魔王演説
旧魔王城の城下町。
ザワザワザワザワ。
人々の集まる大きな広場。
そこにはとても大きな箱の形の真っ黒なガラスが設置されている。
今日は魔王軍からお達しがあり、参加できる者は全てこの街の数箇所に設置された、もにたー?なる物の前に集まるように言われているのだ。
魔王が勇者により殺されて以降、魔族達の暮らす環境は荒れるかに思われたがそうはならず、残った魔王軍たちの助力もあり以前よりは劣るものの、それでも何とか平和を保ってこれた。
そんな魔王軍からのお達しなので住民も素直に従い、多くの魔族がこの広場にも集まっている。
近頃は自らの力に自信のある者達が、次の魔王になろうと乗り出し、これまで魔王軍により何とか守られていた平和も脅かされつつあった。
弱肉強食の魔族の世界では仕方ない事だが、力無い者達は皆怖がり、不安が募る日々を送っている。
そこへ来てこの発表だ。
その為この広場では今回の召集の話題で持ちきりで、様々な憶測が飛び交っている。
やれ遂に新しい魔王が決まったのでは? や、魔王軍が解体され混沌の時代になるのではなど良い話から悪い話までその内容は様々だ。
一体今日はどんな話がされるのだろうか……。
ジジジジ……。
その時突然広場に設置された大きなガラスが光出し、そこに精巧な絵が映し出された。
ドヨドヨドヨ。
そのあまりにも現実の光景と変わらない精巧な絵が突然現れた事にどよめく人々。
しかし次の瞬間その絵が突然変わり、また別の絵を映し出す事で更にどよめきは広がった。
技術的に進歩しているドワーフの国以外、まだテレビなど知らない者が殆どのこの世界の住民からしたら、それが別の場所をリアルタイムに映し出した物などとは到底思い付きもしないのだ。
なぜなら、先程から映し出される映像には動いている人はおらず、皆真っ直ぐ前を向き佇んでいるだけだから。
更にアカリとヒカルの愛らしい姿や、アルスの普段見ないような個性的な姿が映し出される事で、更にそれが映像ではなく、絵画だと言う認識にしかならなかった。
しかし、また次の映像が映し出された事で、その精巧さに感心して見ていた者達に動揺が走る。
突然絵に映し出された扉が開き、そこから頭に黒いツノを生やした一体の大きな骸骨兵と、骸骨兵に従うように美しい女性が現れたからだ。
更に二人が現れると先程まで絵だと思われていた者達が一斉に頭を下げる。
それにより、広場の人たちにも今まで見ていたものが絵ではなく現実の光景で、この骸骨兵が高位の存在である事が否応なしに理解出来た。
頭を下げる者達の間を真っ赤なカーペットにそってゆっくりと歩を進めるツノの生えた骸骨兵と美しい女性。
人々はその映像に映るあまりにも豪華な部屋の背景と、その中を優雅に歩く骸骨兵に思わず息を呑み静まり返る。
そして骸骨兵が一段高いフロアに上がる階段の手前まで来ると、それまで後ろに付き従っていた美しい女性が横に捌けた。
それはまるで、ここより壇上は上位の存在しか上がれない特別な場所だと示すように。
そんな特別な場所に足を踏み入れる骸骨兵。
その先には広場の者たちが今まで見た事無い程豪華で、大きく威厳のある椅子が一つ置かれている。
更にその場を飾り立てるように、その豪華な椅子の横には先程の女性にも負けず劣らずの絶世の美女が一人、見る者を一瞬で虜にするような魅惑の微笑みを浮かべて立っていた。
その微笑みが向けられる者……それは、やはり先程の骸骨兵で、それがまたその骸骨兵が特別なのだと見るものに知らしめた。
ここまでくれば広場の者たちにも、彼が誰で……その豪華な椅子に誰が座るのかなど一目瞭然だった。
さも当然のようにその椅子へと座る骸骨兵。
その姿は他の骸骨兵と対して変わらない筈なのに、ここまでの歩みと周りの反応で、まるで後光がさして見える程神々しく、威厳がある姿に見える。
そのまま勿体ぶるように静かな時間が流れるが、人々がその神々しさに恐縮し、誰も言葉を発しない。
その間にも広場に設置された映像は切り替わり、その部屋に集まる者達の姿を映し出す。
しかし、ある人物の映像が映し出されると、広場に微かな笑いが起きた。
壇上の前に並び位が高いと思われる5人の内三、四十代程の見た目をした普通の見た目の男性の時だ。
緩み切った表情で小さく愛らしい姿の少女たちを見続けるおじさんの姿は、それまで緊張していたこの場の空気を一瞬でかき消す。
更に次に映し出された女性が強張った表情でガタガタ震えている姿は広場の人々の心を和ませ柔らかなものにした。
ここに映し出された人たちは、どこか別の世界……高位の存在かもしれないと認識し始めた所に、自分たちとさして変わらない普通の反応の二人が映し出された事で、そこに居る方たちは自分たちと同じ人なのだと思えたからだ。
そんな中、再び映像があの骸骨兵へと切り替わると、場が和むのを待っていたたばかりにようやくその口を開いた。
『これを見ている諸君、初めまして。私はクリス十六世……先代魔王ドラミュートより託された、君たちの新たな魔王だ』
ザワザワザワザワ。
いきなり自らを魔王と名乗った骸骨兵改め魔王クリス十六世。
一連の流れから魔王である事はこの場にいる殆どの者が薄々気付いていたが、勇者に倒された先代魔王より託されたと言う言葉に多くの者が驚いた。
いや、歓喜したと言った方が適切だろう。
あのドラミュート様がと口々に話、喜び合う人々の多い事……。
それだけ先代魔王ドラミュート様は人々から絶大な支持を得ていたのだ。
それはそうだろう。
勇者によって先先代魔王が倒され荒れ果ててしまった当時の魔族領を、たった十年で人族領に進行出来るほどまでに立て直したお方なのだから。
この荒廃した魔族領でそれを成し遂げる……それはここに住む人々ならどれだけ尋常では無い偉業かすぐに理解出来る。
しかも善政により、軍だけでなく国民の生活も今の豊かな水準まで高めてくれたのだから、本当に偉大なお方だ。
極め付けはその強さも歴代の魔王の中でも一二を争う程だと言うのだから、強さが全てのこの魔族領で今だに絶対な支持を得ているのも頷ける。
それだけに、勇者に倒されたと知らされた時の当時の国民の絶望は計り知れないものがあった。
それが今、そのドラミュート様に魔王の座を託されたと語る存在が現れたのだ。
別の場所を映し出す未知の技術。
細部まで作り込まれて芸術品のような部屋。
絵画の中の存在のような絶世の美女を従わせて多くの臣下を従わせてそんな中を歩く存在。
それだけで、彼の言葉が信じるに値すると思わせるには十分だった。
ドラミュート様に魔王を託された……すなわち魔王としてドラミュート様の正式な後継者と言う事。
その事実が否応なしにも人々の気持ちを高揚させる。
『そしてここにいる4人が私の四天王たちだ』
魔王クリスの説明に合わせて映し出される四天王たち。
ミルカ、アカリ、ヒカルと呼ばれた三人の少女たちがが映し出されるとその愛らしい容姿にほっこりし、アルスと呼ばれた化け物のようなお方の人間離れした姿に息を呑み、ジンと呼ばれた男性の間抜けな様子に笑いが起きる。
全体的に頼りない感じはあるが、その後それぞれが戦う姿が映し出された事で、その圧倒的な力にジンによって起きた笑いは止み、全ての映像が流れ終わったあと、会場は静まり返っていた。
『この者たちが私の手足となり、この場にいる優秀な臣下たちと共にこれからの魔王軍を盛り上げて行く事となる』
これほどの方達が新たな魔王を支え、自分たちの上に立つ……それは頼もしい事だが、同時に一抹の不安にも繋がった。
弱肉強食のこの世界では、強者は何をしても許される。
それはつまり、これほどの強者たちなら簡単な話、弱者である自分たちに死ねと命じれば逆らう事も出来ないからだ。
しかし、次の魔王クリスの言葉にそんな不安は吹き飛んだ。
『私は前魔王ドラミュートより魔王の座を託された者として、その意思を継ぎ……弱者を軽視するのではなく、強者が戒めとする真の弱肉強食の考えの元、祭り事を進めて行こうと考えている』
再び歓喜の声で溢れる広場。
ドラミュート様の政策がどれだけ素晴らしいものが身をもって知っている国民たちにはそれだけ喜ばしい知らせだった。
ただ、クリス様の話はそこで終わらなかった。
『しかし、その対象は魔族だけではない。魔族はもちろん……意思のある魔物や……敵対している人族でさえ、我々魔族に友好的な者なら、対話はもちろん、我の庇護化に入れていくつもりだ』
「なっ!?」
「魔物や人族もだって!?」
「そんなの無理に決まっているじゃない!」
魔王クリスの言葉に再びざわめく広場の者達。
『混乱するのも当然だろう……魔物は理性を持たない危険な存在で、人族は突然我々を裏切った汚い存在だ。しかし……見てもらってわかる通り、私は骸骨兵……魔物だ』
その言葉でハッと思い出したように静まり返る広場。
そうだった。
目の前で話している魔王と名乗る者こそ、理性を持たないと言われる魔物ではないか。
『正確には骸骨兵から進化した骸骨将軍だが……それでも魔物に代わりない。そして私の仲間にも同じように魔物がいる』
魔王クリスがそう言うと、仮面を被った一人の人物が映し出された。
あの白い仮面には見覚えがある。
確か前魔王ドラミュート様の配下で参謀を勤めていたリン様だ。
そのリン様は徐に仮面に手をかけると仮面を外し、今まで一切見せる事のなかったその素顔を表に出す。
固唾ん飲んで見守る国民たちのその目には、自分たちも何度となく遭遇し、倒してきた特徴的な顔……ゴブリンの姿が映った。
『彼はゴブリンキングの魔物だ。しかし、知っている者もいるかと思うが、前魔王ドラミュートの頃より魔王軍にてそのずば抜けた策略で魔王軍に多くの勝利をもたらした参謀でもある。そして……』
そう言って次に映し出された方達は、先程まで震えていたが、今は意思の込もった瞳で真っ直ぐ前を向く女性と、四天王のジン・ウォレットと紹介された、先程から小さな四天王の双子を見ている男性だった。
『彼らは旧ローレンの住人で今は私の元で働いている人族たちだ』
ザワザワザワザワ。
今までで一番の大きなざわめきが広場に広がる。
それはそうだろう。
仮にも敵である人族が魔王軍の主要メンバーに入っている上、最重要職である四天王にまで名を連ねているからだ。
『不満がある者も多いだろう……しかし、四天王であるジンは先日のドワーフの国であるワッフル公国と人族との戦いでワッフル公国側に付き、1000人もの人族兵をたった1人で倒してみせた黒騎士と恐れられた存在だ』
「黒騎士!?」
「あの人族が……」
黒騎士……既にその人物の噂はその強さと戦果と共にこの街まで届いており、その名が出るだけでどよめきが起こるほどだった。
すると目の前に映し出されたジンと言う男の腕輪が一瞬光ると、次の瞬間黒い液体のような物が彼を包み込み、瞬く間に噂に聞いた全身黒い鎧姿に変わっていた。
「本物だ……」
それにより更に広がるどよめき。
『一見頼りないように見えるが、その正体はこの通りだ……そして噂で、流れている事も事実。黒騎士の実績こそが私たちの味方である証拠で、その強さが四天王として採用した理由になる』
その言葉に誰も反論する者はいなかった。
魔族にとって強さとはこの世界で生きて行く上で絶対的なものだからだ。
『私はこれから魔王として、君たちに新たな未来を示して行く。
……魔族も
……魔物も
……人族でさえ協力し、共に歩んで行く未来をだ!!』
何と力強く……眩しい言葉だ。
それが出来るのなら、もう何も心配せずに生きていける。
それはとても難しい事なのだが……既にこの魔王様はそれを実践している。
この魔王様ならもしかしたらそんな未来が……。
『私と共に行こう!! 誰もが幸せな未来へ!!!
私と作ろう!! 誰もが笑い合える世界を!!!』
心が震えた。
そして一瞬だが、そんな未来が見えた気がした。
それは自分だけではなかったようだ。
その証拠に……。
「「「うおおおおおおぉぉぉぉおおおおお」」」
この演説を見た多くの者が、新たな魔王の想いに賛同し、大声を上げた。
この知らせは、演説が見られなかった魔族領の各地にも書面として瞬く間に広がり、近日中に魔族領全体に知れ渡る事となった。
これにより、魔王クリス十六世と言う名は魔族領で知らない者はいない名となり、魔王クリス十六世の新たな魔王軍が動き出したのだった。




