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ボーンライフ  作者: ユキ
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オッサンの叫び

 突如として地面から出現した巨大な手に捕えられたトゥライトの二人。


 何とかもがき抜け出そうとするが、小さな体の二人には巨大な手から逃れる術はない。


 そうこうしている内に、地面から突き出た手の周辺の地面が割れると、中から見覚えのある見た目のそいつが現れた。



 一つ目と頭部に生えた一本ツノ。


 緑の皮膚に三メートルを超えるであろう巨漢。


 そう、そいつは……いやその方は、以前の人族軍との戦いの中、部下を逃す為に一人戦場に残り、勇者により討たれた筈の……。


 元四天王、サイクロプスのサリー様だった。



「アカリィィ!! ヒカルゥゥ!! サリーッ! テメェ、ウチの孫を離しやがれ!!」


 サリー様に捕えられた双子を心配して下手に近づけないゴンズは、必死にアカリとヒカルを呼び、どうやら顔見知りのサリー様に双子を離すよう怒鳴り付ける。


「うぅ、すまん」


 しかし返ってきた答えは同意でも脅しでもなく、謝罪だった。


 トゥライトを捕まえている本人が謝罪……これは。



「離してはいけませんよ、サリー」


 そんな疑問の中、会場の入り口の方からサリー様に声をかける人物が現れた。


 声に応えるようにトゥライトを捕まえた腕を高々と掲げるサリー様。


 その行動で俺の中の疑問は一つの答えを導き出し、元凶と思われる声をかけた人物を見る。


 そこには案の定、眼鏡をかけた長髪の()()()()が一人立っていた。



「皆さん、下手な動きはよして下さいね。もしそんな動きが見られたら……その瞬間そちらの小さな少女達がスプラッターな姿に変わっちゃいますよ」


 男の言葉に周りでざわめいていたドワーフたちは一斉に静かになり、身動き一つしなくなる。


 先程までのざわめきの中にサリー様が何故など、サリー様が元四天王だと知っている言葉が多く聞こえたので、その実力を知っている事から下手に刺激しない方が良いと考えたのだろう。


 それに助けに行きたくても、三メートルを超える巨大で腕を掲げられては俺でも届かない。


 人族よりも身長の低いドワーフでは更に無理だろう。


 そして、例え飛行魔法や浮遊魔法が使える者がいて、助け出そうとしても、それが相手にバレればその瞬間トゥライトの二人は握りつぶされてしまう。



「ゴンズさん……先程はやってくれましたね。お陰で我が軍は大損害ですよ」


 明らかに怒っているとわかる声で話し出す長髪眼鏡の人族。


「そ、それは……ワシの孫をお主らが誘拐したと勘違いして……本当に申し訳なかった!! この通り謝るし、相応の対価を支払うから……どうかその子らを離してくれ!」


「わたくしからもお願いしますわメルルさん。髭国宝としてゴンズのせいでそちらが被った損害は弁償させていただきますから、どうかその方たちを離して下さいませ!」


「俺からも頼むよメルルさん! 筋肉国宝として力になれる事ならなんでもするからよ!」


 ゴンズに続き髭国宝と筋肉国宝もメルルと呼ばれた人族に必死に謝りトゥライトの解放をお願いする。



 メルル……事前に得た情報通りなら、今回ワッフル公国に進軍して来た人族軍の総大将だった筈。


 そんな男がわざわざ一人でここまで来るとは……いや、先程のやり取りからしてサリー様は奴の手下なのだろう。


 だがサリー様の先程の反応を見るに、トゥライトを捕らえているのは自分の意思ではなく、このメルルと言う男の命令により無理矢理やらされているのだとわかる……。



 以前ルナーレから聞いた事がある。


 俺とルナーレが交わした服従の契約は、お互いの同意がなければ行えない。


 しかし、世の中には奴隷の首輪と言われる魔道があり、それはお互いの同意など関係なく、強制的に付けられた者は付けた者の命令に絶対服従状態にさせられてしまうと言う……。


 尊厳を全て否定する……凶悪な犯罪奴隷にしか使われない魔道具……。


 そしてサリー様の首には以前会った時には無かった禍々しい雰囲気漂う鉄製の首輪……。


 これを意味する事は、サリー様はメルルの言う事ならどんな事でも……例え死ねと言われれば自害する拒まない、絶対服従状態だと言う事だ。


 サリー様程の実力者が、それこそ自らの命を掛けて守ってくれるのだ。


 例えそれがこうして敵地に乗り込む事だとしても、なんの心配もないのだろう。


 いずれにせよ今はトゥライトの二人を人質に取られているのでこちらは手を出す事も出来ないが。



「何を虫のいいことを……我々の条件をいつまでも飲まないどころかこんな馬鹿騒ぎをして……終いには我が軍に損害まで与える……アナタたちは我々を舐め過ぎたのです」


 話しながらゆっくりとこちらへ歩いてくるメルル。


 そしてサリー様の横に着くとサリー様は空いている腕でメルルを抱き上げた。



「最早これは命令です。これよりワッフル公国の国民は一時間以内に全員武力放棄し大人しく我がヤマト王国の属国に降りなさい。それすらも選択出来ないのでしたら……我が軍が全軍を持ってワッフル公国を侵略いたします」


「なっ!? そんな急に!! 元々鍛治師国宝の引き渡しは今日中だった筈です! せめてそれまで猶予を!」


 メルルの突然の要求にいつもの余裕ある口調すら忘れ必死に食い下がる髭国宝。


「最早アナタたちに選択の余地はありません。大人しく我らの属国となるか、それとも地図よりワッフル公国の名を消すことになるか選びなさい。それまで下手なことが出来ないよう、この小さな少女達は捕虜としてこちらで預かっておきます」


 無情にも髭国宝の言葉を切り捨てたメルルは、国宝たちに向かってそう告げる。


「うぅ……お爺ちゃん」


「……お爺……ちゃん」


「ま、待ってくれ! 人質にするならその子達ではなくどうかワシを!」


 苦しそうな双子を見て必死にお願いするゴンズだったが、メルルはゴンズを無視すと、サリーに何かを指示する。


 しかし何かを思い出したように再びこちらを振り返った。



「あぁ、そうそう。もし我らに戦いを挑もうとお考えでしたらやめた方がよろしいですよ。ただでさえ兵力が違う上、こちらにはアナタたちの元魔王軍四天王、サイクロプスのサリーがいます。彼の強さは仲間だったアナタたちが一番お分かりでしょう? そんな私の軍に挑んだ所で、アナタたちでは返り討ちに会うのが関の山ですからね」


 魔道具で無理やり従わせているのに自分の力のように言うメルル。


 コイツは……好きになれそうにないな。



「それではドワーフの皆さん……懸命な判断を期待していますよ」


 話は終わりだと言わんばかりに視線を外すと片手を上げてサリー様に指示を出す。


 すると突然サリー様は屈んだかと思うと、とんでもない跳躍力で壁に向かい飛び、壁をぶち破ってそのまま外へと飛び出して行ってしまった。


「アカリィィ!!! ヒカルゥゥ!!!」


 必死に叫ぶゴンズ。


 俺も直ぐに会場の扉から外へと出て、サリー様が飛んで行った方角……人族軍の待機している方を見るが、既にサリー様達の姿は遠くの方で米粒ほどの大きさになっており、とても追いつける距離ではない程離れてしまった後だった。



  *****



「クッ……あの野郎、勝手な事ばかり抜かしやがって! お前ら! すぐに突撃してアカリたんとヒカルたんを取り戻すぞ!! アタッ!?」


 今にも突撃しそうな勢いの筋肉国宝の頭に強烈なゲンコツを喰らわし咎める髭国宝。


「よしなさいおバカさん! こちらの戦力で突撃したところで、アイツの言う通り二人を助け出すどころか返り討ちにあうのが関の山でしょう! 何よりこちらの最大戦力であるゴンズがあんな状態なのですから頭を冷やしなさい。」


 髭国宝の見つめる先には今も膝をつきサリー様が破壊していった壁を見つめながら双子の名前をボソボソと呟くゴンズ。


 感動の絶頂から絶望のドン底まで落とされたのだから無理もないが……その姿に先程までの覇気は無く、今にも散ってしまいそうな程の儚い姿となっていた。


「あ、あぁ……悪い」


「頼みの綱のゴンズがこれでは……トゥライトの二人を助け出す事も……戦いを挑んで勝つ事も出来ませんわね。戦った所で勝てる見込みもありませんが」


 髭国宝の言葉とゴンズの姿に会場中に暗く、どんよりとした空気が流れる。


 これでは最早人族軍に戦いを挑むなどと言う意見など出る筈もないだろう。


 このままではこの国は大人しく降伏の道を進み人族にの支配下になってしまう。


 魔王軍としてこの国の武器がこれから手に入らなくなるのは厳しい。


 本来ならここでゴンズを説得し、まだ表に出る訳にはいかない俺たちはドワーフたちを支える裏方に徹する予定だったが……そうも言ってられないな……。


 まだ四天王は揃ってないが、ここは魔王軍として俺たちだけで人族軍に戦いを挑むしかないか。


 ならまずはグラスに連絡を取って、援軍を……。


「ふざけるなぁッ!!」


 魔王軍として表立って戦いを挑む算段を立てていると、突然後ろから怒鳴り声が響いた。


 後ろを振り返るとそこには先程まで気絶していた筈のジンが起き上がり、怒りの表情で国宝達を睨んでいる。


 ジンの横にはルナーレが座っていたので、ルナーレが回復魔法で治してあらましを説明してくれたのだろう。



「お前たちが投降し、奴らの属国になったとして……トゥライトの二人が無事に戻されると思っているのか!? ……俺も同じ人族だからわかる……奴らは魔族を人とは思っていない! 用が済めば殺されるのがオチだ!」


「そんな事はわかっていますわ! でも……わたくしたちにどうしろと言うのです……」


 悲痛な表情で答える髭国宝。


「そんな事は決まってる!! 戦って奴らからトゥライトを取り戻すんだ!!」


「何も知らんで気絶していた奴が生意気を抜かすな!! それが出来るなら俺らもやってるわ!! ……だがな……向こうにはサリーがいる……いくらワシらが強靭で美しい筋肉を持っていようと……奴に勝つ事は出来ん。唯一俺らで勝つ可能性があるとしたら、戦神と言われたゴンズ位だが……アレじゃぁ……」


 髭国宝に咎められるまで自ら戦いに行くと言っていただけあり、その表情は己の無力さに対する悔しさがありありと出ていた。



「うぅ……アカリぃ……ヒカルゥ……」


「クッ……オイッ! ジジイ! アンタいつまで惚けてんだよ! 嘆いてたってアカリたんもヒカルたんも戻って来ないだぞ! 俺たちがこまねいている今だって二人がどんな仕打ちを受けているか……早く奴らと戦って二人を取り戻さねぇとだろ!」


 ゴンズの姿に悔しさを表しにしたジンは怒鳴るように語りかける。


「うぅ……じゃが、じゃが………二人を人質に取られている以上、ワシはどうする事も……」


「それなら心配しなくても大丈夫だ! 奴らを引きつけていてくれさえすれば、その間に俺が二人を必ず救い出す!!」


「そんな事出来る訳……「出来る!!」」


 力強いジンの否定の言葉に、ここに来てゴンズの瞳が初めて上を向く。


「俺なら……俺のスキルなら奴らにバレる前に二人を救い出す事が必ず出来る!!」


 確信の籠った真っ直ぐな言葉。


 しばらくそんなジンをジッと見つめていたゴンズだったが、その武器へと自然を落とすと、ゆっくりとその表情が柔らかいものになる。



「……わかった。そこまで言うのならお主に賭けてみよう」


「なっ!? 正気ですか!? こんな汚らしい不精髭の死んだ魚の目をした男の話など信じるなんて! ここは大人しく人族軍に投降すべきですわ!」


「ワシは鍛治師国宝だ。武器を見れば、それを扱う人の人となりがわかる。……この男は確かに一見汚物みたいに見えるが……心の芯には一本しっかりとした芯を持った男だ」


 汚物って……。



「それに髭国宝よ……投降したその後、我らドワーフが奴らにどんな扱いを受けるか……お主もわかっているだろう?」


 ゴンズの言葉に苦々しい顔になる髭国宝。


「ですが……」


「俺もコイツを信じるぞ」


「なっ!? 筋肉国宝、アナタはまた!」


「まぁ落ち着け。……確かにこの浮浪者みたいな見た目だが……だけど俺にはわかる! コイツは一見頼りなく見えるがよく見ると、なかなかどうして……非常にイイ筋肉をしている!」


 信じる理由がそれですか!? 判断基準おかしくない!?


 てか、散々言われてジンの心の芯がポッキリ折れちゃってるからね。


 いい歳してオッサンが地面にのの字書きながら泣いてるよ!



「……確かに……言われてみればそうですわね」


 それで心が揺らいじゃうの!? この国最高権力の価値観が心配です!!



「ねーちゃん、もういいよ。ねーちゃんが私らを生かす為に本当はしたくない汚れ役をやってくれてた事……みんなわかってるから」


「クロちゃん……」


 髭国宝である自らの姉の肩に優しく手をのせるクロッソ。


「でもな……トゥライトの二人は私たちドワーフにとって、希望であり……新しい未来なんだ。希望と未来を奪われたまま、ただただ生きていくだけの日々……そんな日々に何の価値があるって言うんだ?」


「それは……」


「私たちは取り戻さなくちゃいけない。 ……希望を……未来を。そして彼はそれが出来ると言った! それなら私らはそれを信じて共に戦い、取り戻そうじゃないか! 再びトゥライトのライブを観る為に!!」


「そうだ……そうだ! 俺らはまた観るんだ! あのライブを!!」


「ウスッ!!


 クロッソの魂の叫びにソルとロートが大声で答える。


 それに反応するように、周りで成り行きを見守っていた観客たちも、一人……また一人と声をあげ、瞬く間にその声は雄叫びとなり会場中を埋め尽くした。


「「「うおおぉぉぉぉぉおお!!」」」


 それは会場のみならず、今だに映し出されたままになっていた映像により、一部始終を見守っていたワッフル公国の全国民たちも同じで、国民の雄叫びは巨大な空洞内に響き渡り、その声は山全体が揺れていると感じる程になった。


 体の芯まで響くような国民達の雄叫びに目を見開き周りを見回すと、ゆっくりとその気持ちを飲み込むように俯き目を瞑る髭国宝。


「……わかりました……戦いましょう」


 次に目を開けた時、遂に髭国宝は戦いの意思を示した。


 これでドワーフたちの意見は一つとなったのだ。


 種族は異なるが、同じトゥライトを愛する一人のファンの熱い想いによって。


 ここにドワーフと人族軍の戦いが決まったのだった。

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