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『狐人』  作者: 秋桜
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ずっと一緒

 

 高校三年生、最後の学校生活、あと一週間で卒業。

 単語ばかり並べてしまえば簡単なのにどうにもこうにも、つまらないと一点張りを決めてしまう。

 楽しかった日々や勉強の毎日がカレンダーを捲るように消えていく。

 甘い春もなければ、青い春すら経験しなかった。

 思えば思うほど嬉しい思い出も少ない気がする。


「ねぇ! ねぇってば!!」

「聞こえてるから、あんまり大声は出さないで」

「聞こえてるなら返事ぐらいしてよ! 私ばっかりはしゃいでるみたいでバカみたいじゃん」


 実際、大声『も』取り柄ですけどね。

 この子の名前はミユ。幼稚園からの腐れ縁。

 同い年なのに中身だけは相変わらずで騒がしい。

 おかげで放課後の教室の隅っこだというのに注目されてしまう。


「それで聞いてよ! 私が進路に大学進学なんておかしい! って、どう思う? スズ。おかしくない!?」

「全然おかしいね」

「そうだよね!?」

「大学に行けると思ってるのが、ね」

「もうっ、スズも私をいじめないでよ〜!」


 高校を卒業するまで残り一ヶ月。

 未だ進路希望に納得してないのは聞いたことない。

 少なくともあたしが聞いてきた限りだと。


「で、どうすんの?」

「どうするもこうするも、早く決めないといけなかったから。変えられるかな?」

「あたしが決めることじゃないけど、どうして今更?」

「やりたいことが見つからないからだよ〜。だって、スズと一緒にいれば私も安心としか思ってなかったから。……これから一人なんて難しいよ」


 机の上に突っ伏すミユはどこか不安定さを感じる。

 それも仕方ないかもしれない。

 ミユは地元の短大へ、あたしは都会の企業に就職して卒業と同時に引っ越す。

 つまり、あたしとミユもあと一週間しか会えない。


「お父さんが死んでからお母さんだけになっちゃったから、私が一緒にいないとお母さんが一人になる。でも、でもっ、スズと離れるのも嫌だ」

「わがままだね。連絡だって取れるでしょ?」

「……うん。だけど、スズと一緒に居たいの。進路なんか決めたくない。どうしようもないけど、スズが居てくれるならどこだっていい」

「ミユ、それは嬉しいけど……」

「だからねっ! 私、お願いしたの! 『狐人』さんに!」


 先ほどまでとは打って変わったかのように笑顔。

 ミユはあたしの両手を力強く掴む。

 見つめてくるその瞳に光はなく、闇だけがこちらを見ている。


「『狐人』? まさか、あの噂の?」

「昔、一緒に遊んだ廃神社に行ったんだ。まだ潰れてなくて少し汚かったけど昨日ね、お願いをしに行ったの。スズとずっと一緒にいれますように、って」


『狐人』。あたしたちの幼い頃から知ってる噂で、この地元にある廃神社らしく本殿に御供物をした者はどんな願いでも叶えてもらえる、という噂。

 勿論ほとんどデタラメばかりと言える話なんだけどこんなことがあった。

 十年前、とある大学生男女四人のグループで度胸試しを行ったらしい。

 お酒を飲んでいたこともあって理性もなく常識すら忘れてたとか。

 四人はふざけ半分で錆びれている廃神社に入った。

 境内はゴミと落ち葉が落ちていて地面の石には苔が生い茂り、鳥居も半分欠けていた。

 取り壊された本殿と雨に濡れ腐った木材の異様な臭い。

 グループの一人が酔いから醒めたこともあり、引き返そうとしたらしいが既に遅かったらしい。

 残りの三人が本殿に()()()をしてしまったからだ。

 それが何を意味してるのか。

 四人は知らなかったというよりも、知ることはなかった。

 何故なら、その翌日に()()()として見つかったからだ。


「ちょっと待て、ミユ。あんた、それが何を意味してるかわかってやったのか?」

「うん。怖かったよ、もの凄く怖かった。でも、スズと一緒にいられなくなるよりはマシかな」

「い、今からでも遅くないでしょ? 引き返せるかもしれない」

「こればかりは強引なのは悪かったと思うよ〜? けどさ、地元より都会を選んだスズも悪くない? 私ばかり責められる理由ないじゃん!? お母さんは大学に行って楽をさせて欲しいだの、ずっと一緒にいたスズもいなくなっちゃう……もうっ、どうすればいいかわかんないよっ!!」


 ついにミユが抑えていた感情が爆発を起こした。

 それはあたしに対しての依存と家庭環境の不満。

 心の支えを失うと人は簡単には立ち直れない。

 あたしもそれをよく知っている。

 ここで折れてしまったら、またミユは私に依存する。

 突き放してしまうのは簡単。でも────、


「ミユ、ごめんね。あたしが悪かった。考え直すからさ」

「ほんと?」

「うん。これからは()()()()

「ぇ……」


 ♢


 昔、潰れた廃神社で親友と二人で遊んだことがある。

 何も考えず何も恐れなかったあの頃はとても楽しくて鮮明に覚えてる。

 でも、もっと鮮明に覚えてるのは「助けて」って叫んでた()()()の悲鳴かな。

 二人して御供物をしたの覚えてなかったのは残念。


「ミユに『助けて』って言ってたから、結果的にはスズ(あの子)の願いも叶ったから良かったね。これで二人の願いは叶った。……ぺろっ、ごちそうさまでした」

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