表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

新しい私で

桜が少し散り始めた4月、私は市立天ヶ丘中学に入学した。念願のセーラー服に包まれて少しお姉さんになった気分だったけれど、少し長いスカートが気に食わなかった。家を出て希夜との待ち合わせ場所に行くと、希夜が少し恥ずかしそうに俯いていた。希夜にとっては久しぶりのスカートだったらしく、違和感があったのだという。二人で初めての登校中、小学校の時と変わらない顔ばかりが見えて、そんなに代わり映えのしない日々が始まると思っていたのも束の間。いざ中学校の門をくぐると知らない顔ばかりが目立って見えて、みんなが自分よりも大人びた顔に見えて、少し怖くなった。友達はできるだろうか。今度こそ、部活は辞めないで、最後まで頑張ってみよう。今までのわがままな自分を捨てて、後ろ向きな自分を捨てて、もっと明るくて優しい、そんな自分に生まれ変わろう。まあ、俗に言う中学デビューというやつ。

元気に振る舞っていたら、きっとみんなとすぐに打ち解けるはず。


「私のクラスは……」


あった。一年二組。あ、希夜と一緒だ。少し安堵すると、後ろから声がした。


「陽夜、あった?」

「うん!うちら一緒のクラスだよ」

「まじ!よっしゃ」


希夜とは小学生の頃に沢山喧嘩をしてきたけれど、それも今日で終わり。今まで沢山希夜に迷惑をかけてきたのに、私から離れずにいてくれた希夜に感謝をしなくては。ありがとう、希夜。

知らない人が沢山の教室にも、希夜が居てくれたらそれだけで堂々と入っていける。友達の存在は偉大だと改めて思った。


◇◇◇


入学式が終わり、教室へ戻る。私は早速近くの席の女の子に話しかけてみた。大人しめの小柄な女の子。でも話してみるとノリが良くて面白い子だった。希夜の方も友達ができたみたいで、四人でしばらく話し込んでいた。少しした頃、母が就学援助の手続きを終わらせて教室に戻ってきたのでそこで解散になった。次の日から、私はクラスの女の子に片っ端から声をかけていった。オシャレな子、大人しそうな子、元気な子。みんな優しく接してくれて、嬉しかった。私がおどけるとそれにノってくれて、みんなで楽しく過ごしていた。少しだけれど、男子とも仲良くなった。毎日が楽しくて、初めて学校に行きたいと思えた。そんなある日のこと、いつもの四人組のうちの一人の子から遊びに誘われた。どうやら、その子と同じ小学校の人達と私を仲良くさせたかったようで、放課後に公園で集合になった。放課後、うきうきしながら公園へ行くとみんなはもう集まっているようだった。

「あ、陽夜ちゃん!こっち!」

その子の後ろには、同じクラスの男子と女子二人が立っていた。なんだ、三人とも話したことがあるじゃん。初対面では無いことに安堵しながらも改めて自己紹介をした。その中の一人に、夏希ちゃんという子がいた。この子は髪が特徴的で、いわゆる天パというやつだった。本人は気にしているようだけれど、私的には別に気にならないし、可愛いとまで思ったのに。人の抱えたコンプレックスは分かり合うことが難しいと初めて感じた。その後も楽しい時間を過ごして、私は家に帰った。明日が楽しみ。早く明日にならないかな。明日は何をしよう。

次の日。私は弾むように家を出た。世界が輝いて見えるとはこの事だと納得した。幸せな日々が続いたある日、中間考査の発表があった。その休み時間、クラスの女の子が、一緒に勉強しようと言ってきた。感激した私は放課後に市民センターで一緒に勉強をすることにした。放課後市民センターへ行くと、中間考査の発表があったからか、同じ学年の子達が沢山来ていた。私達は早速ワークやら教科書やらを広げて勉強を始めた。けれど、途中から勉強に飽きを感じてきた私達は、休憩がてら雑談をしていた。すると後ろから聞きなれた声が聞こえてきて、体が強ばった。同じクラスの男子だ。男子は好きでは無い。特に同じ小学校だった男子は。小学校の頃はそんなこと無かったのに、やはり中学生になると変わるものなんだろうか。その男子たちはあろうことか、私達の席の隣に座ってきた。それを見た友達が、話しかけに行く。うわああやめてくれ。そいつらとは関わりたくない。そう思っていたのに、友達はどんどん男子達の輪に入っていく。そして


「あ!?なんだとてめぇもういっぺん言ってみろよ!」

「だから、邪魔だって言ってんのこのゴリラが!」


男子の一人と友達が喧嘩を始めてしまった。幸いこの部屋には私たち以外に利用してる人達はいなかったから良かったものの、二人の喧嘩はかなりヒートアップしていき、仕舞いには手が出るようになってしまった。見ていた男子達はさすがにまずいと思ったのか、すかさず止めに入る。友達はだいぶ余裕そうに殴れるもんなら殴ってみろと煽っている。けれど、こいつは本当に殴るやつだ。私も何度か怪我をさせられた経験があった。沸点が低く、小学生の時もよくヒステリックになっていた。しかもがたいがいい為、攻撃の一つ一つが重い。そんな奴が女の子を殴ったらひとたまりもない。さすがにまずいと思って、私も友達を止める。すると今度は、男子の標的が私に変わってしまった。


「おい、お前がこいつをここに連れてきたんだろ?じゃあお前にも責任はあるよな?今すぐここで土下座しろよ土下座!!」


こんなアニメじみた事を言われたのは初めてだった。土下座?嫌に決まってる。だって私はこいつに何もしてない。酷いことも言ってないし、殴ったり叩いたりもしていない。それなのになぜ、私が謝らなければならない?私はこの男子の言ってることに納得がいかず、友達を連れて外の公園へと避難した。けれど、奴は怒りが頂点に達していたのか、全速力で追いかけてきた。自転車に勢いよく飛び乗ってまるでアニメの主人公のように逃げ出そうとした。けれど、私は友達を逃がすことに一生懸命になりすぎて、自分のことを忘れており、あっさり奴に捕まってしまった。奴は私の自転車を掴んで、力いっぱいに振り回した。もちろん、乗っていた私はそのままバランスを崩して地面に転がった。膝から血が出ているけれど、今は痛いよりも怖いの方が勝っている。こいつは怒ると手に付けられなくなるから怒らせないようにしていたのに。なんて、そんなこと知らなかった友達に言ったって仕方がない。怒りが収まるまで離れておくのがベストだ。なのにこいつは私にどんどん詰め寄ってくる。さっきまでやめろと止めていた男子がだんだん静かになる。そりゃ、可愛い子が危険な目にあっていたら全力で助けたくなるよね。でも私は可愛くないから助けたいとは思わないのか。だからそんなに静かなんだ。薄情者。その後も私は石を顔面に投げつけられたり土をかけられたりした。しばらくして、気が晴れたのか奴は帰って行った。私は友達に、せっかく来てくれたのにごめんねと言ってそこで解散になった。だからうちの学校の男子は嫌いだ。感情のコントロールができずに、誰彼構わず手をあげる。まるで小学生だ。中学生になってしばらく経つのに、こいつらはいつまでも子供だ。お父さんみたいで、大嫌いだ。

次の日、私は先生に呼ばれた。どうやら友達が先生に言ったみたいで、私は怪我の心配をされた。幸い、怪我はそんなに酷くなかったので、もうかさぶたになっていた。私は先生になんともないと伝えて教室に戻った。すると、昨日の男子が私に近寄ってきた。

「昨日、ごめん」


私は考える間もなくいいよ、と答えた。別に、許したわけじゃないし、私はこいつを許すつもりは無いけれど、ごめんと言われると、いいよと言ってしまう身体なのだ、仕方がない。男子は私がいいよと言うと、ほっとした顔で席へと戻って行った。これで肩の荷も降りたし、しばらくはゆっくり過ごせると思った。けれど、私はその日の放課後、隣の席の子に遊びに誘われた。雨が降りそうな曇り空の中、私は自転車で昨日の市民センターの公園に来ていた。しばらくすると、隣の席の子が友達を連れて公園に来た。誰だろうと目をこらすと、バスケ部のいじめっ子だった。正直一緒に遊ぶのは気が引けたが、ここで私がわがままを言ったって仕方がないので、公園でお喋りをしていた。けれど、昨日の男子達が今日もまた来ていて嫌気がさした。アイツらが来ると、いつもろくな事がない。少し離れようと席を立つと、センターの中からヤツが来た。昨日の暴力男ではない。また別の、ちょっとへんてこな奴だ。そいつはみんなから嫌われ、いや、面白がられていて、いつもからかうとすぐに怒って周りのものにあたる。そう考えると、昨日のやつと何ら変わらない。面白がられるといっても、奴にも問題はある。休み時間には一人で何かのゲームのキャラになりきって、プルルル、ガシャン、ぷくぷくなど、変なこと言ってなりきりごっことやらをしている。そりゃ、年頃の小、中学生からしたら、そんな奴からかわない訳にはいかない。やめろと言っているわけじゃないけれど、嫌なら自分でも改めればいいのにと思った。


「ひよちゃん」


私に気づいた奴がこっちにスタスタと近づいてくる。来ないでよ。昨日みたいになられるのはごめんだ。


「ひよちゃん、一緒に遊ぼ」

「あ、今日はこのメンバーで遊ぶってことに……」


そう言いかけたところで、いじめっ子が口を挟んできた。


「いいね!みんなで鬼ごっこしよう!」


そう言ってにやりと誰かに向けて笑いかける。その目線の先を見ると、いつの間にいたのか、遊具の上には昨日の男子らが来ていた。ああ、もう帰ろうかな。そう思ったけれど、ここで帰ると雰囲気を悪くしてしまう。きっと嫌われる。それなら、なんとか喧嘩にならないように平和に遊ぶしかない。そう意気込んだのもつかの間、男子達は奴にカメラを向けて動画や写真を撮って遊びだした。もちろん当の本人は顔を茹でタコのように赤くして、男子達を追いかけ回していた。「ちょっと!やめなよ、可哀想じゃん」などという私の声も虚しく、誰一人として聞き入れることは無かった。

いじめっ子の女子は自分にも危害が及ぶと思ったのか、私たちにどこか別の場所へ行こうと提案してきた。私達は静かにその場を離れ、センターの中へと入ろうとした時。


「きゃあ!」


甲高い声が聞こえて後ろを振り返ると、一緒になって逃げてきた女子が、奴に殴られそうになっていた。


「ちょっと、何してんの!この子は関係ないでしょ!?」


とっさに叫んで止めに入ってしまった。関わらなければ良かったと後悔した。


「君たちー」


警察だ。どうやら、この騒ぎを見ていた地域の過保護なおばさんやらおじさんが、学校をすっ飛ばして警察の方へと連絡したのだろう。

中学生複数人で一人を虐めていると。私達は何も関係ないというわけではなかったが、それでも被害者だ。いじめっ子一人を除いて。それなのにどうして警察に咎められなければいけない。私達は警察に渡された紙に名前を書いて、今日は帰ることになった。学校にチクられることを恐れたのか、男子達が警察に、「学校に言うんですか」と聞いたけれど、警察の人達は、「この事は報告しないよ。ただの子供たちの喧嘩だしね」と言った。その割には紙に名前を書かせたり、主犯の二人を交番に連れて行ったりと、やけに妙な動きをしていたけれど。

次の日、学校へ行くと、みんな何事も無かったかのように普通に過ごしていた。私も、ああ、警察は結局学校にチクることもなかったのかと安堵した。けれど放課後、さようならと挨拶が終わった時、昨日のメンバーの名前が呼ばれた。もちろん私も。みんなで空き教室に来るようにと伝えられ、みんなは震えながら向かっていた。

めんどくさいと思いながら腰を上げ空き教室に向かうと、先生はすぐに扉を閉めて怒り出した。それもすごい声量で。

「警察が動いてるんだぞ!?なんで中学生になったのに事の分別もつけられないんだ!誰も止めなかったのか!?」

一方的に怒られた。私たちの言い分は聞かないで。日頃のストレスを発散できてさぞ楽しいでしょう?警察から聞かなかったの?誰が主犯で、誰が止めようとしていたのか。そんなこともちゃんと聞けないような人に、説教なんてされたくない。

学校から帰ると、すぐに先生からの電話があった。

「昨日何があったか詳しく聞かせてくれるか」

は?今更何言ってるんだ。順序が違うだろ。まず何があったのか聞いて、それを元に誰が悪かったのかを考えて、そいつらだけを叱るのが普通だろ。どうして頭ごなしに怒ってから事の成り行きを知ろうとする。やっぱり、ただストレスを私達で発散したかっただけじゃないか。これだから、警察も、先生も、信用なんか出来ないんだ。みんなみんな大嫌いだ。

私は本当のことを全部話して、先生に私達は悪くないと証明してみせた。けれど、先生からでた一言は


「陽夜達が悪くないのはわかった。それと、向こうにも非があることもわかった。だけどな、その場にいたら、第三者からしたら全員悪者になっちゃうんだ。だから今後こんなことがあったら、逃げるんだぞ」


訳が分からなかった。余計なことには首を突っ込むなと言うことはわかった。けれど、私が言っているのはそんなことでは無い。なんで、止めろって散々怒鳴っていたくせに、今になって逃げろなんて言うのか、ということだ。酷い矛盾だ。その場で苦しんでる人がいたら助けろなんて言うくせに、結局はそうやって現実から目を背けるのか。そんな奴らから、私たち生徒は道徳を教わっていたのか。あれから、少しばかり先生と話をしていたけれど、内容は全く頭に入って来ず、ただただ時間だけが過ぎていった。そんなことがあってから、私はしばらく遊ぶのをやめた。


◇◇◇


中間考査も終わり、勉強にひと段落着いた頃、一人のクラスメイトにテストはどうだったかと聞かれた。それが、私の人生が大きく変わろうとする分岐点だったことを後から知ることになる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ