ジン・ウォレット
魔王軍は圧倒的な力の差で勝利した事で、その力を恐れた人々は反抗する事なく、ローレンの街は何の障害もなく魔王軍の支配下となった。
利己的な権力者は早々にローレンの街を離れた為、残った者は民や街を思う善人ばかりとなり、民に不利益が生じないよう魔王軍に協力的な権力者と、そこに有能な魔王軍の部下も加わり、支配後の行政の運営は足を引っ張り合う者が居なくなりむしろ支配される前より円滑な運営が出来ている程だ。
戦いに大量に投入された骸骨兵はそのまま街の見回りに回され、犯罪者や歯向かう者には容赦はないが、それ以外の者には決して手を出さず、むしろ街の人が困っていると黙って手助けしてくたり、清掃活動などもしており、支配前より治安も良くなったと民のウケもいい。
今回の戦いで亡くなった兵士の遺族には、通常の2倍以上の多額の見舞金が支払われた為、遺族から大きな反感を買う事もなく、そのお金が不正や裏金などで至福を肥やしていた前領主の資産を没収し出された物だとわかると、むしろ魔王軍側を好感的に捉える者まで出るほどだった。
更に今回の戦いで大敗したのは事前にした調べもろくにせずに、領主の欲望の為に出陣させられたのが原因だと噂が広まった為、それまでの前領主の行いもあり怒りの矛先は魔王軍から前領主や、前領主の家族に向けられたのだった。
人間側からの来訪者はいなくなった市場では、代わりに魔族側から来訪者が訪れるようになり、その物たちが物珍しい人間族の商品を大量に買って行く為、最初は怖がっていた商人達もそこは流石と言うか、すぐに順応し魔族相手ににこやかに接客していき、すぐに賑やかさを戻して行った。
それらの対応が功を奏し、魔族に支配されてから一ヶ月後には以前以上に賑わうローレンへとなり、最初は恐怖の対象でしかなかった魔王軍も今では感謝される対象にまでなっていた。
実際に戦闘に出た兵士や、城壁や城の上から戦闘を見ていた人間を除いて……。
そんな以前よりも賑わう街を横目に、ボサボサの髪に無精髭やる気の無い顔と言った一見ニートにも見える見た目に使い古された軽装の装備を着込んだ男性であり、ローレン軍大隊長であるジン・ウォレットは馬車に乗り、ある場所へと向かう。
「ジンさん……わ、私達は、生きて帰れるでしょうか?」
向かいに座る事務官代表のコリアは、綺麗な黒髪をアップでまとめ、タイトなスカートスーツとシャツをビシッと着こなし、黒縁メガネで目尻の上がった目がキリッとした綺麗な顔が印象の女性だ。
商人の娘ながらも文官としての実力を買われ、今回の戦いで早々にこの街を逃げ出した無能な上のハゲ親父共に代わり、事務官の代表に選ばれた若きエースである。
普段は自信に満ち、自分の仕事に誇りを持ってテキパキと仕事をこなす女性だが、今は普段の自信はどこへ行ったのか、眼鏡の奥の瞳は不安そうに揺れ、震える手を押さえながら俺に聞いてきた。
「そんなの俺にはわからん。でも一つだけ言える事は、これから会う相手は地形を変えてしまう程の人外の威力を持つ魔法を操り、機嫌次第で俺達なんて簡単に殺されてしまう相手だと言う事だ」
途端に泣きそうな表情になるコリア。
別に怖がらせたい訳ではないが、先程言った事は事実だ。
一ヶ月前の戦いで、魔族討伐に向かった俺を含めた二百人の隊員の内、生き残ったのは僅か二十四人で、亡くなった者は百七十六人にあがる。
その内、遺体の身元が判明したのは百十一人。
それ以外の六十五人は、これから会う人物が最後に放った魔法で跡形も無く消し飛んでしまった。
その惨劇を起こしたとうの本人は、魔法を放った後、疲れた様子もなく戦後処理を先頭に立って取り仕切っていた。
それに今回の戦闘だが、あまりに魔王軍側に有利な条件が揃いすぎている。
本来ならあそこまで簡単に兵士側はやられなかったし、街に居る冒険者や聖職者の力があれば、勝てなくとも街に立て篭もり、王都からの応援が来るまで籠城する事も出来た筈だ。
それがこんなにも簡単に敗北し、なんの抵抗も無くローレンの街が降伏したのも、王都で行われる勇者ヤマト誕生祭を祝う為に、上位の聖職者が殆ど王都へ行ってしまい、それに街に在中しているS級やA級冒険者の多くが護衛として駆り出された為だ。
また、十数年前に就任した新しい領主の元に数年前から異国の商人が度々訪れるようになり、領主は珍しい調度品や娯楽品を商人から高額で買い漁っていた。
そのお金はどこから確保していたのかと言うと、税金を上げる事はもちろんの事、最近では魔族との小競り合いも無いからと軍の縮小をはかって出していたのだ。
そのせいで実力のある兵士はどんとん辞めて行ってしまい、今では安く雇われた冒険者上がりも多くおり、そんな冒険者上がりの俺でも副隊長になれてしまう程だ。
そして、極め付けが、最近周辺の村に骸骨兵が出没し、村を襲っているとの知らせがあり、そちらへ兵士や聖職者を派遣していた為人手が不足していた事である。
そこに来て今回の絶世の美女である魔族の出現で、欲に駆られた領主が最低限しか兵士を街に残さず出兵させ、戦闘に出た兵士は突然現れた大量の骸骨兵と、最後の大魔法でほぼ壊滅した為、街に残ったごく僅かの兵士と実力の低い冒険者や聖職者では太刀打ち出来ない為、降伏するしかなかったのだ。
今回の戦闘で骸骨兵を大量に使用している事から、周囲の村で出没していた骸骨兵は十中八九魔王軍の手先である事は明白だし、他の要因も全て計算尽くなら、四天王ルカレットは策略にも長けているか、部下にかなりのキレものがいる事になる。
そんな規格外の化け物と会うのだ、一時の安心を与える為に変に嘘を言っても、そのせいで対応を誤り殺されてしまったでは意味がない。
コリア自身も勇者ヤマト誕生祭の準備や周辺の村に出た骸骨兵の対応なども行っていたのでこの事には気付いているだろうし、実際の戦いを城の窓から見ていたので良くわかっている筈だ。
まぁ、俺の場合はそんな規格外の化け物の気まぐれで殲滅ではなく降伏を促したお陰で、命令によりあと1秒でも遅ければ殺されていたと言うところで敵の攻撃が止まり、命が助かったんだけどな。
それに何より彼女に必要な言葉は、やすっぽい慰めではない。
「そんな人外の矛先が領民に向かないように、これから俺たちは彼女と会って彼女の思惑を探りつつ交渉して行くんだろ?」
「そう……ですね。彼女から人々を守れるのは私達しかいないんですもんね。……私、頑張ります! ジンさんもよろしくお願いしますね!」
どうやらコリアの覚悟が決まったようだ。
伊達にあんな惨状を見た後でも人々の為にと自らここに残り、事務官代表に選ばれる程努力していた事はある。
俺みたいに大隊長を始め上がほぼ戦死し、たまたまその日は非番で生き残った別の隊の隊長と副隊長から戦いで唯一残った副隊長の俺を気遣いしばらく療養していろと言われ、療養して戻ってみたら勝手に大隊長代理にされていた挙句、外堀まで埋められて逃げられないようにされた人間とは大違いだ。
俺が副隊長に上がる時は家柄がどうだとか、冒険者上がりのクセにとか反対して散々裏で悪口言ってたのに、こんな時だけ簡単に上に上げやがって。
しかも当の本人達は、戻った時にはもうこの街にいないと言う……マジでアイツら、次見つけたら殺す!
とにかく目先の安全の為にも今回の面会を無事済ませなくては。
その為にも、コリアにはいつと通り、自信が溢れ、仕事の出来る女性でいて欲しい。
何てったって俺は所詮田舎育ちで、冒険者時代も戦いがメインだったからろくに教養も学ばず、兵士になってから少しかじった程度で、交渉はおろか、敬語だってままならない、はっきり言って完全な戦力外だからだ。
「任せてくれ。交渉で俺に出来る事はないけど、万が一の時にはコリアを抱えて逃げおおせるくらいはして見せるさ」
「いや、万が一があったらダメですから! ハァ〜、ジンさんを当てにした私が悪かったですね。わかりました。交渉は私がやりますからジンさんは後ろに控えていて下さい」
残念な者を見る目で見てくるコリア。
おじさんをそんな目で見ても喜ぶだけだぜ。
こうして二人を乗せた馬車は目的地へと向かうのだった。
*****
「久しぶりに来たけど随分スッキリしたねぇ」
「前領主のコレクションは全て売られて、1ヶ月前の戦いで亡くなった兵士の遺族に見舞金として支払われましたからね。他の施策もあって今じゃ魔王軍の人気は鰻登りみたいですよ」
「まぁ、この街も冒険者は優遇されてたけど、それ以外の人々には重い税が課せられて大変だったからねぇ。それが三分の一以下に軽減されりゃ、人気も出るよなぁ」
目的地である、領主城に到着した俺たちは、担当の者が来るまで客間で待ってる所だ。
「今までの施策だけを見ると、とても良い領主様って感じですね。とてもこの前の戦いで大量虐殺を指示した方と同一人物とは思えません」
「う〜ん、この前の戦いもわざわざ戦闘の前に降伏勧告までしてたきたのに、ウチの前領主が暴走して突撃命令だしたのが原因だからな」
「遠目からはわかりませんでしたけど、その噂って本当だったんですね。そうなるとやはり善人なのか……はたまたそう思わせて人心を集握する為の作戦なのか……そこをしっかり見極めなくちゃいけませんね!」
するとその時、部屋をノックする音が聞こえたので返事をすると一人のローブを着た老人が入ってきた。
コイツは確か、あの戦闘で四天王ルカレットの横に居た人だな。
「お待たせしました。コリア様は何度か仕事でお会いしておりますが、ジン様は初めてになりますね。私ルカレット様の配下で副官をしております、グラスと申します。これからよろしくお願い致します」
コイツが副官か……物腰柔らかで喋り方にも気品があり一件強そうには見えないが、やはりルカレットの直属の部下なだけあり底知れない魔力を感じる。俺たちなど簡単に殺されてしまうだろう。
下手に喋って気を悪くしてもらっては困るので会釈で答える。
「それでは主の許可が降りましたので、お部屋まで案内致します。私の後についてきて下さい」
承諾の為頷きグラスの後に付いていく。
気のせいだろうか、前を歩くグラスはかなり機嫌が良さそうだ。いや、気のせいではないな、鼻歌漏れてるし。
理由はわからないが、機嫌が良いならこちらとしては助かるのでそのまま指摘せず鼻歌まじりに案内するグラスの後をついて行き一つの扉の前に来た。
「グラスです。コリア事務官様とジン大隊長様をお連れしました」
グラスが扉をノックして来訪の知らせを伝えると、しばらくして扉が開き、開いた人物を見て俺は思わず声が漏れてしまいそうになる。
扉を開けた人物……いや骸骨兵なのだが、そいつから漂うヤバい感覚を忘れる訳がない。
そいつは1ヶ月前の戦いで後一秒でもルカレットの命令が遅ければこの命を刈り取っていたであろう張本人だったのだから。
咄嗟にコリアを庇い前に出る。しかしその後身構えていても何も起きず、骸骨兵もピクリとも動かないので、そのまま向かい合い見つめ合う形で固まる。
「その者がどうかされましたか? 何もなければ主がお待ちですので、中へどうぞ」
グラスはそのジンの行動に疑問を持ちつつも、お互いに動きもないので気を取り直して、自分は扉の横に移動し、中に入るように促す。
「ジンさん大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……悪い何でもない、中に入ろう」
俺の行動に特に反応を見せない骸骨兵に、気を取り直して警戒を解き、心配して小声で話しかけてくれたコリアに返事をして中へと入る。
中へ入るとそこには、あの戦闘以来見るのは二度目になる、魔王軍四天王、ルカレットがデスクに座り俺たちを待っていた。
俺たちが入るのを待ち、後ろで扉を閉めた骸骨兵はそのままルカレットの隣まで歩き、こちらを向いた状態で待機する。
どうやらルカレットの直属の配下のようだ。直属の配下に選ばれるって事は、やはりこのヤバい雰囲気といい、特別な骸骨兵だったのだろう。
「お初にお目にかかります。私、今回このローレンの街の事務官代表として選出されました、コリア・シューと申します」
「新しく軍の大隊長になりました、ジン・ウォレットです」
コリアが挨拶をしたので意識をルカレットに戻しつつ挨拶をする。
そして改めてルカレットを見るが、一ヶ月前の戦いで遠目に姿を見ていたが、相変わらずその美しさは健在で、街ですれ違えば誰もが目を奪われる程の絶世の美女がそこに居た。
デスクから見える上半身は着崩した和服から胸元がはだけて見えており、男を釘付けにする妖艶な姿は一ヶ月前と変わらなかったが、今日は室内なのに寒いのかフワフワの赤いマフラーを首に巻いている。
寒いのなら着崩さないでちゃんと着て、もっと厚着をすれば良いのにと思ってはみるが、体は素直で、目線をその豊満な谷間から離すことが出来ずにいると、横から咳払いと共に脇腹に肘鉄をくらい激痛と戦うハメになった。
一瞬激痛に悶えている際に後ろのグラスが目に入ったが、ルカレットを見てとても驚愕した表情をしていた。どうしたのか疑問にも思ったが、今自分が失礼な体勢を取っている事を思い出し、すぐに痛みを耐え姿勢を直す。
「お初にお目にかかる。私は魔王軍四天王が一人ルカレットだ。わざわざご足労頂き感謝する」
そんな態度を咎める事無く挨拶を返すルカレット。こんなしょうもない事でいきなり殺されていたら、巷の笑い話にしかならなかったのでマジで良かった。これから気を付けなくては。
「こちらこそお忙しい中、私共の為に時間を割いて頂きありがとうございます。閣下のような素晴らしい指導者に拝謁する事が出来、とても光栄です」
「おべっかはいらないよ。今日は挨拶だけしにきたんじゃないんだろ? 煩わしい建前とかも良いから単刀直入に頼むよ」
おぉ、清々しい位の効率主義だな。俺もその方が小難しい話を聞かされずに助かる。コリアさん、言ってあげなさい。
「流石閣下、私共の考えなど全てお見通しですね。では単刀直入に話します。閣下がこの街を支配した目的はなんでしゃうか? ……いえ、違いますね。それよりもこの街の人間をこれからどうされるおつもりでしょうか?」
「なに、取って食うつもりはないから安心したまえ。この街の住人には逆らわない限り危害を加えるつもりもないし、むしろ魔王国の住人として今まで通りの生活を送って貰うつもりだから安心したまえ」
「それは本当ですか!? 我々は占領された街の住人ですから、奴隷にされても仕方ない処遇かと存じます。魔族は弱肉強食の世界と聞き及んでおりますし、我々弱者は奴隷にされずとも、それに近い、高い税などで搾取されてもおかしくないと思うのですが……それを今まで通りの生活を送れるなど、裏がなければとても信じられません」
確かにその通りだ、ただ、人間側の魔族に対する偏見からくるものも大きいが、それを抜きにしても税金を高くするどころか下げるなど、敗者に対して条件が良すぎる。
「そうだな、魔族が弱肉強食世界なのは確かだよ。だけど、同じ弱肉強食でも私の考えはその意味合いが違うんだよ」
「それはどのような考えなのでしょうか?」
「強さにも色々な種類があるも思わないかい? 単純に個としての戦闘で強い者、団体を率いて強い者、心の強い者や勉学に強い者。あらゆる事で強さがあると思う。だけど、強者がこれからも強者であり続ける訳ではない。老いたり怪我や病気になれば弱くなるし、弱者でも集まれば群れの強さで個での強い者を打ち負かしてしまう。更には突然強者よりも更に強い者が現れ、倒されてしまう事だってある。これは君たち人族が個で優れる我ら魔族を団結して撃退したり、勇者のような魔王をも凌駕する力を持った者が現れ倒されてきた歴史から学んだ事だ」
勇者か、有名な方だと200年前の勇者ヤマト、500年前の賢者サイトウ、1000年前の最初の勇者スズキの三人だが、他にも賢者サイトウ以降は度々召喚され、魔族と何度となく戦った筈だ。
「その事から私は、同じ弱肉強食をモットーとしているが、弱者は強者の餌食になるだけではなく、強者もまた逆の立場になる事があると言う戒めとして捉えている。だから、弱者だからと侮らず不当な扱いをしようとは思わない。その結果倒されるのはいつも個の強さで弱者を虐げてきた者達だからね」
「私はと仰られましたが、それはルカレット様だけの考えなのでしょうか?」
「私と、私の部下達、そして魔王様の考えだ。それ以外の四天王や、魔族全体では単純な弱肉強食を主としているからまだまだ少数の考えになるね。だからもし他の四天王がこの街を占領していたらきっと君の心配している通りの結果になっていただろうし、魔王様の考えを理解出来ない輩がこれからこの街の支配を奪いに来ることも考えられる」
「そんな……では我々は安心して暮らすのは無理じゃないですか……」
「安心しろ、そんな事は私がさせない。この街は魔王軍四天王ルカレットの名にかけて私が守るからな」
「どうしてそこまで……」
「戦略的にこの街が大切なのもあるが……私の大切な友が元人間でな。同じ人間であるお前たちも私の庇護下にあるのなら大切にしたいのだよ」
カタッ
その言葉に反応するように、ルカレットの横の骸骨兵が微かに動き物音をたてた。
その事に疑問を感じたが、それよりもこれまでは淡々と説明をし、どこか冷たいイメージのあったルカレットが、友の話をした時だけとても柔らかな笑顔になった事に驚いた。
それと共に心の底からその友を大切に思っており、その話が事実なのだと感じられた。
「そう……ですか。わかりました! 閣下のお言葉、私は信じます!」
どうやらそう感じたのはコリアも同じだったようだ。
「ああ、任せたまえ。そうそう、この際だからこの街を支配した目的も話しておこう。予想は付くと思うが、地理学的にこの先、王都に進軍するのに有利になる為この街を支配した……と言うのは建前で、本当の目的はこの街の迷宮だよ」
「迷宮……ですが? この街の迷宮と言えば賢者サイトウが残した大迷宮白髭危機一髪ですよね?」
迷宮と言うものはこの世界に沢山あり、普通の迷宮は魔素の濃い場所で自然に出来るものだが、この街の迷宮は賢者サイトウが作った人工迷宮だ。
「そうだ。その迷宮があるから我々は王国への宣戦布告と共に真っ先にこの街を占領し、そして今も四天王である私自ら残って、万が一に備えて守っているんだ」
「ですが、あそこは賢者サイトウが後世の育成の為にと作られた施設で、宝箱が偶に出現しますけど、他の迷宮と違い冒険者が数ヶ月遊んで暮らせる程度の宝しか出ないですよ? あと他と違うのは魔物を狩り尽くしても、またしばらくすると自然に発生するので、素材集めとして重宝されている位で、この街に冒険者が集まって来るのはそれらが理由ですが、魔王軍が真っ先に狙うほどのモノではないと思うのですが?」
「そうだね、もちろん迷宮がもたらす宝や魔物の素材に興味がある訳じゃない」
「では、それは一体なんですが?」
「残念ながら、コリア君の誠意に答えて話したけど、これ以上は極秘事項なので話す事が出来ない。ただ、これから君達にはある事に協力してもらいたいので、その成果次第ではその時話してあげよう」
「協力ですか? 一体私たちに何をさせるつもりですか?」
「そんな身構え無くても変な事をさせるつもりはないよ。少し知りたい事があるだけさ。……詳しい事は街の今後についても含めてグラスから説明させるので聞いてくれ。今日のところはこの辺にしておこう。グラス、あとは頼んだ」
これで話しは終わりとばかりに突然話を切り上げて立ち上がるルカレット。
目尻を抑えているので疲れているのかもしれない。
「では、コリア様。ジン様。別の部屋で私と詳しいお話をしますのでついてきて下さい」
気のせいだろうか、行きと違いグラスの機嫌の良さが無くなり何か考え事をしているように感じる。
「そうだ、グラス。あとで話があるので時間を空けておいて欲しいんだが」
「わかりました。本日はコリア様達との話し合いがありますので、明日の午後でよろしければおうかがい致します」
と思ったのも束の間、ルカレットに話しかけられて途端に機嫌の良さが戻った。
「うむ、それで構わない。では明日の午後、この部屋で」
こうして四天王ルカレットとの顔合わせが終わり、次の話し合いをする為、スキップでもしそうな程機嫌の良いグラスに連れられ……いや、マジでしてるなコイツ。
小さくスキップをしているグラスに連れられ別の部屋へと向かうのだった。
えっ、この後の話し合い? もちろん、小難しい事ばかりで半分も理解出来ませんでしたけど?