秘めた想いと秘めた力
「ヒカルたんを戦場にッ!?!?」
ヒカルたんの思わぬお願いに思わず会場中に響き渡る程の大声で聞き返してしまった俺。
その事で、ジンの事でざわめく会場に一時静かさが訪れるが、次の瞬間会場中に怒声が響き渡った。
「どう言う事なのヒカル!?」「どう言う事なんじゃヒカルゥゥ!!」
中でもアカリたんとゴンズは凄い剣幕でこちらへ突進してくると、そのままヒカルたんに詰め寄るように問いただした。
今までのヒカルたんならそこで狼狽え、まともに会話も出来なくなっていただろう……しかし、今回のヒカルたんは違っていた。
「僕も……僕もお爺ちゃんやジンさんのように、皆を守れるヒーローになりたいんだ!!」
「「ッ!?」」
決意に満ちた表情で自分の気持ちをしっかりと語るヒカルたんに言葉が出なくなる二人。
「僕には何も力が無くて……これまでアカリやお父さん、お爺ちゃんに守られるだけだった。
だから自分に自信がなくて……
人とまともに喋るどころか、いつもアカリの後ろに隠れるだけだった……。
でも、僕だって守られてばかりじゃいやなんだ!!
……お父さんがいつも話してくれた物語のヒーローのように、アカリやお爺ちゃん……この国の、僕たちを応援してくれている皆を守りたい!!」
それはこれまで外に出す事の無かった、ヒカルたんの心に秘めた想いだった。
「じゃ、じゃが……ヒカルには戦う術がないじゃろう? じゃから、皆を守るのはワシらに任せて、ヒカルは安全な場所で待っててくれんか?」
「そ、そうだよヒカル! 何の力もない私たちはみんなの足手纏いになるだけなんだから!」
必死でヒカルを説得しようとする二人。
しかし、思わぬ所から横槍が入る。
「そんな事ないよ?」
そう発言したのは、それまで必死にヒカルたんを掴み、説得を試みるアカリたんと言う、可愛いと可愛いが合わさったダブル可愛い光景を、ニマニマしながら横で見守っていたルカだった。
「え〜と……ルカ?」
「それはどう言う事ですか?」
俺とアカリたんの言葉に一瞬キョトンとした顔をしたルカだったが、直ぐに納得した顔になると説明を始める。
「そっか……魔法使った事ないんだね。うーん……簡単に言うと、今のヒカルたんちゃんの魔力量って、四天王クラスと比較しても遜色無いくらいあるんだよね」
「「「えっ……」」」
ルカの衝撃の発言に、ゴンズやアカリたんだけでなく、周りで話を聞いていたドワーフたちも時を止めたように固まる。
「そ、そ、そ、それって本当なんですか!?」
動揺しまくりのアカリたんが詰め寄るようにルカへ聞き返すと、ルカから更なる爆弾が落とされる。
「うん、私たち吸血鬼は人の魔力を見る事が出来る特殊な目を持っていて、その目で見たから本当だよ。……と言うか、アナタもヒカルたんちゃんと同じくらいの凄い魔力量だね」
「「「えっ!?」」」
本日2回目の衝撃事実発覚だ。
それを伝えた本人はさも当然と言った感じでニコニコしている。
しかし……ヒカルたんもアカリたんも、四天王クラスの魔力量を持っている……?
……マジすか?
双子揃って同じ力と言う事は……もしかして、ドワーフに生まれる双子は同じように魔力量が桁外れに高く生まれるのか?
「私にも……そんな隠された力が……」
俺が思考の渦に飲み込まれそうになると、アカリたんのそんな独り言が聞こえて現実に戻される。
アカリたんを見ると、自らの両手を見つめながら、自分の隠された能力に衝撃を受けて、一人呟き続けている。
……と思ったらヒカルたんも全く同じ状態だった。
やっぱり双子……性別は違うのにそっくりだ。
その時一番衝撃を受け、ずっと固まっていたゴンズがようやく復活し、ルカの言葉に反論した。
「そ、それが事実だとして……だとしても、まともに魔法の練習をした事がないヒカルが戦場に立つなど無理じゃろう?」
「うーん……そうだね。流石に直ぐに敵が進軍してきてもおかしくない状態で魔法を教えてる時間も無いし、せっかくの凄い魔力量だけど魔法を使った事ないなら諦めた方が良いね」
その言葉を聞いて一安心するゴンズとアカリ。
しかし、ヒカルたんはまだ諦めていなかった。
「それなら大丈夫です!! 今の僕には戦う術があります!!」
「戦う術って言ったって、ヒカル……アナタは私と一緒で体も小さく力も弱い……魔法だってこの人が言った通り使った事もないんだから、例え魔力量が多いんだとしても何の役にも立たないじゃない」
ヒカルたんの言葉に諦めの悪い子供を諭すように優しく話しかけるアカリたん。
だが、それでもヒカルたんの決意は曲がらなかった。
そして今度はヒカルたんがアカリたんを見て、逆に優しく話しかけた。
「大丈夫だよ、アカリ。
だって僕には……
新しく目覚めたスキルがあるから」
「「「……ええっ!?!?」」」
それは本日3回目の衝撃事実であった。
*****
戦勝会の次の日の翌朝。
ワッフル公国がある山脈の人族領側には最初の一万の軍から大きく減り、五千程の人族軍の兵が整列していた。
兵たちは皆疲労と恐怖に満ちた表情が見られ、人族軍に当初の覇気は無い。
しかし、それでもこの戦場から逃げ出す者はただ一人として居なかった。
何故なら整列する兵士たちの後ろ……。
そこには、二十人のサイクロプス達と、中央には元四天王で既にスキルによる巨大化をしたサイクロプスのサリーが睨みを聞かせているからだ。
恐怖による進軍……そんな事で兵士たちの士気が上がる筈もない。
相変わらず戦力差はワッフル公国の千に対して人族軍が五千と五倍もの大差であるが、こちらは昨日の勝利でやる気も抜群、更に……。
『みんなーーーッ!! 今日は私が全力の歌で応援するから、絶対に勝ったねーーーーッ!!』
「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉおおおッ!!!」」」
この国が誇るアイドル国宝、トゥライトの応援と言う名の歌が聞けるとあって、ボルテージが既に最高潮状態のドワーフたち。
皆、体から湯気が出る程興奮しており、その体はパンプアップした後の如くパンパンに膨れ、目は血走って今にも人族軍に飛びかかって行きそうな勢いだ。
その姿は、いつかのニューエルフの里でスッポンポン鍋を食べたニューエルフたちのようだった。
歌だけでファンにこんなにも力を与える存在……アイドル国宝、恐るべし。
かく言う俺も、表には出していないが実はかなりテンションが上がっている。
グッ!
ん?
何やら腕を摘まれたのでそちらを見ると、そこには頬を膨らませて睨んでくるルカの姿があった。
どうやら俺の反応に拗ねてヤキモチを妬いているようだが、その際つねったつもりなのだろうが、骨だから摘むだけになっている。
「……」
俺の嫁が可愛すぎてキュン死しそうだ。
骸骨だからもう死んでるけど。
一瞬ルカの可愛さにアホな事を考え惚けてしまったが、すぐに弁明する。
「こ、これは違うんだ。俺が一番愛しているのも、可愛いと思っているのもルカただ一人だ! トゥライトはそう言った感情とは別で……」
プイッ。
そんな俺の弁明虚しく、そっぽを向いてしまうルカ。
俺の中で絶望が支配する。
このままルカに嫌われてしまったら……俺は体だけじゃなく、心まで死んでしまう。
これから俺は……何を目的に……生きていけば良いんだ……。
「プッ……ふふふ」
絶望で目の前が真っ暗になっていると、不意に小さく笑いを堪えたような声が聞こえてきた。
「ふふふふ……冗談だよクリス。仮にも私は魔王の妻だよ? そんな事で怒ったりしないよ」
良かったぁぁ! 本当に良かったぁぁ!
「何より、クリスには魔王として次代を担う存在を一人でも多く残さなくちゃいけないって言う義務もあるんだから……今はまだ元の体に戻ってないから無理でも、賢者の石を手に入れて元の体に戻った時の為にも、むしろ妻でも側室でも今のうちからどんどん作らなくちゃね!」
そんな事を笑顔で言うルカ。
確かに……魔族の王として、強い子を残す事は義務なのかもしれない。
……でも。
「俺はルカ以外の女性を側室として迎えるつもりも……ましてや妻にするつもりもないッ!! 俺にとって愛する女性はただ一人……ルカレット・エレンシアただ一人だッ!!」
「ッ……」
俺の想いを聞き、頬を赤らめたルカが潤んだ瞳でジッと俺を見つめてくる。
「……クリス」
その瞳から目を離せなくなった俺は、吸い込まれるようにだんだんと顔が近付いて行く。
「……ルカ」
もう少しでその柔らかな唇に触れられると思った瞬間。
「……ゴホン」
すぐ近くから咳払いをする音で突然現実に戻された。
「イチャイチャするのは構いませんが、時と場所を選んで下さい」
ルナーレの言葉に二人だけの空間が壊れたように感じたると、それまで感じなかった周りの視線に気付く。
ジト目で見るルナーレに、顔を真っ赤にして居心地悪そうにしている双子、その後ろにはそれまで異常なまでにボルテージの上がっていた兵士たちがニヤニヤとこちらを見ている。
……そして、何故か片手を内股の太ももで挟み、もう片方の手を口に当ててハァハァと呼吸荒くしている変態……もとい、ミルカ。
最後の変態は良いとしても、他の人……特に双子には悪い事をした。
「ゴホン……数では負けていても、向こうの士気は低く、こちらの士気は最高潮だ。加えてこちらには俺たちがいる……最早負ける理由はないな!」
先程の事はなかったかのように姿勢を正してみんなに向かって話しかける俺。
チャンチャン。
すると横のルカに腕を突かれ、そちらを向くと、ソッと耳元に顔を近づけたルカが小さな声で言った。
「……続きはこの戦いに勝ったら……お家でね」
自分で言っておいて照れたのだろう、サッと離れると耳を真っ赤にして俯くルカ。
「よっしゃぁぁぁああ!! 人族軍など皆殺しじゃぁぁああ!!!」
「「「うおおおおぉぉぉぉぉおおおおッ!!!」」」
俺のやる気も最高潮になり、ワッフル公国での最後の戦いが始まろうとしていた。




