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ボーンライフ  作者: ユキ
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お姉ちゃんなんだから!

 小高い丘に設置された人族軍本陣。


 そこには干からびて地面に倒れるいくつもの死体と、その中央で椅子に座りニヤニヤと不気味な笑みを浮かべているメルルの姿があった。


「ふふふふ……良いぞ……殺せ……お前らの代わりなどいくらでもいるんだ……その身朽ち果てるまで、私の役に立つがいい」


 メルルの見つめる先の戦場では、兵士たちが赤黒く変色し異常な強さを手に入れて、かつては自分たちの仲間だった死体と戦っている。


 部下だった死体は生前では考えられないほどの恐るべき強さを発揮し、まるで武術の達人のように無駄のない動きで私の強化した兵士たちを倒していく……が、そんな中でも特殊部隊と呼ばれるスキル保持者たちやサイクロプスを私のスキルで強化した者達は、そんな恐るべき強さの死体をも凌駕する戦闘能力で、確実に死体たちを物言わぬ土くれに戻している。



「ははは、この力は最高だなぁ! 正に私にこそ相応しい最高の能力だ!」


 高笑いするメルルに目覚めた新たな力、スキル『ゴミはゴミらしく』

 自分の支配化にある者の身体能力を限界を超えて引き出し、操る事の出来る能力。


 しかもその際の代償は、同じく支配化にある者の体力を使用する事が出来る。


 この場に転がるいくつもの干からびた死体を作った原因がそれだ。


 スキル対象を予め支配化においておく必要があるが、その条件さえ問題なければ、今のメルルのように支配対象が居る限り、自分に何のデメリット無しに使えい続ける事が出来る能力。



 とても強力で……とても凶悪なスキルだ。



 手に入れてはいけない者が手に入れた結果、決着がつくかに思われた戦争は更なる地獄と化した。


 そして、このスキルの何よりも怖い所……それは、強化された者は限界を超えて無理やり強力な力を引き出される為、戦闘が長引けば長引くだけ生存率が低下していく事だろう。


 健康な者でももって数十分……既に負傷していた者などは言うまでもないだろう……。


 例えメルルたち人族軍がこの戦争に勝ったとして……果たしてこの地に立っている者は彼以外にいるのだろうか……。



  *****



「こんな……どうしてこんな酷い仕打ちが出来るんじゃ……」


 目の前で突如更なる巨大化を果たしたサリー様。


 しかしそれは明らかに異常な強化で、無理やり本人の限界を超えて力を出させている事がわかる。


 赤黒く変色した筋肉は異様に盛り上がり。


 そこに浮き上がった血管は、至る所から血が吹き出している。


 それだけの強化を施されたのだ……その強さは想像すら出来ない。



「明らかに無理なスキルの使用……このままじゃサリー様が……死んじゃう」


「ッ!?」


 僕の言葉にその可能性に気付いたシルバー。


「サリー……」


 心配のあまり思わずサリー様の名前がこぼれ落ちる。



 旧知の仲であるサリー様を思い、心が締め付けられるように痛いのだろう。


 しばらく胸を抑えて俯いたシルバーだったが、頭を上げて悲壮感に満ちた表情で言った言葉は、僕が想像すらしていなかった驚くべき内容だった。



「……致し方ない……サリーの事は諦めて、倒す事だけに全力を尽くそう」


「なっ!? そんな……サリー様はお爺ちゃんの大事な人なんでしょ!?」


 あまりに驚き過ぎて思わず呼び名も戻ってしまった。


「じゃが……ヒカルの魔力も残り僅かなんじゃろう?」


「ッ……」


 事実だった。


 先程のトゥライト砲でかなりの魔力を消費した事で、既に残り魔力はトゥライトロボの損壊を数回直せる程度だ。


 その事に気付いたお爺ちゃんは、僕の事を案じて、大切な人を犠牲にしようとしている。



 でも……そんな事許せる訳ない!



「……だとしても、僕は諦めない!! このスキルは……アカリやお爺ちゃん、そして大事な人たちを守る為に手に入れた力だもん! お爺ちゃんの大事な人なら……僕にとっても守るべき大事な人だ!!」



「ッ!? ……そうか……強くなったんじゃな」


 僕の言葉にお爺ちゃんは瞳を潤ませて小さな声で何かを呟いた。


 聞き返そうとした僕により先に、決意に満ちた表情に戻ったお爺ちゃんはある提案をする。



「わかった! と言っても現状魔力が少ないのはどうにもならんしのぅ……! そうじゃ、ワシの魔力は使えんか?」


「!? そうか……うん! これなら出来るよ!」


 思いもよらない提案だったが、試しにお爺ちゃんの体から魔力を吸い取るイメージをしてみると、何の問題もなく吸う事が出来た。



「よし、おいぼれの魔力じゃ少ないかも知らんが、最後の一滴まで全て使い切ってくれてかまわん! ヒカル……いや、ブルー! 一緒にサリーを助けよう!」


 お爺ちゃんはニカっととても良い笑顔で僕に笑いかける。


「ッ!? ……うん……うん! 一緒に助けよう! そしてみんなを守ろう、シルバー!!」


 ゆっくりとこちらへ歩き出した見上げる程の大きさのサリー様。


 例え無謀だとしても、僕たちは諦めない!


 だってそれが、僕の憧れるヒーローだから!!


 僕たちは決意を新たに、再び戦いに向かうのだった。



  *****



 眼下に広がる壮絶な戦い。


 その光景を横目に祈るように見守りながらも、みんなの力に少しでもなれるようにと、一人心の限りの歌を歌う。


 その甲斐あってか、ヒカルとお爺ちゃんの乗る黄金のゴーレムは見事サリー様を倒す事に成功した。


 それなのにそんな私の心は、ある想いで支配されている。



 少しの間に見違える程の表情に変わったヒカル。


 それまでは私の後ろに隠れるばかりで、まともに人と会話すら出来ず。


 私の提案で始めたアイドル活動も、ステージに立てば完璧なパフォーマンスを出来ても、ファンの前だとやっぱり私の後ろに隠れていたのに……あんなに大勢の前で、自分の想いをみんなに伝えられるなんて……。


 その上、あんなにも強いサリー様を倒してしまう程の力を手に入れた。


 最早私が守ってあげていた、あの頃の弱かったヒカルはもうそこに居ない。


 私が居なくても一人でもしっかりと生きていける……そんな立派な男の子に成長したのだ。


 それは凄く嬉しい事なのに……私の心を埋め尽くす、この損失感はなんなのだろう……。



 その時、それまで私たちに有利に勧んでいた戦場にある変化が起きた。


 人族軍やサイクロプス……そしてヒカルとお爺ちゃんが乗った黄金のゴーレムが倒した筈のサリー様が突然赤黒く変色しだしたのだ。


 しかもサリー様は、みるみる内に更なる巨大化を果たし、起き上がりその場に立つと、私の乗る骸骨龍の飛ぶ高さまで到達する程に大きくなってしまった。


「こんなの……どうやって倒せって言うの……」



 ヒカルと私は双子の姉弟だ。


 そして生まれてからも片時も離れず、ずっと一緒に暮らしてきた。


 だからわかる……先程までの戦いでヒカルの中に感じていた暖かな光が少なくなっている事を……。


 きっとあの光が、ルカレット様の言っていた魔力なのだろう。


 それなら今の少なくなった魔力で、あんなにも大きくなったサリー様と戦えるのだろうか?



 私の心配を他所にサリー様との戦いが始まる。


 そして私の予想通り、先程までのヒカルたちに有利だった戦況は逆転し、今度はヒカルたちのゴーレムが一方的にやられる展開になった。


 最初の内はサリー様の攻撃で破壊されても何事もなかったように直ぐに修復されて向かって行ったヒカルのゴーレムだった。


 しかし、ある時から動きが悪くなると共に、修復する度にヒカルの少なくなった魔力が更に減り出すのを感じるようになったのだ。


 しかもそれまで持っていたお爺ちゃんのハンマーもいつの間にか消えてしまったいる。



「もしかして、さっきまでは、お爺ちゃんの魔力を使っていた……? だとしたら……ヒカルの魔力が減り出した今、お爺ちゃんは……」


 その間にも繰り出されたサリー様の拳で破壊されたゴーレムの右腕。


 すぐに修復されたが、ヒカルの魔力は感じる事も難しい程少なくなってしまった。


 アレでは、次攻撃されたら修復は無理じゃないか?


 ……もし、修復出来なくなったら……どうなるの?


 その疑問が浮かぶと共に再び繰り出された拳でゴーレムの頭が破壊され、そこからヒカルとお爺ちゃんの姿が見えた。



 椅子にグッタリと倒れているお爺ちゃん……。


 何処か怪我をしたのだろう……額から血を流しながらも必死の形相でレバーを握るヒカル。


 再び繰り出されるサリー様の拳を避けるが、左肩から先を粉々に破壊され、その勢いで吹き飛ばされて地面に倒れるヒカルたちの乗ったゴーレム。


 いつになっても直らないゴーレムの体に先程の考えが正しかった事を確信する。

 

 その間にも追い討ちをかけるように踏み付けられた事でゴーレムの足は破壊され、最早動く事も出来なくなった。



 その光景を見て私はようやく理解する。


 このままじゃ……ヒカルとお爺ちゃんが死んじゃう!!


 その考えが浮かんだ瞬間、私の心は先程よりも酷い損失感と、言いようのない不安に襲われる。


 何とかしなきゃ! ……何とかしなきゃ!!



 でも……私には、お爺ちゃんやヒカルのような力はない……。



 あるのは、ルカレット様に教えてもらった、使い道のない膨大な魔力だけ……。



 それでも……それでも行かなくちゃいけない!



 例え何の役に立たなくても……。


 それどころか足手纏いになったとしても……。



 だって私は……。



 ヒカルのお姉ちゃんなんだから!!



 その瞬間、それまであった心のモヤは晴れわたると、その代わりにウチから溢れる程の力を感じるようになった。


 そっか……私はヒカルに頼られているようで、本当は私自信がヒカルの存在を頼り、依存していたんだ。


 それがヒカルが一気に独り立ちして、今まで守っていた存在が急にいなくなった事で、心の拠り所を失った……。



 でも……どんなにヒカルが成長しても……どんなに強くなっても……例え私の元から離れて行ったって、私がヒカルのお姉ちゃんである事に変わりないんだよね!



 そうだよ! 私はヒカルのお姉ちゃんなんだ!


 今までも!


 これからだって!!



 待っててヒカル! お姉ちゃんが助けに行くからね!!

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