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桃田太郎の奇妙な一日  作者: アキラ
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「骨にも内蔵にも損傷はないようですね」


場所を玄関先の病院スペースに移しての診察

お医者さんから太鼓判を押され一安心、ほっと息をつく


「では、カルテを作成しますので氏名、生年月日、居住地、家族構成を教えていただけますか?」


すべては個人情報搾取の罠だったのか!!

息の根を止めにかかる医者に死にそうな顔を向ける。


「あの、あの…僕無一文で…診察料とか払えなくてですね…」

カルテいらない、なかったことにして、お願い 声なき声で必死に懇願する

ちらりとキイチ先生の赤い目が僕を見る。まるで蛇に睨まれた蛙のように生きた心地がしない…。

「お代は結構ですよ。私が安心するために診たところが大きいのですから。お連れ様とはぐれて溺れているところを助けられたことも承知しております。災難でしたね」

目を伏せながら、フッと笑い安心させるように労わられる。

何とかやり過ごせそうな雰囲気にほっと息をつく。この人優しいお医者さんだな…

「年齢だけは教えていただけますか?処方するとき困りますので」

「あ、はい。17歳です」

「「「じゅうなな!?」」」

しまった!安心してぺろっと実年齢を明かしてしまった!罠だった!至る所に狡猾な罠が仕掛けられていた!!

でも薬品は用法容量を守って投与しないと死んじゃうから仕方ないよね!

計算高く生きるため仕方がない!


「え、成人済みなわけ?結婚できる年じゃん!恋人いる!?」

患者のプライバシーを守る為の衝立の向こう側でシャルが中学生丸出しの反応で沸き立つ。センセー、恋人いますか~?結婚してる~?

プライバシーもクソもないな!彼女いない歴が年齢だよ!

ってこの世界の17は結婚できる年齢か。成人いくつなんだろう、キリ良く15とか?元服できる年だもんね。あり得る。


「……17ですか。では支払い能力はあるわけですね。医療行為を行うのはボランティアというわけではありませんし、他の患者さんとの差別は良くないと考えるわけです。ですから現時点で支払えないなら支払わなくていいという理屈は通らないかと思われます。成人…していて、労働することはできるわけですし?無一文では宿もとれないでしょうから必然的に住み込みという形になりますね。ああ、衣類や食事など必要経費もかさむわけで比較的裕福な住み込み先ということになると条件も限られてくるのではありませんか?そうそうこの家はいくつか部屋が空いていますし、私の主な仕事は薬品調合などで時期に関係なく忙しく、家事など手が回らないこともあり難儀しておりまして。ちなみに家事手伝いの給金相場以上の報酬が約束できます。成人としては支払う義務があるかと思いますがタロウ、あなたはどうお考えですか?ちなみに私は…………でして…………」


すげぇノンストップ。線路は続くよどこまでも。

貯金額とか家族構成とかすっごい個人情報を怒涛の勢いでしゃべってるけど大丈夫?父子家庭なんだ。

オレオレ詐欺とか気を付けてね?

子供ではないとバレてしまい、さっきの優しさが180度ひっくり返る。

金払えないなら体で(働いて)払え!…まぁ当然だがな

あれ、でもこれ渡りに船ってやつ?

住む所と仕事ゲットってことでしょ?

バッと両手で挙手してキイチ先生に話を聞いてアピールする。


「不束者ですが!よろしくお願いいたします!!!精一杯頑張ります!!!」

「では、では私と…!必要な書類を教会で発行してもらいましょう!」

「はい!!」

やったぁ!バイト面接だってもっと大変なのにこんなに簡単に!

万歳姿勢のまま感極まる僕に先生も嬉しそうに、目に涙まで浮かべ祝ってくれる。

先生の両手が震えながら広げられ

あ、ハグ?ハットトリック大逆転おめでとう?

医者と患者として椅子に座り向かい合っていた体勢から、勝利を祝う熱い抱擁に移行しようとした、その時


          ズッパアアン!!!!!


ああ!僕の命の恩人が僕の雇用主の頭をはたいた!スリッパで!大砲みたいな音がした!?


「……馬鹿じゃないの?自称17に何はしゃいでるわけ…?」

先ほどの熱狂がもう冷めたのか刺々しい声が僕の背後に近づいてきた。思春期怖い。

衝立結界の無意味さよ。二人ともずかずか入り込んでくる。


「大体、この村の神父様は数年前に中央へ逃げ帰ってずっと空席でしょ」

不穏な言葉とともにシャルの両腕が背後から絡みついてくる

まるで、逃がさないとでもいうような重苦しい空気が僕へと伸し掛かる


「タロウは明日、村長の元へ連れていくと決めただろう」

ヌイさんも地獄の底から響くような低音で僕の処遇について異を唱える


やはりお風呂に厄介払いした後、僕について話し合っていたのだ…!


キイチ先生の過剰なまでのやることリストは時間を稼ぐための


          罠


「タロウもさ~どこまで本気なわけ?あんな見え見えの罠に自ら引っかかりにいっちゃって」


ジャックナイフの矛先が僕へとむけられる。

もう見逃す気はないというように、尋問ムードだ。ピリピリとした苛立ちが肌に突き刺さる。

背後から顎先をすくわれ強制的に上を向かされる。苦しい…。

「大した役者ぶりだよ。こんなことされても悲鳴一つ上げないんだからさ」

ぐっと顔を寄せ、逆さまのシャルが酷薄に笑う しかしその表情は不思議と泣いているようにも見えた

「━━━━━━━━ねぇ、ぼくらとキスできる?」

「━━っシャル!」

唸るようなヌイさんの声にはじめて激しい怒りが込められる

ぎりぎりと弦を引き絞るような緊迫感


「━━……でき……ます」


                       息をのんだ音は誰のものだったのか

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