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達成度6:ようこそ暫定生徒会へ

 旧校舎三階、生徒会室前。

 その扉の前で少し佇んだのち、深呼吸。


 人とのコミュニケーションをこの数年間ですっかり忘れてしまった僕だけど、もうこの状況では行くほかあるまい。なるべく丁寧な物腰で、笑顔を浮かべて……よし、OK。僕はようやく決意を固めて扉をノックする。


 コンコン。


「すいませーん」


 ……。


 一応ノックをしてお伺いを立てようとしたのだが、中からは何も聞こえてこない。あれ、聞こえなかったのかな? 僕の声が小さかったのかもしれない。もう少し大きな声を出してみるか。


 念のためもう一度。

 コンコン。


「あのー、すいませーん。入ってもいいですかー」


 ……。


 応答、なし。これは……入らないほうがいい、のか? お取り込み中なのだろうか。

 しかしここから離れるにしても別に行く宛があるわけでもないので、最後のつもりでさらにノックしてみる。


 コンコン。

 もしかして……誰もいないのか? 扉に手をかける。どうやら鍵はかかっていないらしい。

 解錠しているということは何かしらこの教室を使った人間、使う予定の人間がいるということだろう。


「入っても、いいのか……?」


 僕はしばし考えた後、やがておそるおそる扉を開く。


「お、お邪魔しまーす……ってあれ? やっぱり誰もいないじゃないか」


 生徒会室というよりかは、まるで書斎────それが、僕がこの教室に抱いた率直な印象。


 この旧校舎の見た目────洋館のようなそれによく似合う、小洒落た洋風の室内。


 大きさは一般的な学校の教室とほぼ変わらないかそれよりやや小さいくらいだろう。

 若干縦に長い造りをしていて、扉から向かって一番奥には窓がある。

 壁の両脇にはまるで図書室かと思うくらいに立派な本棚がそびえ立っており、書類や資料を保管していたのか中にはぎっちりと古びた紙の束に難しそうなタイトルの本が詰まっていた。


 本棚の他にはいくつかの机(上に花瓶やら紙の束やらが置かれている)がざっくばらんに置かれているばかりで家具と呼べるようなものはない。


 ここが本当に生徒会室なのか?

 なんとなく埃っぽいし、天井の端っこには蜘蛛の巣がかかっているし。


 数年放置されていた書斎にしか見えないぞ。


 そして何よりもここの生徒会室には、さっきから人の気配がまるでなかった。


 物音一つない、静寂に満ちた空間。やっぱり誰もいなさそうだ。


「……なんだか気味が悪いな」


 西条さんはここで僕に何をしろというんだ? 


 というか、ここが生徒会室であってるのか?


 いくつもの疑問が浮かび、ぐるぐると頭の中で交差し始める。すると、その時。


「────おやおや、これは驚いた。まさかこの生徒会室に来客とは珍しい。実に数ヶ月ぶりと言っていい、柄にもなく浮かれてしまいそうになるよ。ふふ、私もまだまだ精進が足りないのだと思い知らされる」


 誰もいないはずの室内に、突如として声が響く。


「ッ!?」


 僕は咄嗟に周囲を見回す。が、声の主はどこにも見当たらない。

 無人の風景が広がっているだけだ。

 だが、それでも構わず声は続ける。


「ふむ、初めて見る顔だ。校章のデザインから察するに、もしや君は二年生かい? はは、同学年というわけだな。一度くらいはすれ違ったこともあるかもしれないね」


「だ、誰だ!?」


 どこかに隠れているのか、あるいはカメラか何かで監視されているのか。だが天井や壁を見ても特にそれらしいものはない。背筋にぞわりと怖気が走った。

 一方で声はそんな僕をまるで気にする様子もなく、軽い口調で話しかけてくる。


「そう気張るな青年君、まずは落ち着いてくれ。まず始めに明らかにしておこうか────私はそうだな、君になんら危害を及ぼすつもりはない。そこは安心してくれていい」


「危害を……って」


「むしろその逆さ、喜んで君を歓迎しようじゃないか。なにせ私は常に一人なものでね、孤独は人間の精神に最も有用な毒になり得る。ちょうど退屈で退屈で死にそうになっていたところだよ。誰かの話し相手になるのもやぶさかじゃない。そういうわけで、柊ヶ丘一の平和主義者にして、正当なる生徒会長にして、寂しがり屋の美少女である私は君を捕って喰おうだなんて考えちゃいない。これでわかってもらえたかな?」


 声はそう語りかけてくる。……なんだって? 柊ヶ丘一の平和主義者? 生徒会長? 美少女? 情報量が多すぎて脳の処理が追いつかない。一つわかったことがあるとすればそれは声の主が随分と饒舌な人間であるということぐらいだろう。


 だがこの状況で安心しろと言われてハイそうですかと肩の力を抜くわけにもいかず、むしろより一層警戒感が強まった。


「その前に、まず姿を見せろ。 お前はどこにいる? どこから僕を見ているんだ?」


「……ん? ああ、なるほど。これは失礼、君の角度から私は見えていないのか。これは私の落ち度だ、謝罪するよ。だが怖がる必要はないとも。私は幽霊でもUMAでも神を自称する謎の少女でもなければ、あるいは君の妄想が生み出した幻覚でもない。私はここ、君のすぐそばにいる。例えばそう────君のすぐ後ろ、とか」


「────ッ!」


 耳元で囁かれたような気がして、バッと背後を振り向く。だが、やっぱりそこには入口の扉と机の上で山積みになった紙束があるばかりで、人の姿は無かった。


「ははは、冗談だよ冗談。びっくりしたかい? 悪いね、ちょっとした脅かしさ。そう怖い顔をしないでおくれよ」


「お前……」


 ケタケタと笑う声を恨めしく思いながら、未だバクバクと鳴る心臓に手をやる。こいつは誰なんだ? 何がしたい? そして、どこにいる?


 まさか本当に怪奇現象なんじゃないだろうな……と、思っていると。


「さて、そろそろお互いに自己紹介といこうか。君は何者なんだい? 現生徒会の差し向けた刺客か、あるいは救いを求めて彷徨える子羊か────まぁいい、どちらでも構わないさ。今は私にとって貴重な話し相手であることに変わりはないのだからね」


 不意にキィ、という音が響いた。

 振り返って見てみるとそれは、椅子────この部屋の最奥である窓際に置かれていた、革張りの豪奢な椅子が回転した音だったらしい。


 巨大な椅子はそういえばこちらに背を向けるように置かれていて、僕はこれが椅子であると気づくまでに幾許かの時間を要した。それほどまでにその椅子は大きく、立派なものだった。


 そして────椅子に腰掛け、少女は不敵に笑っていた。


「この私、鏡野柚葉が改めて歓迎しよう、青年君。ようこそ我が────“暫定生徒会”へ」


 鏡野柚葉。厨二病で変なところで幼くて、やけに芝居がかった言動をする変人。

 彼女との出会いこそが、後になって思えば僕の青春の分水嶺だったのだ。

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