第12話 紡いできた軌跡
前回までのあらすじ
清峰屋敷は、悪魔軍の攻撃を受け陥落寸前だった。その中のメイドのひとり、珠緒は救援を呼ぶための脱出の途上、悪魔軍に攻撃を受けるが、幸紀たちに救われる。
同時に、別行動していた四葉たちも屋敷に合流し、清峰やメイドたちの窮地を救う。屋敷に立て篭もる人間たちの士気は一転して上昇しつつあった。
6月20日 22:00 心泉府 霊橋区 清峰屋敷
幸紀の運転するバスが、清峰屋敷の前にやってくる。先ほどまで無数の悪魔たちに埋め尽くされていたこの辺りだが、先にこのあたりにやってきた四葉たちによって悪魔は撃退され、さらに四葉と一緒にいた望の能力によって、屋敷の周りに5メートルほどの高さの岩の壁が出来上がっていた。
「は、ハルくん、この岩、何?」
バスの中で岩を見た千鶴は、不思議に思って晴夏に尋ねる。晴夏は平然と話し始めた。
「あぁ、先に着いた子の中に岩とかを操れる能力の子がいるんだ。多分その子が作ったんだと思うよ」
「へぇ…みんなすごいね」
千鶴が感心して相槌を打っている間に、バスがゆっくりと停止する。バスの真横には、屋敷への入り口のドアがあり、そのドアの前では、四葉が手を振っていた。
「着いたぞ」
幸紀がバスに乗っている他のメンバーに声をかける。中に乗っている女性たち、日菜子、菜々子、晴夏、千鶴の4人は、素早く動いてバスを降り、四葉のいる方へと駆け下りた。
「四葉!久しぶり!!」
「桜井さん!!また会えて嬉しいです!!」
真っ先にバスを降りた日菜子が、四葉と言葉を交わす。すぐに晴夏もそこに加わった。
「お!四葉ぁ!オレがいなくて寂しくなかったか?」
「頭痛のタネがなくて清々してました」
「おいおい、冷てぇなぁ」
四葉がメガネをかけ直しながら言うと、晴夏は肩をすくめる。四葉のことを知らない菜々子と千鶴は遠くでそれを見守っていたが、ふたりの背後から幸紀が合流した。
「あ、東雲さん!」
「久しぶりだな、四葉。それはともかく、互いに知らない顔もあるだろう。一度中に入って顔を合わせるぞ」
幸紀が冷静に指示を出し、屋敷の外にいた一行は、屋敷のドアを開けて建物の中に入る。
建物の中の廊下では、清峰、焔、真理子、キララの4人を、医師である璃子と、回復能力に関する霊力を持つ心愛が治療していた。そして、そこから少し離れた場所では、すみれ、望、紫黄里の3人が会話をしていた。
「幸紀…!」
璃子に包帯を巻かれていた清峰が、幸紀に気がついて声をかける。幸紀は小さく頭を下げ、言葉を発した。
「お久しぶりです、侯爵。遅くなりましたが、『星霊隊』、連れてきました」
幸紀が言うと、清峰は小さく微笑む。
「ふっ。私は遅刻にはうるさいタチだが、今日は許そう。9人も仲間を連れてきてくれたのだから」
「あと11人います。珠緒とともに天正都に向かっているのが3人、別行動をしているのが8人です」
「20人…よく集めてくれたな、幸紀。これだけいれば悪魔を撃滅することなど….いつっ…!」
「侯爵!」
幸紀の報告に興奮した清峰の傷が痛む。焔がすぐに清峰のそばに寄るが、清峰の治療をしている璃子が首を横に振った。
「しばらくは安静にしていてください。拳銃をぶっ放すなんて論外です」
「だが…」
「医者の命令は絶対です。おとなしくしてください」
「…了解した」
璃子の圧に負け、清峰はおとなしくする。清峰は壁に寄りかかって座りながら、幸紀に状況を話し始めた。
「とりあえず、今の状況を伝えておこう。現在この屋敷にいる一般人は100人以上。それに対して、戦えるメイドはそこにいる3人しか残っていない。そちらの翡翠さんの能力でバリケードを作ったからしばらくは余裕もあると思うが、敵の兵力は無尽蔵だ。いつかは破られるだろうな」
「兵力が無尽蔵…?どういうことですか?」
清峰の言葉に、日菜子が尋ね返す。清峰の隣で治療を受けていた焔が清峰に代わって話し始めた。
「私がお答えします。といっても、ほとんど言葉通りの意味です。この数日間、この屋敷はずっと悪魔の攻撃を受けながらも撃退してきました。ですが敵の数は一向に減らない…むしろ増えているような気さえします」
「おそらくいろんな方面からの増援がここに来ているせいじゃないか、って私たちは思ってますよ」
焔の話した内容に、真理子が付け加える。その場にいた全員が黙り込んでいると、望がふとつぶやいた。
「でも、普通は数に限りがありませんか?倒しているなら減るのが自然で、毎日増えるなんておかしいですよ」
「そういわれても、実際に敵は毎日増えていきましたわ!増援が来ているとしか考えられませんわよ!」
望の言葉に、キララが反論する。そんな一連の会話を聞いた菜々子が、思いついたように声をあげた。
「『作ってる』んだとしたら!?」
「え?菜々子、どういうこと?」
「単純な話だよ。仮にだよ?毎日メイドさんたちが倒すよりも多くの悪魔が作られてたら、そりゃ減らないよね?どこかにいる悪魔を連れてくるんじゃなくて、そもそも新しい悪魔がその場で作られてるんだったら、敵の数が無限でもおかしくないよ。何か仕掛けがあって、悪魔が作られてるんじゃない?」
菜々子が自分の推理を述べる。確かに菜々子の推理には一理ありそうだった。
「じゃあ、その悪魔を作っている仕掛けをぶっ壊して、悪魔を全滅させりゃ勝ちってことだよな!簡単だぜ!」
菜々子の推理を信じ切った晴夏が明るく言い切る。しかし、すぐに焔が言葉を返した。
「我々はこの数日間戦い通してきましたが、怪しい装置は見つけられていません。そもそもそちらの女性の推論が間違っている可能性もあるのではないかと思います」
「すみません、発言してもよろしいでしょうか」
焔が発言を終えると、すみれが低い声で尋ねる。否定意見がないのを見てからすみれは話し始めた。
「怪しいもの、であれば、我々はここに来る途中で目撃しました。正面の山の横に、紫の煙が上がっているのを」
「悪魔軍は山から来てる…ってことは、そこで悪魔が作られてるっていうのも案外あり得る話じゃない?」
すみれの発言を受けて、菜々子が周囲に尋ねる。先ほどまで反論していた焔も黙り込むと、清峰が話をまとめ始めた。
「現状、我々には他に手がかりもない。今は一旦その『紫の煙』を攻略目標に設定する。これによって悪魔軍の増援を止めたのち、敵の指揮官を撃破する。この方針で動いて欲しい」
清峰が言うと、その場にいた全員が返事をする。清峰は幸紀の方へ振り向いた。
「幸紀、星霊隊の指揮はお前がやっているのだろう?」
「いいえ。そこの日菜子に任せていました。今回も彼女に委ねるつもりです」
「え!?」
清峰の言葉に幸紀が答えると、日菜子が驚く。幸紀は気にせず、日菜子の方をちらりと見た。
「やれるだろう?」
「…はいっ!」
幸紀の無茶振りにも似た言動に対し、日菜子は自信に満ちた表情で頷いて答える。そんな日菜子の様子を見て、四葉と晴夏も微笑んだ。
日菜子は他のメンバーたちの方に振り向き、頭を下げた。
「私、桜井日菜子です!あの、初めましての人もいると思うんですけど、今回はよろしくお願いします!」
日菜子の挨拶に対し、焔たち初対面のメイドは会釈をする。日菜子はそのまま作戦の立案を始めた。
「それじゃあ、さっそく煙のところに向かおう!すみれちゃん、煙の場所まで案内してくれる?」
「煙は2カ所から出ています。こっちから見て、山の左側と右側に。どっちからいきます?」
「両方とも同時に攻撃できないかな…?」
すみれから言われると、日菜子は疑問を口にする。すぐに四葉が横から提案した。
「二手に分かれれば可能です!」
「ちょっといいかしら」
四葉の提案に、璃子が前に出ながら言う。日菜子が璃子の方を向くと、璃子は話し始めた。
「二手に分かれるとしても、ここのメイド3人は動けないわ」
「何を言っているの…私たちはまだ…!」
「ダメよ。今だけは休んで」
璃子に反論しようとする焔に、璃子が短く言う。一連の会話を聞いていた四葉はすぐに考えを切り替えた。
「メイドさんたちが動けないなら、ここを守る人も必要ですね…同時に2カ所攻撃するのは諦めた方がいいかもしれません」
「あ!思いついちゃった!」
突然菜々子が声を上げる。日菜子は菜々子と向き合った。
「聞かせて、菜々子!」
「もう1台、うちらの仲間がここに向かってるんでしょ?その子たちにもう1カ所は任せちゃったら?」
菜々子の提案に、全員が感心の声を上げる。しかし、すぐにキララが尋ねた。
「でも、どうやって連絡を取るんです?電話はつながりませんわよ!」
「我に任せよ!」
今まで黙っていた紫黄里が手を上げる。彼女の傍には、ノートパソコンが抱えられていた。
「籠城していた際にこのパソコンを外部と通信できるように改造したのだ!まぁ籠城していたときには完成しなかったけど…今はバッチリだぞ!」
「もう1台のバスには麗奈も乗っている…元々機械だった彼女なら、電波の送受信もできるから、連絡は取り合えるわね」
紫黄里の言葉に、璃子も思い出しながら話す。2人の会話を聞いていた日菜子は、力強く頷いた。
「決まりだね!私たちは正面から見て右側の煙を目指そう!その間に、紫黄里ちゃんはバスと連絡を取って!」
「了解した!」
日菜子が指示を出すと、紫黄里は明るく返事をする。続けて四葉も指示を出した。
「望と心愛はここに残って!望はバリケードでここを守って、心愛は怪我人を手当てしてあげて!」
「りょーかい、生徒会長」
「任せて、四葉ちゃん!心愛の歌で、みんなを笑顔にしてみせるよ!」
四葉から指示を受けた望と心愛は明るく答える。日菜子はそれ以外のメンバーたちに話しかけ始めた。
「璃子さんもここに残って負傷者の手当てをお願いします!あとのみんなは、私と一緒に煙を止めに行こう!そして、幸紀さん!」
日菜子は幸紀にも声をかける。このタイミングで呼ばれることがわかっていたかのように、幸紀は小さく口角をあげ、言葉を発した。
「正面で敵を引きつければいいのだろう?」
「そうです!」
「それが聞きたかった」
幸紀はそれだけ言うと、ひとり踵を返し、屋敷の外へと歩き始める。そんな幸紀の背中を見送った日菜子は、改めて全員に向けて声を張った。
「みんな!ここが正念場だよ!みんなで全力を出せば、悪魔になんか絶対に負けない!!私たちなら勝てる!!だから、頑張ろう!!」
日菜子は拳を突き上げる。それに合わせて、他のメンバーたちも拳を突き上げ、声を上げるのだった。
「よし!星霊隊、出撃!!」
日菜子は号令をすると同時に屋敷の外へと走り出す。そんな日菜子の後に、他のメンバーたちも続くのだった。
同じ頃 星割山山頂 悪魔軍指揮所
清峰屋敷を攻撃する悪魔軍の指揮官、カザンは、設営した簡易テントの中で足を組んで座っていた。
「おい、今なんつった?」
「はっ!屋敷に人間たちが入りました!その中には、コーキと思わしき存在も…!」
カザンの目の前に跪く悪魔が、恐る恐る状況を報告する。カザンの他にもそのテントの中にいた指揮官クラスの悪魔たちは、途端にざわめきだした。
「コーキだと…?」
「やつは追放され処刑されたのでは…」
「なぜこんなところに…しかも人間と共に行動しているとは…」
「これはまずいのでは…」
「さえずるな!!」
動揺する指揮官たちに対し、カザンは一喝する。それによってテントの中が静まると、カザンは言葉を続けた。
「コーキが生きていようが戦況は変わらん!生きているなら殺せばいいだけのこと!!わかったか!」
カザンが部下たちを叱咤すると、部下たちは肯定の返事をする。それを聞いたカザンは得意げな顔をしたが、新たに現れた伝令の報告に、その表情は消えた。
「カザン様!『第1造魔高炉』が、何者かの奇襲を受けています!」
「なんだと?」
カザンは座っていた椅子を倒しながら立ち上がる。そして、部下たちの方に振り向いてから指示を出した。
「こうなっては仕方あるまい。俺は『造魔高炉』を見に行く!お前たちはここを守るのだ!」
「は、はっ!しかし…全体の指揮は…」
「お前がやれ!俺は高炉を守る!」
カザンは言うが早いか、簡易テントを大股で抜け出す。
テントのなかに取り残された悪魔たちのことをよそに、カザンは夜の山の周囲を見回した。
正面に見える屋敷の前では、たったひとつの黒い影が、無数の悪魔たちを前に、一方的な蹂躙を繰り広げている。
(コーキめ…本当に生きていたとは…!)
カザンは内心そう毒づきながら、改めて周囲を見回す。
山の西側に見える、紫の煙をあげている場所のあたりには、氷柱の雨のようなものが、どこかから降り注いでいた。
(あげく強力な霊力を使える人間まで連れてくるとは…!いくら数がいても、これでは意味がない!)
そして、自分を見ている悪魔がいないことを確認すると、高炉とは全く関係のない方向へと走り始め、山を降り始めた。
(こんなことで死ぬのなんざごめんだ!俺は生き延びるぞ!)
カザンは、自分の責任などを全て放り捨て、その場を去っていくのだった。
その頃 星割山から北西に数100メートルの地点
1台のバスがここに停まっていた。このバスの中には、幸紀が旅の道中で星霊隊としてスカウトし、現在は幸紀たちとは別行動をしている8人の女性たちがいた。
「こちらA-5007。柳生紫黄里からの座標を受信。咲来、攻撃目標地点の確認をお願いします」
機械的で無機質な少女、麗奈がバスの中で言う。麗奈に言われると、赤紫の髪をした女性、咲来がバスを降りた。
「お任せくださいぃ!わたくし、風になりたいと思います!日の当たる坂道を自転車で駆け上るように!」
「黙って飛びなさい」
長話をして飛ぼうとしない咲来に、水咲が冷たい言葉を浴びせ、ムチで地面を叩いて脅す。咲来は自分の武器であるギターをかき鳴らすと、風を巻き起こし、上空へと飛び上がっていった。
咲来が空を飛び、移動している間、弥生が攻撃目標地点に向けて手を伸ばし、上方向へと上げる。そして、隣でステッキを構える雪奈に明るく話し始めた。
「いい?雪奈ちゃん!攻撃する場所までの距離が結構離れてるから、すごく上側を狙うんだよ?これぐらい上ね!」
「はい!これぐらいですか!?」
「もっと上で大丈夫だよ!そう!それくらい!バッチリだよ!」
雪奈と弥生がやりとりをしていると、バスの運転席の通信機に連絡が入る。運転席に座っていた江美が、通信機を取った。
「はい〜」
「あ、どうも、咲来です。準備整ったんで」
「あら〜ご苦労さまです〜。じゃ、雪奈ちゃん、ぶっ放していいわよ〜」
江美が言うと、雪奈は大きな声で返事をする。雪奈はステッキを比較的大きな角度をつけ上空に向けて構えると、霊力を集中させた。
「『グレイシア・サージ』!!はぁああっ!!」
雪奈の裂帛の気合いと共に、上空に向けて無数の氷柱が飛んでいく。氷柱は紫の煙が立ち上る地点を目指し、放物線を描くように飛んでいくのだった。
「それで、どう?いかれギタリストちゃん。当たったかしら?」
水咲が江美の通信機をひったくるようにして尋ねる。通信機からは、咲来の興奮した声が聞こえてきた。
「うぉおお!!すごいです!!煙出してた釜は粉々ですし地面も穴ぽこだらけです!!おお!悪魔も穴だらけですよこれ!!明日にはここクレーターになるんじゃないですかね!!?」
「う〜ん、大袈裟ですねぇ〜」
咲来の実況に対して、江美は穏やかに微笑みながら一蹴する。一方、かなりの霊力を消耗した雪奈は、肩で息をしながら結依に支えられていた。
「はぁ…はぁ…ごめんなさい…雪奈…スタミナがなくて…!」
「大丈夫だよ、雪奈ちゃん。お疲れ様です」
結依は雪奈に優しく言うと、雪奈の肩を担いでバスの中へと歩き出す。同時に、結依は自分の心の中に潜んでいる悪魔、サリーと脳内で会話をしていた。
(サリーさん、幸紀さんに、指示通りやりましたって連絡できますか?あなたの魔力で)
(あんたも私のこと使うようになってきたねぇ。いいよ、伝えといてあげるから、一瞬カラダ貸して)
(…どうぞ)
結依はサリーに自分の体の使用権を譲る。サリーは、その体で雪奈を運びながら、幸紀に対して魔力で考えを送り始めるのだった。
その頃 清峰屋敷 正門付近
先ほどまで焔たちが戦っていた場所は、四葉たちの到着によって一時的に悪魔が一掃され、望の能力により屋敷を囲うようにして岩石のバリケードが設置されていた。
しかし現在、それからさして時間が経っていないにも関わらず、溢れんばかりの悪魔の大群が、岩石を叩き、屋敷を目指そうとしていた。
無数に蠢く黒い影。そんな影の群れの中に、稲妻のような剣閃がひとすじ降りかかったかと思うと、悪魔たちが降りかかった点を中心に吹き飛んでいく。
「…ふん、相変わらず、数だけは多い」
その剣閃と共に、悪魔の中心に降り立ったのは、幸紀だった。黒いロングコートをたなびかせ、右手に握る刀の刃を煌めかせると、自分を取り囲む悪魔たちを見ながら、髪をかき上げた。
「少しは楽しませてみせろ」
「シネェエエアァアア!!!」
そんな幸紀の背後から、悪魔たちが3体、まとめて殴りかかってくる。幸紀は振り向くこともせずに襲いかかってきた悪魔を斬り裂くと、続けて襲いかかってくる悪魔たちをまるで踊るように攻撃をいなし、反撃を叩き込み始めた。
(はーい、コーキぃ、聞こえるぅ?)
悪魔たちを蹴散らしていく幸紀の脳内に、サリーの声が聞こえてくる。幸紀は雑に悪魔たちを斬り倒しながら実際に言葉を口にしながら答えた。
「なんの用だ」
(楽しんでるとこごめんねぇ?頼まれてた『造魔高炉』、ぶっ壊しておいたよぉ)
「よくやった。あとで何か褒美をやろう」
(やったぁ!とびっきりすごくて激しいの、お願いね!コーキのすっごく立派なアレで…)
(私の体で変なことしようとしないでください!)
幸紀が悪魔たちを撫で斬りにしている中、サリーと結依が言い合いを繰り広げる。幸紀はサリーから送られてくる魔力での会話を断ち切ると、変わらず悪魔を斬り捨てていくのだった。
「さて、俺の道具たちよ、ここまでお膳立てしてやったんだ。しくじるなよ」
幸紀は悪魔を貫くと、ひとりほくそ笑み、自分が「道具」と呼ぶ女たちのことに想いをはせながら、刀を構え直すのだった。
同じ頃 星割山東部 第2造魔高炉
ひとつの家ほどの大きさはあろうと思われる巨大な釜が、山の自然の中に不自然に置かれていた。不自然なのはその釜の外観だけでなく、釜の中では、黒い液体が音と紫色の分厚い煙を立てて沸騰していた。
「きゃあああ!!!」
釜の中の液体に、メイド服姿の女性が浮かぶ。彼女は悲鳴をあげながら腕を天高く伸ばすが、黒い液体の中から無数の手が現れると、それによって液体の中に引きずり込まれ、抵抗も虚しく沈んでいくのだった。
そうして女性が沈められたところから、赤、青、緑、さまざまな色の悪魔の頭が見えたかと思うと、次の瞬間には筋骨隆々の悪魔たちが十数体、姿を現し、釜の外へと通じるハシゴを登り始めた。
「ケへへ、やはり霊力を持った人間は美味いらしいなぁ。たらふく食わせた分、増産も捗るってもんだぜぇ」
造魔高炉を管理する悪魔の1体が、新たに製造された悪魔の姿を見上げて満足げに呟く。その悪魔はそのまま近くにいた悪魔にも話しかけた。
「オイ!他の連中に、もっと活きのいい人間を連れてくるよう言ってこい!」
「んなこと言ってる場合じゃねぇゾ!もう1個の炉がぶっ壊されちまったらしいゾ!!」
「ナニィイ!?」
2体の悪魔たちが動揺していると、もう1体の悪魔がその2体のもとに駆け寄ってきた。
「オイオメーら!もっと悪魔を増産しろって命令が出たぞ!!」
「バカ言うんじゃねぇ!!さっさと逃げねぇと俺たちまでやられっちまうゾ!」
「人間風情にビビってんじゃねェ!!戦ってぶっ殺してやる!!」
「んなことしてねぇで増産に集中しろ!」
悪魔たちの間に動揺と混乱が広がる。
そんな時だった。
「そぉおおりゃあああ!!!」
近くの森の中から、裂帛の気合いと共に日菜子の右ストレートが悪魔の顔面に飛んでくる。混乱していた悪魔たちに対処するすべはなく、日菜子の攻撃を真正面から受け止め、黒い煙になった。
「な、ナンダァ!!?」
戸惑う悪魔たちのもとに、日菜子に続くようにしてすみれ、晴夏が現れると、他の悪魔たちを真っ二つに両断し、悪魔を電撃で焼き尽くす。
「て、テキだ!!殺せ!!」
奇襲を受けたことに気がついた悪魔たちは、声を張り上げ日菜子たちの方へ指差す。すぐに四葉が悪魔たちの前に立つと、武器である剣を構えた。
「私とすみれでここは引き受けます!皆さんはあの釜を壊してください!」
「任せてくれ。四葉は私が守る」
「四葉、すみれちゃん、お願いね!」
悪魔たちを前に一歩も怯まない四葉とすみれにその場を任せ、日菜子たちは目の前にある釜のもとへ走っていく。
途中邪魔する悪魔たちを、菜々子が鎖で殴り倒し、晴夏が電撃で蒸発させたりしながら、日菜子、千鶴、菜々子、晴夏の4人は釜のそばまでたどり着いた。
「よし、どう壊す!?」
晴夏が尋ねると、菜々子が鎖を振るって衝撃波を放ちながら答えた。
「千鶴ちゃんの武器を伝わせて、お姉ちゃんが霊力を流すのがいいと思う!巫女さんの特別製だから、きっとうまくいくはずだよ!」
「え、私の…わかりました!」
突然話を振られた千鶴は、一瞬驚いたあと、手に持っていた武器である釵を釜の壁に対して突き立てる。その間に千鶴に近づこうとする悪魔を、菜々子と晴夏が追い払っている間に、日菜子は千鶴が突き立てている釵の持ち手に手を添えた。
「…いくよ!!」
日菜子は息を吐き、集中すると、手のひらに霊力を流す。霊力は釵を通して釜に伝わっていく。
釜に光の筋が走り始め、ひび割れていく。
次の瞬間、ダムが決壊するかのように、釜の壁が破裂する。中に入っていた黒い液体も、それに呼応するように光によって蒸発していくと、中にいた悪魔たちも悲鳴をあげて黒い煙になっていくのだった。
「…よぉおし!!」
日菜子は、目の前の釜が消滅し、中にいた悪魔たちもまとめて消滅したのを確認すると、大きく声を上げ、改めて残りの悪魔たちの方へと振り向く。悪魔たちの目には、恐怖の色が浮かんでいた。
「ろ、炉が…!どうすんダ!?」
「ヤベエよ!!こんな、こんなの!!」
「今がチャンスだよ!!『星霊隊』!攻撃開始!!」
狼狽える悪魔たちの姿を見て、日菜子が声を張る。それに応えるように、星霊隊の女性たちは悪魔に向かっていくのだった。
その頃 星割山山頂 悪魔軍指揮所
「ええい、どうなっているんだ!!」
悪魔軍の指揮を執っているこの場所も、重要施設である『造魔高炉』をふたつ失った報告を受け、混乱状態に陥っていた。
「カザン様は私に指揮を命じた!私が指揮を執る!」
「間抜けが!貴様ごときにカザン様が託すわけがなかろう!私が指揮を執る!」
「なんだっていい!とにかく指示を出さねば、このままでは総崩れに…!!」
「なんでこんなときにカザン様はいないのだ…!!」
カザンに取り残された悪魔軍の指揮官たちは、部下たちに指示も出せないまま簡易テントの中で口論を繰り広げる。
そんななか、突如としてテントの入り口が開かれる。悪魔たちはそれに振り向くこともせず、議論を続けていた。
「報告なら後にしろ!今は忙しいのだ!」
「それはよかった。楽に貴様らの首を取れる」
「!?」
想像もしていなかった返事が来たことに、指揮官たちが驚いたときには、もう遅かった。
彼らが振り向くと同時に、刀による一閃が奔る。次の瞬間、悪魔軍の指揮官のうち3体の首が消し飛び、黒い煙となって消滅した。
そのとき、ようやく彼らは「誰が」ここにやってきたのかを理解した。
「き、貴様は…コーキ!!」
「あの穢らわしい人間の血が入った…!」
「お、愚か者!下手に刺激しては…!!」
幸紀を罵ろうとする悪魔に対し、それを抑えようとする悪魔もいたが、幸紀の前ではどちらも無意味で、次の瞬間には、声を発した悪魔たちの首から上は消し飛んでいた。
「ま、待ってくれコーキ!!我らは同胞ではないか!!」
「そ、そうだ!ここでお前の力を借りることができれば、この戦は勝てるのだ!!」
「俺の力がほしいのか」
残っていた5体程度の悪魔たちに、幸紀は尋ねる。その悪魔たちは簡易テントの壁際に逃げ込みながら何度も頷いた。
「あ、あぁ、もちろん!!悪魔界にお前以上の剣士はいないからな!!」
「やはりお前は最強だ!!あれだけ量産した悪魔もお前には敵わなかったのがその証拠だ!!」
「ここで我らに味方すれば永遠の栄光がお前に約束される、だから、また共に戦おう!」
「共に戦う?」
幸紀は悪魔たちの言葉に思わず尋ね返す。そして鼻で笑い飛ばすと、大きな高笑いをあげた。
「ふははは…!!これは傑作だ!!貴様らがいつ俺と共に戦ったと言うのか!俺が人間界に単独で潜り込み、そうして得た情報で楽に勝利する。お前らのやり口はいつもそうではないか!その対価で俺が得たものは、罵声と悪魔界からの永久追放だけだ!!」
「悪かった!!でもコーキ、俺たちは悪くないんだ!」
「知るか」
次の瞬間、幸紀の刀が振るわれる。たったのひと太刀で、その場にいた5体の悪魔はまとめて黒い煙となって消滅するのだった。
「無様な…散々俺をこき下ろしておきながら、最後には俺を煽てて命乞いとは…だったら最初から素直に俺に跪き、俺を讃えていれば良かったものを」
幸紀は自分が殺した悪魔たちの態度を思い返し、鼻で笑い飛ばす。黒いロングコートを翻し、誰もいなくなった簡易テントに背を向けると、ゆっくりとテントを後にし、外へ出た。
「さて…最後は貴様だ、カザン」
幸紀は小さく呟くと、どこかを目指して歩き始めた。
同じ頃 清峰屋敷
屋敷の2階、医療室で待機していた清峰たちにも、外の状況は見えていた。
「両方の煙が止まった…それに押し寄せていた悪魔の大群も…もう気配すらもない…」
清峰は、幸紀や星霊隊のメンバーたちの活躍を目の当たりにし、思わず言葉を漏らす。そんな清峰のもとに、心愛と望がやってきた。
「清峰さーん!『星霊隊』のもう1台のバスが来ましたよ!」
「それと、南の方角からも複数台のバスが来ています。一時的にバリケードを解除して、中に入れますね」
「南の方角…珠緒が呼んでくれた救援か…!!」
心愛と望の報告を聞くと、思わず清峰も表情をほころばせる。近くで休んでいた焔、真理子、キララも、同じように安堵の表情を見せていた。
「よかった…珠緒、うまくやってくれたのね…」
「さすがメイド長、人選に狂いなし、だね!」
胸を押さえて微笑む焔に対し、真理子が笑顔で背中に手を置く。2人は互いの顔をみあうと、小さく微笑みあった。
「ああちょっと、侯爵、なにをしてるんです」
そんななか、同じく医療室にいた璃子が清峰に声をかける。清峰はスーツのジャケットを着直すと、立ち上がって医療室を出ようとしていた。
「屋敷の主として、来客は出迎えねばならない。ましてや命の恩人たちともなれば、なおさらだ」
「しかし」
「戦闘をするわけではない。指示を出して礼を言うだけだ」
「…それだけなら。私も一緒に行きます」
清峰に説得されると、璃子も言う。それを見た焔も立ち上がると、璃子に頼み始めた。
「先生、私たちも侯爵の護衛をさせてもらいます」
「えっ?ちょっと待ってください、あなたたちこそ安静に…」
動き始めた焔、真理子、キララに対し、璃子は慌てて止めようとする。しかし、逆に心愛と望がそれを止めた。
「大丈夫だよ!心愛がバッチリ癒したから!」
「私たちも一緒に行って見張りますから、大丈夫ですよ。行きましょう?」
「…いいわ」
璃子はふたりの説得にも折れると、清峰やそのメイドたちと共に下の階へと降りていくのだった。
数分後
屋敷の1階まで降りてきた清峰は、一緒にきたメイドたちと共に屋敷の扉を開ける。
つい先程まで悪魔で溢れかえっていたはずの屋敷の前には、10台を超えるバスに加え、『星霊隊』のメンバーである女性たちの姿と、華燐に肩を担がれている珠緒の姿があった。
「侯爵…!!メイド長…!!」
「珠緒!よく戻った!」
珠緒は足を引きずりながら清峰と焔のもとに駆け寄る。すぐに焔が珠緒を抱きしめるように受け止めた。
「生き延びてくれて本当によかった…!」
「メイド長…!!」
焔の感極まった言葉に、珠緒の瞳から涙が溢れる。真理子とキララも焔と珠緒を抱き寄せる横で、清峰は朋夜と明宵の方へ向き直った。
「月暈朋夜さんに、冥綺明宵さんで間違いないでしょうか」
「はい、清峰侯爵。月暈神社の名代として、『星霊隊』に協力させていただいています」
「…冥綺財閥も『星霊隊』に協力します。こちらのバスは、我々の気持ちです…どうぞ避難に使ってください」
「心から感謝します」
朋夜や明宵の言葉を聞き、清峰は深々と頭を下げる。朋夜と明宵も礼を返すと、華燐が横を向き、何かに気がついた。
「あ、日菜子さんたち!」
華燐の言葉の通り、山から降りてきた日菜子たちが姿を現し、メンバーたちの中に加わる。早速日菜子たちは、その場にいる女性たちに気がつくと、声をかけた。
「そっちのバスのみんな、久しぶりだね!」
「朋夜たちも無事みてぇだな!よかったぜ!」
「みなさん元気でしたか!?」
星霊隊の女性たちは、お互いに再会を喜び合い、顔を突き合わせて笑い合う。メイドの4人や、望、心愛、璃子たちもその輪に加わる中、清峰は一歩引いてその様子を見ていた。
(…全員合わせて、24人、か。これだけ多くの人々が、悪魔と戦うためにやってきてくれた…これも、幸紀が旅の途上、必死に戦ってくれたおかげだろう…彼のおかげで私たちは救われ、悪魔に一矢報いることができる…幸紀がいてくれて、本当によかった…)
清峰は掛けていたメガネを外し、両手で目元を覆う。そして大きく息を吐いてから、メガネを掛け直した。
そのままふと、清峰は横に目をやる。
黒いロングコートを羽織り、右手に日本刀を握りしめた剣士が、下を向いてフラフラと清峰たちの方へと歩いてきていた。
「幸紀…!」
清峰はその彼のもとに走る。清峰の声に気がついた星霊隊の他の女性たちも、清峰と彼の方へと振り向いた。
「大丈夫か!幸紀!」
清峰はその男に声をかける。男が清峰の方に倒れ込むと、清峰は咄嗟にしゃがみこんでその男を支えた。
「幸紀…!しっかりしろ、幸紀…!死ぬな!」
「…侯…爵…」
「ああそうだ、私だ!私の声を聞け、幸紀!お前のおかげで私たちは救われた!お前が旅の道中、大勢の人を救ってくれたから、『星霊隊』ができあがり、今私たちは生きているんだ!全てお前のおかげだ、だから幸紀!死ぬな、しっかりしてくれ!」
清峰はその男の耳に訴えかける。
清峰に支えられながら、その男は小さく微笑んだ。
「俺の…おかげ…?」
「ああそうだ、お前のおかげだ!」
「…キヘヘヘ!!!」
「!?」
清峰の腕に支えられているその男が、突如として不気味な笑い声を上げる。清峰は瞬間的にその男を突き放そうとするが、男はそれよりも早く清峰を抱きかかえると、清峰の首を締め上げた。
「ぐっ…!!」
「侯爵!!」
異変に気がついた焔がすぐさま清峰のもとに駆けつけようとする。しかし、その男は清峰を盾にするように拘束すると、右手に握っていた刀を清峰の首筋に突きつける。その光景を見た焔や他の女性たちは、動きを止めた。
「何をしている焔…!こんな悪魔、私ごと…!!」
「しゃべるんじゃねぇ、クソアマ!」
首を絞められながら攻撃を指示する清峰に対し、清峰を拘束するその悪魔はより力を強める。日菜子や焔たちが攻撃を躊躇しているうちに、悪魔が羽織っていた黒いロングコートだった部分は徐々に崩れて煙に変わっていき、赤褐色の肌が露わになると、額には一本の大きな角が伸びた。
「女ども、そこを動くなよ!妙なことをすりゃあこの女をぶっ殺す!」
「あなた何者なんです!何が望みなんです!侯爵を離してください!」
四葉がその悪魔に対して質問を投げかける。悪魔はそれを鼻で笑い飛ばした。
「へっ!俺の名前はカザン!要求はまた後で伝える!」
「逃がすものか!」
カザンが言うと、カザンの背後からすみれが斧を振り下ろす。カザンは刀ですみれの斧を受け止め、すみれごと吹き飛ばすように弾き返す。
すぐさま弥生がカザンのこめかみを目掛けてライフルの引き金を引く。カザンは飛んでくる銃弾を直視しながら、刀を地面に突き立てた。
「あばよ!!」
カザンがそう言うと、カザンが刀を突き立てたところから、白と黒が入り混じった色の円が広がる。そして、銃弾が直撃しようとしたその寸前、カザンと清峰は、その円のなかに吸い込まれるように姿を消した。
「消えた…!?」
「早苗さま!!早苗さま!!」
菜々子が驚きを隠せないでいる一方、真理子が必死に清峰の名前を呼ぶ。他の女性たちも清峰を呼ぶが、清峰の返事は一切なかった。
「侯爵が…消えた…」
日菜子は目の前の事実を口にする。現実を思い知らされた星霊隊のメンバーたちはその場に立ち尽くすのだった。
数分後 星割山山頂 悪魔軍指揮所
簡易テントも破壊され、荒れ果てた山頂の地面に、赤い光の円が浮かび上がる。そして次の瞬間、カザンと、彼に拘束されている清峰が、赤い円の下から何かに押し上げられるようにして現れた。
(瞬間移動したのか…私は…?悪魔軍にはこんな技術があるというのか…?)
清峰は自分の置かれた状況を見て驚きながらも分析する。しかし、カザンはそれを許さなかった。
「オラッ!」
赤い円が消えるやいなや、清峰をうつ伏せに突き飛ばす。そのまま清峰の後頭部を踏みつけながら、カザンは地面に散らばっていたテント用のロープで清峰の体を縛り上げ始めた。
「くっ…やめろ…っ!!」
清峰は必死に身をよじってその場から逃れようとするが、それも叶わず、両腕ごとロープできつく縛り上げられ、その場にあった椅子に座らされ、改めて椅子に縛り付けられてしまった。
「ふーっ、危なかったぜぇ。これで形勢逆転だぁ!はっはァ!!」
カザンは縛り付けられた清峰を見下ろして満面の笑みで言葉を発する。一方の清峰は、カザンを見上げてにらみつけながら話し始めた。
「私を人質にしたところで無意味だ。お前たち悪魔軍は負けた。じきに『星霊隊』がここを突き止め、お前のことも始末するだろう」
「強がるなよ、女。目がビビりきってるぞ?」
「負けたことへの反論はないのだな」
「ふははは!!人間様がこの程度で勝った気になっているのが信じられなくてな!つい言葉を失っていたよ!」
どこまでも淡々と言葉を発する清峰に対し、カザンは満面の笑みで語る。そんなカザンの態度に、清峰も眉をひそめた。
「笑っていられるのも今のうちだけだ…!今に『星霊隊』が…!」
「来たところでなんだ?奴らはお前を盾にした途端、何もできなかったじゃないか。そんな奴らに俺を殺せると本気で思っているのか?バカだなぁ〜」
「だがお前のお得意の大軍勢はもういない。数的有利はこちらにある」
「やっぱバカだなぁ〜。俺たちはな?別にあんな『造魔高炉』なんてなくたって仲間は増やせるんだよ」
「…!?」
突如明かされる事実に、清峰は言葉を失う。そんな清峰をよそに、カザンが左腕を振るって黒い粉を撒く。地面に落ちた黒い粉から、カザンと同じような赤褐色の肌に角を生やした悪魔が5体、その場に現れた。
「わかったか?悪魔軍は無限で、最強なんだよ。人間にできることはただひとつ、地面に這いつくばって、命乞いしながら俺たちの奴隷になることだ!」
「ではひとつ、命乞いのお手本を見せてもらおうか」
「!?」
突然、カザンの死角から声が聞こえてくる。カザンが慌てて振り向くが、その瞬間、カザンの生み出した悪魔たちの悲鳴が山に響いた。
「…まさか…!!」
カザンはその場から飛び退きながら悲鳴のした方向を向く。カザンが動いていなければ、カザンの体は真っ二つになっていただろう。
そんな斬撃の余波を感じながら、カザンは斬撃を放った者の正体を目にする。そして、小さく息を呑んだ。
「…来たな…コーキ…!」
「幸紀…!」
カザンと清峰からの言葉を受けながら、幸紀は悪魔を斬った刀を軽く振るう。そして、カザンへと刀の切っ先を向けた。
「せめてもの情けだ。命乞いをすれば殺さないでやる」
「くっ…!」
カザンの額に汗が浮かぶ。左右を見回したカザンは、悟ったようにその場に膝を折り、額を地面に擦り付けた。
「…この通りだ!!命だけは勘弁してくれ!!」
「…ふっ」
カザンの土下座を見て、幸紀は満足げに口角をあげる。
その時だった。
「…なーんて、言うと思ったか?」
カザンの小さな声が漏れる。幸紀が反応しようとしたその瞬間、カザンは勢いよく立ち上がり、自分の体で隠していたショットガンのようなものを幸紀に向けた。
「くらえ、『滅魔砲』!!」
「!」
カザンはそのショットガンの引き金を引く。
ショットガンの銃口からは、赤黒い銃弾が飛び出し、幸紀へと向かっていく。
幸紀はその銃弾を刀で受け止める。
しかし、銃弾は刀をすり抜け、幸紀の眼前まで迫った。
「幸紀!!!」
清峰の絶叫と同時に、爆発が起き、あたりに爆風が吹き荒れ、土色の煙が舞う。衝撃波によって清峰の椅子も倒れる。
風によって煙が吹き抜け、清峰の視界がはっきりしたその時、彼女の目に映ったのは、地面に突き刺さる1本の刀だけだった。
「…幸紀…?」
清峰は弱々しく幸紀の名前を呼ぶ。しかし返事は返ってこない。代わりに聞こえてくるのは、カザンの高笑いだけだった。
「ふははははは!!!愚かなやつめ!!俺はついに勝った!!勝ったんだ!!!ふははははは!!!」
カザンはそう叫ぶと、地面に刺さっていた刀を抜き、膝蹴りで刀をへし折る。そうして使い物にならなくなった刀を、清峰の目の前に捨てた。
「これで頼れるものはなくなったな、人間?ふふふ…ふはははは!!!」
カザンは大笑いをしながら清峰に背を向ける。
清峰は、目の前に散らばる幸紀の愛刀の残骸を見て、ひとつの事実を認識せざるを得なかった。
「幸紀が…死んだ…」
隊員紹介コーナー
隊員No.22
名前:西谷キララ
年齢:19
身長:165cm
体重:56kg
スリーサイズ:B90(F)/W59/H89
武器:三節棍
好きなもの:お菓子
嫌いなもの:虫
特技:お菓子作り
趣味:料理研究
外見:金髪縦ロールに一般的な白と黒のメイド服
能力:平均以上の霊力と素早い動きと連撃が得意
簡単な紹介
清峰侯爵に仕えるメイドのひとりで、若くしてパティシエ長を務める女性。
常に気高くありたいという思いから普段は明るく高い声のお嬢様口調で話すが、時折口汚くなる。
隊員No.23
名前:上入真理子
年齢:23
身長:163cm
体重:55kg
スリーサイズ:B86(D)/W62/H88
武器:二丁サブマシンガン
好きなもの:かっこいいもの
嫌いなもの:ホラー
特技:バドミントン
趣味:映画鑑賞
外見:青緑色のショートヘアに赤い瞳、緑色のメイド服
能力:アクロバティックな動きとサブマシンガンの弾幕
簡単な紹介
清峰侯爵が幼い頃から仕えるメイドのひとりで、副メイド長。
常にかっこよくありたい、という思いから、冗談と笑顔と明るい言葉を欠かさないようにしているが、内心は常に悪魔への恐怖で怯えている。
隊員No.24
名前:灯野焔
年齢:24
身長:167cm
体重:55kg
スリーサイズ:B95(G)/W58/H88
武器:素手
好きなもの:規律
嫌いなもの:規律を乱すもの全て
特技:料理、掃除、家事全般
趣味:掃除
外見:真っ赤な髪のロングヘアに、赤いメイド服
能力:強力な炎の霊力と鍛えた技
簡単な紹介
清峰侯爵が幼い頃から仕えるメイドのひとりで、メイド長。
規律と任務を最重要視する厳格な性格のメイドで、感情表現も乏しいため部下たち、特に珠緒からは恐れられている。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました
次回もお楽しみいただけると幸いです
今後もこのシリーズをよろしくお願いします