戦神と元四天王
隊列を組む一万の兵士たち。
その一角で、数十人の兵士が折り重なり、倒れている場所。
立ちこめる土煙の中、怒声が響き渡る。
「ヨグモ、ワダシノガオオォォオオ!!!」
土煙が晴れそこに立っていた人物。
ジンに殴られ眼鏡がひしゃげ、まともに話せない程顔面が腫れわたっているが、それ以外はかすり傷程度のメルルだ。
あの一撃を喰らってまだ立っていられるなんて、流石人族軍の総大将を務めるだけあって実力も相当なもののようだ。
「グゾッ!! グゾッ!! オマエラ、ナニヲヤッデイル!! ハヤクコイツヲコロゼ!! イマイマジイ、ドワーフドモモゼンインダァ!!!」
癇癪を起こしたように怒り狂うメルルは周りの部下に怒鳴りつけるように進軍の命令を下す。
命令をされた兵士たちは、最初はメルルのそんな姿に動揺し、その元凶である黒騎士に狼狽えていたが、流石に人族軍も一筋縄ではいかず数人の有能な上官の指示により瞬く間に落ち着きを取り戻し、ワッフル公国へ向け前進を始めた。
迫り来る一万の兵。
本来なら一度動き出した大軍は上官の命令以外ではよっぽどの事でもない限り動きを止める事はないだろう。
しかし、その歩みはすぐに止まる事になる。
ドーーーン!!!
凄まじい轟音と、それによって発せられた肌を突き刺すような衝撃波によって。
その轟音が発せられた場所では、三メートル以上の巨大から振り下ろした拳と、一メートル程の小さな体で振り抜いたハンマーとかぶつかり、お互いに全力の押し合いをしていた。
元四天王、サイクロプスのサリーと、アルスより四天王に匹敵する力を持っていると言われた全盛期は戦神と呼ばれたドワーフ、ゴンズ・ワッフルだ。
宣戦布告したゴンズを消すように既にメルルから命令されていたサリーが一足早く戦闘を開始し、それにゴンズが対抗するように、何処からか出した自分の身長程の大きなハンマーで迎え撃ったのだ。
明らかに体格の違う二人だが力は互角なようで、しばらくそのまま押し合いを続ける。
「苦しかろうサリー……今助けてやるからな!」
その言葉をかけると、急に押し返す力を抜いたゴンズ。
急にゴンズが力を抜いた事で、サリーの体は押し返す勢いのまま前へとバランスを崩す。
追い打ちをかけるように、ゴンズは横にズレながら体制が崩れたサリーに、握りしめたツカで横に薙ぎ払って押し倒す。
ズッシーン!!
その巨大のせいで俊敏な動きが苦手なサリーが起き上がるのに時間をかけていると、そのサリーを覆い隠すように大きな影がさした。
サリーの上空……そこには、それまで持っていたハンマーよりも数倍は大きな、二階建ての家程はある巨大なハンマーを持ったゴンズが今まさにその巨大なハンマーを振り下ろしている所だった。
ドッゴーーーーーーーン!!!
ゴンズのスキル『ソウルハンマー』
それは想いで出来たハンマーを作り出す能力。
作り出すハンマーは大きさはもちろん、重さや性能など使用者の込めたその想いで自在に変える事が出来る。
ゴンズはこれを自由自在に操り、戦闘では勿論、鍛治師としても使用する事で、戦闘では戦神、鍛治では鍛治師国宝と呼ばれる程にまでなったのだ。
そんなゴンズのスキルの能力を生かした強力な一撃。
家一軒分の大きさの鉄の塊が重力に任せて振り下ろされたのだ。
その衝撃は凄まじく、ハンマーで打たれた地面は陥没し、周辺は大きく割れ、ボコボコと盛り上がって地形を変えてしまっている。
また、その衝撃で突風が吹き荒れ、ゴンズたちの戦闘で歩を止めていた兵士たちに襲いかかり、耐え切れなかった何人もの兵士が吹き飛んでいた。
「これは……サリー様も無事では済まないのではないですか?」
その光景を目の当たりにしたルナーレは思わずそんな言葉を漏らす。
「ふふふ……ナーレ、甘いね。サリーも元は四天王を務めていた男だよ。まだまだこんなものじゃないさ」
何故か自慢げに話すミルカの予想通り、変化はすぐに起きた。
地面にめり込んだゴンズのハンマーが何やら動いたかと思うと、徐々に押し返され始めたのだ。
ゴンズもすぐに気付きハンマーに力を込めるが、地面に押し戻すどころか、押し返すスピードは徐々に早くなり、遂にはゴンズの家程もある巨大なハンマーを弾き返してしまった。
その勢いに自らの体を持っていかれないように咄嗟にハンマーを消すゴンズ。
そんなゴンズの目の前には地面に屈んだ状態だが、擦り傷程度しかダメージの見られない巨大なサリー様。
そう……巨大なのだ。
元々種族柄、三メートル超えの身長で俺たちと比べても大きなサリー様が、今では優に十メートルはありそうな巨人になっている。
「凄いでしょ。あれがサリーのスキル『グングンノビール』だよ!」
いや、どこぞの猫型ロボットが出して来そうな道具のスキル名だな!?
何か!? 実はスキルじゃなくてそれを飲んだら巨人になる的な便利アイテムか!?
それにゴンズとのスキル名の格差!!
スキル名はスキルに目覚めた時に自然と浮かび上がってくるから本人にはどうしようもないが、それにしても酷い。
これじゃスキルに目覚めた時本人も、能力はともかくその名にガッカリしただろう。
「前にスキルについて聞いたら、話下手なサリーが珍しく流暢に話してくれたんだ。俺の自慢のスキルだって」
本人は気に入っていたようです、酷いなんて思ってごめんなさい。
「何でも、能力を発動してから瞬きをするまでの間だけ、体を巨大化し続ける事が出来る能力なんだって」
瞬きをするまでの間……それって人によって違いがあるから一概には言えないけど、瞬きを我慢するのなら数分程度なら一般人でも可能だよな……。
「その能力のコストは巨大化中、常に必要なのか?」
これは重要な事なので聞いておかなくては。
「うーとね、確か巨大化した大きさによって、能力が解除された時に体力を消費するって言ってたよ」
「……」
と言う事は、瞬きさえしなければそれまではノーコストで巨大化し続ける事が出来ると……。
そんなスキルを持つサリー様がその時間を伸ばす為の訓練をしてない訳がないし……よく見積もっても数十分……下手をしたら一日中巨大化したままって事もありえるんじゃないか!?
「とんでもないスキルですね……」
ルナーレも同じ事を考えていたようで、冷や汗を流しながら呟く。
ミルカさん、ルナーレの言葉に自慢げに胸を張っている所悪いけど、現状の俺たちにとってはマイナス要素でしかないからね。
まぁ、とりあえず貴重な情報にはかわりないので、ありがとうと言いながら頭を撫でてやると、えへへと嬉しそうな表情でされるがままになるミルカ。
そんなミルカを見て癒されながらも、横でガン見してくるルナーレを無視して分体を通してゴンズに今の情報を伝えておく。
戦いに集中しているゴンズからの返事は無かったが、あとはゴンズに任せるしかない。
何故ならゴンズの要望でサリー様の相手はゴンズ一人に任せる約束だからな。
俺たちは二人の戦いにチャチャを入れそうな人族軍の相手だが……。
「何をやっているのです! ソイツの相手は当初の予定通りサリーがしてくれます! アナタたちはその黒騎士と他のドワーフ達を殲滅しなさい!」
どうやら向こうも同じ考えのようなので、部下の魔法で回復したメルルが捲し立てるように命令を下している。
ゴンズのフォローは入らないでよさそうだな。
メルルの命令でゴンズたちを迂回するように二手に分かれる人族軍。
そのまま二手に別れた部隊は、一方はワッフル公国の人族領側の入り口へ、もう一方は魔族領側の入り口へ向かう。
二つの入り口を封鎖して、中のドワーフたちを一人残らず殲滅するつもりなのだろう。
そして、そんな人族軍の一部がいつの間にかゴンズたちの戦いから逃れて離れた場所に移動していた黒い鎧を着用したジンの元へと向かう。
「お、おい、作戦通りアカリたんとヒカルたんは救出したぜ。この後俺はどうしたらいいんだ?」
人族軍の動きに少し焦った声でポケットに忍ばせている俺の分体に話しかけるジン。
作戦では双子の救出までしか伝えてなかったからな……フフフ。
「ジン君……君は人族軍の総大将に喧嘩を売って現在一番に目をつけられている状態だ。そのお陰で人族軍の一部はわざわざ君を倒す為に向かっている」
「そ、そんなのわかってるよ! だからどうしたらいいんだって!」
俺の今更な状況説明に更に焦って声を荒げるジン。
「どうしたらも何も……せっかく戦力の分断が出来たんだ。そのまま君に向かった人族軍は、君の方で対処してくれたまえ」
「なっ!? オマッ!? 分断された一部隊って言っても、武装した兵士が千人は居るぞ!? それを俺一人でか!? ……ッ!? さてはお前ッ! トゥライトの前でやらかしたの笑った事、まだ根に持ってやがったな!!」
そんな人を女々しい男みたいに言わないでくれるかな。
ただ……俺は魔族の王である魔王だ。
侮辱されたてそのままにしていたら、他の魔族に示しがつかないじゃないか。
「ふふふ……何の事だかな……これはトゥライトの国を守る為、君が言い出した戦い……言い出しっぺが頑張らないでどうするのかね?」
「ぐぬぬ……謀ったな!!」
「ハハハ! ほらほら、トゥライトの二人が見てるぞ! 頑張って戦って二人に良い所見せてくれたまえ……黒騎士君」
「クソがぁ!! 帰ったら覚えてろよぉー!!」
そう叫びながら自分に向かってくる人族軍へ向かって走り出す黒騎士こと、ジン。
ただ、その有志をトゥライトの二人が見る事はない。
向かってくる人族軍から逃す為、既に避難しているからね。
頑張ってこの戦いで成果を上げてくれよ……未来の四天王。
そう、残念な未来の四天王にエールを送るのだった。




