戦いの後で
人族との戦闘が終わり、被害確認の為ゴンズたちの様子を見に行こうとすると、ちょうど兵士に連れられ俺たちの所へ来たトゥライトの二人が『私たちも着いていって下さい』懇願してきた。
二人の気持ちもわかり、既に人族軍側は撤退したあとで危険もないので二人の願いを承認し、復興の手伝いを買って出てくれたアルスを残し、現在俺たちはトゥライトを連れ、俺とルナーレ、ミルカの五人で骸骨龍【ボーンドラゴン】に乗って戦闘が行われていた場所を捜索している。
ゴンズがサリーが戦闘を行ったであろう場所……そこは上空から見るとその激戦具合がよくわかる。
元の平らで何もなかった殺風景な荒地は既にそこに無く、至る所の地面が陥没し、場所によっては山のように盛り上がってボコボコの大地に変わっていたのだ。
まるで怪獣同士が戦った後みたいだな……。
地形が変わってしまった大地を見ながらそんな感想を抱いていると、突然トゥライトの二人が骸骨龍から身を乗り出して叫んだ。
「「お爺ちゃん!!」」
双子が見つめる場所、そこにはこちらに向かって手を振る一人のボロボロのドワーフがいた。
骸骨龍の分体はその場所を確認すると、ゆっくりと手を振るドワーフの元へ降下し着陸する。
途端に飛び出していきそうな双子を抑え、骸骨龍から降りた俺はそっと地面に双子を降ろしてやる。
地面に降りた瞬間駆け出す二人。
「アカリ!? ヒカル!?」
まさか二人が来るとは思っていなかったようで、最初はその姿に驚いていたが、すぐに気を取り直して膝立ちになり、満面の笑みで片手を広げて二人を迎える。
その姿は遠目からでもわかる程ボロボロで、至る所が腫れ、広げなかったもう一方の腕はだらんと力なく垂れ下がっている。
あの腕……完全に折れているな。
その他にも何箇所か骨折しているようだし、サリーとの戦闘は相当激しい戦いだったようだ。
俺は一緒に来たミルカに目配せする。
俺の意図を汲んでくれたミルカは感動の再会を喜び合うゴンズたちの邪魔にならないようそっと横から回復魔法をかけ始めた。
あの調子ならミルカに任せておけば大丈夫かな。
しかし……ここにサリーが残っていないと言う事は、奴隷の首輪から解放する事に失敗したのか……。
あの首輪は装着した者しか外せない上、装着した者が死ぬと首輪をされた人物も死ぬようになっている。
あのメルルとか言う人族軍の総大将が脅した所でサリーたちサイクロプスの首輪を外してくれる訳もない事はわかりきっていたので、今回ゴンズはサリーとの戦闘に自ら名乗りを上げ、戦闘中に奴隷の首輪を外せないか試みたのだ。
奴隷の首輪を外せるとしたら、武具のスペシャリストである鍛治師国宝のゴンズぐらいしかいないからな。
しかしそれが失敗したとなると、サリーたちサイクロプスの事は諦めるしか……。
ダメだな……今はどうも他のことが気になってマイナス思考になってしまう。
俺がサリーの件で思考の渦に潜っていると、そんな俺の方をミルカが見つめている事に気付いた。
そして一度優しく笑って頷くとまた回復に専念し出す。
どうやらミルカは俺の気持ちを汲んで、ここは大丈夫だと伝えてくれたようだ。
その優しさに甘えた俺は、この場をミルカに任せてルナーレと共に骸骨龍に飛び乗ると、再び上空へと舞い戻った。
目指すはもう一人の男が戦っていた戦場。
分体を通して呼吸があるのはわかっているが、いっこうに動く気配がない。
アイツ……鎧の下の服のポケットに俺の分体を入れてるから、そこからだと外の様子がわからないんだよな。
渡した分体は極力戦闘の邪魔にならないよう、口と耳以外の連絡に不要な部分は付いていない。
その為動かす事も出来ないし、これだけ離れているとまだ不慣れな新たな力である変形の能力も使えない。
回復出来る程度の怪我で済んでいればいいが……。
一抹の不安を抱きながら目的の場所へ向かうとすぐにその場所を見つける事が出来た。
アイツが戦闘していたであろう場所には多くの人族兵の死体が転がっていたからだ。
しかし、なかなかお目当ての人物を見つける事が出来ない。
大丈夫だとは思うが、あんなでもそれなりに周りから慕われていて、何かあれば悲しむ者もいるからな……。
えっ? 俺? 俺は何も心配してないよ?
だってアイツは悪運だけは強いから、ちょっとやそっとの事で死ぬ訳ないじゃん?
「ご主人様、落ち着いて下さい。きっと無事です」
「……」
止まらない貧乏ゆすりを見かねたルナーレが、腕に抱き付き優しく論してくれた。
じ、上空はちょっと寒くて貧乏ゆるりしてただけなんだからね!!
寒さなど感じない体なのに、そんな無駄な言い訳を脳内でする。
この時の俺は腕に抱き付かれてルナーレのその柔らかな胸が押しつけられているのに、それすら気付いてないあたりかなり重症だったようだ。
すると一際人族兵の死体が集まったいる死体の山の上に、ようやく目的の人物を見つける事が出来た。
死体の上で倒れている、ゴンズに貰った全身真っ暗な鎧に身を包んだ男……ジン・ウォレットだ。
急いで地上に降りた俺は、駆け足でジンの元へ向かう。
「確かここに……」
ジンの元へ到着した俺は、戦闘前にゴンズから鎧の説明を受けていたジンの横で聞いた鎧の解除方法を試す。
するとうまくいったようで、鎧が一瞬輝くと次の瞬間には腕輪の中に収納され跡形もなく消え去り中のジンが姿を現した。
凄い機能だな……。
鎧の超技術に関心したが、今はそれよりもジンだ。
気を取り直してジンの様子を確認するが、幸いな事に見たところ大きな怪我などはしておらず、ただ疲労で眠っているだけのようだった。
その事に安心する俺。
「良かったですね」
回復のスペシャリストであるルナーレもジンの容体を直ぐに把握し、優しく笑いかけてくれた。
「……あぁ」
まぁ、なんだ……安心しているのは事実なので、ここは正直に心配してたと認めよう。
……だが。
「ジンには内緒だぞ」
「ふふふ」
俺のその言葉におかしそうに笑うルナーレ。
しょうがないじゃないか、コイツに心配してたなんてバレればこれでもかってくらい煽ってきてウザイのが容易に想像出来るんだから。
それにしてもジン……コイツは大したヤツだ。
ジンの周りに転がる人族兵の死体の山を見る。
最後にジンを見た時、ジンの所には千人程の兵士が向かっていた。
三分の一でも倒せれば御の字だと思っていたが……。
ザッと周りを見ても、この場所にはその千人近い人族兵の死体がある。
ジンは一人でこの千人の兵士を相手にし、壊滅させたのだ。
一騎当千の活躍……。
大丈夫だろうと信じていたが……まさかこれ程とは……。
ゴンズから貸し出された鎧の力もあるのだろうが、それにしても凄まじい。
四天王として名乗りを上げるには十分過ぎる戦果だ。
しかし、俺がそうさせたとはいえ……同じ人族として、かつては仲間だった兵士たちをこんなにも沢山殺している……。
怪我はなくとも目が覚めた時、精神的に参ってしまっていてもおかしくない……。
いざとなれば命令した俺が全てを背負う覚悟はしているが……果して本人がそれで納得出来るか……。
何にしても、この戦場に立つと決めたのはジン自身だ。
あとは本人次第だろう。
俺はただ、親友がまたいつも通りのけだらけな表情で起き出すのを待つしかない。
だがこの戦い……あの総大将がこれで終わるとは思えない。
もしそうなった時、今回ジンがこれだけ頑張ってくれたんだ……次は俺も……魔王として頑張らなくちゃならない。
今度は俺も直接その業を背負う番だ。
お前だけに背負わせはしない。
だからこれが全部終わったら……またいつもの三人で飲んでだべって、馬鹿騒ぎしようぜ。
そうを心の中で語りかけながら気を失ったままのジンを担ぎ、骸骨龍に乗ってワッフル公国へと戻るのだった。
*****
ドンッ! ガシャン!!
「クソッ! クソッ! 忌々しいゴミどもが!! どいつとコイツも私に楯突きやがって!」
ドワーフの思わぬ反撃により撤退を余儀なくされたメルルは、司令官用に準備された大型のテントの中で苛立ちを露わにし、周りの物を蹴飛ばし当たり散らしていた。
その姿にいつもの余裕はなく、長髪は乱れ、目は充血し、いつもの鼻に付く敬語すら忘れる程だった。
「失礼致します!!」
するとそこへ部下の一人がテントの扉を開き中に入ってきた。
部下は一瞬テント内の慘状やメルルの姿にギョッとした表情を見せたが、メルルに選ばれた選りすぐりの兵士だけあり、すぐに顔を引き締めメルルの前に片足で跪き報告を行う。
「被害報告の確認が出来ました。先のドワーフとの戦いでの我が軍の被害状況は、死者・行方不明者合わせておよそ2500。負傷者も合わせると現在我が軍で無事な者は5000と少しになります」
「……」
メルルはその絶望的な報告を聞き、沈黙を貫く。
今回ワッフル公国への進軍は総勢一万の出兵だった。
それが一度の戦闘で半分の兵士が先頭不能になったのだ。
稀に見る大敗戦である。
まともな司令官ならこの時点で戦闘を諦め帰還するだろう。
しかし、帰還した所で今回の大敗戦の責任を取らされ、自分は間違いなく降格処分になる。
いや、下手をすると牢屋に捕えられ処刑されてもおかしくない。
それもこれも全てはあの黒騎士のせいだ……。
既に治った筈なのに疼く奴に殴られた頬を押さえながら、煮え繰り返るような黒騎士への怒りで感情に抑えの効かなくなったメルル。
そんなメルルだからこそ、こんな愚かな命令を下したのだろう。
「直ちに戦える兵は戦闘準備をするように。我が軍は再びワッフル公国へ進軍致します」
「なっ!? しかし我が軍の被害は甚大で、無事な者も先の戦闘での精神的疲労もあり、まともに戦う事など「黙りなさい……」ッ……」
今のメルルは部下のまともな意見など聞ける状態ではなかった。
「魔族と言う下等生物でありながら、私のような人族でも選りすぐりのエリートに楯突く愚かなドワーフ共をこのまま野放しになど出来ません……ましてやあの黒騎士……アイツは人族でありながら下等な魔族に協力し、この私に楯突いたのです!! そんな奴らに私が指揮する軍隊がやられたなど……あってはならないのですッ!!」
最早周りなど見えなくなったメルルのその目はまるで怒り狂った獣のそれで、そんなメルルを見た部下はその恐ろしさからそれ以上反論する事など出来ず、素直に従うしかなかった。
例えそれが、悲惨な結果しか想像出来ない戦いだとしても……。




