とある少女の日記
お前にしかできないことがある、と言われたとき。
お前にしか頼めないことなのだ、と縋られたとき。
人は、どうするのが正解なのでしょうか。
わたしには何一つわからなくて、考えることもできなくて。
特別なところなんて何もないわたしはただ途方に暮れました。
でも。
父様のために死んだ母様。
母様のために狂った父様。
その二人の魂があってわたしがいると彼らがいうのであれば、きっとこれは罪滅ぼしなのです。
母様がその命を賭けて父様の願いを叶えたように。
父様が願いと正気を手放してでも母様を求めたように。
私は私を必要とする者たちへと手を差し伸べるべきなのでしょう。
それが、誰にとっても正しい道で、行いなのです。
でも、それではあんまりにもかわいそうだと彼に言われたから、たった一つだけわがままを言ってみました。
わたしはかわいそうではないけれど、そう信じる人のために年頃の娘らしくわがままを口にしてみました。
父様の願いを叶えられるのであれば命も名誉も惜しくはなかった母様みたいに。
或いは、母様さえいれば願いなど捨ててしまえたのだという父様みたいに、わたしはなりたかったのかもしれません。
わたしたち家族を繋ぐ微かな縁を、愛や恋というあやふやな気持ちを、手に入れたかったのかもしれません。
だから、言いました。
生涯一度きりのわがままを、伝えてみました。
わたしは、ずっと恋をしてみたいと思っていたのです。
すべてを擲っても構わないほどの、恋をしてみたいと願っていたのです。
そう、告げてみました。
だからこれは、運命というより必然だったのでしょう。
わたしは確かに、あの時、恋に落ちたのです。