夢の巨大ロボ
轟音を伴い繰り出される拳。
普通のドワーフが受ければ文字通りペシャンコになるであろう、その巨大な拳から放たれるパンチをモロに顔面に受けてもびくともしないトゥライトロボ。
それどころか、殴られたままの状態で右手に持つこれまた巨大なハンマーをお返しとばかりにサリー様の顔目掛けて横薙ぎに打ち抜く。
ゴッツン!! ……ドシーーーン!!!
トゥライトロボの一撃で20メートルもの巨体を浮かせて吹き飛ぶサリー様。
同じ一撃でもこの差だ。
どちらが優勢かは一目瞭然。
それに例えサリー様の一撃が効きトゥライトロボの頭が吹き飛ぼうが、胸のコクピットさえ無事ならいくらでも直せるしね。
僕のスキル『夢の巨大ロボ』は、体力を使用して発動し、魔力を媒体に鉱物で出来た巨大ゴーレムを作り出す能力だ。
体力はスキルを発動する時のトリガーとして少量使用するだけだし、魔力は作り出すゴーレムのサイズに比例して大量に使うけど、それはルカレット様が教えてくれた通り溢れる程ある。
流石にこのサイズのゴーレムだとかなり消耗したけど……。
それでも、魔力を媒体にしたゴーレムだから操作も修復も自由自在だ。
何よりロボットをイメージして作り出したゴーレムだから操縦は僕じゃ無くても出来る。
現に今このトゥライトロボをメインで操作しているのはシルバーだ。
ヒーローに憧れているけど戦った事の無い僕にとって、正に最高の能力だ!
自分に目覚めたスキルについて改めて考えていると、ようやく吹き飛ばされたサリー様がゆっくりと起き上がり出した。
トゥライトロボの一撃を受けても立ち上がったサリー様だが、流石にかなりダメージを受けたようで足元はおぼつかず、今にも倒れてしまいそうだ。
それでも倒れる事なく再び向かってくるのは、命令のせいで体の事など関係なしに勝手に動かされているせいだろう。
可哀想なサリー様……。
本当は心優しく、誰よりも仲間の魔族を大切にしている方なのに、あの男のせいで……。
僕が自由にしてあげるからね!!
「シルバー! 早く決着をつけよう!! 右の赤いボタンを押して!」
「う、うむ……これか?」
ポチ。
シルバーがボタンを押す事でトゥライトロボに搭載されたある機能が発動し操縦席に機械音が響きわたる。
ただのゴーレムなので、実際には機械が動いている訳ではないが。
次にトゥライトロボのお腹部分が大きく開き、中から大きな筒状の突起がせりだした。
操縦席に座る僕の魔力をゴッソリ吸い取られる感覚に襲われると、僕の魔力が筒の中に集まり眩い光で輝き出す。
ようやく持ち直したサリー様はトゥライトロボに向け走り出した。
トゥライトロボに向け駆け、サリー様が拳を振り上げたその時、エネルギー充電が完了した事を知らせるランプが赤く光。
『エネルギー充電率100%!! トゥライト砲……発射ッ!!!」
待ってましたと言わんばかりに大声で宣言した僕に、シルバーが目の前のスイッチを力強く押し込んだ。
ギュイーン……ビィーーーガガガガガッ!!!
お腹の筒から放たれた極太のレーザーが雷を纏いながらサリー様を包み込む。
「ふふふ……あははは……ああはっはっはっは!!」
ロマンとも呼べるその光景に思わず興奮して大声で笑ってしまった。
「これ……サリーは無事じゃよな?」
しかし、シルバーのそんな呟きに笑ったままの表情で固まる僕。
マズイ……テンション上がり過ぎてやり過ぎちゃった……。
サリー様に猛威を奮ったトゥライト砲が全てのエネルギーを照射し終わりその役目を終える。
トゥライト砲の威力によりトゥライトロボとサリー様の間の地面はエグレているが、幸いな事にトゥライト砲をモロに受けたサリー様はその頑丈さのお陰で、吹き飛ばされ、黒焦げになってはいるが原型を止めたままだった。
「うむ、どうやら呼吸はあるようじゃな」
シルバーの言葉にホッと心を撫で下ろす。
「何はともあれ、ようやく大人しくなった事だし、これで奴隷の首輪を外せる……なっ!?」
勝利を確信し、地面に倒れたサリー様の奴隷の首輪を外しに行こうとしたその時……サリー様に大きな変化が起きた。
突然跳ねるように大きく脈打つと、体が赤黒く変色すると共に、巨大な体が更に巨大化し始めたのだ。
「サリー様ってまだ大きくなれるの?」
「いや……さっきのサイズが限界だった筈じゃ……しかも最早まともに戦えるような状態ではない筈じゃが……これは」
話している間にどんどん大きくなっていくサリー様。
あっという間にその体は先程の倍程まで巨大化すると、先程の大怪我など何事もなかったようにゆっくりと起き上がった。
立つ事でわかる、その以上な大きさ。
身長だけでいったら40メートルはあるんじゃないだろうか。
するとそれまで閉じられていた大きな一つの目が開かれる。
開かれたその目は、白目の部分が黒くなり、瞳は赤く淡い光を放ち、とても正気の目とは思えなかった。
*****
「これは……」
俺の操る分体の目の前に、あり得ない光景が広がっていた。
人族軍の援軍と勘違いして希望に湧いた人族軍。
しかし実態は俺の操る味方の死体だった事で、その士気はこれまでにない程下がり、それまでサイクロプスと言う恐怖により何とかすんでの所で逃げ出さずに戦っていた兵たちも、ここに来て逃げ出す者か後をたたず、最早人族軍は風前の灯と化していた……筈だった。
それが今目の前では、戦場に何やら不気味な気配が広がったと感じた瞬間、突然全身が脈打つように飛び上がった人族兵がうめき声と共に全身赤黒く変色しながら筋肉が膨張し一回り大きくなった。
それは一人だけではなく、息のある人族兵全てがだ。
変化が終わり立ち上がった兵士たち。
その目は共通して白目が黒くなり、黒目は赤く淡い光を放ち、一切感情を感じ取れない。
その見た目から何者かにより強化された事が明白だが、スッポンポン鍋を食べてその効能で強化され、本能のままに暴れ回ったニューエルフの時や、トゥライトの歌により興奮状態でリミッターが外れたドワーフたちの時と違い、この強化には本人たちの意思など関係なしに強制的にヤバい強化をされているように感じる。
しかも強化後のその瞳はまるで人形のように意思の感じられない虚な光を放つだけで、明らかに誰かに操られているようだ。
人族兵たちの変化を冷静に分析していると、何も映し出さないその瞳が一瞬こちらを捉えたように感じたその時、何の予備動作も無しに強化された人族兵がとんでもない速度で襲いかかって来た。
振り抜かれる斬撃。
冷静に掌で剣の腹を打ち軌道を逸らすが、そのままの勢いで地面へと叩きつけられた斬撃は、地面を数メートルに渡り斬り裂いた。
スピードもさる事ながら、そのパワーもかなりのものだ。
おそらくそのスピードもパワーも先程のスキルを使用していた敵の主力部隊に匹敵するだろう。
それをただの一般兵が……。
それも一人や二人ではない。
流石にこの強さではドワーフたちでは危ないな……一旦下がらせるか。
俺がワッフル軍の撤退を考えたその時、戦場にとんでもない爆音が鳴り響く。
音の出所を見ると、先程よりも巨大化し、周りの人族兵と同じく強化されたであろう見た目のサリー様が、拳を振り抜いた状態で立っていた。
その振り抜かれた拳の先には首から上が無くなった状態のヒカルたんのゴーレム。
まさか……人族兵だけでなくサイクロプスまで?
その考えは正しかったようで、先程まで有利に戦っていた国宝たちを確認すると、そこには国宝以外の国宝候補たちは既に地面に倒れ、国宝二人も満身創痍の状態で立っている姿があった。
そして国宝たちの目の前には国宝たちによって一箇所に誘導された、全身赤黒く変色し一回り大きくなった瞳が赤く光サイクロプスたち。
『ワッフル軍ッ!! 直ちに後方へ下がれッ!!!』
その光景にすぐさま声を拡張する魔法で撤退を指示する俺。
それと共にスキルの分体化を半分解除し、すぐに再発動して西側で死んでいる人族兵の死体を分体化する事で、東西の戦場から撤退するワッフル軍と国宝たちの援護に向かわす。
しかしその間も強化された人族兵に襲われるワッフル兵たち。
クソッ! このままだと……ッ!?
その時戦場に今度は何か、温かな物が広がるのを感じた。
するとその何かを受けたドワーフたちが淡い白い光で輝くと怪我をおっている者はその傷が癒え、更に目に見えて動きが良くなり、強化された人族兵の猛攻をギリギリ堪えられるようになったのだ。
「少しの間なら私が何とかしますので……その間にドワーフたちの援護を!」
その声は本体である俺の後ろから聞こえた。
後ろを振り返ると、ルナーレが祈りの姿勢で大粒の汗を流しながらもこちらを見ている。
そう、ルナーレがその身に宿るスキルの力を使って、戦場のドワーフたちの傷を癒し、強化してくれたのだ。
ルナーレのスキル『ご主人様の奴隷』
自分の体力を使い指定した者の傷を癒し、更に身体能力を向上させる能力。
以前ヤマト王国の聖騎士隊副隊長であるケルンが使用していたスキル『先導するもの』は自分を含めた仲間の身体能力を向上させる能力だったが、ルナーレのスキルは他者限定ながら、回復まで出来る正に慈愛に満ちた聖女と呼ばれたルナーレに相応しい能力だ。
しかも人族の使う回復魔法と違って、魔族の傷も癒す事が出来る。
ただ、スキル名が何故かご主人様の奴隷と言う……。
しかもこの能力に目覚めたのが俺と服従の契約をしてからだったり、いろいろツッコミどころ満載だが……それでもその効果はかなりの物だ。
ルナーレのお陰で援護に間に合った分体達が、人族軍を抑えつつワッフル軍の撤退を支援する。
サイクロプスは抑え切れないが、これでとりあえず大丈夫だろう……。
「ぅ……」
ワッフル軍の安全を確認したルナーレが力が抜けたように倒れそうになったので、すかさず受け止めた。
「よくやってくれたルナーレ。あとは任せろ」
「はぁ、はぁ……はい」
流石にこれだけの人数にスキルを使用したのは無理があったようで、ルナーレは俺の言葉に安心したように笑顔で答えると、そのまま腕の中で眠りについた。
さて、ルナーレにああ言ったが、強化されたサイクロプスや……アレをどうしたものか……。
中央で繰り広げられている最早怪獣大決戦のような戦いは、更なる巨大化を果たしたサリー様による一方的な暴力が繰り広げられていた。
ヒカルたんのゴーレムは破壊されてもすぐに修復され再びサリー様に向かって行くが、このままではいずれ魔力がつきやられてしまうだろう。
早いとこあちらも援護しなくちゃいけない。
しかし、どう対象しようかと頭を切り替えたその時、突然サイクロプスたちの居る場所以外の数体の分体の意識が途絶えた。
クッ!? 次から次へと! 今度はなんだ!?
慌てて近くの分体から得た情報に集中すると、直ぐにその原因がわかった。
それは先程までワッフル軍に猛威を奮っていた人族軍のスキルを操る主力部隊だった。
唯でさえ狂戦士と化したワッフル兵たちを凌駕する戦闘能力を有していた者達だ。
それが他の兵士のように強化された事で、俺の分体でさえ倒してしまう力を持ったようだ。
いくら分体が俺と同じ不死の存在だとしても、魔核を破壊されてしまえば、死んで? しまう。
これはかなりマズイな。どうしたらいいんだ……そうだ!
少しずつ減っていく分体を感じながら今だに爆音を響かせて繰り広げられる中央の戦闘を気にしていると、ある名案が浮かんできた。
……これは……イケるかもしれないな。
それはこれまでやった事のない試みだったが、不思議と出来ると確信があった。
その間にも減っていく分体。
考えていてもしょうがない! いっちょやってみますか。
俺のこの行動で、再び戦場の様子が様変わりするのだった。




