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ボーンライフ  作者: ユキ
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ヒーロー

 僕たちが捕えられた鳥籠があるテントの外。


 そこでは兵士達が慌ただしく走り回る音が聞こえていた。


 何だが外が騒がしいけど、どうしたのだろう。


「失礼しますッ!」


 するとその時テントの入り口が勢いよく開けられ、外から一人の兵士が駆け込んでくると、このテントの住人である人族軍の総大将、メルルと呼ばれる人族の前に跪き口早に報告をした。


「ワッフル公国より一人のドワーフが出てきて我が軍の方へ向かってきています! 遠目ですが、おそらくワッフル公国の鍛治師国宝、ゴンズ・ワッフルかと思われます!」


「そうですか……遂に降伏する気になりましたかね」


 そう言ってそれまでやっていた書類作業を中断したメルルは、立ち上がると僕たちの方へ歩いてきて僕らの閉じ込められた鳥籠を鎖から外して手に持ち、顔の高さに持ってきた。


「さてさて、アナタたちの命がここで終わるか……それとも生き延びるか……フフフ、楽しみですね。……まぁ、生きながらえた所で最早アナタたちに自由はありませんけどね」


 まるで悪魔のようなその笑顔に思わずアカリに抱き付く力を強める。


 あぁ、もう僕たりはここでおしまいなんだ……。


 でも……それで良いのかもしれない……。



 僕たちを産んだせいでお母さんは体を壊して亡くなり……。


 僕たちを必死に守り育ててくれてお父さんも事故で亡くなった……。


 僕たちを引き取ってくれたお爺ちゃんは、僕たちのせいで名声と信頼を失い……。


 僕たちの国もまた……僕たちが捕まったせいで無くなろうとしている……。


 僕たちは、みんなが言うように……本当に不吉の象徴だったんだ……。


 僕たちが生まれたせい……。


 僕のせいで……。



 ……でも。


 ……それでもせめて、アカリだけでも生きて欲しい。


 僕はどうなっても良いから……アカリだけは……。



「その通りです。サリーはこの首輪で私の言う事は何でも聞く……大きな傀儡人形なんですよ」


 自らを責めながらも何とかアカリだけは助けたいと願っていると、いつの間にか僕たちが入った鳥籠を持ったメルルは見慣れた人物の目の前に立っていた。


「お爺ちゃん!!」「……お爺ちゃん」


「アカリ、ヒカル……」


 お爺ちゃんの姿を見た途端にそれまでの緊張が解け、その優しい声に自然と涙が溢れてくる。



「ゴンズさん、わざわざ鍛治師国宝一人でこちらへいらしたと言う事は、ワッフル公国は投降すると言う事で宜しいのですね?」


 そんな気持ちを壊すように、自分たちの恐怖の元凶であるメルルの言葉で現実に戻される。


「……ワシらが投降したら、二人を解放してくれるのか?」


「それはもちろん! ちゃんと二人は解放致しますよ」


 先程の言葉を思い出し、そんなの嘘だ! そう大声で否定したかったが、急にメルルが両手を広げて鳥籠が大きく揺れた事で、倒れないように鉄格子に必死に捕まらなくちゃいかなくなり、まともに言葉を発する事が出来なかった。



「……嘘じゃな」


 しかし、そんな指摘は無用だった。


 メルルの言葉に騙される事なく否定するお爺ちゃん。


 流石お爺ちゃんだ! お爺ちゃんは最高の鍛治師だもん! 長年武具と真摯に向き合って来たお爺ちゃんは、その人の持つ武具を見る事でその人の人となりを把握する事が出来るんだ!


 そんなお爺ちゃんに尊敬の眼差しを送っていると、今までお爺ちゃんの思いもよらない言葉に固まっていたメルルが復活し、再び話し始めた。



「いえいえ、そんなまさか。ちゃんと解放致しますよ。……まぁ、その場合はアナタたちが下手な事しないようにサリーと同じく奴隷の首輪をしてもらいますけどね」


 やっぱりそうだ……この人族は僕らをここから出しても、本当の意味で解放する気なんてないんだ……。


 僕らはこれからずっと、ワッフル公国の人達に言う事を聞かせる為に人質として生かされ続ける……。


 やっぱり僕たちは……。


 不吉の象徴。



「やはりか……お前たち人族の話は当てにならんな。特にお主の武器はうわべばかり着飾っているが、その内からは他人を人と思わぬ残虐性が滲み出ておる。……そんなお主を、ワシらは一切信用するつもりはない!」


 僕のそんな思考を打ち消すように、お爺ちゃんの力強い声が響く。


「…と、言いますと?」


 お爺ちゃんの言葉に少し訝しげな表情になるメルル。


 お爺ちゃん……もしかして?



「ワッフル公国は、この時をもってお前たちに宣戦布告させてもらう!!」



 お爺ちゃんの驚くべき言葉に僕たちは目を見開き、メルルはそれまで浮かべていた胡散臭い笑みが消えた。


「サリー……このゴミの孫を目の前で潰せ!」


 そして当然のように発せられる非情な命令。


「きゃっ!?」「うっ……」



 僕たちが捕らえられた鳥籠は、メルルのその言葉と共に空中へと放り投げられた。


 突然の事でそれまで掴んでいた鉄格子を離してしまった僕たちは鳥籠の中で宙を舞う。


 空も地面もわからなくなった感覚の中、視界の端に巨大な手が迫ってくるのが見える。



 あぁ……僕たちはここで死んでしまうんだ……。



 でもこれで、僕たちのせいでみんなが……不幸にならないで済む……。



 これで良かったんだ……。



 これで……。



 その時、鉄格子を離したとしても、それでも離すことの無かった僕の片割れである双子の姉、アカリが、グイッと僕の手を引っ張りその胸に抱き締めた。


 その手に、そして体を伝わり感じる確かな温もり。


 それと共に震えも伝わってくる。


 それなのに、僕の耳にはアカリのいつもの力強く、優しい声が聞こえてきた。



「ヒカルは私が守る……」


 自分も死ぬであろうこの状況でも、必死に僕を守ろうとする、強く……優しい僕の大好きな姉。



 ……いやだ。


 例え僕は死ぬ事になっても……アカリだけは死なせたくない!!


 僕の中で燻っていた小さな想いが途端に大きくなり、心の中いっぱいに溢れ出す。


 それと共に、内から何だが温かな……それでいて力強いチカラが生まれた感覚が襲う。


 これは……。



 しかし、自分の中に生まれた新たな感覚を気にするよりも、もっと大きな変化が周りで起きた。


 今まで閉じ込められていた鳥籠が急に視界からなくなり周りの風景が変わったかと思うと、誰かの手に優しく握り締められている感覚に変わったのだ。


 僕の隣には同じようなに大きな手の中にいるアカリの姿があり困惑した表情をしている。


 突然の周りの状況の変化に戸惑っていると、上から優しく男性の声で話しかけられた。


「もう大丈夫だよ」


 声のした上を向くと、そこには無精髭を生やした覇気のない瞳の男性の顔があった。


 この人は……僕たちのゲリラライブを一緒に手伝ってくれた、魔王軍のジンさん……。



 ジンさんが僕たちを助けてくれたのかな……でも、一体どうやって?


 ドドドドドドドドドドドドッ!!!


 その時、辺り一体に金属を打ち鳴らす大きな音が響き渡った。


 何事かと音のする方を見ようとすると、ジンさんは僕たちが見えやすいように、優しく握りしめていた手を開きその手に僕たちを立たせてくれた。



 僕たちは軽くジンさん会釈をすると音のする方向を向く。


 そちらには先程まで僕たちの後ろにいた筈の兵士たちが自らの鎧を打ち鳴らしている姿があり、その前にはお爺ちゃんとサリー様、それとメルルの姿があった。


 三人は何やら会話をしているようだが、遠く離れている為何を話しているかまではわからない。


 でも、そんな事より僕たちは、今すべき事がある。


 隣を見ればアカリも同じように考えていたのか、同じタイミングで振り返りお互いの目と目が合う。


 頷き合う僕たち。


「「お爺ちゃん!!!」」


 僕たちは自らの生存をお爺ちゃんに知らせるべく、ありったけの大声でお爺ちゃんを呼んだ。


 それにより遠くからでもわかるくらい狼狽えたメルルは、必死に僕たちを探し周りをキョロキョロと見回す。



「ゴンズさん!! 約束通りアカリたんとヒカルたんはちゃんと救い出したぜ!!」


 僕たちの真上からジンさんが大声でお爺ちゃんに声をかけた。


 それにより三人は僕たちの存在にようやく気付きこちらを振り向く。



「いつの間にあんな所に!? 確かに鳥籠ごと潰した筈!!」


 僕たちを見つけて驚愕の表情になり、こちらまで聞こえる大声で狼狽えるメルル。


 その横では嬉しさのあまり大粒の涙を流しているサリー様とまるで最初から僕たちが生きている事を知っていたようにニッコリ微笑むお爺ちゃんの姿があった。


 そんなお爺ちゃんの笑顔を見て、自分たちがまだ生きているのだとようやく実感する事が出来た僕たちは、安心すると共に思わず涙が目から溢れ落ちた。



「クソッ! 何をしやがった!?」


 しかし、そんな中こちらに怒鳴るように問いかける男が一人。


 この場の全ての元凶たらメルルだ。


 すると、僕たちを乗せたジンさんがゆっくりと動き出し、近くで待機していた兵士に僕たちを預けると、激昂するメルルの問いかけに答えた。


「特別な事は何も……ただ」


「グバァァァアア!?」


 その瞬間、それまで目の前に立っていた筈のジンさんの姿が消えたかと思うとメルルが盛大な音をたてて人族軍の方へ吹き飛んでいき、先程までメルルが立っていた場所には、黒い全身プレートアーマーに包まれた風にはためくこれまた黒いマントを付けた黒い騎士が、拳を振り抜いた状態で立っていた。


 でも、その人が誰だか僕にはすぐにわかった。


 この距離では到底聞こえる筈のない呟くような声だが、その黒騎士がメルルに話した言葉を僕はしっかりと聞いていたからだ。


「俺の動きが早くて見えなかっただけだよ」と、先程まで目の前で話していた人物の声と全く同じ声でまるで決めゼリフのように呟き敵を倒したその人。


 ジンさん……。


 その姿はまさしく、お父さんがいつも話してくれた物語に出てくるヒーローそのものだった。

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