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ボーンライフ  作者: ユキ
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コリア・シューの憂鬱①

「魔王様たちが帰ってくるらしいぞ!」


「いよいよ新しい四天王も決まったんじゃないか」


 私の執務室前の廊下から、部下たちのそんな話し声が聞こえてきた。



 やっと帰ってくる。


 私は部下たちの会話を聞き、気持ちが上がるのを感じる。


 しかし、何故……?


 ふとある人物の顔が思い浮かぶが頭を振りそれを否定する。


 そうだ。尊敬する魔王様が帰ってくるから嬉しいんだ! うん! きっとそう!



 コンコン。


 自分自身に言い訳をしていると、程なくして私の部屋の扉を叩く音がする。


「失礼しますコリア代表。先程グラス様より長距離念話にてワッフル公国での作戦を終え、これから帰還するとの知らせが入りました」


「そうですか……ありがとうございます。すぐに向かいます」


 私より年上の部下からもたらされた報告に平常心を装って答える。



 今は考えるはよそう。


 気持ちを切り替え、今まで進めていた書類仕事を一旦止めて急ぎ席を立つ。


 向かうは魔王様たちが戻られる転移の間だ。




 急ぎ転移の間に向かいながらも今後の事を考える。


 魔王様たちが戻られるという事は、新たな四天王が決まった可能性が高い。


 その場合、これから忙しいなるのは各関係部署とのやり取りを行い取りまとめる私たちだ。


 その事務官代表として魔王様たちより一刻も早く情報を受け取り、まとめてみんなと話し合わなくちゃいけない。



 そんな大変なこれからを思い、ふと考える。


 どうして私みたいな経験の浅い若造が代表など勤めているのだろう……。


 私なんかより代表に相応しい経験豊富な職員は沢山いるのに……。



 事務官は事務仕事だけすれば良いのではない。


 各部署の代表者、街の有力者などとの会合や魔王軍で決まった内容のすり合わせと言った対人的な事も大事な仕事なのだ。


 しかしそう言った上の立場の方が相手の場合、大概は私みたいな若輩者が代表だと知ると舐めてかかってくる。



 今までは見知った相手だと言う事と周りの仲間たちがフォローしてくれていたから何とかやってこれたけど……これからはこの街だけでなく、他の街や少数でも強力な力を持つ種族の族長と言った私たちを知らない魔族の代表者達相手に話し合わなければいけない。


 何故ならワッフル公国で四天王が見つかれば、私にはまだ知らされていないけど、既に四天王入りが確定しているもう1人も入れて四天王が4人揃うからだ。


 そうなれば魔王様の新魔王就任が世間に大々的に発表され、その結果多くの魔族の代表者たちが魔王様の庇護を求めてこの街にやってくる事になるだろう。



 その時、対応する事務官代表が、魔族の敵である人族でしかもこんな若輩者だったなら……。


 そんなの舐められてまともに話し合いなんか出来ないに決まっている……。



 それでもみんなは、私ならば大丈夫だと代表に押すからこれまで頑張ってきたけど……そんな怖い人たち相手にするなんて私にはとてもじゃないけど……無理だよ。



 これからの事を考えると急に体が重くなり、自然と歩みも遅くなる。



 自分の代表としての立場に自信が持てない……。



 私はこのまま代表を続けるべきなのか……。



 その時再び彼が思い浮かんだ。



 私と同じく旧ローレンの代表で、今ではこの街の警備大隊長を務める死んだ魚の目の彼。



 私と一緒で責任ある立場だから重圧も相当な筈なのに、いつものらりくらりとしていて、いつもやる気のない顔をしているのに、いざとなったら頼りになる人……。



 周りもそんな彼を普段は雑に扱っているけど、心の中では側から見ても信頼しているのが伝わってくる。



 不思議な存在……。



 私自身もそんな彼を信頼してしまっている……。



 この仕事に就職した初めての日、最初に彼と出会った時は信頼するどころか、あの風貌に不信感しかなかったのに……。



 そんか彼を思うと不思議と心が暖かくなり、先程まで感じていた重圧も軽くなる。



 その気持ちの正体が何なのか自分でもわからないけれど、今は彼を想い勇気を貰った事に感謝しつつ、再び軽くなった歩を進める。



 すぐに転移の間へと辿り着くとまもなく転移陣が輝き出し、光が止んだその場には魔王様たちが立っていた。



「お帰りなさいませ、魔王様」


 他にも集まった各部署の代表者たちを代表して出迎えの挨拶をする。


「ああ、出迎えご苦労。全員集まっているようなので、すぐに今回の報告をする。会議室に来てくれ」


 その言葉と共に颯爽と歩き出す魔王様に従い後に続く幹部と各部署の代表者たち。


 その中に彼を見つけて私はソッと後ろから近づき声をかける。



「お帰りなさい、ジンさん」



「……ん、あぁ」


 あれ? なんだか元気がない?


「……どうかしましたか? 元気がないようですが……」



「……いや、問題ない」


 心配する私の言葉にそれ以上踏み込まれまいと手を振り視線を晒して答えるジンさん。


 その行動に私の胸にズキッと痛みが走る。


 どうして教えてくれないのだろう……私には話せない事なのかなぁ……?



 その時私の横に大きな影が現れた。


「ジンちゃんはねぇ、ご執心のアイドル『トゥライト』の居るワッフル公国に残りたかったのを、私たちが無理やり連れ返らせたからいじけているのよぉ」


 あい……どる?


 アルスさんの言葉の意味はわからなかったけど、わかった事もある。


 ジンさんはワッフル公国で誰かに惹かれ、心を奪われたと言う事だ。



 ズキンッ!


 今度は先程よりも大きく襲う胸の痛みに思わず胸を抑えてその場でふらつく。



「大丈夫か!?」


 そんな私を咄嗟に支えてくれたのはジンさんだった。


 私を抱き、見つめてくるジンさんの目。


 普段は死んだ魚のような目なのに、こんな時だけ彼の目には優しげな光が宿っている。


 そんな彼に見つめられると途端に顔が熱くなり、鼓動が早くなるのを感じた。



「えっ……あっ……だ、大丈夫です!!」


 恥ずかしさのあまり逃げるように彼の腕から逃れる。



「どうしたコリア? 体調が悪いのか?」


「大丈夫?」


 そんな私の反応に魔王様や周りのみんなが心配して声をかけてくる。



「た、ただの立ち眩みですので大丈夫です! そんな事より早く向かいましょう!」


 そんな周りの視線に更に熱くなる顔を見られないよう顔を晒し、魔王様たちを追い越し先へと急ぐ。


 きっと今の私の顔は耳まで真っ赤だ。



 最近の私は一体どうしちゃったんだろう……。

 


  *****



「……と言う事で、ワッフル公国と人族軍との戦いはワッフル公国側の完全勝利で終わった訳だ」

 

 会議室に着く頃にはある程度落ち着きを取り戻す事が出来た私は、その後魔王様から話されるワッフル公国での戦いの結末に驚き、違う意味で心臓がドキドキしている。


 ワッフル側に負傷者はいても、死者は0……逆に人族軍はほぼ壊滅したと言う……。



 その結果に、改めて魔王様達の凄さを実感する。


 いくら魔族が人族よりも肉体的に優れていると言っても、10倍の戦力差がある中で1人の死者も出さずに戦闘に長けた人族兵たちを壊滅させるなんて普通ではあり得ない事だからだ。



 だけど、それでも魔王様はまだ自分は前魔王のミュートさんには遠く及ばないと言う……。



 そしてそんなミュートさんをも倒してしまう勇者の力って……。



 ブンブン。


 恐ろしい考えを振り解くように頭を振る。


 大丈夫だ! 魔王様ならそんな勇者すら倒す最強の魔王様になってくれる!


 それに頼もしい四天王の方々もいるし……。



「それとワッフル公国の国宝、ゴルズ・ワッフルの四天王勧誘の件だが……」


 ジャストタイミングで魔王様の話はワッフル公国へ行った本来の目的である四天王の勧誘についての報告になった。



「……残念ながら断られてしまった」


「えっ……」「そんな……」


 会議室に漏れ出る驚きと落胆の声。


 私も先程の悪い考えを打ち払ってくれる報告を期待していただけに、思わずガッカリして声が漏れてしまった。


 だって、鍛治師国宝ゴルズ・ワッフルと言えば、鍛治師としてだけでなく戦闘においても戦神として世に名を轟かせたドワーフの英雄だ。


 そんなゴルズさんが四天王入りしてくれれば今後の魔王軍にも拍車が付くと、この場にいる人たち全員が期待していただろう。


 どんよりした空気を察してか、魔王様は少し慌てた雰囲気を出しつつ言葉を続けた。



「だが……その代わりにゴルズの双子の孫であり、我らの協力で新しくワッフル公国のアイドル国宝となったアカリとヒカルと言う二人が四天王を勤めてくれる事になった」


 !? ザワザワ……。


 魔王様の思わぬ発言にざわめく会議室。


 あいどる国宝とはなんだ? や、ゴルズの孫? などその反応は様々だ。



 ……ん? 待って、あいどる? それってもしかしてジンさんが心奪われたって言う、あの?


 チクリ。


 再び私の胸を胸の痛みが襲う。


 先程からこれはいったい……。



「彼女たちは新たな称号、アイドル国宝となっただけでなく、更にその上……国宝たちの頂点であるビューティフルキングとなった。……そしてゴルズが敗れた元四天王……サイクロプスのサリーにも勝利している」


「サリー様に勝った!?」「国宝の頂点……」


 魔王様の言葉に会議室はどよめきたつ。



 それはそうだろう。

 全くのノーマークだった存在が突然現れ、今まで誰もなし得なかったワッフル公国の頂点に立ち、更には元四天王でもパワーだけなら前魔王様にも匹敵すると言われたサリー様に勝ったと言うのだから。


 まだ見ぬ尋常ならざる存在に驚くのも当然であり……そんな存在を見つけてくる魔王様の手腕に脱帽を隠し得ない。




 ……だけど、私の心に引っかかった言葉はそれではなかった。



 彼女……たち……。



「二人はゴルズの代わりとして申し分のない逸材だ。……だか二人はまだ若く、二人が揃った事で元四天王であるサリーを打ち倒す程の力を出せた事から、四天王としては二人で一つの席としようと思う」


 魔王様の話は続くが、今の私の頭はジンさんのご執心の相手が女性だと言う事実で埋め尽くされていてまったく入ってこない。



 つまり……ジンさんはアカリさんとヒカルさんと言う『女性』に心を奪われ……あろう事かその二人のいるワッフル公国に永住までしようとしたって言うの……?


 それってつまり……。



 ズキズキッ!!


 その事を思うと今までにない程の激しい痛みが胸を襲う。


 そんな中、悪い思考を振り払うべく現実に意識を向けた時、魔王様の口からトドメの一撃となる言葉が放たれた。



「そして、最後に残った四天王の席には、兼ねてより候補として上がっており、今回の人族軍との戦闘でも多大な戦果を上げた彼に任せようと思う。



 1人で千の敵を打ち倒し、黒騎士と恐れられた男……



 ジン・ウォレットだ」


 魔王様から呼ばれた人物……ジンさんの名に、私の目の前は一気に真っ暗になった。

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