男の友情
「楽しい時間をお過ごしのところ申し訳ないが、一旦戦勝会は中断だ……人族軍が攻めてくる」
俺の突然の発言にざわめく会場。
「人族軍って……あれだけコテンパンにされて攻めてくるバカがいる訳ないだろ!」
「そうですわ。軍の半分近くに被害が出てた筈ですもの、それでも攻めてくるなんて……軍を治める立場ならあり得ませんわ!」
俺の発言に真っ先に筋肉国宝と髭国宝が反論した。
やっぱりあんたら仲良いじゃん。
……でも。
「残念ながら然るべき情報源から得た確かな情報だ。どうやらメルルとか言う人族軍の総大将は、既にまともな判断も出来ない程追い込まれ……こちらに対して憎しみを抱いているようだ」
「そんな……」
あり得ない話に半信半疑な者や、素直に受け止め絶句して固まる者など多種多様な反応が見られたが、皆一様にこの後どうすればいいのか判らず判断に困っていた。
……ただ二人を除いて。
「直ちに軍を整え迎撃の準備をしましょう!」
ざわめく会場の中でも不思議と響き耳に入る声……アイドル国宝、アカリたんの声だ。
「……僕たちが守る」
先程までのオドオドした態度は何処へ行ったのか、アカリたんの横で決意に満ちた表情で話すのは、同じくアイドル国宝のヒカルたん。
圧倒的支持率を持ち、この国を取りまとめるロード オブザ ビューティフルとなった二人の言葉は会場のドワーフたちの心を一つにするのに何の苦労もなく、先程までの困惑した雰囲気など吹き飛ばし、一気に会場中をボルテージを上げる。
もちろんそんな絶好のチャンスを逃す俺ではない。
予め戦勝会の様子を生中継していたカメラを分体の骸骨兵に操作させてトゥライトの二人に向け、今の言葉は国中に放送させていたのだ。
それにより警戒の為国中に配備している骸骨兵の目や耳から、国中がこの会場と同じく闘志に燃えているのが伝わってくる。
改めて100%と言うトゥライトの支持率の凄さに驚かされたと共に、盲信的なまでのその対応に恐怖すら覚えた。
「よっしゃーッ!! トゥライトがこう言ってるんじゃ! ファンのワシたちがそれを支えるのは当たり前じゃよな!?」
そんな中、誰よりも早くトゥライトの言葉に同意し、大声でみんなを鼓舞するお爺ちゃんが一人。
言わずも知れたトゥライトの祖父、ゴンズだ。
流石産まれた時からファンと自負するだけあり、その熱量は段違いだ。
「そうだ! 私らはトゥライトのファンでありトゥライトに仕える親衛隊だ! トゥライトの手となり足となり、トゥライトの意向は全てまっとうしてみせる!」
ゴンズに負けじと古参のクロッソも続き、それに周りも呼応していく。
「今回の戦いは、我ら魔王軍も全面的に参加する! 安心して戦ってくれ!!」
「えっ!? 良いの魔王様!? 私たちは四天王が揃うまで裏方に徹するって話だったわよね?」
俺の言葉に驚き聞き返すアルス。
「あぁ……ジンがあれだけ頑張ったんだ……その友であり上司である俺が、いつまでも裏でふんぞり返って見てるだけには、いかないだろ?」
「クリス……」
俺の言葉に感動するジン。
「お兄様カッコいい!!」
「ご主人様……素敵」
ミルカとルナーレも頬を染めて見つめてくる。
「どうやら野暮な質問だったみたいね。……男の友情……お姉さん、大好物だわ」
そしてアルスの獲物を見つめるような目が怖いです。
「よっしゃぁ! もういっちょ人族軍共を蹴散らしてやるかぁ!! ……あれ?」
一気にテンションが上がり、声高らかに宣言して立ち上がったジンだが、次の瞬間その場でフラつき倒れそうになり、隣のアルスに抱き止められた。
「すまん、アルス」
「良いのよ……でも、アナタは少し無理し過ぎね。スキルの使用で消費した体力は回復魔法では回復しないんだから」
そうだったのか。
スキルで体力を消費しない俺にはわからない事実だ。
「ははは、この位大丈夫大丈夫。アカリたんとヒカルたんが戦うって言ってるんだ。トゥライトファンの俺が頑張らないでどうするんだってな」
その気合いを普段から出してもらいたいものだ。
しかし……。
俺はスキルでやぐらを崩しジンの元へと向かう。
「ジン……お前は今回、ここで待機だ」
「なっ!? ふざけるな!! 俺は大丈夫だからさっきみたいに前線に出せ! ……いや、出して下さい!」
頭を下げ懇願するジン。
「悪いが、ここで無理をされて大怪我でもされたら魔王軍として損失がデカい。お前は……新たな四天王になる存在なんだからな」
「俺が……四天王?」
思いもよらない俺の言葉に頭を少し上げ聞き返すジン。
「そうだ。ジンには今回の人族軍との戦果を持って魔王軍の四天王になってもらう」
「……」
固まって喋らないジンだったが、その表情はどんどん険しいものへと変わり、遂にはその感情を爆発させた。
「ふざ……けるな!! そんな四天王なんてなるつもりもねぇし、なりたくもねぇ!! 俺は……トゥライトファンクラブNo.474、ジン・ウォレットだッ!!」
俺たちのやり取りにいつの間にか周りのドワーフたちは黙り込み、会場には大声を出して息を荒げているジンの呼吸音以外物音一つしない静けさが支配する。
「ジンさん! ……僕からも……お願い、します!」
そこへ思いもよらない人物が大声でジンの説得に加わる。
それはそれまでジンを熱い眼差しで見ていたヒカルたんだった。
「ジンさんの……お陰で……僕たちは……助かりました」
その姿に古参のトゥライトファンのみならず、昔からヒカルたんを見てきたアカリたんやゴンズも驚いた顔をしている。
歌以外であまり長く話す事のないヒカルたんが、ジンの為にこんなにも必死に言葉をつぐみ、話している姿に驚いているのだ。
「次は……僕が……頑張る番……です!」
可愛らしいその姿とは裏腹に、その瞳は決意に満ちており、初めてその姿に男を感じた。
「……ぁ……え……うぅ」
ジンもヒカルたんの真っ直ぐな眼差しに射抜かれて返す言葉も出ない。
せっかくヒカルたんがこんなにも真剣に後押ししてくれたんだ。
俺もしっかり腹割って話さないとな……。
「俺は魔族の王……魔王だ。だからこそ魔族にとって損失となる行為には反対しなくちゃいけない……が、俺は魔王である前にお前の親友だ。だから、親友としてお前にお願いする……四天王とか別にどうでもいい……そんか事より、お前の体が心配だから……どうかここで休んでいてくれ」
今度は俺がジンに頭を下げる。
「なっ、お前!? ……それは……ズルイだろ」
次第に言葉に勢いがなくなり、遂に折れたジンは崩れるように椅子に腰掛ける。
「わかったよ……わかりました! 大人しくしてれば良いんだろ! たくッ……どいつもコイツも……」
そう言いながらもどこか照れたような表情のジン。
「その代わり! 俺の分もトゥライトの為に人族軍を蹴散らしてこいよな!!」
そう言ってジンは拳を突き出してきた。
その意味を汲み取り、俺も拳を突き出す。
「フッ……任せておけ。俺はこれでも……魔王だからな」
そう話しながら突き出されたジンの拳に自らの拳をぶつける。
不器用な男同士の友情……その姿に周りは温かい眼差しで見守る中、爆弾発言をする者が一人。
「はあん……男の友情……そそるわぁ……二人とも食べちゃいたぃ」
「「……」」
そう、アルスである。
アルスの言葉に動きを止める俺とジン。
次の瞬間ジンから独特なあの雰囲気を感じたので、咄嗟に周りの骸骨兵をスキルで変形させ体を固定する俺。
「おっとジンくん……何処へ行くのかな?」
「クソッ! 本調子ならこんな簡単に捕まらないのに! 離しやがれ!」
ジンは必死に拘束から逃れようとするが、固く固定した事で逃げる事は出来ない。
その間にも肉食獣のような据わった目で俺たちをロックオンし、にじり寄ってくるアルス。
このままでは……やられる!
「そ、そうだ! アルス! ジンがちゃんと休めるように付きっきりで看病してやってくれないか!」
身の危険を回避する為、友を売ろうとする俺。
「なっ!? 汚ねぇぞクリス!! 俺を売る気だな!!」
俺の発言に焦りだすジン。
「あらぁ……それはとっても魅力的な命令ねぇ……わかったわ……私が全身全霊をもって看病して、あ・げ・る」
何とかその作戦に乗ってくれたアルスは、狙いをジン一人に変える。
「ちょっ!? 待て! 話し合おう! うわぁ!?」
必死にアルスへ説得を試みるが、最早周りの話など聞こえない様子のアルスは、拘束した骨ごとジンを持ち上げ会場を出ていく。
「ゴンズ、お家の一部屋借りるわよー」
「あぁ、好きに使って構わんが……ほどほどにな」
その際ゴンズに許可を貰うと、ゴンズの言葉にサッと手を上げて勇ましい後ろ姿で去っていった。
「「「……」」」
と……とりあず、ジンはアルスに任せれば良いだろう。
男の友情とは儚いものだな……さらばだ、友よ。
チョンチョン。
親友の最後を見送っていると、後ろから俺をつつく者がいた。
振り返ればそこには机の上に立つヒカルたんの姿。
「あの……」
しかし、俺を呼んだは良いが先程の威勢は何処はやら、なかなか話を切り出せずにモジモジしている。
「どうした? 何かあるなら何でも……「クリスー!!」
その時、会場の入り口から俺を呼ぶ聞き慣れた愛らしい声が響いた。
すぐに会場の入り口付近を見るが、人が多くて目的の人物を見つける事が出来ない。
そもそも彼女はここにいる筈がないのだ。
きっと自分で気付いていなかっただけで、彼女と離れていた時間が俺の中に寂しさを生み、幻聴まで聞こえる程になっていたのだろう。
俺がそう結論付けようとしたその時、横から誰かに飛びつかれる衝撃で思考が中断された。
「クリスッ! 会いたかった!!」
飛びついてきた人物はそう言うと、俺の胸に顔を埋めてくる。
その人物がここに居る事に驚きながらも腕は自然と動き、彼女のその華奢だが柔らかな体を抱きしめる、サラリと触り心地の良い髪を優しく撫でる。
「俺も会いたかったよ……ルカ。でもどうしてここに?」
俺の質問にオズオズと顔を上げるルカ。
「えへへ、会いたくなって飛んできちゃった」
そう言ってイタズラな顔で笑うルカが最高に可愛く、愛らしく……思わずその柔らかな体を再び抱きしめる。
そんな俺の行動に同じように抱きしめ返して答えるルカ。
なんて幸せな時間なんだろう……。
ルカがいれば何処でも天国だな。
幸せな時間をしみじみと味わっていると、視界の端で俺たちを見てオロオロと居た堪れない姿をするヒカルたんが映った。
いかんいかん、突然のルカの来訪ですっかり忘れていた。
「すまない、それで俺に何かようだったかな?」
「あっ……えと……あの……」
「わあぁぁぁ! クリス! この小さくて可愛らしい子は誰??」
突然話が自分に戻ってきた事で今度はオドオドし出すヒカルたんに気付いたルカが、ガバッと俺から離れるとヒカルたんの目の前に立ち、目をキラキラさせて質問してきた。
流石可愛いものには目がないルカである。
その手はワキワキと今にもヒカルたんを抱きしめようとしている。
「この子……いや、この方はこのワッフル公国のアイドル国宝で、国宝たちの頂点であるロード オブザ ビューティフルである双子の弟、ヒカルたんだ」
「ヒカルたんちゃんって言うんだぁ! 可愛いぃッ!! あっ……でも、この国で一番偉い方なんですね……むむぅ、通りで」
ヒカルたんちゃん……俺の説明が悪かったが、ルカの可愛らしい間違いに俺の心は癒される。
……ん? 通りで?
「ルカ……それって「あっ……あの!!」……」
またもや話が脱線仕掛けた俺たちにマズイと思ったのか、大声で声をかけるヒカルたん。
それに俺たちが振り返ると、そこには自分の思わず出た大声にオロオロした顔のヒカルたんが居たが、すぐに覚悟を決めた表情に変わるととんでもない事をお願いしてきた。
「次の戦いで……僕を……僕も戦場に出して下ひゃぃ!?」
「……噛んだ」
「噛んだ……可愛い」
大事な場面で噛んでしまい赤面して俯くヒカルたんに思わず身悶えする俺とルカ。
……じゃなくて!!
「ヒカルたんを戦場にッ!?!?」
とても信じられないお願いに、思わず大声で聞き返してしまった俺だった。
誤字報告下さった方、ありがとうございます。




