二日目2
村長は僕に神父の地位をくれた。優しい
しかし、これに待ったをかけたのが味方だと思っていたヌイさんとキイチ先生である。
「タロウを拾ったのは俺だ。…面倒は俺が見る」
「村長!考え直してください!タロウは私が助手として面倒を見ます!育てます!」
味方だった。みんな優しい。
「うるせぇな。結婚したいって奴がでてきちまったんだ、仕方ねぇだろ」
わぁ、おめでたいですね!
すっごく面倒くさそうに村長は吐き捨てる。ツンデレってやつだ。
「教会がいつまでも寄こさねぇんだ。こっちで神父据えちまえ。互いに万々歳だろぉが」
なんだか昨日からずっと神父ワードが重要っぽく取り上げられてるな。
役所も兼ねてる感じ?
なるのに試験とかないのかな?地方公務員だよね。
「明日、中央の本部へ向かう。キイチ、坊やを運ぶ道具を用意しとけ。お前も申請期限超過してんだろ。そのまま作ってきちまえ」
「わ、私には結婚を誓った相手がいます!!」
へぇ、おめでたいですね!
「………お前もか」
またもや面倒くさそうに村長は吐き捨てる。結婚が重なるとおめでたいけどご祝儀とぶもんね。
「村長。この村の法はあんただ。自分の言葉に責任を持つべきだ」
ヌイさんがツンデレが過ぎる村長をたしなめた。
「所有者が現れなければ、だ。この間男め。いい報告を期待している」
「わかっている」
ま、間男!?おお、おめでたい?人妻とのイケナイ関係?
村長は略奪婚には愉快そうだ。あっこれツンデレじゃないね。
「タロウ、タロウは私と教会に行くんですよね」
「あ、はい!よろしくお願いします」
明日は中央の教会で試験か~落ちたらどうしよう~キイチ先生も心配そうだ。
話は決まったとばかりに村長から解散が告げられる。
「坊やは迎えが来るまで残んな」
こうして僕を残し、ヌイさんとキイチ先生は立ち去ってしまう。え、緊張するんだけど。
僕のすがるような目に哀れに思ったのか、神父(仮)の役職を与えられたからなのか
初めてヌイさんが頬へキスをしてくれた。群れの仲間として認められたぞ!
と、別れの挨拶を返す僕は喜色満面だ!…すぐに調子に乗るなとばかりにガブッとやられた…
言い争うヌイさんとキイチ先生の声が遠ざかる中
「儂に面倒さえかけなきゃ、好きにするがいい」
疲れたように吐き捨てると村長はそれっきり僕の相手をする気はなさそうだった。机に向かって書き物をしている。
目が見えないというけれど、動きにそんなことは感じさせない。
それが老化によるものではなく、その生活が長いのだと伺わせる後ろ姿。
…出来心でひとりチューチュートレインしてみたら、やかましい!と一喝された。
やはり気配か…!!
室内が薄暗いので太陽光を光源に出入り口近くに腰掛け、迎えとやらを待つ。
根掘り葉掘り聞かれずに済むというのは、ありがたい。
狭い室内を観察してみる。
土間がかまどやらを置いた台所スペースのようだ。向かいに一段高くなって板間。僕が腰かけてるとこだね。
板間の奥には敷物が敷かれて文机。その前に座る村長。隅に布と枕が寄せてある。時代劇みたいだ。
でも外に広がる村はレンガ造りの建物が主で、ちぐはぐさが余計にゲームの中の世界のような印象を与えていた。
帰りたいなぁ
元々インドアなのだ。大きな環境の変化は好きではない。
「帰るよ、タロウ」
しょんぼりしていた顔を上げると、日の光を浴びてキラキラしている金髪の少年
「シャルさん!」
「呼び捨てで良いよ。アンタ年上でしょ」
子供ぶるつもりであった名残である。今からでも13歳とかにできないかな。本心では働きたくないでござる。
「ね、どうなった?」
うーむ、答えづらい。現状たらいまわしになってるだけなんだよね。
とりあえず明日、神父になるために中央に行くことになったとだけ伝える。
「うん、今日から教会に住むんでしょ。それより、貴族?司教候補?」
?何の話だろう…僕の背後から辞書のように分厚い本が飛んでくる。
「従者が裏切り、連れてかれねぇよう隠れてなってとこだ」
「はア?何それ、そいつむっかつくんだけど!」
「最初の候補が退場したんだ。その後守った男と結ばれるのが王道だろぉが。それ持ってとっとと失せな」
「…ふぅん。あ、新刊。ありがとう、村長」
何の本?と尋ねると、出奔した王子の冒険譚だと返ってきた。
村長の家から追い払われる。シャルはネタバレ大丈夫派か。僕も推理物は後ろから読んで犯人わかったうえで読むよ。
興味を持つと、教会の孤児院には全巻揃ってるとのこと。
それだ!僕の設定に使えるんじゃないか!?本は他人の頭の中覗かせてもらうようなもんだし。
求むこの世界の常識!
僕の世界で教会といえば十字架、キリスト、マリアの像があるイメージだけれど。
この世界の教会には丸い球!何かの卵?磨き上げられてつやつやと輝いている。
どうしよう、意味が分からない。
「そ…村長さんから神父になる勉強しとけって言われたんだけどさ、入門書…とかってあるのかな?」
「神父様に?基本口伝だと思うよ」
えっそこは仏教なの!?
「前の神父様は、僕ら孤児の世話をしながら教会を整えて、人が来たら懺悔を聞いたり住民登録の手続きをしたり…かなぁ?」
ふわっとした情報だ。一般常識ではないなら、僕が知らなくても問題なさそう
「ま、懺悔なんて最後に「許します」って言えばいいじゃない?こんだけ人少ないと匿名も何もないから、誰も来ないと思うよ。書類なんかは神父様の部屋にそのままだから、見てみると良いよ。」
それより、こっち。と隣の孤児院に案内される。
「中央に行くのに、みっともない恰好じゃ恥ずかしいでしょ」
そうだね!学校ジャージで出歩けるのは近所のコンビニまでだよ!キャンプ地で、くっそ恥ずかしかったよ!
「僕に寄こされた服から、見繕おうか。あ~でも仕立て直した方が良いかな?採寸してもいい?」
衣装箱みたいなのが出てきた。服の寄付は豊富にくるんだって。それを仕立て直して売って小遣い稼ぎしたりって普通に仕事じゃん。
「このくらい誰でもできるよ。タロウが神父になったら僕も働きに出なきゃ。明日一緒に中央行ってもいい?行ったことないんだよね」
一人で都会に行くのって超怖いよね~。駅が迷路だったりさ~。だけどスタスタ歩かないといけないプレッシャー。
「シャルさんって幾つなの?」
「15」
やはり15で成人か。だから皆ハイスペックなのかな。
僕なんて17なのにあわよくば養ってもらえないかなんて甘い考えが抜けない。…あと5年待ってくれ。
採寸の為カカシになっていると、ドアの隙間からひそひそ声が聞こえてくる。
子供だ。たくさんの子供が覗いている…隙間の子供ってちょっとホラーだよね。思わず体がびくっとなった。
「新しい神父様に挨拶しな」
シャルの呼びかけにぞろぞろと入ってくる五人の子供達。うわー性別わかんない可愛さ。天使かよ。
黒髪で巻き髪の子、緑の長い髪の子、赤のくせ毛は双子かな。白髪のおかっぱの子と色とりどりだ。
口々に挨拶したり、話しかけてきたりで覚えられない。保育士さんってすごい…
「タロウです。よろしくね」
とりあえずの愛想笑い。みんなシャルの後ろに隠れてしまう。…うん。不審者対策もばっちりだね。
「照れてんだよ。名前覚えるまでチビで良いよ…呼ばれたい奴はちゃんとしなよ!」
わぁ~お兄ちゃんしてる~
ヌイさんとキイチ先生が見上げるほどの大男だったから、和む。サイズ感僕と同じから下の子ばっかり。
まぁシャルの方が背高いんだけど、僕だってこれから成長期で爆発的に背が伸び、痩せて筋肉まで付く可能性はなきにしもあらず。
服作るからガキ共のお守よろしく。とシャルが離れたところで作業し始めた。
孤児院は個室なんてなくて保育園とか幼稚園みたいな広い一室だ。
「…おれ、神父さま見たのはじめて」
一番小柄な白い子がぽつりと言う。男の子か~。名前だけじゃ性別わかんないんだよね。
男の子の相手って 怪獣だ~って攻撃してくるからあんまり好きじゃないんだけど、芸術品みたいにかわいい顔立ちの大人しい子たちに慕われるのは満更でもない。ふふふ、お兄さんが遊んであげよう!
な~んて優位に立ててたのはこの瞬間まで。
「ちょっと鍋温めてくる。お昼シチューだけど、いいよね?」
それなら僕がやるよ!と立候補。カルガモのようにお手伝いについてくる子供達。
「お昼からお肉あるのって珍しいんだ~」
「シャル兄、今日すごく機嫌良いの」
「ずっと鼻歌うたってた…」
そんな会話を台所で聞きながら僕は固まっていた。何…これ?…石?火打石ってやつだろうか…コンロは??
キイチ先生の家と違う。そんな動揺を見てとったのか黒髪の子がさっさと火をつけてくれる。
テーブルをさっきの広間に運ぶというが…重い…木でできている。双子の子が持って行ってくれる。
では食器を…土からできているのだろうか…重い。緑髪の子が持って行ってくれる。
……鍋が温まったようだ。
「俺が持ちますから、神父様はパンをお願いします」
「……はい。アリガトウゴザイマス」
「神父さま…どうやって生きてきたの?」
白い子の純粋な疑問が痛い…うぅ…プラスチックが恋しい。僕は無力だ。
子供の面倒を見るどころか、子供に面倒を見てもらう神父(仮)
その日は延々子供達と腕相撲や力比べをして遊ばれていた。
シャルは手縫いで作業しながら、片づけに子供の世話にせわしなく働いていた。なのに働いていないという。いやいやいや
それ本来僕(神父)の仕事でしょ、めっちゃ働いてんじゃん!お給料もらうべきだと思うな!
孤児院の夜は早い。小学生から幼稚園くらいの子供の生活なので下の子の就寝時間に合わせるように生活する。
しかし、僕らは大人である。僕とシャルは神父の部屋に場所を移して大人の時間を過ごしていた。
「倒しても倒しても雑魚が湧いてくるのが鬱陶しくて新天地を求め…ってとこで続いてたんだ」
「あ~雑魚戦とばしたいよね~ダレるのわかる」
「まぁ、王子が強すぎるからね。でも、この下僕が健気でさ!一人で生きていこうとする王子に必死になってついてくの」
「あ~相棒ものって良いよね~ちょっと憧れる」
「アスラ・ガーランド作品は自伝だから、実在したんだよ!この二人!」
ひゃーっと盛り上がるシャル。新刊をとても楽しみにしていたらしい。
「ガーランドって」
「そう、この国の王子らしいよ」
あっぶね。どこの国とか聞くとこだった。そうか、この国か…
愛する人を隣国に殺され皆殺しを誓うも、衝突を避けたい自国に殺されかけ出奔した王子が裏社会をのし上がり、目的を果たしたのち好き勝手に生きる冒険譚…
基本憎悪と殺意に満ちているお話の国の中心部へと明日向かうのか…
ハードボイルドすぎて僕の設定には使えないね…
ランプの灯りでしばらく本を読んでいたが、うつらうつらしだした頃ベットへと誘導される。
湯たんぽみたいなので温められていた…もうプロだよ…プロの執事とかだよ。
「そろそろ戻るね」
僕の眠気を覚まさないためだろう、声を潜めてシャルが言う。
あ、教会来てから全然挨拶してない…されてないからか
「おやすみなさい…シャルさん…キスしてください」
ベットに入り、座ったままシャルを見上げる。
キイチ先生から得た情報では背の高い者から行うって話だ。かがんでくれなきゃ届かないから当然っちゃ当然か。
つまり僕から挨拶できる相手は子供たちくらいで、明日の朝からはちゃんとしないと…大人として。
………
早くしてくれないと寝そうなんだけど…
「…あのさ、」
静かな声
「あのさ、タロウの過去がどんなだったかわかんないし…絶対ここより良い暮らしして…幸せだったかもしれないけどさ、」
夜ってちょっと相手が大人びて見える
「ここを選んでよ」
内緒話するように、密やかに 頬に触れた唇
「おやすみ…」
挨拶を返し忘れたことに気づいたのは、扉が閉められてからだった。




