問いの四類型と観察軸
問いを観察の道具として機能させるためには、その構造を明確に分類する必要がある。
本書では、問いを大きく以下の四つに分類する。いずれも、投げかけられた相手の思考の反応経路を明らかにするよう設計されている。
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1. 抽象問い
目的:思考の深さと概念運用能力を診る
例:「自由とは何か?」「信じるとはどういう状態か?」
このタイプの問いは、定義の不確かな概念に対して、自分の言葉で構造化できるかを測るものだ。
回答者が概念をどう捉えているか、そこに論理的整合性があるか、抽象と具象の往復が可能かを観察できる。
即答できる場合、その人は既に内部で抽象の取り扱いが可能な状態にある。
逆に「難しい」「よくわからない」と返す場合、それは知識不足ではなく、抽象操作に慣れていないか、定義の解像度が低いという構造的特徴を示している。
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2. 矛盾問い
目的:思考の柔軟性と価値判断の優先順位を診る
例:「“嘘をついてでも救う”ことは正しいか?」「正義と善意が衝突した場合、どちらを優先するか?」
このタイプの問いは、二つの価値が同時に成立し得る状況を提示し、どちらを選ぶか・どう折り合いをつけるかを迫る構造を持つ。
ここで観察すべきは、“答え”ではなく、矛盾した二項をどう処理するかの思考パターンである。
・一方を完全に切り捨てる
・状況依存とする
・統合の第三項を構築しようとする
などの反応によって、その人の価値優先の傾向や論理的な跳躍点が浮かび上がる。
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3. 構造問い
目的:判断基準と前提の意識化レベルを診る
例:「“努力すれば報われる”は真実か?」「“正しさ”は誰が決めるべきか?」
構造問いは、一見すると価値判断や感情的な話題のようでありながら、思考の起点となる前提構造そのものを問い直すものとして設計されている。
この問いへの反応には、前提を意識しているか/無意識に受け入れているかが現れる。
特に、制度・常識・文化的合意といった枠組みを自明とせずに捉えることができるかどうかは、思考の成熟度を判断するひとつの指標となる。
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4. 感情反応問い
目的:防衛的反応と認知のバイアス構造を診る
例:「宗教は思考を放棄する人間の逃避先である」「“正しさ”を求めるのは偽善であることも多い」
この問いは、あえて刺激的・挑発的な言い回しで構成されている。
目的は、回答者の中にある未整理な感情・信念・反発のパターンを引き出すことにある。
答えそのものよりも、答え方の情動レベルに注目することで、反応の深層構造が観察できる。
・防御的に反論しようとする
・「その言い方が気に入らない」と言語以前で拒否する
・一度飲み込んでから、自分の立場を構築する
といった違いが、感情処理と認知的反射の差異を明示する。
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これらの問いの型は、観察者が対象の思考構造を把握するための座標軸を提供する。
設計する問いがどの型に当たるか、そして相手がどのような反応を示すか。
それを見極めることが、構造的理解の第一歩となる。