終えたあと、ベッドの上で横になっていた。


(ママの手料理にあったかいお風呂…ふかふかのベッド…あぁ、幸せだなぁ…!)


 千鶴は、この数日間のことを思い返す。戦いに次ぐ戦い、シャワーで汗を流すだけの風呂に、焔たちが作る時短の料理、寝袋に包まる夜。今この瞬間とは、全てが真逆だった。


(もういいんだ、戦わなくて。痛い思いもしないし、美味しいご飯だって食べられる…そりゃあ、日菜子さんたちのことは心配っていうか、ちょっと申し訳ない気もするけど…そもそも、本当なら関わるはずもない人なんだもん…だったら、もう忘れる。忘れて、今の生活を思い切り楽しむ!明日からの学校、楽しみだなぁ...!)


 千鶴は明日から自分を待っているであろう平和な日常を思いながら目を閉じる。彼女は今までの疲労も相まって、次の瞬間には夢の世界へ落ちていた。



 次に千鶴の意識が戻ると、千鶴は、見覚えのない真っ白な空間に、ひとりで立っていた。


(…あぁ、夢の世界ってやつね)


 千鶴は至って冷静に自分の置かれた状況を理解する。


(じゃ、このまま眠ろっと…)


「いやああああ!!!!」


 眠ろうとした千鶴の耳に突き刺さる、若い女性の悲鳴。千鶴が思わず振り向くと、星霊隊として戦っていた時に幾度となく見てきた悪魔が、若い女性の首筋に歯を突き立てて噛み付いていた。


「!!?」


 千鶴が驚きで動けないでいると、その女性が倒れ込み、顔が千鶴にも見えるようになる。千鶴が通っている高校と同じ制服を着ている彼女は、千鶴が一緒に過ごしている親友のひとりだった。


「ゆ、ユウカ!?」


「たす…け…ぎゃああああ!!!」


 助けを求める彼女に、悪魔はさらに喰らいつく。千鶴に腕を伸ばしながら力尽きるユウカの体を、悪魔は貪り食い始めた。

 千鶴は、目の前で起きている惨劇に、言葉を失う。血の海に倒れているユウカの名前を弱々しく呼ぶが、ユウカは返事をしなかった。


(なに…なんなの…!?)


 悪魔がゆっくりと振り向き、千鶴の方を向く。悪魔はゆっくりと千鶴ににじり寄っていき、千鶴を見て舌なめずりをしていた。


「キヘヘヘ…!」


(大丈夫…これは夢だから…!)


 後ずさる千鶴は、自分に必死に言い聞かせる。そんな千鶴の背中に、何かがぶつかった。

 千鶴は背後に目をやろうとする。しかし、そんな千鶴の腕を、千鶴の背後にいたその何かが掴み上げ、身動きを取れなくする。


「なに!?なんなの!?」


「ヒヒヒ…」


 千鶴がもがくのも虚しく、身動きが取れないままの千鶴にユウカを食った悪魔が近づいてきていた。


「やめて、来ないで…!嫌だ…!いやああっ!!」


 千鶴の悲痛な叫びが何もない空間にこだまする。次の瞬間には、千鶴の首元に鋭い痛みが走り、彼女の体は生きたまま喰われていくのだった。






翌朝


「!!!」


 ベッドの上で、千鶴は首元を押さえながら跳ね起きる。彼女の首ににじんでいたのは、血ではなく汗であり、寝ている間に自分が受けた傷は、そこには存在しなかった。


「はぁ…はぁ…夢…?」


 戸惑う千鶴をさらに驚かせるように、枕元にあったスマホが振動し、音を立てる。千鶴は驚きながらスマホを手に取ると、スマホのアラームを止め、今の時刻を確認した。


(7時か…とりあえず、学校行く準備しよう…昨日のママの話が本当なら、私たちは失踪してなくて、向こうの世界に行く直前に戻ってきてる…大丈夫、もう普通の生活ができるはず…)


 千鶴はそう思うと、ベッドから降りて学校に行く準備を始めるのだった。



十数分後 7:45

 食事を終え、制服に着替えた千鶴は、今までの日常通り、1人で家を出て学校へと歩き始める。彼女がいくら周囲を見回しても、至って平和な日本の住宅街が辺りに広がっていた。


(辺りに変なことはない…やっぱり今朝の夢は、ただの夢か…)


 そう思って歩いていると、千鶴の視界の奥端に、制服を着た晴夏の後ろ姿が映る。千鶴は少し足を速めて、彼の隣に寄った。


「ハルくん」


「!?あ、あぁ…千鶴か…」


 千鶴に声をかけられた晴夏は、異様に動揺して反応する。そんな晴夏の表情は、千鶴から見て明らかに憔悴しているように見えた。


「ハルくん?どうしたの、元気ないじゃん」


「…気のせいだよ…」


 晴夏は明らかに昨日よりも力無く答える。千鶴はそんな晴夏の様子に違和感を覚えずにいられなかった。


(おかしい…昨日までのハルくんだったら絶対に『日菜子たちのところに帰るんだ!』って言って動いてるはず…何かあったのかな?…まぁでも、触れないでおこう)


 千鶴は晴夏の心配を一度やめると、正面を見る。気がつくと住宅街を抜け、学生たちの歩く開けた場所にやってきていた。

 そんな状況の中で、千鶴は、長い黒髪に、女子生徒用の制服を着ている見覚えのある後ろ姿を見つけた。


「あ、ユウカだ。じゃね、ハルくん」


 千鶴は一方的に晴夏にそう言って別れると、ユウカの後ろ姿へと駆け寄った。


(ユウカ、無事だったんだ。やっぱあんなの、ただの夢だったんだよ)


「おーい、ユウカ」


 千鶴が声をかけると、彼女は振り向く。


 その顔は、夢の中でユウカを喰っていた、赤褐色の悪魔のそれだった。


「!」


 状況を理解しきれない千鶴が言葉を失っていると、その悪魔はにこやかな表情で話しかけてきた。


「おはよー千鶴」


 悪魔の顔から聞こえてくる、ユウカの女性的で可愛らしい声。なおのこと千鶴には不気味で理解しがたい光景が、そこに広がっていた。


(ユウ…カ…?いや…悪魔…?)


 千鶴が戸惑う中、他の女子生徒たちもユウカのような悪魔に挨拶をして学校へと歩いていく。他の生徒たちの顔に異常はない。しかし、誰もユウカの変化には気づいていない。


(どうなってんの…!?どう見てもユウカじゃないのに、なんでみんな何も言わないの…!?)


「どうしたの?千鶴?」


 ユウカの声をした悪魔は、至って平穏なトーンで千鶴に尋ねる。驚きのあまり、身動きが取れなくなっていた千鶴は、その声で我に還ると、なんとか誤魔化し始めた。


「え?あ、えっとね、ちょっと忘れ物したかも~」


「マジ?ホントドジだなぁ千鶴は。間に合わなかったら先生に言っとくね」


「あ、あはは、あ、ありがとうね、ユウカ、じゃ、取ってくるね」


「うん、気をつけてね」


 千鶴を見送る優しい少女の声が、恐ろしい悪魔の形相から放たれる。そんな異様な光景に、千鶴は後ずさりしてから、ユウカが背中を向けたのを確認してから走ってその場を離れるのだった。


(ヤバいよ、何か変だよ、こんなの…!)


 千鶴がそう思いながら走っていると、俯いて歩いている晴夏の姿がそこにあった。


「ハルくん!ハルくん!」


 学生たちを掻き分け、千鶴は晴夏の元に駆け寄る。晴夏は力無く顔を上げた。


「あ…?」


「ヤバいよハルくん!悪魔が、悪魔が、ユウカの体を乗っ取ってる…!」


「なんだと…!野郎、すぐに…!」


 千鶴の報告を受けた晴夏は、すぐさま走り出そうと顔をあげる。しかし、急に何かを思うと、立ち止まり、俯いた。


「…やめよう」


「は!?何言ってんのハルくん!悪魔がいるんだよ!?倒さないと!」


「気のせいだよ…」


「気のせいなんかじゃないよ!!ハルくんだって、私たちが戦わなきゃ日菜子さんたちが悪魔に苦しめられるって…!!」


「やめろよ!もう他人なんだろ!?もう…いいじゃねぇか…」


 晴夏は急に声を大きくしたかと思うと、次の瞬間にはまた弱々しく言葉を発する。明らかにおかしな言動の晴夏に、千鶴はやや感情的になって言葉を投げかけた。


「どうしたのよハルくん!?あんたらしくないよ!昨日、あんなに元の世界へ戻りたがってたのに!どうして今になってこんな!」


「色々あんだよ…いいからさっさと学校行くぞ」


 千鶴に対し、晴夏はぶっきらぼうに短く答えると、千鶴の方を見向きもせずに歩いていく。千鶴はそんな晴夏の態度に不満と違和感を覚えながら彼の後に続いて学校へと歩いていくのだった。



16:00

 授業がひと通り終わり、放課後になった。

 千鶴のクラスにいる悪魔はユウカだけでなく、他にも数名、声と服装だけが人間の姿をした悪魔たちが、あたかも普通の学生かのように過ごしていた。そして、その異常な光景に気づいているのは、おそらく千鶴と、晴夏だけだった。


(誰も何も気づいてない…先生も、生徒も…自分のクラスメートが悪魔になってるのに、何も…こんなの絶対おかしい…!!ハルくんだって…!)


 千鶴は1番後ろの席から、晴夏の弱々しく丸まった背中を見つめる。そして、千鶴は自分のバッグを持ち、教室を出ようと立ち上がった。


(もう、自分でなんとかする…!みんなを取り戻す…!)


 千鶴はそう決意を固めると、雑談を交わす生徒たちの間を堂々と進み、教室を出ていくのだった。

 廊下に出た彼女の視線の先にも、制服に身を包んだ悪魔たちが談笑を交わす。千鶴はそれを無視して校舎を出ようと歩き続けた。


(こんなの、終わらせなきゃ…でも、どうしたら…)


(聞こえるか)


「誰...!?」


 突然、千鶴の脳内に直接聞こえてきた男の声。千鶴が周囲を見回しても、その声の主はどこにもいなかった。しかし、声はそのまま話を続けた。


(どうやら聞こえているようだな、千鶴)


「幸紀さん…!?」


 千鶴はその声の正体に気が付き、声を上げる。しかし、その声は冷静に千鶴に指示を出した。


(声を立てるな。この声はお前にしか聞こえていない。周囲の連中に怪しまれるぞ。このままでは会話もできない、どこか人のいないところに行けないか)


 千鶴は聞こえてくる幸紀の声に従い、足を早めて校舎を出る。そんな状況を理解したのか、幸紀は話を続けた。


(そちらが移動している間に状況を説明する。結論から言うと、今お前たちのいる世界にも、悪魔軍が侵攻を開始した。原理は省略するが、お前たちがそちらにいることによって、星霊隊の世界とそちらの世界が繋がっている)


(嘘でしょ…!?)


(星霊隊の世界とお前たちの世界を自由に行き来できる悪魔軍は、悪魔の存在を認識できないお前たちの世界から侵略していくだろう。お前と晴夏がこちらに戻らない限り、悪魔はそちらの世界の住民を食い、増殖するだろうな)


 幸紀の声は淡々と状況を語る。千鶴はそれを聞きながら、校門の付近にたむろする学生たちの間をすり抜け、スマホを取り出しながら、人の少ない通りの方へと歩いていく。

 千鶴はスマホを耳に当てながら歩くと、あたかも誰かと通話しているかのように見せかけながら話し始めた。


「もしもし、聞こえてますか、見えますか?」


(あぁ。姿は見えないが、声は聞こえる)


「それで、結局私はどうしたらいいですか?」


(俺の刀を探せ。気配から察するに、お前たちに近いどこかの広場に刺さっているはずだ。刀は世界を移動する『鍵』の役割を果たす。これを使ってふたりでこちらの世界に戻ってこい)


「幸紀さん、助けに来てくれないんですか?」


(無理だ)


「どうして?」


(俺たちは世界を移動する手段を持ち合わせていない。お前たちが世界を移動する時に、運良く刀だけは送り込めた状況だ。悪魔を仕留めるはずが世界移動に吸い込まれるとは思わなかったが)


「…とりあえずわかりました。確認させてほしいんですけど、こっちに入り込んだ悪魔は、どうしたらいいですか?」


(明宵によれば、お前たちがこちらに戻った時点でそちらにいる悪魔たちも一緒にこちらに戻るそうだ。だから、とにかく俺の刀を探し出すんだ)


「...了解しました」


 千鶴は幸紀からの指示を受けると、それに従って動くため、スマホを耳から離し、地図を確認し始める。自分の現在地に近い最寄りの広場や公園を探し始めた。


(広場…広場…)


「千鶴…」


 スマホの画面に夢中になる千鶴の背後から、覇気のない晴夏の声が聞こえてくる。千鶴は振り向き、晴夏の顔を見ると、彼ににじり寄り、彼を見上げながら話し始めた。


「ハルくん、聞いて。今、幸紀さんから指示を聞いたの。こっちの世界に幸紀さんの刀が来てて、それを使って向こうの世界に帰らないと、こっちの世界に悪魔が侵略してくるって。一緒に探して!」


「向こうの…世界…」


「そう!こっちの世界を守るには、向こうの世界に戻るしかないみたいなの!だから、私は向こうに戻る!ハルくんも手伝って!」


「ち、千鶴…オレは…!」


「木村さん、鳴神さん」


 千鶴の言葉に、晴夏は悲痛な面持ちで言葉を発する。そんなふたりの横から聞こえてくる男性の声。ふたりがそちらを向くと、スーツ姿の男性が、ゆっくりと2人の方へと歩いてくる。彼は、2人をこちらの世界に戻した松本だった。


「松本さん!」


「覚えていてくれて嬉しいです。早速ですが、調査のために来ましたので、いくつか質問をさせていただいてもよろしいですか?」


 松本はジャケットの内ポケットからメモ帳を取り出しながらふたりに歩み寄る。千鶴はそんな松本に向き合った。


「松本さん、聞いてください。私たちを元の世界に戻してほしいんです!」


「…なんですって?」


「私たちがこっちに来たせいで、向こうの世界の悪魔たちがこっちの世界に来てしまってるんです!ですから、私たちを元の世界に…」


 懸命に説明する千鶴の頬を、突然松本は殴り抜く。千鶴が地面に倒れると、松本は千鶴を見下ろした。


「『元の世界』ぃ?こっちが元の世界でしょう。戻してやったのは私たちです。それに感謝もしないで『帰りたい』?ふざけるなよ小娘?」


「ま、待ってくだ…あぐぅっ!!」


 松本は倒れた千鶴の腹に蹴りを叩き込む。千鶴の体が大きく跳ね上がるのを見て、晴夏は千鶴を助けようとしたが、同時に、晴夏の目には松本の顔が悪魔に変わっているのが見えた。


(…!)


「反省しろ!小娘!反省しろ!反省しろ!!」


 松本は怒鳴りながら千鶴を踏みつけていく。目の前で千鶴が蹂躙される姿と、蹂躙する悪魔の姿。晴夏はそこから一瞬目を逸らしたが、恐怖を振り切って動き始めた。


「やめろっ!!」


 次の瞬間、晴夏は松本の体に、タックルを叩き込む。千鶴を踏みつけようとしていた松本は、晴夏にタックルされてその場に倒れ込んだ。


「がぁっ!こんの…!」


「逃げるぞ、千鶴!」


 晴夏は倒れた千鶴を立ち上がらせ、松本から逃げるように、千鶴の手を引いて走っていく。松本は内ポケットからスマホを取り出すと、どこかへと連絡し始めた。


「逃げられると思うなよ…『星霊隊』!」




数分後

 晴夏と千鶴は息を切らしながら、近所にあった自然公園の中にやってくる。すでに夕暮れも進み、誰もいない公園の中、ふたりは茂みの中に隠れて様子を見回していた。


「はぁ…はぁ…一旦逃げ切れたか…?」


「...そうだね」


 晴夏と千鶴は茂みの中で隠れながら短くやり取りをする。その間に、晴夏は千鶴に頭を下げた。


「ごめん、千鶴…さっきまで、色々できなくて」


「いや、別に大丈夫だよ。でも、何があったの?」


「…ごめん、言いたくない。でも、もう大丈夫だから。一緒に幸紀さんの刀を探して、日菜子たちのところに帰ろう!」


「そだね!頑張ろ!」


 晴夏と千鶴は改めてお互いの想いを確認し合うと、顔を見合わせて微笑み合う。そうして改めて2人は幸紀の刀を探すために作戦を練り始めた。


「幸紀さんは、どこかの広場に刀が刺さってるって言ってた…ここにある可能性、結構高いと思う」


「よし、じゃあ、探そう!」


 ふたりはそう言うと、あたりに敵らしきものがいないのを確認し、公園の広場に飛び出る。2人は周囲を見回した。


「どこにあると思う?」


「わかんないよそんなの…でも、そんなに目立つところじゃない気がする」


「じゃあ片っ端から探すか?」


「うーん…」


「お探しのものはこれかぁ!『星霊隊』!!」


 2人の背後から聞こえてくる、狂気に満ちた声。2人が咄嗟に振り向くと、松本が日本刀を持って掲げる。彼の周りには、松本と同じように、顔が悪魔のそれになっている、私服姿の悪魔たちがそこにいた。


「まずい…!」


「ヒヒヒ、そんなに帰りたいか?えぇ?いいぜ、帰りたいなら帰れよ!できるもんならなぁ!」


 松本は好き勝手に刀を振り回しながら叫ぶ。後ずさる千鶴と晴夏を眺めながら、松本は周囲にいた悪魔たちに声を張り上げた。


「お前ら!男には何もしなくていい!だが女は殺せ!」                                                           


 松本の指示を受け、悪魔たちは千鶴を目掛けて走り出す。それを聞いた千鶴は、真っ直ぐ背を向けて逃げようとしたが、いつの間にか千鶴の背後に悪魔が回り込んでおり、千鶴は背後から羽交締めにされた。


「いやぁっ!!」


「千鶴!!」


 すぐに状況に気がついた晴夏は、千鶴を助けに行こうとする。しかし、そんな晴夏の前に、松本が立ち塞がった。


「…!」


「私と戦うか?えぇ?晴夏ちゃん?」


 松本が言うと、晴夏の動きが止まり、晴夏の両腕が悪魔に押さえつけられる。何も答えない晴夏に対して、千鶴が声を上げた。


「ハルくん!!もうあなたしかいないの!!お願い、戦って!!」


「黙らせろ!!」


 松本は叫ぶ千鶴に対し、部下の悪魔に命令する。悪魔は、羽交締めにされた千鶴の腹に膝を叩き込む。千鶴はうめき声のようなものを上げながら、その場に倒れ込みそうになるものの、拘束されてそれも叶わなかった。


「千鶴…!てめぇら…!!」


 晴夏は一方的に暴行される千鶴の姿を見て、怒りを覚える。感情のままに暴れようとする晴夏だったが、そんな晴夏の頭を、松本は掴み上げた。


「おやおや!あんまり暴れるような悪い子は、お仕置きしないといけませんなぁ!!」


「!!やめろ!!やめろぉ!!」


 晴夏が絶望したような叫び声を上げる。瞬間、晴夏の頭を掴んでいる松本の手が光ったかと思うと、晴夏の体も同じように光り始める。


 千鶴も思わず顔を上げ、晴夏の様子を見守る。


 晴夏の体から光がなくなったかと思うと、彼の胸は膨らみ、背は縮んでいた。


「ま、まさか…」


 千鶴は思わず息を呑む。同時に、晴夏も目を覚まし、自分の体を見ると、絶望したような声を上げた。


「あ…あぁ…!!嫌だ…!嫌だ嫌だ!!また女の体に戻ったら…!!」


「ふふふふ…!さぁ、お仕置きの時間だよ!晴夏ちゃん!!」


 自分の体が女性のものに戻った晴夏が絶望するのに対し、松本は満面の笑みを浮かべる。晴夏は震えて俯き、何もできなくなった。


「しっかりしてハルくん!!悪魔なんて散々倒してきたでしょ!?ハルくんならできるよ!霊力でやっちゃいなよ!!」


「霊力ぅ?そんなもの、こっちの世界にはありませんよぉ!!」


「えっ…」


「霊力のない小娘なんて、ただのオモチャなんですよ!この意味、わかるよなぁ?晴夏ちゃん?」


 松本は晴夏の頭を掴み上げ、顔を上げさせて尋ねる。晴夏の表情は絶望に染まり、抵抗もできなくなっていた。


「そんな顔するなよ、昨日の夜はいい夢を見させてやったろう?あれが現実になるだけだ。でも、その前に、だ!」


 松本はそう言うと、千鶴を羽交締めにしている悪魔に指示を出す。すると、その悪魔は千鶴を無理やり跪かせ、首が見えるように頭を押さえつけた。

 頭を押さえつけられた千鶴の瞳に、松本の握る刀の切っ先が映っていた。


「まずはこの女の死に顔を見せつけてやろう!」


「!!」


 松本の言葉に、千鶴は必死にもがき始める。しかし、悪魔たちの腕力は強く、いくら暴れても、千鶴はその場を逃れることはできなかった。


「離して!!いやぁっ!!」


「頼む!!千鶴のことは、千鶴は殺さないでくれ!!」


「慰み物風情が言葉を話すんじゃない!わからせてやれ!」


 松本が指示をすると、晴夏を押さえつけている悪魔たちが、晴夏の服を引きちぎり始める。男性だった晴夏はブラなどつけておらず、破かれた服から晴夏の乳房がのぞいた。


「やめろぉっ!!やめてくれぇっ!!」


「ハルくん!!誰か助けてえっ!!」


「黙れ!!」


 松本はそう叫びながら、刀を千鶴の首に振り下ろした。


 千鶴も思わず顔を背ける。


 しかし、いつまで経っても、千鶴の首元に痛みは走らなかった。


「な、なんだとぉ?」


 千鶴は顔を上げる。すると、松本が刀を振り下ろそうとしているのをよそに、刀は千鶴の寸前のところで止まっていた。


(ど、どうなっているの?)


「ええい、なぜ斬れない!?」


「貴様ごときに扱える刀ではない。身の程を弁えろ」


 どこからからそんな冷徹な声が聞こえてくると、瞬間、刀は松本の手を離れ、地面に突き刺さる。そんな異様な光景に悪魔たちの動きが止まった。


(チャンス…!)


 一瞬の隙に気がついた千鶴は、悪魔たちの腕の間をすり抜け、松本にタックルをすると、両手で刀を地面から抜き、構えた。


「うぉらぁああ!!!」


 千鶴はそう叫ぶと、倒れた松本に刀を突き刺す。松本はそれを避けることもできず、黒い煙となって消えるのだった。


「ラ、ラショーが!!」


 悪魔たちが動揺する。そんな悪魔たちを千鶴は鋭い表情で睨みつけた。


「よくもやってくれたなぁ!!」


「ヒィッ!!」


 悪魔たちが恐れ慄くのも束の間、千鶴は持っている刀を思い切り振り下ろし、悪魔の1体を黒い煙に変えたかと思うと、そのまま千鶴は、自分の思うままに、がむしゃらに刀を振るっていく。


「死ね!死ねえっ!!」


「アギャアア!!!」


 千鶴は唸り声と共に、刀を振るっていくと次々に悪魔を煙に変えていく。晴夏も、初めて見る千鶴の姿に、驚きを隠せなかったが、晴夏を捕まえている悪魔への攻撃が飛んでくると、すぐに身を屈めて攻撃を回避し、悪魔だけを攻撃させた。


「はぁっ…はぁっ…」


 あたりの悪魔を一掃した千鶴は、肩で息をしながら周囲を見回す。もうすでに悪魔がいないのを確認した千鶴だったが、瞬間、刀がどっと重くなり、千鶴はその刀を落とし、刀が地面に突き刺さった。


「うわぁっ!?」


「千鶴!大丈夫か?」


 その場に膝をついた千鶴に、晴夏は声をかける。千鶴は興奮冷めやらぬ様子で何度も頷いた。


「うん、うんうん…あの刀使ってると…自分が自分じゃなかったみたい…力が湧くんだけど…すごく暴力的になる…」


 千鶴はうわ言のようにそんなことを呟いていると、刀が突き刺さった部分を中心に、ふたりの足元に白い円が広がった。


「これは…」


「おーい!聞こえる!?」


 白い円の向こう側から聞こえてくる女性の声。2人は顔を見合わせると、その声の主がわかった。


「日菜子さん!?」


「そうだよ!明宵と幸紀さんの刀の力で、こっちから声は届くようになったみたい!戻って来れる!?」


 日菜子は晴夏と千鶴に声をかける。千鶴は晴夏の方を見た。


「ハルくん…その、すっごく嫌がってたけど、大丈夫?」


「…まぁ。オレが向こうに戻らないと、みんなが苦しむんだろ?だったら、オレもいくよ」


「…うん」


 千鶴と晴夏は短くやりとりすると、地面に突き刺さった刀の柄に手を添える。すると、2人の体は、光になって白い円の中へと吸い込まれていくのだった。



6月23日 8:30 心泉府 北区


 晴夏と千鶴が再び目を開けると、そこには日菜子と数人の星霊隊のメンバーたちが立っていた。


「あぁ、おかえり、ふたりとも!!」


 2人を出迎えた日菜子が、さっそく嬉しそうに声をかける。ふたりの服装は、松本によって世界を移動する前のものに戻っていた。


「日菜子、オレたち、どれくらい居なかった?」


「30分くらいだよ。無事でよかった!」


 日菜子の言葉に、千鶴と晴夏は顔を見合わせる。お互いに驚きを隠せない状況だったが、日菜子は構わず話を続けた。


「さ、行こう!拠点は取れたから、ご飯だよ!次の戦闘に備えなきゃ!」


 日菜子はそう言うと、晴夏と千鶴以外のメンバーを連れて先に戻っていく。晴夏と千鶴は、そんな日菜子たちの背中を見ながら、少し遅れて歩き始めた。


「おい」


 そんなふたりの後ろから、幸紀が低い声で声をかける。ふたりが驚くのをよそに、幸紀は刀を鞘に収めた。


「ゆ、幸紀さん!た、助けてくれてありがとうございました!」


「あ、ありがとうございました」


「構わん。お前たちこそ、よく戻ってきたな。特に晴夏、あんなものを見せつけられて、それでもなお戻ってくるとは。勇敢だな」


 幸紀は感心したように言葉を発する。その言葉に、晴夏は自分の体を守るように、両手を組んだ。


「ハルくん、結局、どうしてあんなに元の世界に戻るのを嫌がってたの?」


 千鶴が晴夏に尋ねる。晴夏は俯いたが、すぐに幸紀に確認した。


「幸紀さんは…見てたんですよね」


「あぁ。あの刀が、悪魔の情報をキャッチしていたらしい」


「…なら…話すか…」


 晴夏はそう言うと、顔を背けながら話し始めた。


「…あの夢の中で…女になった体を、悪魔に好き勝手に使われたんだ…抵抗もできなくて…『お前は負けたんだ』って、そう罵られて…『星霊隊の世界に戻っても、お前なんか役に立たない、負けてこうされるのがオチだ』って…」


「そんな…」


 晴夏の語る状況に、千鶴も思わず言葉を失う。晴夏はそのまま自分の服の袖を握りしめた。


「夢だってわかってたのに…怖くてまともに動けなかった…情けねぇよな…ごめんな、千鶴…迷惑かけて…」


「いや、全然、そんなことないよ...本当に大変だったんだね…」


「でも、千鶴の気持ちもわかるよ…そりゃ、負けたらタダじゃ済まないこんな世界…居たくないよな…」


「それでも、私たちがやらなきゃ、向こうの世界も、こっちの世界も危ないから…私も、今日からは逃げない。積極的に戦うよ。だから、ハルくんも一緒に頑張ろう?」


 千鶴の言葉に、晴夏は少し俯いてから、優しく微笑んで頷く。

 2人の様子を見ていた幸紀は、少し足を速めながら話し始めた。


「お前たち、負けるのが怖いと言っていたが、ひとつ大事なことを忘れているぞ」


「え?」


「そんなに怖いなら、負けなきゃいいだろう」


 幸紀はそれだけ言うと、足早にその場を去っていく。

 ふたりは一瞬理解が遅れて戸惑ったが、すぐに理解が追いつくと、反論しながら幸紀の後を追いかけるのだった。


隊員紹介コーナー


隊員No.3

名前:鳴神なるかみ晴夏はるか

年齢:17

身長:171cm

体重:61kg

スリーサイズ:B86(E)/W56/H84

武器:トンファー

外見:明るい水色の髪、長身でスタイルがいい

家族構成:父母兄

所属班:攻撃班

過去

千鶴と付き合っていたのは1日だけ。ふざけた勢いでお互いに告白したものの、お互いに「なんか違う」ということで、ただの友達同士の関係に落ち着いた。

実は沖縄に親戚がおり、古武術には少しだけ詳しい。


隊員No.20

名前:木村きむら千鶴ちづる

年齢:17

身長:164cm

体重:57kg

スリーサイズ:B87(E)/W62/H90

武器:さい

外見:茶髪ポニーテール

家族構成:父母姉兄

所属班:医療班

過去

高校ではバスケをやっており、市の大会にも参加したことがある。

いつも比較対象が晴夏だったせいで運動できないと思われがちだったが、実は結構体育会系。

晴夏と友人関係な甲斐あって、学校では多くのカップルのキューピッド役を務めてたことも多い。



次回予告

 周囲に正体を隠している結依と江美。たまたま任務を離れていると、偶然にお互いの正体を知ってしまい、一触即発の状況に。

 腹の探り合いをするふたりのやりとりの中、幸紀の過去がわずかに明らかになっていくが、そこに悪魔たちが現れる。

 11月10日、公開予定。



最後まで読んでいただき、ありがとうございました

次回もお楽しみいただけると幸いです

今後もこのシリーズをよろしくお願いします

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