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ボーンライフ  作者: ユキ
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友の夢

 生放送での演説から数週間。


 この魔王城には今、多くの来客が訪れている。


 演説を受け新魔王である俺に庇護を求める街や村、各部族を代表する者たちだ。


 これからの魔王軍を担う大切な傘下たちになるので、魔王の威厳を示すためにも魔王の間にて俺自らその挨拶に答えているのだが……なにぶんその人数が多い。



 魔族領は広大だが、人の住める場所もそこで住める人数も限られているので人族に比べては格段に少ない。


 だが、それでも大きな街は十数個、村でも数百個存在する。


 そして小さな……それこそ数人程度の親族のみと言った集まりもある部族ともなれば、その数は数千を超える。


 ここ最近は、そんな来客たちがひっきりなしに訪れ、その挨拶を受けるだけで1日が終わっている状態だ。




「お疲れ様です魔王様、本日の謁見は次の方で最後になります」


 俺を労いながらも間髪入れずに次々と謁見者を捌くコリア。


 俺の限界を見極め程よく休息も入れてくれるその仕事ぶりは、流石若くして事務官代表を勤めるだけはあると感心するばかりだが……俺の精神の限界ギリギリまで酷使させ、倒れる直前で休息を取らしてくれるが、回復すればすぐに限界まで働かされる……。


 それは、まさに拷問のそれだよね……。


 見た目の出来る秘書スタイルに反して中身は天然の可愛い女の子かと思いきや仕事中はその見た目そのままのドSっぷり……。


 コリア……なんて恐ろしい子!



 連日の拷問……もとい、激務に思わず遠い目をしていつものしょうもない考えに逃避していると、休む間もなく最後の謁見者が入室してきた。


 これが終われば帰れる……。


 しかし入ってきた人物を見て、思わず訝しげな視線を向けてしまう。



 コリアに呼ばれて入ってきた謁見者は、どう見ても5歳児程の小さな体に、目元まで深く被ったローブで体を隠しており、その姿を見る事が出来ないのだ。


 魔王の御前でそのような格好は本来許されない事だが……俺より有能な魔王軍の配下たちがそれを指摘しない訳がないよなぁ……。


 何か理由があるのか?



 そんな疑問を浮かべていると、ゆっくりと歩を進める謁見者に合わせて、それまで俺と共に謁見に立ち会っていた我が魔王軍の頭脳、参謀のリンが、謁見者の横へスーっと移動しその腕を取って補助をした。


 そのまま所定の場所まで進むと、謁見者と共に膝をつき頭を下げるリン。



「……頭を上げよ」


「ハッ! ……魔王様……本日最後の謁見者ですが、こちらの……」


 頭を上げたリンの説明に合わせてそれまでその姿を隠していたローブをゆっくりと脱ぎ出す謁見者。



 ローブを脱ぎ現れたその姿



 ……それは年老いたゴブリンの姿だった。



 その姿を見た俺には思い当たる人物がいる。


 それは……。



「まさか……」


「はい……私の娘、リブでございます」


 それは、冒険者によって殺されたリンの妻が自らの命と引き換えに守ったと言うリンの娘だった。



「……そうか……話はリンから聞いている……会えて嬉しいぞ」



 魔王軍参謀がリンは俺の親友だ。


 今は公の場なのでお互い改まった喋り方をしているが、プライベートではしょっちゃう一緒に飲んではバカ話をする仲であり、その時娘の話も良く聞いている。



 それこそ、冒険者に妻を殺され、その妻が命懸けで守った存在である事……。


 同じく生き残った姉の子で甥のダンと結婚し、今では孫までいるお婆ちゃんである事も……。



 それだけに感情移入も強く、思わず泣き出しそうな気持ちを抑えて何とか言葉を絞り出した自分を褒めてやりたい。



「勿体なきお言葉……感謝致します」


 深々と頭を下げるリブ。


 その声はしわがれ、体は全身皺くちゃでかなりの高齢である事がわかる。


 純粋なゴブリンであるリブは、進化して寿命が伸びたリンと違ってその寿命は短く、親であるリンよりも肉体年齢は既に上になってしまったのだ。



 それなら進化させれば良いのではとも思ったが、リン曰く。


「娘には戦いとは無縁の、安全で……幸せな生活を送って貰いたいのです。……それが例え親である私よりも早く死ぬ事になるのだとしても……」


 だそうだ……。


 妻や家族を冒険者に殺されたリンだからこその想いなのだろう。



 ゴブリンの短い寿命では、戦闘で魔素を取り込むでもしなければ進化に必要な魔素が溜まらない。


 ましてやリンの意向で何不自由なく安全を生活を送っているのなら、何らかの要因で例え体内に進化に必要な魔素が溜まったとしても、進化に必要な強い意思が湧かないだろう。


 それでは結局進化には至らない。



 進化をしなければ寿命は短いままで、親であるリンよりも早く死ぬ事になる。


 それでも殺された家族たちに変わって、娘にはしっかりと寿命をまっとうして生きて貰いたい……。


 そんなリンの強い思いや経緯も知っているからこそ、俺も心の底から彼女たちの幸せを願い……そして行動した。



「もう、移住の準備は整ったのだな」


「はい。家族の説得も済み、移住先となる()()()()も既に稼働させ、娘達家族が十分住める状態になっております」


「それは良かった。今後あの施設の管理はリンに全て任せる。自分たちの住みやすいように自由にやってくれて構わないからな」


「……ッ!? はい! ありがとうございます魔王様!! 私たちゴブリンだけでなく……全ての意思ある魔物が幸せに暮らせるユートピアに必ずやしてみせます!!」


 目元な涙を浮かべながら返事をしたリンは、そのまま一礼すると娘のリブを支えながら一緒に魔王の間を去って行く。


 きっと家族たちと共に一時の安らぎを味わいに向かったのだろう。



 リンもこれから大変だからな。



 ミュートの魔王時代から精力的に意思ある魔物の保護を続け……そうして集まった優に百を超える魔物たち。


 これまでは人里離れた森の奥地にひっそりと集落を作り暮らさせていたが、魔族領の人里離れた森ともなれば凶暴な魔物が多く生息し、また、人も必ずしも近づかない訳ではないので、そう言った危険と隣り合わせの暮らしだった。


 そんな魔物達の為に作った新たな住処となるあの施設を、これから管理しなくてはならないのだ。



 でも、例え大変だとしても、リンなら必ずやり遂げるだろう。



 それが彼の長年の夢だったのだから。



 意思ある魔物が幸せに暮らせる場所。



 試作賢者の石によってこの地に新しく作られた……()()()()()()()で。



  *****



「いやぁぁあ、ありがとうございますクリスぅぅぅ。お陰で長年の夢が叶いそうですぅぅぅ」


 目の前には珍しく自虐発言をせずに上機嫌でお酒を飲むリン。



「いや、何でいんだよ! 久々の家族水入らずの時間を味わうんじゃないのかよ!」


 そんなリンに思わずツッコむ俺。


 やっと仕事も終わり、リンの幸せな未来を肴にジンと酒を飲もうとなったのだが……何故かいきつけの酒場に向かうと既に飲んでいるリンが居た。


 しかも一人で。



「だって……たまにしか顔を合わせないからか、ひ孫に……『このおじちゃんだれ?』って言われたんですよ! 家族の為にこんなにも頑張っているのにぃぃぃいい!! どうせ私なんてお金だけ稼いでくればいい存在なんですよぉぉおお!!」


 ……結局こうなるのね。


 まぁ、もう自虐話の無いリンなんてリンじゃないから、この方が落ち着くんだけどさ。



「んな事どうでも良いから飲もうぜ! ほら」


「私にとってはどうでも良くありません!? あっ、こら! そんな入れたら溢れる……ゴクゴク……プハァァ……あぁ〜おさけサイコォォオオ!!」


 うん、ナイスだジン! こう言う時は飲むに限るね!




「いずれにしてもぉ〜、くりすぅ……ほんどおに、ありがとうございましだぁ〜」


 呂律の回らない間延びした酔っ払い特有の話し方で突然お礼を言われてもなぁ。



「くりすのおかげでぇ……やっっっと! かぞくに安住の地をあげられそうですぅ」


 まったく、この酔っ払いは……。



「お礼ならグラスに言ってくれ。あの人がローレンのダンジョンで手に入れた試作賢者の石を解析し、複製まで成功してくれたお陰で、ああして人工ダンジョンを作る事か出来たのだから」


「そうですねぇ……あの方はほんっっとうに! すごいかたですねぇ」


 そりゃねぇ……試作品とは言え、賢者の石の複製を作り出すとか、世紀に残る偉業だろう。



「やっぱりクリスじゃなくて、グラスが魔王になった方がよかったんじゃないか?」


 ジンの何気ない言葉が俺の心に刺さる。


 それは俺が普段から思っている事です。



 そりゃねぇ、グラスは真態だけど俺なんかより頭もよく、片腕を失ったと言え俺なんかよりも格段に強い。


 そんなグラスが魔王になった方が、誰にとっても良いに決まってるじゃないか……。



「いいえ〜、わたしはくりすがまおうでよかったです!!」


 そんな俺の思いを打ち消すように、リンは目を虚にしながらも俺が魔王で良いと強く肯定してくれた。



「くりすだからこそぉ、わたしたちのためにぃ、ヒック……ここまでじんりょくして、くれたんですぅ。……わたじのがぞくもかんしゃして、ますッ!!」


「まぁな……それにクリスが魔王のが毎日楽しいもんな」


 リン……ジン……。



「……そ、そんな事よりもリン! お前はこれから参謀の仕事以外に人工ダンジョンの管理って言う大事な仕事もあるんだぞ! 大丈夫なのか!?」


 二人の信頼に思わず照れ臭くなり話題を変える。


 そんな俺に二人はニヤリと嫌な笑みを向けてくる。


 ……コイツらワザとだな!



「大丈夫です! わたしを誰だと思っているんですか! 最高のダンジョンにしてみせますよ!」


 おっ、珍しく酒が回っているのに強気な発言だな。


「それが例え、家族に……忘れ……さられようとともぉぅぅ! ヴッ!? オボロロロぉぉ」


「うわぁ!? コイツ吐きやがった!? 汚えな!!」


 と思ったのも一瞬でした。


 結局最後は自虐話になった上、興奮して立ち上がったものだから、一気な酔いが回って吐き出した。


 結局締まらない連中である。



 まぁ、こんな時間が好きなんだけどな。



 その後は店員に謝りつつ多めのチップを払って片付けてもらい、再び日が変わるまでこの幸せな時間を味わいつつ飲み明かしたのだった。

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