Prologue
昔から、繰り返し見る夢がある。
其処は天井のない空間だった。剥き出しの地にはありとあらゆる花々が咲き乱れ、晴天の空がどこまでも美しく広がっている。頬をくすぐる柔らかな風も、澄んだ鳥の囀りも、降り注ぐ春の如き日差しも。凡そ考えられる全ての癒しが其処にはあった。
この世の楽園。誰もが焦がれる、理想郷。
夢で訪うその空間が好きだった。同時に、とてつもなく唾棄していた。理由は明白だ。
「《《彼女のために疑うべきだった》》」
繰り返される夢は必ず叱責から始まって、後味悪く終わるからだ。
男のようにも思えたし、女のようにも思えた。無邪気な子どものようにも聞こえたし、老成した者の声にも聞こえた。
その人の姿形は黒く塗り潰されていて、それが誰なのかを知る術はない。知人のようにも、見知らぬ人のようにも感じられた。
ただ、そう。言い含める言葉に滲む誠実さが、その人の一途で真っ直ぐな人柄を思わせた。
昨日も夢を見た。
今日もまた、夢を見る。
明日もきっと、夢を見る。
目覚めた瞬間、記憶の彼方に去る夢を見る。
そんな夢ばかり、ずっと見ていたから、思うのだ。
いつも、いつも。
自分の人生は、既視感ばかりだった、と。