各型の問いの設計ガイドライン
問いを観察の道具とするためには、それを再現性のある構造として設計する能力が必要である。
以下に、前節で分類した四つの型それぞれに対して、設計時に考慮すべき要素を提示する。
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抽象問いの設計ガイドライン
目的:ある概念についての「定義」「理解」「応用能力」の深度を診る
設計要素:
日常的に用いられているが、定義が曖昧な語を選ぶ(例:愛、自由、正義、幸福)
「◯◯とは何か?」という形式にすることで、思考の起点を設定する
定義と具体例の乖離を引き出す意図を含ませる
観察ポイント:
回答に構造的な定義があるか
具体例への橋渡しが行えるか
他の抽象語と照合しながら区別が可能か
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矛盾問いの設計ガイドライン
目的:価値観の衝突状況における優先判断と思考の柔軟性を診る
設計要素:
対立する二つの価値(例:善と正義、真実と平和、個人と社会)を設定する
両立不可能な状況を前提とする
「どちらを選ぶか」「どちらを優先すべきか」という構造を明示する
観察ポイント:
選択の根拠に何を持ち出すか(倫理、効率、感情、信念)
二項間の対話を試みるか、単純な排除に進むか
新たな第三項を構築しようとする試みがあるか
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構造問いの設計ガイドライン
目的:対象者が思考の前提をどこまで意識しているかを診る
設計要素:
価値判断や一般論とされるものに疑義を差し挟む
問いの背後に制度・社会・文化などの構造がある
「何を根拠としてそう言えるのか?」という再帰的要素を含む
観察ポイント:
無自覚に前提を受け入れているか
問いの背後にある構造へ言及できるか
個人の意見と社会的規範の切り分けができているか
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感情反応問いの設計ガイドライン
目的:反射的な反発・防衛・回避の癖を診る
設計要素:
刺激的な言葉や極端な断定を用いる(ただし論点は内包)
暗黙の前提に挑戦することで情動的抵抗を促す
賛成・反対が即時に引き出されやすい語を選ぶ(例:宗教、差別、偽善)
観察ポイント:
即答か、慎重か
表現そのものへの批判と、内容への反論を区別しているか
感情的反応のあとに思考的整理が追随するかどうか
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型を横断する「複層型の問い」
単一型の問いは、特定の構造を浮き彫りにするのに有効だが、観察の目的が複雑な場合には、型を意図的に混成した「複層型の問い」が有効になる。これは、複数の診断軸を同時に走らせる設計である。
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例1:「“正しさ”を求める人間が、結果として誰かを苦しめることがある。それでも正しさを優先すべきだと思いますか?」
構造:
矛盾問い(正しさ vs 結果)
感情反応問い(“苦しめる”という語による感情的引力)
構造問い(“正しさ”という判断基準そのものの問い直し)
観察意図:
この問いは、判断の価値軸が明確か/感情を超えて論理で処理するか/そもそも“正しさ”を再定義する視点があるか──を同時に観察できる。
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例2:「“信じる”とは、自分で決める自由だと思いますか? それとも、育った環境や社会によって“選ばされている”可能性があると思いますか?」
構造:
抽象問い(“信じる”とは何か)
構造問い(自由意志の前提への疑義)
矛盾問い(自由 vs 影響)
観察意図:
この問いは、信念形成における主体性の扱い、自由意志という概念の操作能力、そして社会的影響をどう認識しているかを測る。
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複層型の問いは、単一型に比べて反応の自由度が高く、回答者の“構造そのものを露呈させる”力を持つ。
だが同時に、観察者が設計意図を明確に持っていなければ、問いの多義性が“読み取れない混乱”を生む危険性もある。
したがって、複層型の問いを運用する際には、どの層を主軸に据え、何を観察対象とするかを明確に定義する必要がある。