Passing each other
僕たち3人は家に着くと、真っ先に地下通路のある台所へと向かった。
「こんなところにあったなんて。全然気がつかなかった。」
オリヴィエが悔しそうにしている。
「しょうがないよ。外から見ていたら、この場所は死角になりやすいからね。」
地下通路の扉を持ち上げ、下をのぞくと暗闇が広がっていた。ルーク、ここを通ってどこへ行こうとしていたのか。
「行きましょう、キヨ。今ならまだルークに追いつけるかもしれない。」
アラミスは少し落ち込んでいる僕を励まそうとしてくれている。そうだ、考えていてもしょうがないルークを追いかけて話を聞く、これで全て解決だ。
僕を先頭に地下へと入っていく。地下には電気が通っていないし、そこまで整備されていないからすごく歩きづらい。
「地下通路がある家なんて、初めてだよー。」
オリヴィエが不思議そうにしている。確かに地下通路がある家は珍しい。僕たちの一族は時を操る魔法を使うことができる唯一の存在だったことから、昔から標的になりやすかったらしい。今では一族の血を引く者は僕たちの家族だけだし、この場所も周囲に知られていないからこの地下通路を使う日がくるなんて思ってもみなかった。
「キヨ、出口がみえてきましたよ。」
前にある扉の隙間から光が見える。外の光だ。
僕は扉に手をかけ、開けようとした。ガチャガチャ、あれっ。
「どうしましたか?」
「開かない、しばらく使ってなかったから扉が硬くなってるみたいだ。」
僕たちは3人で扉を押し、やっとのことで扉を開けることができた。勢い余って僕とオリヴィエは前に倒れ込んでしまった。
「これは‥‥すごい。」
アラミスがつぶやいた。目の前には一面のアネモネの花畑が広がっていた。こんな場所につながっているなんて、すごく綺麗だ。人がいたらすぐにわかりそうな場所だか、ルークの姿が見当たらない。
「ねーねー、ルークってムキムキには見えなかったけど、実はすごく力持ちだったりするのー?」
オリヴィエが突然そう聞いてきた。そんなことは今どうでもいいだろ。
「いや、そんなことはないよ。年齢相応だと思う。」
そっかーと口元に手を当てて、オリヴィエが少し考えている。
「ねぇ、私たちが3人がかりでやっと開けられた扉をルークは一人で開けられたのかな?」
ルークにはそんな力はない、僕はすぐにそう思った。まさか、ルークは家にいたのか。だがそんなはずは‥‥けど
「ルークは家にいるのかもしれない。」
「そんな家にはいなかったとオリヴィエが言っていたじゃないですか。」
「その時はだろ。オリヴィエが監視していた時にルークは地下通路に一時的に身を隠したんだ。オリヴィエは地下通路の存在を知らないから家をくまなく探し、ルークが家にいないことを僕らに伝えに来た。そのすきに、ルークは地下通路を出て家の別の場所に隠れたんだよ。僕らは“ルークは家にいない”と認識してしまっていたから、家の中を探していない。」
「そんな、それじゃまるで、私たちに見つからないように行動しているようじゃないですか。」
「ルークがどういうつもりなのかわからない。とりあえず、引き返そう。」
僕たち3人は急いで来た道を引き返すことにした。
その少し前‥‥‥
扉が開き、ルークが家から出てくる。その服装はフードを深くかぶっていて周りの目を気にしているかのようだ。細い路地に入ったところで、ルークは立ち止まる。
「ねぇ、ノアさんいつまで隠れてるの?」
ばれていたか。しょうがない。ノアはルークの前に姿を現した。
「キヨが探しているよ。」
「知ってる。僕には全部分かるから。」
そういうルークの瞳は琥珀色に輝いている。時の魔法か‥‥力のことは誰にも言っていなさそうだ。
「なるほど、それでお兄ちゃんに黙ってどこに行こうとしているのかな?」
「それは言えない、僕は僕のやりたいことを成し遂げるために行くんだ。ノアさんは僕を止める?」
「いや、止めないよ。自分のやりたいことに向かって進んでいこうとする人間を止める権利は私にはないから。だけど、一つだけ聞かせて。それは家族を置いていってまで成し遂げたいことなの?」
「嫌なことを聞くね。捨てる捨てないの問題じゃないんだ。戻すんだよ。あるべき家族の形に。」
それはつまり‥‥ルークを問いただそうとした瞬間、黒い霧が周囲を覆った。煙幕だ。
「あらあら、またあなたなのね。」
ラストの声がする。ルークを迎えに来たのか。
「まぁ、いいわ。邪魔はしないようだし、それに鍵が見つかったのはあなたのおかげでもあるから。また会いましょう、ノア。」
煙が晴れると、ルークの姿はなかった。
ルークのやりたいこと、ルークの最期の言葉でなんとなく分かった。それは“死者の再生”だ。