創世神話『序』
かつて世界は滅びを迎え、二つの種族によって再誕した。
一に、超常の力を以て世界に理を敷いた神なる者。
二に、脈々と種を受け継ぎ知恵を織りなすことで文明文化を構築した人なる者。
彼らは互いの領分でその特性を活かし、棲み分け、ときに干渉することで繁栄を極めた。
強欲が過ぎれば天災が。
傲慢が過ぎれば人災が。
決して神も人も並ばぬように。されどどちらかが過ぎたることもないように。
世界の秩序を保つため、或いは世界そのものが壊れてしまわないために、神と人は共存関係を築いていた。
新たな生命体である魔物が出現しても、いささかも揺らがなかった。
されども、天災でも人災でもない厄災が世界に突如として現れた。哀れな声で泣き喚き、この世の絶望全てを煮詰めた眼で恨めしげに世界を見つめるそれは『世界を喰らう者』。文字通り、世界そのものを破壊し尽くす究極の破壊者。
神の異能は遙かに及ばず、人の叡智の結晶は瑕一つ付けられず、児戯に等しいと言わんばかりにただ災厄を振りまく『世界を喰らう者』に誰もが膝を屈した。
故に、神子の誕生は一縷の希望であった。
神にして神に非ず。
人にして人に非ず。
ただその命を以て『世界を喰らう者』を封じる役目を負った異端の生命。
神に人に封印を乞われた神子は、ただ一人で『世界を喰らう者』と相対し、役目を果たした。
斯くしてこの世界は、神子の犠牲の上に成り立っている。