お寿司と花火
「ク〜ちゃん、疲れたぁ〜〜〜!」
面会が終わり隣の部屋へと戻ると、ルカは無言でクーちゃんのぬいぐるみを俺に差し出してきたので、いろいろ察した俺は何も言わずクーちゃんのぬいぐるみを着ると、後ろのチャックも閉めていないのに待ちきれずにルカが抱きついて来た。
「もうヤダー、知らない人と会いたくない! 話したくない〜!」
そのまま愚痴るルカ、やはりかなり無理をしていたのだろう。
「良く頑張ったな」
抱き付かれて甘い香りと柔らかな感触に暴走しそうな理性を抑え、そお言いながら頭を撫でてやる。
「うん……クーちゃんのお陰だよ。今までならあんなに人と話せなかったけど、クーちゃんが渡してくれたこのマフラーをしてたら、フワフワで、少し安心出来たの」
それは良かった、まぁ、それをしてもらうまでが大変だったけどな……。
面会があるからと話を止めたのになかなか準備を始めずくっついてきて、やっと動いたと思ってもとても遅いスピードでこのままで間に合うのかと思っていた矢先に、終いにはやっぱり面会止めようかなぁ、なんて言い出すしまいだ。
これもそれも、人前で演技をしている後ろめたさと、その格好に起因する。
確かに上に立つ以上、組織の為にも演技は必要だが、その格好は完全にグラス様の趣味なので辞めてもいいと言ったのだが、そこは流石小さな頃からルカを守ってきた実績と信頼があるだけあり、ルカの生真面目な性格も合わさって、納得してもらえなかった。
なので何か打開策は無いかと考えていた所、クローゼットの中にこの赤いフワフワのマフラーを見つけたのだ。
ルカのフワフワや可愛い物好きはこの部屋や、部屋着を見ればわかる事だったので、これならばと思いすすめてみた所、大当たりであった。
最初は躊躇していたが、マフラーならば今の着替えた格好を邪魔しないからと伝え付けさせた所とても落ち着くらしく、今までの動きが嘘のように準備を済ませ仕事部屋の方へ向かってくれた。
ただ、気掛かりな事がある。
それはルカがマフラーを付けた姿を見たグラス様が驚愕の表情で見つめ、面会中ずっとその姿を鋭い眼光で見続けていた事だ。
明日はそのグラス様と話し合いをする事になったが……マフラーを進めたのが俺だとわかったらどんな対応をされるかわからないので、元々憂鬱だったが、更に憂鬱だ。
そうやって面会前の事を考えていると、散々モフモフして落ち着いたのか、スッと離れるルカ。
「よし! もう大丈夫! ありがとうクリス。それじゃそろそろお昼になるし何か作るけど、何が食べたい物はある?」
待ってました! 今朝のダブルチーズバーガーは絶品だったからなぁ、もし何でも作れるなら、そろそろ日本人としてアレが食べたい。
「お寿司……とか、出来たりしないよね」
「お寿司ね! 任せておいて! とっておきをご馳走するからクーちゃん脱いで待ってて」
どうやら作れるようだ。
やべー、久しぶりのお米に今からワクワクしてきた。
アレ? でもこの世界にマグロやシャケなんてあるのか?
お米だって、本当に俺の思うお米だろうか……。
……まぁ、これまでにTha日本人な名前の勇者が結構召喚されてきたようだし、きっと先人達が頑張って似た物を探して来たのだろう。
あまり気にしてもせっかくの料理が美味しくなくなってしまう。
ぬいぐるみを脱ぎそんな事を考えていると、何やら見覚えのあるカウンターに寿司ネタの乗ったパットが見えるガラス張りのショーケースを準備し終えたルカに呼ばれて、カウンター席に座らされた。
いやいや、どこからどう見ても回らない高級寿司屋のそれですよね!? てかどこから持ってきたし!
そしてヒラヒラのエプロンはそのままに、頭に白い鉢巻をしだすルカ
……いや、可愛いけど! 可愛いんだけど、お寿司を食べたいと言ったらどうしてこうなった!
「お客さん、今日は何にしやすかぁ?」
ノリノリだな! こんな事を広めた勇者出てこい! 褒めて使わす。
「じゃぁ、大将のお任せで」
「へい!! 少々お待ち下さい!」
試しにノッてみたら凄く嬉しそうな笑顔で返事を返されネタを握り始めた。
しかし、そのふざけたノリとは違って握る手付きは手慣れたもので、あっという間に寿司下駄の上にいくつも綺麗に盛られたお寿司が出てきた。
「へいお待ち! 特上寿司セットの出来上がりだよ。たんとお食べ」
たんとお食べは寿司と関係ないと思うが、可愛いので気にしない。
出てきた寿司を見ると、今捌いたばかりなのだろう、どれも艶がありみずみずしく切り口も綺麗で美味しそうだ。
試しにマグロと思われる赤みのお寿司を食べてみる……!?
マグロだ! そしてめっちゃ新鮮で美味い! 握り加減も絶妙で舌触りが最高だ。酢飯の味付けも抜群で新鮮なマグロと合わさりマジで美味しい!
他のネタも食べてみるが、どれも新鮮で美味しく、大トロなんかは口に入れた瞬間溶けていきやがる。
そこでふと玉子のお寿司が目に入り、箸休めにと食べてみたがふんわり柔らかく焼き上げた玉子に程よい甘さと主張し過ぎずにしかし他を引き立てる出汁が効いていてとても美味しく、なんだが幸せになる味だ。
箸休めなんてとんでもない。立派な主役となりえる玉子寿司がそこにあった。
どれも美味しかったのでそのままお代わりを三セットたいらげた俺は、相変わらず満腹感は感じられなかったが気持ちは満足出来たのでそこで箸を止め、食事を終えた。
「ご馳走様でした。やっぱりルカの料理は凄く美味しいね。とても満足だよ」
「お粗末様でした。こちらこそいっぱい食べてくれて作り甲斐があったよ。こうやって友達とお寿司屋さんごっことかちょっと憧れてたから嬉しいし、楽しかったぁ。付き合ってくれてありがとう」
憧れてたからこんなセットまであったのか……一人友達もいないのに、いつかの為にとこんなクオリティの高い物を準備していたルカの姿を思うと、涙が出てくる。骸骨だから出ないけど。
本当に実現させられて良かった。マジで。
*****
「そうそう、そんな感じで魔力を一点に集めて……上手上手! そしたら集めた魔力が水に変わるイメージを想像して……」
今俺は、森の中にポツンと広かった広場で、ルカに教わり魔法の練習をしている。
お昼を食べてからルカの提案で今朝の約束通り魔法を教えてくれると言う事になり、魔法が練習出来るよう外に出る事になったのだが、ルカに続いてこの部屋に入って来た扉を出ると、何故かそこは仕事部屋ではなく森の中だった。
後ろを振り返るとそこには小さな平屋の家が建っており、唖然としているとルカが説明してくれた。
どうやらあの部屋は元々ルカがグラスに引き取られてから育ったこの家の扉と仕事部屋との扉を空間転移で繋げていたようで、今はそれを切っているから普通に家の外に出られたそうだ。
いや! いくら自分の部屋が好きだからって空間転移なんて超技術で仕事場と繋げるとかどんだけだよ!
『この魔法を使えるのは最高位の魔法使いだけなんだよ』
って、得意げに言ってたけど、目的が一番安心する場所で引きこもる為ってどうなのよ……得意げに言ってる姿があまりにも可愛かったからツッコまなかったけど。
しかもこの魔法を維持するのに魔力の半分を常に使っているらしい。
引きこもりへの執念が凄い。
そんな衝撃的な事実もあったけど、とりあえず家を出てから庭の横に作られた広場で魔法の練習をしているのだが、これが中々楽しい。
やっぱり新しい事を知るって良いね! しかもそれが自分の為になるってわかってるから、俄然やる気が出てくる!
今は魔力を水の球に変えて打ち出す、ウォーターボールと言う魔法を練習している所だ。
魔法はイメージが大事だそうで、ルカが言うにはどれだけ細部まで具体的にイメージ出来ているかでその魔法の精度や威力が変わるらしい。
とりあえず魔力を操ると言う感覚を掴む所から始めたのだが、これは簡単に出来た。
何故ならこの体を動かしているのも魔力なので、一度意識してしまえば自然に出来ていた事と言う事で訳なく出来た。
次に魔力を任意の物に変換するのだが、ここからが大変なようで、魔法の才能があるか無いかはここで決まるらしい。
「凄い凄い、もう水になった! クリス凄いよ! 魔法の才能あるよ!」
ルカの反応を見てわかる通り、これも簡単に出来てしまった。
これも先程の説明と同じで、既に骨以外のあらゆる器官を魔力で変換して担っているのが出来ているので、あとは変換するモノのイメージさえしっかり出来れば楽勝だ。
そして現在、手のひらの上にバスケットボールくらいの水の球が浮かんでいる。
「あとはそれを前に出して打ち出すイメージをすればOKだよ」
言われた通り手を前に出し、打ち出すイメージと言う事で大砲をイメージしてみる。
そしてスイッチを入れ発射されるイメージをした瞬間、もの凄い速さで発射された水の球は10m程離れた木に着弾すると、そのまま爆音と共に後ろの木々も吹っ飛ばしてしまった。
唖然とする俺。
その時横からの衝撃で倒れそうになる。
「凄いよクリス!! あんな威力のウォーターボールみたことない! 骸骨兵が魔法を操るのも凄いのに、こんな威力の初級魔法が使えるなんて、クリスは天才だよ!!」
俺に抱き付き自分の事のように喜ぶルカ。
初めはその威力に唖然としていた俺も、ルカのその喜びように嬉しくなる。
「ありがとう。ルカの指導がとても上手だからこんな凄い威力の魔法が打てたんだよ」
「そんな事ないよ! クリスが凄いからだよ!」
「いやいや、ルカが凄いからだよ」
「違いますぅ! クリスが凄いからですぅ!」
「ルカが……ぷっ」
頬を膨らまし怒り出すルカ。その姿と、お互いに相手が凄いと言い合う現状に思わず笑い出してしまった。
「ふふふ、なんだが私たちおかしな事で喧嘩してるね」
釣られて笑うルカ。
「そうだね、どちらの方が凄いじゃなくてどちらも凄いって事でいいかな」
「うん! クリスも凄いし、私も凄い! ……私、お友達とは絶対に喧嘩したくない!って思ってたけど、こんな暖かな気持ちになるなら喧嘩もいいかも」
確かに、こんな喧嘩なら俺も大歓迎だ。
「あっ、練習の途中だったね。次は水の代わりに火の球を打ち出す、ファイヤーボールの練習をしてみようか。ただし、もし火に変えられても、今度は森に打っちゃダメだからね。作り出した火は操れても、それで燃え上がった火までは操れないから、火事になっちゃうの」
こんな周りを森に囲まれた場所で火事なんかになったら大惨事だ。
場所によって使う魔法はよく考えなくちゃいけないな。
承諾の返事をし、先程と同じく魔力を手のひらに集めてから今度は燃え盛る火の球をイメージしてみる。
すると今度もすんなり手のひらに集めた魔力は火の球へと変わった。
「出来たけど、この火の玉はどうしたらいいかな?」
「凄い……イメージし易い水だけじゃなく火までもこんなにアッサリ出来ちゃうなんて……あっ、ごめんごめん、そしたら空に向かって撃ってみようか。今度は出来るだけ高くまで飛んでいくイメージで!」
言われた通り、空に向かって打ち出すイメージをしてみるが、打ち出す直前に一瞬花火を思い描いてしまった。
そして打ち出された火の球。
上へ上へと飛んでいくと数秒後、数百メートル程飛んだあたりで案の定破裂すると、大きな音と共に昼間でもハッキリと見える色とりどりな花火となり消えていった。
「……凄い」
思わぬ花火にビックリしたのか、かろうじでその言葉だけ言い固まるルカ。
「ご、ごめん! 打ち出すイメージの途中で花火をイメージしちゃって……ビックリしたよね」
「うん、ビックリした……でも凄く綺麗だった……私、小さい頃はこの森でグラスと二人っきりだったから花火なんて見た事なかったけど……とても……綺麗、なんだね」
そおいいながら今はただ晴れ渡り何も無い空を見上げるルカ。
こんな周りに木しか無い所で育ったのなら相当苦労したろうし、友達がいなかったって言ってたから、楽しい思い出も少ないんだろうな……。
「それじゃ、今度二人で花火を見に行こう!」
気付けば思わずそう言っていた。
「……うん! 行く! 約束だよ!」
そう笑顔で答えるルカ。
思わず言ってしまった事だったが、その花火のようにパッと輝く笑顔を見て俺は、今度必ず二人で花火を見に行くと心に深く誓うのだった。
「あっ……」
ん? ルカが何かに気付いたのか、こちらを探るような目でじっと見てくる。
「やっぱり……今の2回の魔法でクリスの魔核の魔力量がだいぶ減ってる」
魔核の魔力量? 言われてみれば何だが気怠さを感じる。
ん? この体は疲れを知らないのに、気怠さ?
俺が体の変化に頭を傾げていると、魔核の魔力量と言われてわからないと思われたのかルカが説明を始めた。
「魔核の魔力量はその人が体に貯めている魔力の総量だよ。普通の人は魔力を見る事が出来ないけど、何度も魔力を消費する事で自分の魔力量を感覚でわかるようになるの。だからクーちゃんはまだその感覚を知らないからわからないだろうけど、私は吸血鬼って言う魔族で、吸血鬼は血を吸うと思われてるけど実際は魔力を吸い取ってるのね。それで相手の魔力量がわかればより魔力の多い人から効率的に魔力を吸えるから、相手の魔力を見えるよう長い時をかけて目が進化をしていったの」
成程、吸血鬼にはそんな特殊な目があるのか。
「その目でクリスの魔力量を見てるんだけど、魔法を打つ前と比べてかなり減っていて……今の感じだと、あと一回しか魔法は打てないと思う」
あと一回!? それじゃさっきの二回も合わせて一日三回しか打てないって事!?
「それって、それ以上打ったらどうなるの?」
「四回目は不発になるかギリギリ打てるかどうかくらいしか無いから……魔力が空になっちゃう、かな」
それって、朝の説明だと骸骨兵は魔力で動いているから、魔力が空になったら死ぬって事だったよね……ヤバいじゃん!
「で、でも、クリスはまだ召喚されて間もないし、人より魔力量が少ないのはしょうがないよ! 魔力量は魔力を使い続ければ少しずつ上がっていくものなの。だから、これから毎日練習してれば魔法を使える数も増えていくよ! 私も付き合うから一緒に頑張ろう! 」
やっぱり人より少ないんだな……でも使用量に比例して増えていくなら、召喚されて間もない俺の魔力量が少ないのも頷ける。
この体の魔核は召喚時に作られた物だから、言うなればまだ生まれて間もない赤ちゃんと変わらないのだから。
とにかく生きてるだけでも魔力を消費し続けてるこの体なら、魔力量を増やすにも効率が良い筈だし、これから増えていく筈だ!
「ちなみに、どのくらいで初級魔法一回分増えるようになるかな?」
「えーと……小さな頃の魔力容量の増加率は高いんだけど、大人になるにつれて緩やかになって行くの、でもクリスの場合は骸骨兵だから……どうなるんだろ?……いちよう、子供と同じなら半年。大人なら……一年位……かな?」
作り笑いで答えるルカ。
いやいや! かなり先は長いんですけど!?
どうやら魔法の才能はあっても使える数は初級魔法三回だけと、宝の持ち腐れ状態なようだ。
これは使う場面を良く考えて使わないといけないし、他の戦える選択肢も増やさないとなぁ……。
「そういえば、身体強化ってどうやってやるんだ?」
「それだ!!」
俺の疑問に大声で答えるルカ。いきなりなりなので柄にもなくビックリしました。
「身体強化ならあくまでも体に纏わせてる魔力を意識的に体の一部に集めてその部分を強化する魔法だから、魔力の消費は殆どないの! 魔王軍の幹部クラスが使ってる全身の魔力を増加させて何倍もの身体能力になる身体倍加でも使ってる間は魔力を消費するけど、それでも初級魔法を一回打つより格段に少なくて済むわ! だいたい2倍の身体倍加三十分で初級魔法一回分位」
「それは凄い! それなら少ない魔力量でも上手い事戦える」
「うん! 身体強化のやり方は身体中に巡っている魔力を意識的に任意の場所に流して留めるんだよ」
体の魔力を一部に集めて……。
ボトッ。
「きゃーーーッ!!」
ん? 右手に魔力を集めていたら何かが落ちる音がした後ルカの悲鳴がした。
「ク、クリス! ヒ、左手が!」
ルカの言葉で左手を見てみると、左手首から先が無くなり地面に骨が散らばっていた。
骨ってか、これ俺の左手だ……えぇ!? どうして落ちてるの俺の左手!?
俺がパニックになっていると、先に平常心を取り戻したルカが俺の落ちた左手だった骨達を拾い上げ、俺の左手首の辺りに持って来た。
「クリス! 早く魔力を落ちた左手に纏わせて!」
混乱している頭で、ルカの言われた通りに魔力をルカが拾ってくれた左手に纏わせる。
するとルカの持っている骨が浮き上がり、元の左手の形に組み上がり左手首の先にくっついた。
「治って良かったぁ。急に落ちたからビックリしたよ」
「俺もビックリしたぁ。まさか魔力を移動させただけで取れるとは思わなかったよ」
「あっ、さっきのは右手に魔力を移動させようと意識し過ぎて、一番遠い右手の魔力供給がゼロになっちゃったのが原因だよ」
成程。骸骨兵は魔力で体を維持しているから、魔力の供給がゼロになると崩れてしまうんだな。これは気を付けないと危ないぞ。
「次は魔力を移動させる時でも元の場所にちょっとでも魔力を残すようにイメージしないとダメだね」
ルカの指摘に頷き、もう一度、今度は移動させた後の部分にも魔力を少し残すイメージで魔力を集めていった。
「うん! 出来てる出来てる! やっぱりクリスは魔法の才能があるね! そしたらその状態を維持しつつ、向こうの木を殴ってみて」
言われた通り、集めた魔力を維持しながら木のところまで向かい殴ってみる。
バゴッ!!…………ドーン!!
マジか!? 太さ30㎝位はある木を殴ったらそこの部分が陥没し、そのままへし折れて倒れました。
「うん! 完璧だね! それが身体強化だよ。あとは実戦で使えるレベルまでより早く、より滑らかに魔力を移動させる練習をすれば大丈夫!」
「これは……凄いな。これなら甲冑を着た相手でも殴り殺せそうだ」
「そうだね、でも気を付けて。身体強化は体中に巡ってる魔力を一部に集めるから、集めた箇所は強く硬くなるけど、逆にその他の場所は防御力がガクンと低下しちゃうから、下手したら唯のパンチで粉砕されちゃうよ」
何それ!? コワッ!! 骨だから粉砕骨折になっちゃうとか言ってる場合じゃないじゃん。粉々になるとくっ付かないって言ってたし、諸刃の剣だな。
「肝に銘じておきます」
「くれぐれも気を付けてね。後は身体倍加だけど、体の内側、魔核に貯まった魔力を意識して普段より多く体に纏わせる感じだよ。でも、これは言葉で言うよりも凄く難しくて、普段よりも多くの魔力を放出して纏い維持するのって、走りながらお寿司を握って、潰さないように持ってるようなものなの。もし一つでもバランスを崩しちゃうと纏った魔力が飛散してなくなっちゃうから、いきなり全身で試すんじゃなくて体の一部分から最初は少しだけ魔力を増やすと良いよ」
うん? 途中お寿司の例えで良くわからなかったけど……要はいつもより疲れる作業をいくつも同時進行で行いつつ、常に一定で維持しないといけないって事かな。
……いや、メッチャハードル高いな!? 伊達に幹部クラスじゃないと扱えないだけある。
とりあえず、言われた通り魔核から魔力を少し多めにだし、右手に纏わせるイメージをする……。
ボトッ。
あっ、今度は右手が落ちた。
「うーん、失敗すると元々纏ってた分も飛散しちゃうから骸骨兵だとその部分の骨を維持出来ないんだね」
落ちた骨を拾いながら解説するルカ。
早くも二回目で適応して悲鳴を上げたりはしなかった。
素のルカを見てると忘れてしまいそうだけど、沢山の部下を持つ魔王軍四天王なんだもんな。戦場では一瞬の判断が命取りだし、このくらい直ぐに適応出来て当然なんだろう。
「クリス大丈夫? もしかして……右手、治らない?」
心配そうにこちらを見上げるルカ。
いかんいかん、また悪い癖が出て固まっていた。
「大丈夫大丈夫。どうやったら上手くいくか考えてただけだから」
そう言いながら直ぐに右手に魔力を纏わせ治す。
「さっきのは右手に纏わせようとして意識がそっちにいっちゃったって、魔核からの放出量の調整が一定になってなかったのが原因だよ」
成程、これはなかなか難しそうだな。
そして、その後も何度も身体倍加を試してみるが、難しいと言っていただけあり、流石に今までのようにすんなり習得とはいかなかった。
「クリスの魔力量も大分減っちゃったし、今日はここまでかな」
結局魔力量が少なくなりだいぶ体も重くなってきてルカに止められるまで練習を続けたが、最後まで成功する事はなかった。
習得するまではまだまだ先は遠そうだ。
それでも最初の頃よりは維持する時間は確実に長くなっている。
魔力を見る事が出来るルカが、失敗するたびその時の悪かった理由を指摘してくれるのがとても大きい。
もしひたすらこれを感覚でやらなくちゃいけないのなら今より数倍苦労しただろう。
「今日は教えてくれてありがとう。ルカの魔力を見える力って凄いね! 自分のダメな所を人に教えてもらえるって凄く助かるよ」
「えへへ、そうかな? クリスの褒められると凄く嬉しい」
照れてるルカもメッチャ可愛いです!
「凄いよ! ルカみたいな凄い先生に指導してもらえ俺は幸せものだ」
「ふふふ、任せておいて。これからも毎日先生が教えてあげるね!」
おぉ、ルカの能力がなかったとしても毎日この楽しい時間が貰えるなら凄く嬉しい。ご飯も美味しいし、ルカと居ると毎日が幸せだ!
こうして魔法の練習を終えたが、今日だけでウォーターボール、ファイヤーボール、身体強化の3つも出来るようになった。
身体倍加は習得まではまだかかるが、魔法を使えば魔核が成長し、魔力量が増加するので地道に練習していこう。
明日も練習頑張るぞ!!