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ボーンライフ  作者: ユキ
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コリア・シューの憂鬱②

「そして、最後に残った四天王の席には、兼ねてより候補として上がっており、今回の人族軍との戦闘でも多大な戦果を上げた彼に任せようと思う。



 1人で千の敵を打ち倒し、黒騎士と恐れられた男……



 ジン・ウォレットだ」


 魔王様の言葉に目の前が真っ暗になる。



 ジンさんが……四天王……?



 同じ旧ローレンの住民である人族にとって、ジンさんが四天王に選ばれる事は最高に喜ばしい事だ。


 例え魔王軍の正式な傘下に入ったとは言え、私たちは魔王軍の敵である人族と同じ種族。


 これまで魔王軍から差別など受けた事はないが、それでもその考えが自分たちを卑下させ、肩身の狭い思いをしてきたのは事実だった……。



 だけど……ジンさんが四天王になれば話は変わる。


 人族であるジンさんが魔王軍の最高幹部である四天王になったのなら、魔王軍では例え敵と同じ種族であろうと人種を問わず魔族と同じく扱って貰えると言う証明になるからだ。


 そうなれば、同じ人族である旧ローレンの街の住民たちは名実共に魔王軍の一員として胸を張って生活出来る事になる。



 つまり、ジンさんは今やボーンシティーに住む人族みんなの希望の星……。




 同じ旧ローレンの住民として嬉しいニュース……。



 誇りにすら思う……。



 それは……わかっている……。



 頭ではわかっているんだけど……。



 私の中の何かがそれを強く否定する。



 そんなのダメだと。



「私は……



 私は絶対に反対ですッ!!!」


 気付いた時には私の口から大きな否定の言葉が飛び出していた。


「ジンさんに四天王が務まる訳がありませんッ!! だって普段の彼を見て下さい!! あんなにもやる気のない態度でフラフラとしているだけじゃないですか!!!」



 違う……彼は人が見えない所で人一倍頑張って仕事をしているのを私は知っている。



「見た目だって髭も剃らずにいつも同じ服装で、とても四天王として人の上に立つ人の格好ではありません!!」



 髭はともかく、服装や防具は冒険者時代から愛用している一番動きやすい物で、どんな時でも最高のパフォーマンスを出す為だとボソッと言っていた。


 何より彼には見た目よりもその背中が全てを物語……圧倒的なオーラこそないが、自分も頑張らなくてはと周りを引っ張る何かがある。



「それに! 四天王は沢山の人から憧れる仕事ですが、ジンさんに憧れる要素なんて皆無じゃないですか!!」


 嘘だ……私は知ってる。

 彼のうちに秘めた男気に密かに憧れる人が多い事を……。



「何より四天王は魔王様の手足となり、時には強大な敵と戦わなくちゃいけないのに……ジンさんでは力不足です!! それどころか足手纏いです!! なんならフラフラしてるので簡単に怪我しちゃいます! もしかしたら、死んじゃう……かも、知れません……



 それに……それにッ!! ……ッ!」


 自分でも何を言いたいのかわからなくなった私は、思わず立ち上がり部屋を飛び出し駆け出した。


 ダメ!


 ジンさんが四天王なんて絶対ダメです!!



 訳もわからず走る私。



 後ろから聞こえる私を呼ぶ声も聞かずに、私はそのまま魔王城を飛び出して行った。



  *****



 外は既に真っ暗だった。


 それでもこの街には等間隔で街灯が整備されているので夜道を歩くのにも困らない。


 更には頻繁に見かける骸骨兵がこの街の見回りを昼夜問わずしてくれているので、この街では女性が夜遅くに出歩いても安心だ。


 ローレンの街だったら女性が夜遅くに歩いていたらほぼ確実に襲われていただろう……。


 こんな時でさえ魔王様の偉大さを実感する。



 王国から仲間たちを救い出してくれた時もそうだ。


 人族なんて使い捨てにされてもおかしくないのに、私たちの願いを聞き入れてくれて、危険を顧みずミルカさんだけでなくみんなも救出してくれた。


 お陰で捕えられていた仲間と、今では顔を合わせてはその時の事をバカ話のように話す事が出来る。



 彼らを残して命からがら逃げた時は口ではきっと戻ってくるなんて言ってはいたが、正直もう……助からない、と心の中では思っていた


 それだけに、彼らを助けてもらった今では感謝をするのは勿論、心の底から尊敬し、信頼している。




 そんな魔王様が選んだのだから、きっとジンさんは四天王として相応しい強さと器を持つと言う事なのだろう……。



 それでも……。



 ふと見上げると、いつの間にか見慣れる場所に来ていた。


 目の前には噴き出した水が街灯の光で煌く噴水。


 周りには色とりどりの花々が咲き誇り、綺麗に整備されてライトアップされた庭園がある。



「……綺麗」


 この街にこんな場所があったのか……。


「コリア、こんな所に居たのか」


 その美しい光景に思わず見惚れていると、突然私を呼ぶ声がしてビックリして振り返った。



「ッ!? ……ジン……さん」


「なに間抜けな顔してるんだよ」


「なっ!? 間抜けな顔なんてしてません! ビックリしただけです!」


 この人は全く! ……こんな時でも、平常運転だなぁ……。



「……そんな事より……こんな所まで私を追いかけにきてくれたんですか……?」


 薄らと期待の籠った質問……でも、私の知るジンさんがそんな期待に答えてくれる訳がない事はわかっている。


「そりゃアルスたちから追いかけなかったら殺すって勢いで追い出されたからなぁ」


 案の定、嘘をつくでもなくあっけらかんと言いのける彼……相変わらず女心が全くわかっていない。



「……どうせ私の事なんて、どうでも良いんですよね」


 無意識に出た自分の言葉で更に傷付く私の心。


 我ながらバカだなぁ……。



 しかし、そんな期待も意識もしていなかった独り言に、思いもよらない答えが返ってきた。


「いや、そんな事ないぞ? コリアは俺にとって大切な存在だからな。アルスたちに言われなくても追いかけてきたさ」


「えっ……」


 ジンさんからそんな言葉をかけられるなんて想像すらしていなかった私は、思わずポカーンと口を開けて固まる。



「またその顔間抜けな顔……。まったく、当然だろ。コリアとはここまで一緒に困難を乗り越えてきた仲間なんだから」


 そう言って子供のようにニカッと笑うジンさん……。


 その笑顔を見て、私はそこで初めて自分の気持ちに気付く。



 あぁ……私はジンさんが好きなんだ……と。



 自分の気持ちに気付いた事で、どうして私はさっきの会議で突然怒り出したのかも理解した。



 私は……怖かったのだ。



 ジンさんが、四天王と言う常に危険と隣り合わせの役職につく事で、死んでしまうのではないかと想像して。



 ジンさんを失う恐怖が形を変え、怒りと言う形であの場で爆発した……。



 そしてそれは、自分の気持ちに気付く事で薄れるどころか更に強くなり、膨れ上がってくる。



 ただ、今回は自分の気持ちに気付いた事で、純粋な恐怖として……。


 恐怖は濁流となり、私の抑えていた感情を押し出すように吐き出させた。



「……もです」


「お?」



「私にとってもジンさんは大切な存在なんですッ!!!」


 一度流れ出した感情は抑えも効かず、後から後から流れ出してくる。


「だから四天王なんて言う危険な役職につくのはやめて下さい!! 四天王なんかになったら危険な戦場に行かなくちゃいけなくなるのはもちろん、沢山の人から命を狙われる事になるんですよ!! そうなれば……そうなったらジンさんなんて簡単に殺されてしまうじゃないですか!!」



 私の頭の中にはある想像が思い浮かぶ。



 魔王様よりも強かったと言うミュートさんが倒された勇者に、ジンさんが立ち向かい……殺される姿を……。



 そんなの絶対に嫌!!



 でも……勇者は人族の敵である魔王様の元へ、必ず現れる。


 例え魔王様が対話を望んでいたとしても、人族にとって魔族は忌むべき存在だから……。


 私たちローレンの住民のように魔族と直接触れ合った訳でもない彼らが、その考えを簡単に変える訳がないもの……。


 その時四天王になったジンさんは魔王様と共に立ち向かわなくちゃいけない……。



 そうなれば想像は、現実のものとなるだろう……。



「なんだ、そんな事気にして怒ってたのか」


「なっ!? そんな事って!? 私がどれだけ……」


「そんな事だろ。別に危険なのは兵士の時も冒険者の時も一緒だったんだから四天王になったからって変わりゃしねぇよ」



 そう言われてハッとする。


 言われてみればそうだ。


 私のような事務仕事と違って、ジンさんは昔は冒険者、今は兵士と強力な魔物や凶悪な犯罪者相手に命と隣り合わせの仕事をして来たんだ。


 四天王になったからと言ってそれは変わらない……。



「それに、俺はそう簡単にはくたばらねぇからな。一緒に人族軍の追手から逃げ帰ったんだから知ってると思うが……俺は昔から、しぶとさだけは一級品だったんだぜ。危ない時はさっさとトンズラするさ」


 そう言ってイタズラっぽく笑うその笑顔がどこか私の心を安心させる。



「そう……ですね。確かにあの時は追手から逃げる為に雑草から何から食べられそうな物なら何でも食べたり、汚物を付けて迫る猟犬から匂いを誤魔化して隠れたり、常軌を逸した逃走っぷりでしたね」


「だろ?」



 ドヤ顔で言われても……それに付き合わされた怨みも込めて言ったんですけど。



 でも……そのお陰でこうして私たちは生きて帰ってこれた。



 ……何度も挫けそうになった私を必死に支え、励ましの言葉をかけてくれたから……。



 その事があったから、私はアナタの事を……。



「……ふぁあ、何でも良いからもう戻ろうぜ、眠くなっちまったよ」


 それまでの雰囲気をぶち壊すように大きな欠伸をするジンさん。


 相変わらず女心がわからない人だ。



「……はぁ」


 でも……それで逆に、それまで私の中に残っていた最後の怒りの感情がスッと抜け落ちた。


「そうですね……戻りましょうか」


「おう」


 私の言葉に踵を返してさっさと歩き出すジンさん。


 前を歩くジンさんの背中を見つめて思う。


 まったく……どうしてこの人は……


 こんなにも適当で……


 こんなにも頼りないのに……



 頼もしく感じるのだろう。



 そしてどうして私は……。



「ジンさん!」


「んあ?」






「好きです」



「へ……?」


 突然の私の告白に振り向きざまに固まるジンさん。



「ふふふ、なんですかその間抜けな顔」



「なっ!? ……お前!? まさかさっきのッ」


「何してるんですか。みんなが待ってるんですから、行きますよ」


「ちょっ!? 待てよ!」


 固まるジンさんを追い越し笑いながら駆け出す私に、慌ててジンさんは追いかけるように駆け出した。



 私の生まれて初めて告白。


 冗談みたいな形になっちゃったけど……今はこれで良いよね。


 だって今は、ジンさんとのこんな関係が幸せで……。



 大切だから。

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