ワッフル公国との会合①
人族軍との戦闘から二度目の戦勝会を果て、戦後処理なども大方片付き数日が立った現在、魔王軍より呼び寄せたリンとグラスがワッフル公国へ到着して早々に、ワッフル公国の国宝やトゥライトファンクラブのクロッソたち、そしてこの国の重鎮と思われるドワーフたちと今後の対応についての会合を行う事となった。
議題はワッフル公国の今後についてだ。
人族軍との戦争を選んだワッフル公国は今後、ヤマト王国とは敵対関係になる。
幸い今回の大勝利もあり、すぐに人族軍が攻めて来る事はないだろうと言うのが共通の認識だが、あの人族たちだ……いずれは汚名を返上する為、必ず攻めてくるだろう。
それこそ下手をすれば全軍をもって……。
その時、ワッフル公国だけで本気を出した人族軍に対抗するのは明らかに不可能だ。
兵力の差も歴然だが……何よりもヤマト王国にはアイツがいる。
一人で万どころか十万以上の兵士にも匹敵する強さを持つ男。
変態を超えた真態すら超える変態。
神態こと勇者だ。
と言う事で、白羽の矢が立ったのが、今回の戦いで大活躍した我々魔王軍だ。
建国以来中立を保っていたワッフル公国が、今後は敵対国家となったヤマト王国への武具の輸出を全面的に禁止し、魔族のみに武具の輸出をすると言うかつて無い方針転換に立ち会う事となった。
その代わり我々魔王軍は友好国として有事の際は助けに入る。
互いがヤマト王国を敵とする利害関係により結ばれた関係。
最初はそんな流れで話がまとまると思ってました。
しかし蓋を開けてみれば、なんとワッフル公国は魔王である俺の傘下に加わると言うではないか。
こちらとしては願っても無い事だが……本当にそれで良いのだろうか?
だって魔王って言っても俺は、未だ新たな魔王として公表してない……言うなれば魔王(仮)だよ?
ボーンシティって言う拠点はあるけど国を成してる訳ではないし……それなのに仮にも国を名乗っているワッフル公国が俺たちの傘下って……。
「良いんじゃない。傘下に入るって言っても師匠が魔王として正式に声明を発表するまではここだけの話なんだし……魔王として正式に就任しちゃえば魔族の王なんだから、一種族の国が傘下に加わっても何の不思議もないでしょ」
と話すのはグラスだ。
グラスに続きリンやミュートと言った魔王軍の頭脳担当もその意見に同意した為、こちらとしては何の反論もありません。
ただ、今後の為にも早く新しい四天王見つけないと言うプレッシャーが増すばかりだった。
と、そうだ。
四天王と言えばジンにも今回の実績で正式に四天王になってもらわないとな。
とりあえず話は魔王である俺を他所にある程度魔王軍の頭脳担当たちが纏めてくれているので、戦力外である俺は、俺と同じくこう言った場では戦力外のジンに視線を向ける。
いつものジンなら、こう言った重要な場でもいつも通りの死んだ魚の目で欠伸などしている男だが……今日のジンは様子が違った。
キリッと正気の感じられる目に髭は綺麗に剃られ、髪も服装もビジッとセットされているのだ。
場も場なので「いや、誰だよ!」とツッコミたくなる気持ちをグッと抑える。
急にどうしたんだ……なんてのは聞くまでもないだろう。
ジンの見つめるその先には、ワッフル公国の新たな国宝で、国宝たちの頂点となったトゥライトの二人がいるのだから。
大ファンの二人を前に良い格好しようとしてるんだろうけど……既にいつものダラシないお前を見られているから手遅れじゃないか?
と思ったが、そうでもないらしい……。
先程から、ヒカルたんがそんなジンをチラチラと見ては頬を赤く染めている。
何その反応……メッサ萌えるんですけど!
その反応がまた初々しくて可愛いので、ついそのまま観察してしまう。
マジでいつまでも見られるから不思議だ。
そんな事をしていると、いつの間にかある程度会議が纏まったようで、ドワーフの重鎮の一人が魔王である俺に恐る恐ると言った感じでお伺いを立ててきた。
「……と言う事で魔王様……このような大枠でよろしいでしょうか?」
「……あぁ、それで行こう」
正直ヒカルたんの愛らしさに見惚れて全然聞いていませんでした! とは言えないので、ここは魔王軍の頭脳を信頼して了承しておく。
マジで俺って魔王(仮)でした。
その後順調に細かい内容も詰められ、話し合いは終わりを迎える。
このままだとマジで役立たずだなぁ……。
そうだ! せっかくワッフル公国の国宝が全員集まってる訳だし、ゴルズさんも含めてダメ元で四天王に勧誘してみるか。
ゴルズさんはもちろん、実力は落ちるが髭国宝であるカロッソや筋肉国宝であるローソも知名度と実力を待ち合わせて候補としては悪くない。
うん! 良い案かもしれない! せめて少しでも魔王として仕事をせねば!
よし、そうと決まれば当たって砕けろだ!
「話し合いもある程度決まった事だし、ここで俺から提案があるんだが……いいか?」
今まで黙り込んでいた俺が急に発言した事で、場に静けさが訪れる。
と言うよりも、何だがワッフル公国の面々が緊張した表情で見てくる。
先程といい……はて? 俺、何かしたっけ?
「……皆さん先日の魔王様のお力を間近で見て、その強さに萎縮しているのです」
俺の心の中の疑問に答えてくれたのは後ろに控えていたルナーレだった。
それは良いのだが、スッと耳元に口を近づけて小声で答えてくれた後に、わざと息を吹きかけるのはやめて欲しい。
まぁ、何はともあれ……成程、確かにただでさえ小さなドワーフたちからしたら、10メートルを超える身長の骸骨ってだけでも圧倒されるのに、そんな骸骨が何体も現れ、自分たちを苦しめていた敵を糸も容易く蹂躙する姿は畏怖されてもしょうがないだろう。
そして、そのせいで萎縮しちゃってると……。
いや、話しずらいから勘弁して欲しい!
確かに俺の力でもあるけど、敵を蹂躙した巨骨兵の殆どはミルカの幻術だからね!
そんな俺の心の中の叫びは、こんな時だけ伝わる事もなく……いつまでも喋らない俺の様子に何か自分たちがやらかしたのかと、だんだんと顔面蒼白になり冷や汗をかきだすワッフル公国の重鎮たち。
その様子に心で泣いた。
魔王になってから、親しい仲間以外の前ではなるべく魔王として振る舞うようにしているが、こんな弊害があるとは……。
心は一般庶民である俺には厳しいものがあります。
それに、こんな時どう対応すれば良いのか思い浮かばない。
ええい、もう知るか!!
こうなりゃこのまま魔王としての威厳を持って聞くまでだ!
どうにもならない状況に、何故か変なスイッチが入った俺。
「……俺がこの国に来た本来の目的は、ゴルズに俺の四天王を勤めてもらえないか頼む為だ。……改めて聞くがゴルズ……俺の四天王になるつもりはないか?」
威厳たっぷりに聞いたつもりのその言葉と共にゴルズに視線をやるが、流石に他の国宝や重鎮たちと違い、緊張した様子もなく俺の顔をジッと見つめ、それどころかニッコリと微笑んだ。
……何だが見透かされているようで恥ずかしい。
「孫たちを助けて頂いただけじゃなく、この国まで救って頂いて感謝もしているし、そんな魔王様にお誘いいただけるのはありがたい話……なんじゃが。元四天王のサリーに負けるようなワシじゃ、魔王様の四天王は勤まりません。それに……これからこの国のトップとして頑張って行かなきゃならん孫たちの為にも、ワシは近くで支えてやりたいんじゃ……」
とのお断りの言葉。
ニッコリ笑うものだからもしかしたら……何て思ったが、予想通り断られてしまった。
先程の事もあり、まだ恥ずかしい気持ちはあるが、ここで折れてなるものか!
ゴルズさんがダメなら他の国宝たちだ!
「そうか……残念だが、孫の為頑張ってくれ。……カロッソ、ローソ、お前たちもなかなかの実力者だ。どうだ……俺の四天王になるつもりはないか?」
言ったぁ!! 頑張ったぞ俺ぇぇえ!!
「お、おお、オレたちが魔王様の四天王に!? め、滅相もございません!! オレたちなんてゴンズの強さに遠く及ばないミジンコ以下の存在ですから!!」
「ええ、ええ! ゴンズの言う通りですわ! わたくしとゴンズでは、魔王様の四天王などと言う大役……とてもとても務まりません!!」
全力で拒否られた……。
いくら俺が恐ろしいからって、そんなに拒否らなくても……。
マジで泣きそう……。
骸骨だから涙は出ないけど……。
「……結局今回俺の新しい四天王になったのはジンだけか……」
国宝たちの言葉にショックを受けたせいで思わず溢れた呟き。
しかしそれはある人物の耳に届き
あろう事か両断される。
「えっ? いや……俺は四天王なんてやらねぇよ?」
「「「……ハァ!?」」」
まさかのジン本人からの否定の言葉。
その思いもよらない言葉に俺だけでなく、仲間からも一斉に驚きの声が上げる。
なんだかんだでみんな、ジンならやってくれると勝手に思い込んでいたからだ。
「俺はこれからこのワッフル公国で、トゥライトの親衛隊として生きて行くから、お前たちには悪いけど四天王とかやってる暇はないんだわ」
何ともなしに答えるジン。
……何言ってんだコイツ。
それが俺たちの総意だった。
親衛隊として生きて行くって、ようはガチのアイドルオタクになるって事だろ?
仕事もせずに追っ掛けって……どう生活して行くつもりなんだ……。
トゥライトと言う、神にも等しい信仰対象に出会った事で周りも見えなくなったジン。
そんなアホな親友を何とか説得しようと言葉を選んでいると、思わぬ所から横槍が入る。
「ぉお! あの黒騎士が我が国のビューティフルキングたちの親衛隊を勤めていただけるのですか!? それは何と心強い!! それならば是非、親衛隊長として正式にお二人を守って頂きたい!!」
自称親衛隊のニート希望がまさかの本物の親衛隊にスカウトされたぁ!? しかも隊長ぉ!?
そんなのジンにとって願ってもない誘いじゃないか!!
なんせ本物の親衛隊ならトゥライトのすぐ近くで常に一緒に行動する事になるのだから……。
「はい!! 喜んで!!!」
案の定、今まで見た事ない程の笑顔で二つ返事の了承をするジン。
「なっ!? ジンおじさん本当にそれで良いの!? クリスお兄様とは親友なんでしゃ!?」
そんなジンにミルカは驚愕の表情で問いかけた。
他の仲間も同じ考えのようで、心配した表情でミルカの言葉に頷いている。
でも……。
「ミルカ……良いんだ」
「えっ……でも……」
俺の思いもよらぬ言葉に戸惑い言い淀むミルカに再び語りかける。
「良いんだミルカ……他のみんなも……それがジンが望んだ事なんだから」
ジンとは普段からアホな事ばっかりやって、喧嘩もしょっちゅうするような間柄だ。
……でも、いがみ合っても結局は、最後一緒に楽しく酒を飲み合える……親友なんだ。
本音を言えば四天王として俺を側で支えて欲しい……。
だけど、それ以上にジンには幸せになって貰いたい。
せっかくジンが自ら望み……更に新たな場所のみんなからも歓迎されているんだ……。
それなら俺はただジンの幸せを願って送り出すだけだ。
「……」
俺の気持ちが伝わったようで、それ以上何も言わなくなったミルカ。
他の仲間も不満はあるだろうが納得してくれた表情に変わる。
「ジン……俺たちの元を自ら去ると決めたのだから……戻ってくる事は許さないからな」
「あぁ……わかってる」
「なら良い……
頑張れよ」
俺たちの友情に周りで見守っていた仲間たちの目に薄らと涙が浮かぶ。
これで良いんだ……これで。
だが、溢れ出しそうな涙を堪え、何とか自分を納得させているその時。
例の子から爆弾発言が投げられた。
「魔王様! それなら僕を……僕を魔王様の四天王にして下さい!!」




