問いの構築ステップ&観察記録のモデルフォーマット
問いを“思考の診断装置”として機能させるには、感覚的な問いではなく、構造的に設計された問いが必要である。
以下は、観察者が問いを設計する際の5つのステップである。
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ステップ1:観察目的の明確化
まず、問いを用いる目的をはっきりさせる。
「相手の価値観を知りたい」のか、「論理の飛躍を探したい」のか、「感情的反応の癖を見たい」のか。
目的によって適切な問いの型が異なるため、何を診断したいのかを言語化する段階が最も重要である。
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ステップ2:対象となる概念の抽出
次に、観察対象の思考構造が反応するであろう概念・語彙・前提を抽出する。
例:自由、正しさ、信頼、努力、報酬、犠牲、善意、制度、責任など。
抽象語であるほど観察の深度は高くなるが、同時に問いの難易度も上がる。
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ステップ3:型の選定と組み合わせ
観察目的と概念に応じて、問いの型を選ぶ。
抽象理解を測るなら抽象問い
判断優先を診るなら矛盾問い
思考の枠組みを問うなら構造問い
情動的反応を引き出すなら感情反応問い
複数の軸を扱いたい場合は、複層型の問いを構成する。
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ステップ4:問いの言語化と調整
問いを実際に文章として表現する。
このとき、文面の語彙や語調が感情に与える影響を考慮し、挑発性と中立性のバランスを取る必要がある。
また、問いが抽象すぎて“反応できない”状態にならないよう、**反応可能な足場(具体例・比較・選択肢)**を慎重に設計する。
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ステップ5:想定される反応と観察ポイントの明示化
問いを設計したら、その問いに対して想定される反応を分類し、観察のポイントを事前に設ける。
問いの目的が「構造把握」である以上、答えの内容そのものではなく、思考過程の観察基準を持つことが肝要である。
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問いを用いた思考観察は、一過性の印象で終わらせるべきではない。
観察者が問いを設計・運用し、その反応を“構造として記述”できるようにするために、以下のフォーマットを活用できる。
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【観察記録テンプレート】
問い(設計文):
例:「“信じる”とは理由がなくても成り立つと思いますか?」
設計意図:
抽象+構造問い。信念形成の起点と認知の深度を可視化する目的。
観察対象者:
対象A(40代男性、教育職)
主な反応内容:
「理由がなければ信じられない。信じるにも根拠が要る」
→ 明確な合理主義的反応。
反応形式:
即答・論理的構成あり・感情反応は薄い。
判断軸:
信頼の形成に“根拠”を前提とする構造。
感情や経験からの跳躍は行わず、抽象概念を現実に結びつけようとする傾向あり。
推定思考型:
論理至上型。判断の根拠を常に明文化しようとする傾向。
追加所見:
信仰的・直観的判断への拒否感が観察される。
その背景には“他者に対する説明責任”の文化的内面化がある可能性。
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このように、問いを投げるだけでなく、反応を構造的に記述し、分類・蓄積していくことで観察精度は格段に上がる。
また、同じ問いに複数人がどう反応したかを比較することで、問い自体の設計としての“性能”も評価できるようになる。