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第15話 悪夢 -四葉とすみれ-

前回までのあらすじ

 悪魔軍との戦闘を早期決着で終えるため、アカツキ国の東側から攻め上がっていく星霊隊。それに対抗するべく新たに現れた敵の前線指揮官、ポラリスは、日菜子を誘拐し、星霊隊の情報を引き出すと、星霊隊を迎撃するために動き始める。

 一方、日菜子を救出できた星霊隊は、構わず悪魔軍への攻撃を続けるのだった。

6月23日 16:00 心泉府 愛賀あいが

 愛賀区にある、とある芸能人の大豪邸。白塗りのバルコニーに広い庭ももある豪邸だったが、悪魔たちに攻撃を受け、持ち主の姿も豪邸の元の姿も見る影すらなく、悪魔の拠点にされていた。


「ギャアアアア!!!」


 今、そこを占拠していた悪魔たちも、星霊隊の苛烈な攻撃を受け、最後の一体が庭の植え込みに倒れ、黒い煙となって消える。

 悪魔を倒したのは、星霊隊の副隊長を務める女性、千条せんじょう四葉よつばだった。


「はぁ…はぁ…よし…!こっちは全部倒しました!!」


 四葉は肩で息をしながら、握っていた剣を下ろして声を張り上げる。四葉の報告を聞いてやってきたのは、四葉の友人である、門杜もんとすみれだった。


「四葉、お疲れ様」


「すみれ!」


「こっちの敵も全部片付けた。今日はここに宿泊らしい。幸紀さんが作戦会議をしたいからって言って、中で待ってるよ」


「わかった、案内して!」


 すみれが必要な情報を伝えると、四葉はすみれに案内されながら建物の中に入ろうとする。

 そんなふたりの行く手を遮るように、正面にあった植え込みの陰から、1体の悪魔がフラフラと姿を現した。


「…コロシテヤルゥゥ!!」


「!!」


 驚きで身動きの取れなくなった四葉に、悪魔は素手で首を掴もうと駆け寄ってくる。

 そんな四葉と悪魔の間に、すみれが割って入ると、彼女は自分の武器である大斧ハルバートを振りかぶった。


「せいやぁっ!!」


 裂帛の気合いと共に、すみれの一撃が悪魔の脳天に振り下ろされる。悪魔は抵抗することもできず、真っ二つになった。


「ア…ギャァ…!!」


 その悪魔は小さく声を漏らすと、黒い煙に姿を変える。風が吹き抜けて黒い煙がその場からなくなると、すみれはハルバートを光の粒に戻した。


「怪我はないかい、四葉?」


「ごめんすみれ、ありがとう!」


 軽くやりとりをした2人は、何事もなかったかのように建物に向けて走り始める。


「…置いていかないで」


 すみれの耳に、突然少女の声が聞こえる。思わず立ち止まったすみれは、声のした方に振り向くが、そこには誰もいなかった。


「…?」


「すみれ?」


 突然挙動不審になったすみれを心配して、四葉は声をかける。我に還ったすみれは、気を取り直して四葉と共に走り始めた。


「大丈夫、行こう」



数分後


「遅くなりました!」


 四葉とすみれは、豪邸の中のリビングにやってくると、すでにその場にいた日菜子や焔、朋夜、そして幸紀に短く挨拶をして、その輪に加わる。一連の様子を見届けたすみれは、四葉に軽く会釈をしてから、ひとりその場を去っていくのだった。


「それでは、次の攻撃作戦の検討を始めましょう」


 その場にいる女性たちの中で最年長である焔が、リビングの中央に置かれているテーブルに、アカツキ国の地図を広げる。テーブルの周りのソファーに腰掛けながら、日菜子と四葉は隣り合って地図を見た。


「我々の基本的な攻撃方針は変わりません。東部から北上し、北部にある敵本拠点を攻撃する。そのため、次の攻撃目標は、心泉府の北区に設定します。異論はありませんか?」


 焔は地図を指差しながら状況を説明し、周囲の意見を確認する。誰も何も言わずに頷くと、四葉が立ち上がって話し始めた。


「では、早速偵察班のメンバーに指示を出してきます!敵の位置関係が分かり次第、作戦班と共有して作戦を立案し、攻撃できるようにしたいと思います!いいですか、日菜子さん、東雲さん!?」


 四葉は自分の考えを述べると、リーダーである日菜子と、最高責任者である幸紀に確認を取る。幸紀は無言で頷き、日菜子も笑顔で頷いた。


「うん、四葉の言う通りでいいよ!情報を手に入れてから動こう」


「分かりました!じゃあ、風音さんたちに指示を伝えてきます!」


「菜々子たちは私が呼んでおくよ」


 四葉と日菜子がやりとりすると、四葉はリビングを出る。日菜子がその間にスマホを操作していると、一連のやり取りを横で見ていた朋夜は、感心したように焔に話し始めた。


「焔さん。星霊隊は、とても手際の良い組織ですね。皆さまの役目が割り振られていて、何を誰に任せるかがわかりやすく、動きやすいです」


「そうですね。尤も、私はそういった組織づくりの方には関わっていないので…きっとリーダーの日菜子さんが工夫をされたんでしょう」


 焔がそう言って日菜子の方を見ると、日菜子は驚いた表情をしながら首を横に振った。


「いえ!私も全然、何もしてないです!むしろ、ちゃんと星霊隊が組織っぽくなったのは、四葉のおかげなんですよ」


「そうなのですか?」


「うん!侯爵のお屋敷を奪還した後、四葉が色々アイディアを出してくれたんです!『いろんな班を作って、各個人の長所を活かせるようにしましょう』って。彼女のアイディアに従って班を作って、メンバーを割り振ったんです」


 日菜子はこれまでの状況を説明する。初めて知る事実に、焔も顎に手を当てた。


「ふむ…合理的な考えね。私もメイド長として、彼女の組織論に学ぶ部分があるわ」


「聞けば、学校で生徒会長をやっていらしたとか。そういった経験も、ここに活きているのでしょう」


「いや、本当に、正直、私なんかよりもよっぽどリーダーに向いてると思っちゃいますね」


 3人は口々に四葉のリーダーとしての素養を褒める。幸紀は特にその会話の輪には加わらなかったが、ソファーに背中を預け、ぼんやりとその3人の会話を聞き流していた。

 そうしているうちに、再びリビングの扉が開き、四葉が戻ってくる。彼女の周りには、菜々子や麗奈などの、作戦立案を担当する班員たちもいた。


「日菜子さん、偵察班に指示を出して戻りました!作戦班の皆さんも一緒です」


「お疲れ様!じゃあ、偵察班が戻ってくるまで、今後の全体の作戦を考えようか!」


 四葉が戻ってきたのを理由に、日菜子が場を取り仕切って進める。星霊隊の女性たちは、机を囲みながら作戦会議を始めるのだった。



同じ頃 豪邸正門前

 偵察任務を受けた星霊隊の隊員、紫黄里は、支度を終えて建物を出ると、目的地に向けて出発しようとしていた。

 扉を開けて周囲を見回す彼女の目に入ったのは、豪邸の屋根の下、壁に寄りかかっているすみれの姿だった。


「お!すみれではないか!」


「!…あぁ、紫黄里か…」


 紫黄里に声をかけられたすみれは、驚きながら振り向くと、安堵したようにもう一度壁に背中を預ける。紫黄里はどことなく憔悴しているように見えるすみれの様子に、わずかに戸惑った。


「えっと、大丈夫?すみれ?」


「…うん。それで、どうしたの?」


「あ、あぁ!我はこれより偵察に行くのだ!次の戦場のな!」


「そうか。どこから敵が来るかわからない、気をつけて」


「うむ!この『永遠エタニティダークエンジェル』に死角はない!吉報を待つが良いぞ!」


 すみれの励ましを受けると、紫黄里は堂々として答え、偵察地点へと歩いていくのだった。

 すみれはそんな紫黄里の背中を見送ると、ひとり建物の中に入ろうとする。


 しかし、すみれはすぐに背後から人の気配を感じると、素早く振り向く。そこには誰もいない。


(さっきから…何かがおかしい…疲れているのかな…)


 すみれは頭を軽く振る。すみれは気にせず、建物の中に入ろうとした。


「…許さない…」


「誰...!?」


 はっきりと聞こえた、知らない女性の声。すみれは周囲を見回すが、やはり誰もいない。


(いない…?そんなはずない...ハッキリ聞こえた!)


 荒れた息をしながらすみれは扉から離れ、霊力を右手に集中させると、大斧ハルバートを発現させて構える。


「悪魔か...!隠れていないで出てこい!私は正々堂々と相手になる!」


 すみれは堂々と声を張る。改めて彼女は両手に力を込め、正面を見回したが、誰もそこにはいない。


 警戒を続けたすみれだが、もう誰もいないものだと思い、振り向いた。

 そこだった。

 すみれの死角になっていたその場所に、頭から血まみれになっていた女性の姿が、そこにあった。


「!!!」


 驚いたすみれはすぐさまその女性に斧を振り下ろす。しかし、斧はその女性の体をすり抜けた。


「そんな...!?くっ...この悪魔め...!」


「悪魔?それはお前だ」


 女性は顔を上げてすみれに言い放つ。血に汚れた顔の中に見える、憎悪に満ちた鋭い瞳に、すみれは思わず斧を落とす。すみれは気がつくと、目の前の女性から逃げようと後ずさっていた。


「な、何を言っているの…?」


「私を忘れたとは言わせない...いや、『私たち』を忘れさせはしない!!」


「だから、何を言っているの…!?」


 鬼気迫る相手の言葉に、すみれは怯えるように、後退りながら尋ねる。そんなすみれの背中に、何かがぶつかる。

 すみれが振り向いた先には、先ほどまですみれに言葉を投げかけていた女性と同じように、血に汚れた姿の無数の人間たちが立ち並んでいた。

 すみれはその人間たちの中に、自分と同じ制服を着ている人間がいることに気がつくと、その正体に気がついた。


「ま、まさか…あの学校で殺されてしまった人たち…?」


「そうだよ!!お前に見捨てられたんだ!!」


「ち、違う…!私は…私は最善を…!!」


「私たちの目を見て言ってみろ!!」


「この人殺し!!悪魔!!」


「やめて…お願いだから…!」


 すみれは血まみれの人間たちに迫られ、取り囲まれ、罵られる。逃げ場を失った彼女は、ただ耳を塞ぎ、頭を抱えるようにして群衆の中を突っ切ってどこかへと走り始めた。



17:00 豪邸のリビング


「では、次はこの作戦で行こう!今日は解散です!お疲れ様でした!」


 偵察班からの通信を受け、情報を受け取った日菜子たちは、それを基に作戦を立案する。作戦会議を終えた彼女たちは、お互いに一礼し、会議を解散した。

 後片付けを焔に任せ、日菜子たちは席を外す。それに合わせて、幸紀も部屋を出た。

 たまたま幸紀が選んだ方向に、四葉だけがやってくる。誰もいない廊下で、幸紀と四葉は並んで歩き始めた。


「四葉、そういえば、日菜子たちが褒めていたぞ」


「え?そうなんですか?」


「あぁ。四葉のおかげで、星霊隊は組織として盤石になった、と」


 幸紀は日菜子たちが話していたことを簡潔にまとめて伝える。四葉はそれを聞くと、目を逸らしてメガネを掛け直した。


「い、いえ、その…私は、みんなに支えられてるからできるのであって…すみれや、心愛、望に、紫黄里。同じ学校のみんながいるから、頑張れているだけです」


 四葉は幸紀に対して謙遜する。幸紀が軽く聞き流していると、廊下の曲がり角から、心愛と望が現れた。


「あ!四葉!シノさんも!」


「お疲れ様です」


 心愛と望は幸紀に挨拶する。幸紀が軽く会釈をすると、心愛は早速、四葉に話しかけた。


「ねぇねぇ四葉!次の作戦決まった?」


「うん!また、心愛の歌声でみんなの傷を治しながら戦ってもらうよ」


「任せて!」


 心愛と四葉が明るくやり取りをしていると、その背後から望が小さくため息をついた。


「ついこの間まで学校に閉じ込められて絶望してたとは思えない明るさ。尊敬するよ、全く」


 望の言葉を聞くと、四葉は改めて幸紀の方に向き直って頭を下げた。


「東雲さん、あの時は、無茶を聞いてくださって、本当にありがとうございました」


「どういうこと、四葉?」


「私たち、本当だったら学校を素通りする予定だったの。でも、私、どうしても皆の様子が気になって…だから、東雲さんに無理を言って、ルートを変えてもらったんだ」


 四葉が言うと、心愛は素直に驚き、望も小さく眉を上げる。すぐに心愛は幸紀の方に向いて礼を言い始めた。


「本当にありがとう!シノさん!」


「…ありがとうございます、東雲さん」


 心愛に続いて、望も礼を言う。それに対して幸紀は鼻で笑い飛ばした。


「『優秀な人間がいる』、四葉がそう言ったからそれを信じただけのことだ。実際、あれだけの悪魔の攻勢を凌いできたのは褒められて然るべきだな」


「やっぱり、すみれちゃんが頑張ってくれたおかげだね!」


「どういうことだ?」


 幸紀の言葉に、心愛が言う。状況が飲み込みきれない幸紀が尋ねると、望が話し始めた。


「学校で籠城していた時、私たちの指揮を執っていたのはすみれなんです。四葉が生徒会長、すみれが副会長なので、四葉がいない間は、すみれが頑張っていました」


「そうそう!先生たちも皆殺されちゃって…そんな中で頑張ってくれてたのがすみれちゃんだったの!」


「東雲さんたちが助けにきてくれたときは、本当にギリギリのタイミングでした私たちも、すみれも、本当に追い込まれてて…」


「ね。助けてもらえなかったらって思うと、今でもゾッとするよ…殺されちゃった人も、かなり多かったし…」


 望と心愛が、自分たちの経験してきたことを語る。改めて、仲間たちの晒されていた危機的状況を思い知らされた四葉は、俯いて眼鏡に手を置いた。


「そんなことになってたんだ...すみれにはかなり無理させちゃったな...」


「四葉のせいじゃないよ。それに、私たちだってすみれに背負わせてた部分もたくさんある」


「それでも、すみれちゃんは本当にすごく頑張ってくれてたんだよ!『四葉がいないぶん、私が頑張るんだ』って!あの日まで生き残れたのも、すみれちゃんのおかげだよ、本当に!」


 

 望と心愛は四葉をフォローするように口々に言う。


「すみれはかなり頼りにされていたようだな」


 ふたりの態度を見て幸紀はつぶやく。そんな幸紀の言葉に、四葉は強くうなずいた。


「そうです。すみれは、身体的にも、精神的にも強くて頼りになる人なんです。一緒に生徒会の仕事をするときも、いつも副会長として支えてくれて。私が星霊隊の副長をやるってなったとき、一番参考にさせてもらったくらい、私は彼女を頼りにしています」


 四葉はすみれへの信頼を臆面もなく語る。幸紀はそれを聞いて、静かに頷いた。


(確かにすみれは大柄で、パワーもあり、戦闘能力も高い部類だ。頼りにされていたのも納得だな)


 幸紀がひとりそう思っていると、そこに紫黄里がやってきた。


「むむ、四葉たちではないか!みんな揃ってどうしたのだ?」


「あ、紫黄里!偵察お疲れ様」


「たまたま集まって話してただけ。学校に閉じ込められてた時のことをね」


 心愛があいさつし、望が紫黄里に状況を説明すると、紫黄里は幸紀のほうに向きなおって頭を下げた。


「あの...その節は、ありがとうございました」


 紫黄里はいつもの芝居がかった口調ではなく、しおらしく礼儀正しい口調で幸紀に礼を言う。幸紀は小さく肩をすくめると、言葉少なく返した。


「気にするな」


「そんなこと言っても…あのときは、すみれすらもヤケになるくらいだったから、本当に危なかったんです。それを助けてくれたんですから、いくらお礼を言ってもいい足りないですよ。そうだろう!?皆のもの!」


「急に切り替わるね」


 真面目に礼を言っていた紫黄里が、唐突に芝居がかった口調に戻る。紫黄里は同意を求めるためにメンバーたちの顔をうかがったが、直後、違和感に気がついた。


「あれ、すみれは?」


「そういえば見かけないね」


「どこか歩いてるんじゃないの?」


 紫黄里の問いに、心愛と望は短く答える。何か嫌な予感を覚えた四葉は、少し表情を固くして紫黄里に尋ねた。


「紫黄里、なにか心当たりがあるの?」


「いや、そんな大層なことじゃないんだけど…偵察行く前にすみれに会ってね?そのときのすみれ、なんか…様子が変っていうか…疲れてたのかな?とにかく、ちょっと気になったんだ」


 紫黄里の言葉を聞くと、四葉はふと数時間前のことを思い返す。ほんの一瞬だが、すみれの様子がおかしい瞬間があったのが、四葉の記憶の中にあった。


「...」


「四葉?」


「...みんな、とりあえず、すみれを探してくれる?何もなかったらそれでいいんだけど…」


 四葉は自分に自信が持てないような様子で他の3人に指示を出す。3人は、不思議に思いながら四葉の方を向いた。


「どうしたの?」


「まだわからないけど...何か嫌な予感がするの。とにかく、手分けしてすみれを探して!」


 四葉が指示を出すと、それに応じて望、心愛、紫黄里の3人は散らばって動き出す。その場に残っていた幸紀にも、四葉はすぐに頭を下げた。


「東雲さん、すみれを探すの、手伝ってください!」


「いいだろう」


 四葉に頼まれた幸紀は、そう答えると、四葉と共に歩き始めた。



同じ頃

 幻覚と幻聴に苛まれるすみれは、それから逃げ惑うように、耳を塞いで、頭を振り回しながら歩き続けていた。


「いや…っ!!来ないで…!!」


「人殺し!!人殺し!!」


 いつもの堂々としたすみれの姿はそこにはなく、自分を責める幻覚たちの言葉を振り払おうと、ただ無茶苦茶に歩き回っていた。


「お前のせいで私たちは死んだんだ!!」


「死ね!!死ね!!」


 群衆たちの悪意が、一斉にすみれに押し寄せてくる。背後から迫る彼らの影に、すみれは足を速めて逃げることしかできなかった。


「ごめんなさい…!ごめんなさい…!私が悪かった…!だから、お願いだからやめて…!!」


 すみれは涙ぐみながら幻覚たちに背を向けて逃げる。しかし、幻覚たちの声は次第に大きくなっていき、いくらすみれが耳を塞いでもそれを通り抜けてくるのだった。


「すみれーっ!!」


 そんな中正面から聞こえてくる、すみれの名前を呼ぶ声。すみれはハッとして顔を上げる。

 彼女の正面に立っていたのは、親友である四葉だった。


「四葉…!?」


「すみれ、大丈夫?」


 四葉は心配した表情ですみれに手を差し伸べる。足を止めたすみれは、その手を掴もうとしたが、周囲から聞こえてくるすみれへの罵声は止まず、すみれをひとつの結論に誘った。


「…偽物…!!」


「えっ?」


「四葉の姿を…騙るなっ!!」


 すみれはそう叫ぶと、一度は落とした大斧ハルバートを発現させ、目の前にいる四葉に向けて振るう。


「っ!!?」


 力任せに振るわれる大斧を、四葉は辛うじて下がって避ける。すみれは2撃目を繰り出そうとするが、幻覚に蝕まれた彼女は頭を抱え、その場に膝をついた。


「ううう…やめて…!!近寄らないで…!!」


「すみれ、しっかりして!!」


 目の前にすみれの姿しか見えない四葉は、膝をついたすみれの横にしゃがみ込む。


「来ないで!!」


 しかし、すぐにすみれは四葉を突き飛ばす。倒れた四葉だが、すぐに起き上がり、すみれの隣にしゃがみこんだ。


「すみれ、私だよ!?四葉だよ!いつも一緒に、生徒会で仕事をしてた千条だよ!!苦しいならそう言って!!」


「黙れっ!!私が1番苦しい時に、そばにいてくれなかったじゃないか!!」


「えっ…」


 すみれの言葉に、四葉は言葉を失う。すみれはそのまま、涙を流しながら語り始めた。


「あの学校での3日間…!本当に苦しかった…!!毎日目の前で友達が殺されて…しかもそれが全部私の責任になる…!!何もかも全部私のせい…誰にも相談することもできない…!!それがどんなに苦しかったか…!!四葉さえ…四葉さえいてくれたら…!!お前のせいだっ!!」


 すみれは半狂乱になりながら、四葉に向けて立ち上がって斧を振るう。四葉は、自分の武器である剣を発現させると、すみれの斧を受け止め、弾き返し、すみれと距離を取って向かい合った。


「すみれ、落ち着いて聞いて」


 息を荒げて斧を構えるすみれに対し、四葉は優しく語りかけはじめた。


「確かに、リーダーの役目は辛いよ。私だって、すみれがいなかったら挫けてたこと、たくさんある。ましてや、あんな苦しい状況でリーダーをしていたすみれの苦労は、私なんかの比じゃなかったと思う。すみれは本当によく頑張ったんだよ!殺されてしまった人もたくさんいるかもしれない、でも、すみれは最善を尽くした!すみれは悪くないんだよ!だから、正気に戻って!!」


「感動的だなぁ。これが人間の絆、というやつか?」


 すみれと四葉しかいないはずの、廃ビルの前。そこに突然聞こえてきた、男の声。四葉が声のした方に振り向くと、紫の肌に金色の瞳と銀色の髪をした悪魔が、タバコに火をつけてそこに立っていた。


「悪魔…!」


「あぁ。俺の名はポラリス。覚えて逝け」


 四葉の背後に立っていた悪魔、ポラリスはそう言って右手を挙げる。それに呼応するように、四葉とすみれを取り囲むようにして多くの悪魔たちが姿を現した。


「これは…!すみれ、敵だよ!構えて!」


 四葉はすみれに訴えかける。しかし、すみれは悪魔に構わず、四葉に向けて真っ直ぐに斧を振り下ろす。

 四葉は剣でそれを受け止めたが、斧の刃先は、四葉の頸動脈に迫っていた。


「すみれ!!違うよ!!敵に囲まれてるんだよ!?お願いだから正気に戻って!!」


「無駄だ。そのデカい女には細工をした。お前の声など届きはしない」


 必死に訴えかける四葉に対して、ポラリスは冷徹に言い放つ。

 その言葉の通り、すみれは四葉の剣を弾き飛ばすと、四葉の首を片手で掴みあげ、持ち上げた。


「うぅぅっ…!!」


「どうだ?信じていた仲間に裏切られる気分は?まぁ、裏切っているのはそいつの意思じゃあないんだがな」


「な…っ…!」


「さっき、そのデカい女がお前を庇って悪魔を殺したろ?あの時、1匹の悪魔がデカい女に憑依したんだ。まぁ要するにだ、メガネ、お前のせいでデカい女が狂ったってわけだ」


「そんな…!」


「親友だのなんだの言ってるが、お前はそいつを苦しめることしかしてないってことだ。おい、やっていいぞ」


 すみれに首を絞められて苦しむ四葉に、ポラリスは好き勝手言葉を投げかける。

 そして、すみれは、地面に四葉を放り捨てた。


「っ!ゲホッ、ゲホッ…!」


 地面に倒れて苦しむ四葉は、思わず咳き込む。

 そんな四葉の頭上に、すみれの斧が煌めいた。


「!!」


 もう避けきれない。


 四葉は思わず目を閉じた。



「うわぁああああ!!!!!」



 次に聞こえてきたのは、すみれの悲鳴だった。


 四葉はゆっくりと目を開ける。


 すると、悪魔たちに取り囲まれているすみれの体を、背後から1本の刀が貫いていた。


「え…っ!?」


 驚きを隠せない四葉の視界に映ったのは、すみれの体を刀で貫く、幸紀の姿だった。


「し、東雲さん!!すみれを殺さないで!!」


「違う。俺が殺したいのは、こっちだ」


 幸紀が短く言うと、すみれの口から、黒い煙が溢れ出す。すぐさま幸紀は左手を黒い煙に伸ばすと、黒い煙は徐々に集まり、悪魔の姿を形作った。


「な、ナニィイ!?魔力…!?一体どこから供給されて…!」


「ここだ」


 すみれに憑依していた悪魔が動揺していると、幸紀がすみれから抜いた刀を、その場に現れた悪魔の脳天に振り下ろし、真っ二つに両断する。切られた悪魔は黒い煙になることもなく、光の粒になって消滅した。

 すみれは力尽きたように、幸紀の腕の中に倒れ込む。四葉は慌てて立ち上がり、すみれの様子を確認した。


「安心しろ。生きている」


 心配する四葉に対し、幸紀は短く声をかける。安心した四葉は、ポラリスの方へと向き直り、剣を構えた。

 一方のポラリスは、部下の悪魔たちに自分の身を守らせるように配置すると、面倒くさそうにタバコを落として火を踏み消した。


「はてさて、余計な邪魔が入るものだな。お前ら、行け」


「キェエエエ!!」


 ポラリスは短く悪魔たちに指示を出すと、幸紀たちに背を向けて歩き始める。

 幸紀はそんなポラリスに狙いをつけた。


「四葉、すみれを」


「はいっ!」


 幸紀は短く四葉に指示を出し、すみれの体を四葉に預ける。そして、自分の正面から襲いかかってくる悪魔たちを、片っ端から撫で切りにしつつ、ポラリスの背中を追いかけた。


「待て、ポラリス」


「待たんよ、俺は。今日はフェルカドがいないんだ、そんな状況でおまえなんかとやり合えるか」


 悪魔を斬り倒しながら声を張る幸紀に対し、ポラリスは背中を向けながらあっさりと答える。

 その場にいた最後の悪魔を斬り捨てた幸紀は、足を速めてポラリスへと肉薄しようとする。

 しかし、ポラリスはその瞬間、閃光手榴弾を地面に叩きつけ、強い光が辺りを包む中、そのまま悪魔回廊へと逃げ込むのだった。

 光から目を守った幸紀だったが、再び正面を見る頃には、ポラリスの姿はなかった。


「…逃げられたか…やはり冷静でしたたかな奴だ…」


 幸紀は判断の早いポラリスの姿を見て、小さく呟く。夕方の闇をぼんやりと眺めながら、幸紀は刀を納め、霊力の光の粒に戻した。


「すみれ、すみれ!」


 幸紀の背後から、四葉の声が聞こえてくる。幸紀が振り向くと、四葉は気絶したすみれの体を揺すっていた。


「起きて、すみれ!しっかりして!」


「…四葉…?」


 ゆっくりと目をあけたすみれは、四葉の名前を呼ぶ。四葉は自分の腕の中にいるすみれに何度も頷いた。


「正気に戻ったんだね…!」


「…うん…もう、声も聞こえない…ありがとう、四葉…東雲さんも…」


 すみれは歩いてきた幸紀にも礼を言う。幸紀は気にせず、静かな表情で話しかけた。


「礼はいい。動けるなら行くぞ」


「はい」


 幸紀はひと言だけ言うと、先に歩き始める。そんな幸紀に続いて、四葉はすみれの肩を支えながら、ゆっくりと歩き始めた。


 夕焼けがゆっくりと歩く3人を照らす。


 幸紀の背中を見ながら歩くすみれと四葉の間には、微妙な沈黙が漂っていた。どことなくそれを背中で感じていた幸紀は、我慢できずに声をかけ始めた。


「…どうした、お前たち」


「え!?」


「お前たちは親友同士じゃなかったのか。普通は少しくらい会話するものだろう」


「…」


「別にしたくないならしないで構わんが、任務に支障をきたすような状況は作るなよ。俺が気にしているのはそれだけだ」


 幸紀は四葉とすみれの方を見ずに言う。四葉もすみれも何も言えないでいると、幸紀は言葉を続けた。


「俺は先に行く。ゆっくり来い」


 幸紀はそれだけ言うと、足早にその場を去っていく。みるみるうちに幸紀の背中は遠のいていき、四葉とすみれは、2人だけになった。


「…あ、あのさ、すみれ」


「待って、四葉、私から話をさせてくれ」


 話そうとする四葉を遮り、すみれが声を発する。すみれの言葉に従い、四葉が黙って頷くと、すみれは息を大きく吸った。


「…ごめんなさい。たくさん迷惑をかけた…それに、ひどいこともたくさん言った…何を言っても許してはもらえないかもしれないけど…謝罪させてほしい」


 すみれは四葉に深々と謝る。すみれの謝罪に四葉は首を横に振った。


「いいえ…謝罪なんて…私の方こそ…ずっとすみれのことをわかった気でいて…すみれがどれだけ苦しんでいたか、わかっていなかった。本当にごめんなさい」


 四葉もすみれに対して謝る。すみれは静かに俯いた。


「…四葉が謝る必要なんてない…悪いのは全部私…あのとき守れなかった人たちのことを忘れられなくて…でもこの苦しさから逃げたくて…四葉のせいにしようとしていた…私は…情けない人間だよ…」


「…そうしたくなるくらい、苦しい状況だったんだよね?それは理解できる。私も…そんな状況に置かれてたら、本当にどうなってたかわからない」


 四葉はそう言うと、メガネを掛け直す。そして、あらためてすみれの方を向いて話し始めた。


「きっと、今後も苦しい状況がたくさんあると思う。でもね、私、悲観してないの。それはね、私、ひとりじゃないって思っているから。すみれが私を支えてくれるって、そう思ってるから」


「四葉…」


「すみれは、生徒会のとき、いつも私を支えてくれた。きっと、私、無意識にそれに甘えてた部分もあったと思う。だから、すみれを理解しきれなかった。でも、これからは違う。すみれが支えてくれた分、すみれが苦しい時は、私が支える。だからさ、すみれ、あなたの考えや思いを、もっとたくさん聞かせてほしい。嬉しいことも、苦しいことも。無理に強がらずに、ね?」


 四葉はすみれの目を見て訴えかける。そんな四葉の言葉に、すみれの頬には一筋の涙が流れるのだった。



数分後

 星霊隊が拠点として使っている豪邸に、四葉とすみれが戻ってきた。


「でさ、このクマのストラップがショップ限定で販売なんだって」


「一緒にいこうか」


 他愛もない雑談をしている2人を、豪邸の入り口から、望、心愛、紫黄里、そして幸紀の4人が出迎えた。


「おかえりー!」


「全く、どこ行ってたのよ」


「無事かどうか心配したぞ!我らの同胞よ!」


 3人の女性は、明るい笑顔で四葉とすみれの方へと歩み寄る。そのまま5人は明るく談笑を続ける。


 そんな光景を1人眺めていた幸紀は、何も言わず、小さく微笑むと、それを誰にも見せないようにしながら建物の中に入るのだった。

隊員紹介コーナー


隊員No.2

名前:千条せんじょう四葉よつば

年齢:17

身長:157cm

体重:45kg

スリーサイズ:B82(C)/W59/H84

武器:剣(両刃剣)

外見:高校のブレザーに赤いメガネ、暗い緑の髪をサイドテールにしている

家族構成:父母兄

所属班:指揮班

過去

悪魔の襲撃があった日は、叔母の葬式に参加していた。

何事も決して器用なタイプではなく、むしろ不器用な性格だが、実直に努力を続けて、お嬢様学校である『白鷺女子高校』に入学できた。赤いメガネは、受験勉強を頑張った証。




隊員No.13

名前:門杜もんとすみれ

年齢:17

身長:175cm

体重:64kg

スリーサイズ:B88(E)/W60/H88

武器:ハルバート(長斧の一種)

外見:グレーの短髪でイケメン、ズボンスタイルの夏制服

家族構成:父母

所属班:攻撃班

過去

両親は女王陛下の側仕えをしている職業。すみれはその跡取りとして育てられたため、男性的な性格と言動になった。

四葉と仲良くなったきっかけは、四葉の好きな「かわいいクマ」が、すみれも好きだったため。



次回予告

 戦闘続きの星霊隊に、嫌気が差してきた千鶴。元の世界に帰りたいと願う彼女の前に、1体の悪魔が現れると、千鶴と晴夏は元の世界に戻ることに。

 ようやく平和を取り戻したかに見えた彼女たちの影に、悪魔たちの陰謀が蠢く時、彼女たちは何を守るのか、選択を迫られる。

 10月10日、公開予定。



最後まで読んでいただき、ありがとうございました

次回もお楽しみいただけると幸いです

今後もこのシリーズをよろしくお願いします

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