Prologue
楽園とはなんだろうね。
ぽつりと呟いた少年は木漏れ日から差し込む光を忌々しげに睨めあげた。
大きな大樹が風に葉を揺らす。爽やかな音だ。平穏で、ぬるま湯に浸っているみたいで。その音が少年は嫌いだった。
「千年の、歌」
それでも少年がそこにいたのは、少女がいるからだった。獣に身を寄せて午睡に浸る彼女のためだけに、少年は足繁くそこに通っていた。
返った答えに傍らを見た少年は、相好を崩した。
愛しいものに触れるように優しさだけを乗せた指先で少女の髪を掬い、口付ける。
「それは、いらない」
そして何度目になるかもわからない否を伝える。
「それは過ちだ」
「……うん」
でも、と。ゆっくりと身を起こした少女が少年に抱きついた。するりと解けた髪が地に落ちる。
「くるよ。ダメだって知ってる。もう決めてる。でも、来る。海を越えて。恋と一緒に」
「……」
「獣は泣いてる。訴えてる。会えない。会いたい。どうして。なんで。少しだけ、聞こえる。……好きにしなさいって」
「そう」
「これが最後だって」
言葉を重ねるごとに震える背中を労わるように撫ぜて、訴えかける眼差しを無視して、少年は穏やかに紡ぐ。
「なら彼らは好きに歩むさ。踊らされるまま、馬鹿みたいにね」
彼方を睨む双眸は、凍り付いていた。