表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボーンライフ  作者: ユキ
70/196

二つの大会

「五番! 仕上がってるよー!!」


「七番! ナイスバルク!!」


「お母さん、今日の晩御飯はカレーで決まり!!」


 独特な掛け声響く熱気の籠った会場。


 ステージ上では数人のビキニパンツを履いた鍛え抜かれた肉体の黒光りしたドワーフたちが、それぞれ自慢の筋肉を主張するように思い思いのポーズをとっている。


 ここはワッフル公国の中央にある巨大なお城の中に設けられた会場。


 そこでは現在二つの大会が、向かい合うようにステージが設けられ開かれている。



 一つは今の掛け声でわかる人にはわかると思うが、その自らの鍛え上げた筋肉で肉体美を競い合う筋肉の祭典……ボディビル大会。


 この国で筋肉の頂点を決める大会だ。


 ちなみに最後の掛け声は腹筋をカレールーに例えての掛け声だろうが、最早大喜利である。



 そしてもう一つは……。



「キャーッ! ステキー!!」


「何て滑らかでボリュームの髭だ……」


「私の顎に移植されてえぇぇ!!」


 とても長い髭や独特な形状にスタイリングされた髭、様々なカラーで染められた髭など、ステージ上に思い思いの自慢の髭を披露する出演者たち。


 その全てに共通するのは、髭の一本一本まで綺麗に整えられ滑らかで美しい事だ。


 それだけ髭に対して真摯に向き合い、今日の為に最高のコンディションに高めたドワーフたちが集うこの大会こそ、髭の祭典……ビアード アンド ムスタッシュ大会。


 この国の髭の頂点を決める大会だ。



 全く違うジャンルであるが、この国で誇りとされる筋肉と髭の頂点を決める二つの大会が同じ日に同じ場所で開催されたのには理由がある。


 この国は本来三人の国宝によって国の指針を決められてきた。


 それが不吉の象徴である双子を鍛治師国宝であるゴンズがひきとった事でその発言力が無くなり、それ以降筋肉と髭の二人の国宝で国の指針を決めるようになったのだが……それが良くなかった。


 髭国宝と筋肉国宝……共に違うジャンルだが、それぞれ外見の美しさを競う競技の頂点に君臨する二人だ。


 それぞれ自らが一番美しいと言う自信と自負、そしてそれに裏付けられる実績を持っていた。


 その為この二人は互いが互いを下に見ており、相手を尊重する事もせず、元々の考え方も全く違かった事もあり噛み合う事もなく、まるで水と油のように正反対の意見を述べるのみだったのだ。


 それまでそんな二人の意見をうまく調整し、取りまとめていたのが鍛治師国宝であるゴンズだ。


 そんなゴンズが運営にたずさわらなくなり、それ以降国の指針は全くまとまらなくなってしまったのだ。


 そこへ来て、今回の人族軍の進軍である。



 最初の要求も人族軍に従うべきと言う髭国宝と人族軍と戦うべきだと言う筋肉国宝の正反対の意見により話し合いは平行線となり、いつまでも決まる事はなかった。


 そこで業を煮やした人族軍により次に出された代案もまた、鍛治師国宝を引き渡すべきだと言う髭国宝と、相変わらず人族軍と戦うべきだと言う筋肉国宝により同じ結果となりつつあった。


 そんな状況だが、今回はしっかりとした猶予期間が設けられていた為、さすがにこのまま国の指針も決まらず期日を迎えるのは不味いと理解していた両者は、共にある提案をした。


 それがこの二つの大会の同時開催である。



 二人の国宝はこの大会に共に出場する。


 本来ならそれぞれの大会の頂点が決められ、新たな国宝となりそれで終わりだが、今回は違う。


 この大会は国中に生放送で映し出さられ、全ての国民がその動向を見守る。


 そして国民一人一人が二つの大会を通して魅力的な選手に手元の機械で投票する事で、その瞬間のリアルな支持率が集計され、会場の大型画面に表示されるのだ。


 そして最終的に支持率の一番多かった選手はある称号に選ばれる。



 ロード オブザ ビューティフル。


 美しさの王。



 すなわち、鍛治師国宝の発言力がない今、国民の投票で選ばれた1番美しい……ビューティフルキングとなったドワーフが、今後のワッフル公国の全権を握る事になるのだ。



 *****



「しかし……まさかこんな大会がちょうど良く開かれるとはなぁ。これは運命ってヤツなのかねぇ」


 ジンのそんな呟きに、他の者も同じように感じているのか、もしくは今の自分達の状況に緊張しているのか、誰もジンの言葉に答える者はいなかった。



 決して無視してる訳じゃないから、いい歳したオッサンがそんか泣きそうな顔するな。


 メンタルの弱いオッサンに呆れているとお目当ての人物が登場する。


「おいでなさったぞ」


 一緒に潜んでいたクロッソの言葉と共に、会場中から割れんばかりの歓声が響き渡る。


 その歓声の向かう先、そこには長く真っ赤な赤い髭を生やした一人のドワーフが、ゆったりとしたクラシック音楽にのせステージ上を優雅に歩いていた。


 遠目で見てもその髭は、毛の一本一本から他の出演者に比べてダントツで艶やかなのがわかる。


 そのあまりの艶やかさにステージ上に設置されたライトの光が反射し、まるで髭自身が自ら光り輝いているようだ。


 その輝きはその真っ赤な髭の色とステージを歩く事で揺れる動きとが合わさり、静かに揺れ動く煌めく炎のようで、とても美しかった。


 その人物こそ……この国の髭国宝、カロッソ・ワッフルその人である。



「髭の事なんて何にもわからねぇけど……あれは確かに、他の出演者とは段違いだな……」


 ジンの言う通り、その髭の美しさは群を抜いており、大会を観覧する観客為の視線を独り占めし、最早この大会はそのドワーフの単独ショーと化していた。



「「「ウオオォォオオ」」」


 その時向かい合うように開催されているボディビル大会のステージ側から会場中を振動させる程の野太い声援が響き渡る。


 軽快な音楽と共にステージ上に現れたその男は、とてもドワーフとは思えない程とにかく大きかった。


 身長だけではない。


 身体中の全ての筋肉が異様に発達し、足にいたってはまるで巨大な丸太のようだ。


 その鍛え抜かれた筋肉は他のどの出演者よりも強く……逞しく……そして美しかった。


 その極限まで鍛え抜かれた筋肉は正に筋肉の極地と言っても過言ではない程で……直前まで行われたであろうパンプアップにより膨張した筋肉によってより強調された筋肉と血管、黒く仕上がった肌とオイルと言う名のお化粧を施された体は様々なポージングにより強調させる。


 そのさまはまるで巨大なブラックダイヤのように輝いていた。


 この人物がこの国の筋肉国宝、ローソ・ワッフルである。



「どっちも……凄い……」


 ミルカの呟きも無理はない。


 その美しさは、例え髭や筋肉に詳しくない素人の俺たちでも圧倒される程で、明らかに他のどの出演者よりも勝っている事がわかる程だ。


 それぞれの大会で既に結果を見るまでもない程の実力差を見せつける二人だが、互いに最大限に自分を美しく見せる行為をやめようとしない。


 それもその筈、互いの大会はあくまでも二人にとって必ず勝てる余興のようなもの。


 本番はこの光景を見ている全国民が、二人のうちどちらがより美しいかを決める事にあるのだから。


 その証拠に、二人がそれぞれポーズを取るたびに大画面に表示された得票数がそれぞれ変動し、お互いに一歩も譲らない戦いを繰り広げている。



 ゆったりと……しかし大胆な動作で動き、その滑らかで煌めく自慢の炎のような髭を強調するカロッソ。


 かたやドッシリと……時にパワフルに次々とポージングを決め、全身の自慢の筋肉を見せ付けるローソ。


 すると結果発表を待たずして、自分達と国宝とのあまりの実力差に、他の出演者たちは一人、また一人と肩を落とし自らステージを降りていく。


 最後には互いのステージに国宝だけが残った。



 すると突然国宝たちはステージの前にある階段を降りだしたではないか。


 観客たちは国宝が突然目の前に降りてきたので思わず歓声を上げるが、国宝が手で合図を出すと国宝同士を結ぶ道を開けるように左右に割れた。


 そこをゆっくりランウェイでも歩くように国宝たちは進んでいく。


 そして観客席の中央で目と鼻の先程の距離で向き合うと、周りを囲む観客たちの目の前で、お互いにさまざまななポーズを取り出した。



 究極の美同士の決闘……。


 維持と維持のぶつかり合い……。


 その光景は国中に設置された大型テレビにより映し出され、見る物全ての目を釘付けにする。



 最早後ろで流れるBGM以外誰も音を発する事さえしなくなった圧倒的な美の頂上決戦の真っ只中。



 突然国宝たちを映し出す映像の奥で、大量の煙が吹き出した。



 突然の事で戸惑う観客。


 それまで決闘を盛り上げるように奏でられていたBGMも止まり、会場中にざわめきが広がる。


 国宝たちも何が起きたのかわからないようだったが、流石国を纏めているだけあり落ち着いたもので、突然煙の吹き出した場所を警戒しながらも黙って見守っていた。



 そして徐々に薄れていく煙。


 そこには薄らと巨大なシルエットが映る。



 完全に煙が晴れその全容を表した巨大なそれは、固唾を飲んで見守る観客や、映像を見る国民たちの目に映った。



 それは骨で作られた、


 巨大な第三のステージだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ