戦勝会
「我らが英雄にカンパーイ!!」
「「「カンパーイ」」」
何度目になるかわからない乾杯の音頭が響き、それに合わせて大勢の乾杯の声とジョッキのぶつかり合う音が響く。
人族軍との戦いの後、大勝利を祝って現在ワッフル公国では国全体で戦勝会が開かれていた。
俺たちがいる場所は、ワッフル公国の中央にある巨大なお城の中のトゥライトのライブが行われた会場だ。
そしてこの戦勝会の主役は何を隠そう、今回の戦いで一番の功績を上げたあの男。
一人で千人の人族軍を引き付け、その全てを壊滅させた一騎当千の黒騎士……ジン・ウォレットだ。
あの後心配していたような精神的問題もなく目覚めたジン。
逆に心配になるくらい平常運転のけだるげな態度に思わず無理をしていないか聞いたくらいだ。
その際のジンの返答は
『戦場に立っている以上、アイツらも覚悟の上で、それで死んだのならそれはアイツらの力が足りなかっただけだろ。そんな奴らの全てを背負うなんてのは唯の傲慢だよ。それでももし俺に出来る事があるとするなら……ただいつも通りの日常を送る事だけだな」
だそうだ。
随分ドライな考えだが、むしろ死と隣り合わせが日常のこの世界ではこちらが常識なのかもしれない。
記憶がないとは言え知識はそのままな俺は、まだ向こうの常識に囚われていたようだ。
傲慢か……確かにな。
彼らは彼らで自らの意思で戦場に立った。
それなのに殺した者の全てを背負うなんて思うのは、平和ボケした考えでしかなかった。
俺は魔王……魔族領で生活する魔族の王であり、今生きている全ての魔族を守る義務がある。
もちろん殺した者の事を軽んじるつもりはないが……それでもしっかりと前を向いていつも通り歩いていかなくちゃいけない。
自分の行動に責任を持って。
だが、そんな事を言っていたジンが今、普段の気だるさは何処へやら、浮かない表情をしている。
その原因は人族軍との戦闘による疲労もあるだろうが、それだけではないだろう。
何故なら……。
「「「キャー!! ジン様こっちみてぇぇえ」」」
ジンにかけられる野太い声援……。
その声援を上げるのは髭を生やしたオッサン顔のドワーフたち……。
今回はニューエルフと違って声援を上げているのは全員、正真正銘女性なのだが……なにぶんその見た目が……ねぇ?
人族として普通の価値観を持つジンからしたら、受け入れ難いものだろう。
せっかく頑張って戦って一国の英雄とまで呼ばれる程になったのに……その結果がこれだ。
さすがジン……期待を裏切らない男である。
そんな普段よりも磨きのかかった死んだ目のジンを含めた俺たちのテーブルへ、手のひらに孫を乗せてデレデレ顔のゴンズが近づいてきた。
「お主ら楽しんでいるか?」
気さくに話しかけながら双子を俺たちの机の上に乗せる。
「あぁ、料理も美味いし、何よりドワーフのお酒は最高だな」
その言葉に建前などはなく、本音からくる賞賛だった。
なんせ、流石大の酒好きで有名なドワーフの国だけあって、ここで作られたお酒は、その香りや味も一級品で、その酒に合うように作られた料理はどれも最高に酒に合う。
ただ、お酒の度数はべらぼうに高い為、最初の一杯でルナーレは机に沈んだが。
「そうだろう! ドワーフと言ったら酒……酒と言ったらドワーフと言うくらい、ワシらドワーフにとって酒はなくてはならない物じゃからなぁ。そのワシらが作る酒が不味いわけかない! 贔屓目に言っても世界一じゃよ」
俺の言葉に満更でも無さそうに答えるゴンズ。
やはり自分の国の物を褒められるのは誰でも嬉しいよね。
するとそれまでの和やかな雰囲気から一転、真顔になったゴンズは急にその場で頭を下げてきた。
「この度は、ワシの大切な孫たちを救ってくれて、本当にありがとう! お主らのおかげで孫たちは怪我一つせず戻って来てくれた!」
「「ありがとうございました!」」
ゴンズに合わせてお礼を言いながら頭を下げる双子。
トゥライトの二人に感謝されるのは満更でもない……だが。
「俺らは補助しただけで、お孫さんたちを救ったのも、今回の戦いで勝利出来たのも全てはジンの成果だ。感謝するならジンに頼む」
何度目になるかわからないこの決まり文句。
ジンはこちらをジト目で見てくるが、実際その通りなのだから仕方ない。
何より今回はジンの実績作りも目的の一つだったから、こうして大々的に広めていかないとな。
「そうか……ジンよ、孫たちを救ってくれてありがとう」
「俺がやりたかった事だから気にしなくていいよ。それにジーさんのくれたこの鎧のお陰で俺も命拾いしたしな」
ジンに向き直り頭を下げるゴンズにけだるけに手を上げて答えるジン。
「ふむ、お主の役に立ったかな?」
「役に立ったなんてもんじゃねぇよ! 流石鍛治師国宝が作った防具だな! 殆ど重さも感じないのに強度はピカイチ……更にその他便利機能も盛りだくさんじゃねぇか!」
弄られた時以外で珍しく興奮してるな。
「そうかそうか、それならば良かった。これからも大切に使ってやってくれ」
「えっ!? こんなスゲーもん貸すんじゃなくて、くれるのか!?」
「もちろんじゃ。お主は孫たちを救ってくれた命の恩人じゃからな……ん? あぁそうそう、孫たちからもお主に直接お礼が言いたいそうじゃぞ」
話している最中にヒカルたんがゴンズの服を引っ張った事で思い出したようにそう話題を変える。
「トゥトゥトゥトゥライトのお二人が俺に、おおお礼!?」
良い歳したオッサンがそんなキョドルな恥ずかしい。
するとそんな気持ち悪い反応のジンを気にした素振りすら見せずにアカリたんが一歩前に出るとニッコリと可愛らしい笑顔でジンに笑いかけながら小さな手を差し出して来た。
アカリたんの行動の意味がわからずボーッと笑顔に見惚れているジン。
すると隣のアルスがそっと『……握手』と耳打ちした事でようやくその意味に気付いたジンは、焦って自分の手を自らの服で拭いてから、恐る恐るアカリたんへ差し出した。
またまた気持ち悪いジンの行動にも気にする事なく、笑顔のまま目の前にきたジンの右手の指を両手で包むアカリたん。
「ジンさん、私たちを……弟を助けてくれて、本当にありがとうございました。お陰でこうしてアナタに直接お礼を言う事が出来ます。……ありがとう」
今日一の笑顔でお礼を言うアカリたんのその姿に、思わずふらつくジン。
俺を含めたその姿を見た周りのみんなも思わず口元を押さえる。
プロだ……ここに人を魅了するプロがおるで……。
「あ……あの……」
天に召されそうなジンに恐る恐ると言った感じで、それまでアカリたんの後ろに隠れていたヒカルたんが話しかける。
「……は、はい! 何でしょうかヒカルたん!!」
その声に正気を取り戻したジンはこちらが引くぐらいの勢いで返事をした。
ヒカルたんはそれに一瞬ビクッとしたが、それでもめげずに何だが熱のこもった熱い眼差しでジンを見つめる。
ん?……これは、もしや……。
「……凄く……カッコよかった……です」
「グハッ!?」
その言葉にジンが昇天した。
俺たちもその可愛さにジンと同じく意識が飛びそうになる。
……何と言う破壊力……これがアイドル国宝か……姉弟揃ってポテンシャルがエゲツない……。
こんな可愛い子が、まさかジンに好意を……。
……ん? 弟?
さっきアカリたんはヒカルたんの事、弟って言ったよね?
二人の可愛さに思わず流してしまったけど……こんなにも可愛らしくて華奢な、女の子の中の女の子とも言える姿のヒカルたんが……男?
信じられない事実に気付いた俺は、意識を取り戻しトゥライトの二人を見てデレデレしているジンを見る。
お前はどれだけ呪われた運命なんだ。
未だその事に気付いていないであろう幸せの絶頂と言った感じのジンへ、同情の視線を送る。
まぁ、せっかく今回一番頑張ってくれたんだ、今だけはその仮初の幸せを味合わせてやろう。
「ん?……」
すると、とある場所にいる人物から念話が入り、その内容で俺の表情は暗くなる。
骸骨だから変わらないけど。
ちょうどそこへこちらへ向かってくる国宝たち。
どうやらこの幸せな時間も一先ずは終わりのようだな。
「いやぁ〜、めでたいめでたい、人族軍も追っ払えて、更にこの国の新しい国宝、ロード オブザ ビューティフルであるアイドル国宝まで決まったんだ。この国はもう安泰だな」
かなりお酒も回っているのだろう、少し陽気な筋肉国宝が話しかけて来た。
「そうですわね。99.9%なんて前代未聞の支持率……最早反論の余地もありませんものね」
筋肉国宝に並び一緒に来た髭国宝。
この人たち本当は仲良いんじゃないか?
「むしろ残りの0.1%は何処のどいつなんだ? ちょっとシメてから一週間程トゥライト講座をしてやるのに」
そう危ない発言をするのは髭国宝の後ろにいる、髭国宝の妹、クロッソだ。
その横には筋肉国宝の子供であるソルとロートもいる。
てか、それは最早拷問という名の洗脳だからね。
「そう言えば……あの時は確か、ゴンズはアカリたちを探して人族軍に突撃してたわよね?」
「「「……」」」
アルスの指摘にゴンズを見て沈黙する一同。
「ん? なんじゃ?」
キョトンとするゴンズにそっとルナーレが後ろに周り事情を説明する。
「おお! そうじゃったか! もちろんワシは生まれた時から二人の大ファンじゃから支持するのは当然じゃよ!」
そう言って手元に出した機械で何やら操作するゴンズ。
次の瞬間、会場に未だ設置されたままになっていた大型画面に表情されたトゥライトの支持率が、100の数字へと変わった。
「「「うぉぉおおぉおおぉぉぉぉおお」」」
その変化に会場中に響き渡る野太い歓声。
ここにワッフル公国で支持率100%と言うとんでもない支持率を叩き出したアイドル国宝が誕生したのだ。会場のボルテージが爆上がりするのも当然だ。
「スゲーぞ!! こんな歴史的瞬間に立ち会えるなんて俺たちは何て幸せなんだ!!」
「ウスッ! ウスッ!!」
「よっしゃー!! 今日は飲み明かすぞぉ!!」
興奮するソルとロートに、ここぞとばかりに再び酒を煽るその父親である筋肉国宝。
他のドワーフたちも皆一様に興奮している。
このまま行くと止められそうにないな……せっかくの楽しいムードだか、仕方ない。
ガシャガシャガシャガシャ。
「な、なんだコイツら!?」
俺の指示で会場に突如現れた骸骨兵たち。
ドンッ!
驚き戸惑うドワーフたちを他所に、俺の元へ集まった骸骨兵たちを変形させ、三メートル程のやぐらが下からセリ上がり、俺を上へ上へと持ち上げる。
その光景に会場の視線が俺に集まる。
出来上がったやぐらの上、俺は会場のドワーフたちに向けある事を告げる。
「楽しい時間をお過ごしのところ申し訳ないが、一旦戦勝会は中断だ」
俺の言葉にザワザワと困惑の声が会場に響き、次の言葉で皆息を呑んだ。
「……人族軍が攻めてくる」




