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桃田太郎の奇妙な一日  作者: アキラ
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3

______借金取りに取り立てられる悪夢を見た。


ダンダンダン!

「おい!居るのはわかってんだ!出てこい!」

どすの利いた声があたりに響く

ダンダンダン!

「ちょっとヌイ。キイチ先生は神経質なんだから、ちゃんと手順踏まないと出てこないよ。ここ押すだけでしょ」

ピンポーン

「はっはい!Amazonですか!?」

聞き覚えのあるチャイム音に体がびくりと跳ね、強制的に悪夢が終了する。

悪党顔のヌイさんの腕の中、人形顔のシャルが蠱惑的な笑みを浮かべ覗き込んできた。

「アマゾン?どんな夢見てたのさ」


   この世界にAmazonはないけどアマゾンはあるんですか


悪夢のような現実にこんにちは。


いや、こんばんはの時間か。あたりはとっぷり暮れ街灯などないのか数メートル先は闇に消える。

森から人里に移動したようだが、田舎の村という規模だろうか。

視界に入る民家はここだけだ。レンガ造りでしっかりとした洋風の建物。ガラス窓もあるので文明的に現代っ子でも生活できるレベルなのかと期待する。しかしチャイムが馴染んでいないことからまだ安心はできない。体ががたがた震えるのは冷えきっているからだろうか。お風呂に入りたい。ゴエモンとかではないお風呂に。震えに気づいた二人が体温を分けるように、そっと触れてくる。あったかい。

ってかヌイさんはなんで平気なの?全身ずぶ濡れだよね?筋肉?筋肉の差?


「なんで出てこないわけ?居ないわけないでしょ、ひきこもりなんだから」

ピポピポピポピポピポピンポーン!ピンポーン、ピンポーン!……ガンッ


嫌がらせのごとくチャイムを連打した挙句ドアを足蹴にする。意外ととんがってるよね、そのナイフがこちらに向かないよう縮こまる。

  ガチャ

「診療時間は終了してますよ。急患ですか?」

「じゃなかったら来ないよ!こんなとこ!」

怒気をはらんだ言葉のジャックナイフにセールスお断り対応だったドアが来客対応へとジョブチェンジされる。


「患者は?」


細い眉を神経質につり上げ、丸いメガネのブリッジを押し上げながら細身の男性が姿を現す。ああ、やはりここは異世界なのだ。


紫色の髪を遠い目で見つめる。


白い花が紫がかっていくようなグラデーションで根元の濃い紫が真ん中分けされシャープな輪郭の横を流れ

顎先から輪郭に沿ってミリ単位の誤差も許さない神経質さで切りそろえられた白い毛先がサラサラと揺れている。


    シャルのあだ名がジャックナイフならこの人はアイスピックかなぁ…


状況説明しているヌイさんの腕の中でバカな感想を抱きながらキイチ先生を観察する。彼は医者なのだろう。


       バチッ


音がしたかのようにバッチリと目があうと、静電気から逃れるような反射的な速度で目をそらされる。

メガネを押し上げながら横を向き、顔にかかった髪を梳くようにそろえると

「…見たところ大きな外傷もないようですし、体を温めても問題ないでしょう。風邪をひきます。こちらへどうぞ」

扉が大きく開かれた。



どうやら土足厳禁のようで全員履物をスリッパに履き替える。まあ病院だしね。

抱えられたままの僕の靴はシャルが脱がせてくれた。なぜかとてもいい笑顔で。


さりげなく室内を観察する。

店舗兼住宅によくある造りの一軒家といった印象だ。大きく開く玄関に入りすぐ店舗スペース…この場合病院だが

病院に縁のない僕にはどれくらい自分の世界と差があるのかわからない。

三和土に下駄箱とスリッパがあり、すぐ横に待合用のソファセットが置かれている。

奥は学校の保健室に似ている。衝立の向こうに机や医療器具、カーテン付きのベットが見える。

壁際には薬品や書類の入った棚が並び、漂う消毒液の香りに衛生観念はしっかりしていそうだと安心する。

奥の扉の先や二階が住居スペースなのだろう。階段が病院側にないということは

二階は完全にプライベートスペースで、手術室などの大掛かりな設備はないのだろう。

家主のキイチ先生の後に続き、奥の扉へと向かう。ああやっぱり、そのドア…

ガチャ…パタン

「失礼。間違えました」

               何今の部屋!?


ドアを開けたらすぐ壁の謎空間。

欠陥住宅?ドアを開けて一畳もない謎の小部屋は倉庫かとも思えるが、がらんどうでただ空間としてだけ存在していた。

え?他に奥に行くドアある?思わずキイチ先生を凝視してしまう。

ガッタガタ!ガツッ

先ほどの部屋を見られたことに動揺しているのか、踵を返した拍子に棚にぶつかり、大きくよけたせいで今度は衝立を倒しそうになるという

アクロバットな誘導をしていたので、並ぶ薬品棚の間で手をついた時も

大丈夫ですか?

といった感想を抱きながら生暖かく見守っていた

ガラリ

壁が横にスライドし奥へと続く通路がでてくるまでは

「こちらです」

スタスタとキイチ先生が先導し無言で皆ついていく


             いや、忍者屋敷かよ!!!


耐えろ僕!忍者が彼らにとっての謎ワードだったらまずい!

「当たり前ですよ、あなた忍者じゃないんですか?」なんてことになったらもっとまずい!!



この世界では相手の顔を見るのは失礼にあたるのだろうか?じっと見ると皆一様に顔をそらす。

でも僕が失礼だったかと目をそらすと視線が突き刺さるのだ。観察されている?スパイ疑惑か?

しかしキイチ先生の挙動不審にはすさまじいものがある。自分の家なのにやたら物にぶつかり、違うドアを開けてわたわたしている。

ドジっ子の医者って超怖い。


ようやく風呂場に到着したときキイチ先生は息を切らせていたが、どういう反応をすればいいのかわからず息をひそめていた僕も

疲労困憊状態だった。なんでヌイさんもシャルも平然としてられるの?これが普通なの?


脱衣場と洗い場がすりガラスで仕切られたお風呂場は日本でも馴染みのあるもので、使い方がわからないということはなさそうで安心する。


しかし中はシャワーがなく、浴槽に蓋、桶があるばかりで蛇口もない。当然給湯スイッチもない。

桶で浴槽の中に水をためてから加熱して温めるのだろうか?


空っぽの浴槽を眺めているとキイチ先生は浴槽に蓋をした


「?」


蓋を開けた次の瞬間

洗い場に湯気が立ちのぼる。

        「ええええええええええええええ!?」          しまったぁぁぁぁああああ!!


これがこの世界の常識なら、とんだ失態!!油断した!!無意識に自分の世界を上においていたからこういうことが起こるのだ!


結果的に僕の狼狽は杞憂に終わる。

僕より驚愕し、食いついた御仁がいたからだ。


「なにこれすごい!つかズルい!なにこれー良いなー良いなー!これさえあればお湯加減気にしてずっとついてたり、減ったお湯継ぎ足したりしなくていいわけじゃん、ずっるいこんなすごいお風呂!良いなー良いなー!薪割りも水汲みもしなくていいなんて!最後に入っても温くて少ないお湯に我慢しなくていいなんて!良いなー欲しいなーキイチ先生良いなー!!」


えらく所帯じみた切実な羨望を口にしながら浴槽を撫でまわし水面に手を差し入れて絶賛するシャルにドヤ顔を返すキイチ先生のメガネは真っ白に曇っていてマッドサイエンティスト染みていた。



    でもぉ、お高いんでしょ?そんな幻聴が聞こえてきそうな謎テンションである



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