戦闘開始
「どうやらドワーフ共は自国に籠もらず正面から我々と戦うようです」
「そのようですね。一度卑怯な手で勝ったからといって調子に乗ったゴミ共が……愚かな事です。依然、数の上で我々が有利。加えてこちらにはサイクロプス共もいる。唯一気がかりなのはあの黒騎士ですが……報告によると流石に昨日の戦いでスキルの多様で疲弊しきっていたようですし、今回の戦いで再び前線に出るのは難しいでしょう。それならばこちらが負ける通りはありません」
「……しかし、奴らの事ですからまた小癪な策を講じるのではないでしょうか? ここは慎重に我々も作戦を立てるべきかと……」
「それならそれで……それも含めて、全て力でねじ伏せてしまえば良いのです」
それが出来るか出来ないかは別にして、既にメルルの瞳には狂気に染まっており、敵を倒す事しか頭にないようだった。
これ以上の説得は無駄だと理解した部下は、素直に一礼し下がっていく。
「ふふふ……待っていなさい、一人残らず惨たらしく殺してあげますからね……ふふふ……あはは……アッハハハハ」
*****
人族軍の進軍は静かに始まった。
後ろで控えるサイクロプスたちがゆっくりと歩きだし、追いやられるように前で待機している兵士達も歩き出す。
その表情は恐怖と絶望で染まり、まるで死刑台へ向かう死刑囚のようにどんよりしている。
対して人族軍の進軍に合わせてこちらも進み出した俺たち含むワッフル軍の士気は高い。
それどころか突如戦場に響きだした爆音で流れる音楽と歌声により、兵士たちのボルテージは更に爆上がりする。
歌声の元は言わずとも知れたワッフル公国が誇るアイドル国宝、トゥライトのアカリたんとヒカルたんだ。
二人は今、ワッフル軍の上空を飛ぶ骸骨龍の背に作られた骨のステージの上で歌っている。
その歌声により最高潮まで士気の上がったワッフル軍……かたや恐怖により歩を進める人族軍……その両者が今まさにぶつかり合い、戦闘が開始された。
戦闘開始早々、前線が総崩れとなったのがどちらかなど言うまでもないだろう。
及び腰の人族兵に対して、トゥライトの歌声と言うドーピングにより最早狂戦士と化したドワーフたちが襲い掛かりあっという間に前線の人族兵たちは倒されていく。
これ……俺ら必要ないんじゃねぇ……。
そう思うのも無理もない程、圧倒的な光景だった。
しかし、世の中そう簡単には事は運ばない。
前線が上がるに連れ、人族兵一人一人の動きが良くなり、抵抗が増してきたのだ。
どうやら人族軍の最前列は民衆から集めた傭兵が中心だったようで、そこを突破した事で手練れの兵士がいるラインに到達したようだ。
それでもまだこちらが圧倒しているのだが……。
もうね……その絵面がヤバいの。
目は血走りヨダレを撒き散らしたながらも満面の笑みでトゥライトサイコーとか叫んで戦ってるんだぜ……完全にヤッてる人たちでしょ。
味方でもドン引きだよ。
その時人族軍の本陣から太鼓を叩く音が鳴り響いた。
するとそれまで横に広く広がっていた人族軍が突然動きだし、格子状に隊列を組み直す。
流石の狂戦士たちも警戒して進軍速度を緩めると、格子状に空いた兵士たちの間を進むように20人の巨人達が進み出てきた。
戦況が良くないと見た人族軍が早くもサイクロプス達を投入してきたのだ。
最前線へとおどりでたサイクロプスたちは、その手に持つ巨大な棍棒をおもむろに振り上げると、ドワーフたちに向け振り回し出した。
狂戦士と化したドワーフたちでも流石に自分たちの何倍もある身長から繰り出される巨大な棍棒の一撃を受け止める事は出来ず、その一撃毎に次々と宙を舞い、吹き飛ばされた先にいたドワーフたちを巻き込み倒れていく。
そこにすかさず控えていた人族兵たちが群がりとどめを刺しにくる。
流石にこれはマズイ。
そう思い助けに入ろうと思ったが、その必要はなかった。
振り下ろされる棍棒……その一撃を、ある場所では一際鍛え抜かれた筋肉を持つ上半身裸のドワーフたちが……またある場所では自在に操る艶やかな髭を持つドワーフたちが受け止めたのだ。
その者たちは筋肉国宝であるローソ・ワッフル、そして髭国宝であるカロッソ・ワッフル、そして二人と共に大会に参加し、昨日の戦いでは国宝たちに従い戦っていた次代の国宝候補たちだった。
一対一で自分たちの数倍はあるサイクロプスたちと互角の戦いを繰り広げる国宝たちと、数人がかりとはいえ、引けを取らない戦いをする国宝候補たち。
流石この国が誇る国宝と国宝候補たちだ。
筋肉や髭の美しさだけでなく、その強さも折り紙つきのようだ。
国宝たちの参戦により盛り返すワッフル軍。
戦場全体で当初の勢いが落ちたとは言え、それでもワッフル軍が有利に戦闘を繰り広げている。
その光景に業を煮やしたメルルは、遂に最終手段として最高戦力であるサリー様を投入した。
ズシーーーーン!!!
ゆっくりと動き出すサリー様。
その巨体ゆえ一歩の距離も長く、常人より遥かにゆっくりした動きなのに、一歩前に進むだけで数メートルはゆうに超えて前へと進む。
……。
「俺の気のせいかな……何か昨日よりデカくない?」
「ご主人様……私にも昨日より大きく見えます」
俺とルナーレは目の前でゆっくり歩き近づくサリー様のその大きさに思わず目を丸くする。
「気のせいじゃないよ! だって、サリーが本気出せば20メートルまで巨大化出来るって言ってたもん!」
何故自慢げなのかは置いといて……それは先に言って欲しかったんだけど……。
サリーの動きに合わせてワッフル軍も中央から二手に割れて後ろからゴンズが現れるが……昨日の10メートル程の大きさ相手でもあれだけボロボロにされたのに、大丈夫か?
『心配しなくても大丈夫です! お爺ちゃんには僕がついていきますから!!』
俺の心の声に返事をするようにスピーカーから聞こえた声……それは先程まで軍を鼓舞する為に上空で歌っていたヒカルたんの声だった。
分体からの情報で、既にゴンズの元へ降下を開始したようで、数十秒もかからずにゴンズの目の前に降り立つと、ヒカルたんはゴンズの肩に飛び移った。
「ヒカル……お爺ちゃん……絶対に死なないでね!」
サリーの元へ向おうとする二人に対して、泣きそうな表情のアカリたんが言う。
「任せてお姉ちゃん! 絶対にお爺ちゃんを守るから!」
「何を言っとるんじゃ! ヒカルを守るのはワシじゃ! そしてアカリたちみんなも……もちろんサリーもな!」
そんなアカリたんにまるで人が変わったように自信まんまんに答えるヒカル。
その変化が嬉しいのか、ニマニマと笑顔を隠しきれずにしながらも反論するゴンズ。
仲の良い祖父と双子の弟の頼もしい姿に心配も吹き飛んだのか、アカリたんも笑顔になると元気良く戦いに向かう二人へ言葉を送った。
「……うん! いってらっしゃい!!」
アカリたんに送られ再びサリーの元へと歩き出すゴンズと肩に乗ったヒカルたん。
いつの間にか三人から距離を置くように両陣営は隊列を大きく移動させ、東西に遠く離れた二箇所の戦場で戦いが繰り広げられていた。
サリーの更なる巨大化は想定外だが……昨夜の話が本当なら、あの二人に任せておけば大丈夫だろう。
向こうは任せて……俺も当初の作戦通り動きますか。
ゴンズたちを一瞥してから未だ激戦が繰り広げられている二つの戦場に視線を戻した俺は、心の中である作戦の開始を告げた。
*****
東西に大きく離れた戦場。
そして後ろに構える両陣営の本隊により中央にはポッカリと空間が出来た。
それはこれから行われるであろう激しい戦いから両陣営が避ける事で出来た、僕たちの大きな決戦のステージだ。
そのステージの中央を僕を肩に乗せゆっくりとした足取りで前へと進むお爺ちゃん。
僕たちと相対するのは、既に20メートルに達するかと思われる程巨大になったサイクロプスのサリー様。
こちらもゆっくりとした動きだが、その巨大故に一歩で十メートル近く進むのであっという間に両者の距離は詰まっていく。
そしてサリー様があと一歩で僕たちに届くといった距離。
そこで両者は睨み合うように対峙した。
「サリーよ……今度こそその首輪を外して自由にしてやるからな」
お爺ちゃんの言葉に、その巨大と同じく地響きを起こす程のボリュームになった声でサリー様はゆっくりと答える。
「ゴンズ、オレの事はもう良い。こうなったオレは、お前でも勝てない……逃げろ」
「逃げる訳なかろう……ワシが引けばこのワッフル公国がそれこそチリも残らず無くなってしまうじゃろうが。それに何より……大切なお前を放ってはおけんよ」
「大切なのは、オレも同じ。だから、生きて欲しい」
サリー様とお爺ちゃんは僕たちが生まれよりずっと前からの付き合いだ。
お互いがお互いを大切に思い、自分を犠牲にしてでも助けようとしている。
全部あの男のせいで……。
「なぁに、心配するな。今回はワシ一人じゃない。こうして孫と言う心強い相棒がいるからのぅ……ヒカルがいれば本気のお主が相手でも……ワシらは負けんよ!」
そうだ! 今回はお爺ちゃんだけじゃなくて僕もいる。
あんな男のせいでお爺ちゃんの大切な人を死なせなんてしない!
メルル様……必ず僕たちが自由にしてあげるからね!
決意を新たに、僕はスキルを発動させた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
スキルにやって、僕たちが立つ周辺の地面が地響きと共に盛り上がり、僕たちを飲み込むとどんどん高く盛り上がって行く。
そしてサリー様と同じ高さのちょっとした気高い山のようになった所で周りの土はサラサラと崩れ去り、土の中からそれは現れた。
サリー様に匹敵する巨体に、土中の成分を抽出し、凝縮させ出来た黄金のボディ。
そこには、お父さんに見せてもらい、小さな頃から憧れていた……ヒーローたちの搭乗する巨大ロボットが立っていた。
『トゥライトロボッ!! 見参ッ!!』
コクピットを模したトゥライトロボの内部でお約束の名乗りを上げる僕。
うおぉぉぉ!! テンション上がるぅぅぅ!!
夢にまで見た巨大ロボの操縦席に座る自分に思わず名乗りまで上げてしまった。
普段なら考えられない恥ずかしい行為だが……今の僕に後悔など一片もない!
あるのは全てに満たされた満足感と高揚感、そして……今なら何でも出来ると言う、全能感だけだ!
「……やっぱり、親子じゃのぅ」
そんな僕に若干引きながらも、何だか懐かしむような言葉を呟くお爺ちゃんに気付く事無く、僕はお爺ちゃんにお願いする。
「トゥライトシルバーッ! アレを出して!」
「……」
「トゥライトシルバー! アレだって……もう! お爺ちゃん!」
「お、おう!? シルバーってワシか……すまんすまん、今出す」
僕の言葉に何の反応も示さなかったシルバーだが、ようやく気付いたようで手を前に出しスキルを発動する。
『クラッシュハンマー!!』
シルバーがスキルでハンマーを生み出すと同時に、僕はその場で思いついた名前を叫ぶ。
そしてトゥライトロボに握られた巨大なハンマー。
よし! これで完璧だ!
「シルバー! 行くよッ!!」
「う、うむ。行こう……ブルー……」
シルバーの僕を呼ぶ呼称に思わず口元がニヤける。
ブルー……いつも冷静な戦隊の頭脳。
僕が一番好きなキャラだ!
『サリー様、今助けるからねッ!! トゥライトロボ……出動ッ!!』
『しゅ、出動……うぅ……いっそ殺してくれ……』
戦場に、孫に付き合わされて大勢の前で戦隊ヒーローの真似事をさせられる、可哀想なお爺ちゃんの声が響いた。




