アイドルである理由②
アカリとヒカルの話を聞き、二人のこの国での扱いからそのあまりにも大きな夢に黙り込む一同。
「……ぞ」
??
横のジンが俯いきながら何やら呟いたが、小さな声でよく聞き取れなかった。
するとガバッと顔を上げたジンは意を決したような表情で叫ぶ。
「俺は……アカリたんとヒカルたんを応援するぞ!!!」
そのあまりの声量に思わず顔を背けそうになるほどだったが、その言葉を聞き、俺たちの心にも確かに抱いていた同じ気持ちが大きく膨らみだす。
「うん……うん! 私も二人の夢応援するよ!」
真っ先に賛同したのはミルカだ。
アカリたちとも歳が近く、先程の話には思う所があったのだろう。
「そうですね、私も及ばせながら力になります。幼少より王女として人を導く教育を受けてきましたからね、きっと何か力になれると思います」
ルナーレもまたアカリの言葉に心打たれたようで、目を少し赤らめながらも力強くそう答えた。
「大きな夢ね……でも、その覚悟嫌いじゃないわ。私もこの溢れんばかりの筋肉にかけて応援するわね」
アルスの筋肉にかけての意味はわからないが、ジンに触発されるように仲間たちはそれぞれ思い思いの言葉で双子を応援した。
……双子の夢はこの国で新たな国宝、アイドル国宝を作り出し、その国宝になる事。
それは国王が存在しないこの国で、最上位の位につくと言う事だ。
そのような存在はおいそれと他の国に移住など出来ない。
つまり、ゴンズさんが四天王になる条件として上げた、二人を魔王軍で保護すると言う約束を破る事になる……。
この国に俺たちはゴンズさんを四天王にする為に来たのに、それでは全くの無駄足になってしまう。
だが、それがなんだ!
この子達はこんなにも小さな体で、周りにどんな酷い扱いをされようと……それでもお爺ちゃんの為、その為に不可能な夢を叶えようとしている。
なら、俺がする事……
いや、したい事はただ一つ。
そんな大きな夢を守り、夢を叶える手伝いをする事だ!
「その夢、俺が叶えてやる。このトゥライトファンクラブ会員No.0444……新魔王、クリス十六世がな!」
「あっ、ごめんなさい。No.0444はもういるから、今ファンクラブに入るならNo.0478になるの」
「……」
カッコつけて適当な番号言ったらもう居るって言うね……穴があったら入りたいです!!
「……プスス」
笑いを堪えられなくなったジンの口から思わず空気が漏れ出る。
「あっ、でもドワーフ以外のファンはあなたが初めてだから、とても嬉しいです」
気を遣ってそんな言葉をかけてくれるアカリの優しさが、日焼けに塩をぶっかけられたように心にしみる。
「プッ……あははははッ」
アカリの言葉で我慢出来なくなったジンは遂に爆笑し出した。
……うん、ジンには次の戦いで一番大変な、最前線で戦って貰おう。
腹を抑えて爆笑するその憎たらしい笑い顔を見て溢れ出す怒りを恨みに変え、ジンへの復讐を誓うのだった。
*****
「そう言えば、さっきの魔王ってのは本当なんですか?」
今更その事を聞いてくるアカリ。
魔王って言葉よりファンクラブの会員No.を先に指摘するとか、真面目なのか天然なのか……。
「あぁ、本当だ。前魔王ドラミュートより依頼され、少し前より魔王となった」
「……本物の魔王……凄い」
それまでアカリの後ろに隠れていたヒカルが顔をひょっこり覗かせ、憧れの眼差しを向けてくる。
「まぁ、まだ四天王が揃ってないのでまだ非公式だがな。……この国にもゴンズさんを四天王に勧誘する為に来たんだ」
「……お爺ちゃんが四天王……ヤバい」
俺の言葉にお爺ちゃんの四天王としての姿を想像したのだろう、先程までのキラキラした憧れの眼差しを更にキラキラさせている。
そう言うワードが好きなお年頃かな。
「それで、アイドル国宝を目指すのは良いが、具体的にどうするつもりなんだ?」
俺は先程の話で気になっていた事をアカリたちに聞く事にした。
具体的な策も無いのに手伝う事は出来ないからな……。
「それは……本来だったら今までみたいに地道に地下アイドルを続けて、少しずつファンを増やしていく予定だったんですが」
ほう……一見地道に見えるが、先程アカリは新しくファンクラブ会員になるならNo.0478になると言っていた。
しかもファンにドワーフ以外がなるのは初めてだと。
すなわち、三千人程のこのドワーフの国で、既にその六分の一ものドワーフがトゥライトのファンクラブメンバーと言う事になる。
先程のクロッソのトゥライト講座では確か十四歳の時に活動を始めたと言っていた。
つまりたったの二年間でマイナスイメージしかないドワーフたちの価値観を変え、これだけのファンを増やしたと言う事だ。
それってかなり凄い事じゃないか?
とても理想だけ抱いても実現出来る事じゃない。
クロッソに連行された為少ししかライブを見れなかったが、確かに双子のライブは素晴らしい歌声にキレキレのパフォーマンスだった。
日頃から練習をしっかりしている証だろう。
そして何より、どこか人を惹きつける何かを感じた。
それはお爺ちゃんの幸せを願う想いからくるモノなのか……それとも二人の元々持った魅力かわからないけれど……どちらにしろ、これなら俺たちが手助けしなくても、いずれはアイドル国宝も夢ではないかもしれない。
……ん? 本来だったら?
「本来だったらと言うと、何か予定が変わるような事があったのか?」
「それが……」
再び表情が険しくなるアカリとヒカル。
「今この国の目と鼻の先の程の場所でこの国に魔族への武器の輸出を止めるよう圧力をかける為、人族軍が待機しているの知っていると思うけど、いつまでもその答えを濁すこの国に人族たちはある代案を出したの」
「代案?」
それは初耳だ。
だが、いずれにせよ人族が考える事なのでろくでもない事だろう。
「それが……輸出の禁止を求めない代わりに、私たちのお爺ちゃんである、この国の鍛治師国宝を人族軍に引き渡す事なの」
「なっ!? それは本当の事なの!?」
驚き問い詰めるアルス。
ただ、そのあまりの迫力に双子が怯えているからやめてあげてほしい。
「う、うん……髭国宝がわざわざお爺ちゃんに会いに来て話しているのを聞いたから間違いないよ」
「……確かに、ゴンズはこの国でもダントツで最高の腕を持った鍛治師。ゴンズさえ手に入ればそれだけで魔族にとってかなりの痛手になるわね」
あの孫ラブお爺ちゃんがそこまで凄い人だったとは……鍛治師国宝と言うのも頷ける。
「……それで、ゴンズはなんて?」
「わかったって……」
マジか……ん? それだと俺たちに提案した話と変わってくるな……。
「おかしいですね……ゴンズさんは私たちに四天王入りする代わりにお二人を魔王軍で保護してくれとお願いされていましたよ?」
ルナーレもそこが腑に落ちなかったようで、先程の俺の話を補足する。
「そっか……髭国宝と話した後、お爺ちゃん……私たちにも同じような事言ってた。……この国を捨てて、三人でどこか違う場所で暮らそうって……」
成程……あくまでも髭国宝への返事はその場しのぎで、人族軍に引き渡される前に逃亡する予定だったんだな。
そこへちょうどよく俺たちが四天王の勧誘に来たと。
「でも……お爺ちゃんは本当は、そんな事したくない筈なの! そんな……みんなを見捨てるような事……。弟子や部下の人……お爺ちゃんを慕ってくれていた人みんなを宝物って言っていたお爺ちゃんが……今でもお酒を飲むと仲間の写真を見て懐かしむように悲しそうに微笑むお爺ちゃんが……そんなこと……望む筈……ない。」
お爺ちゃんを思い、二人の瞳からは涙が溢れ落ちる。
「それでもこの国を出ようとしてるのは、全部私たちのせい……私たちを守る為に、またお爺ちゃんにとって大切なモノを全部……失おうとしてる……だから、人族軍の指定した猶予までに私たちは一刻も早く、アイドル国宝にならなくちゃいけないの! アイドル国宝になって、人族軍にお爺ちゃんを渡すのを辞めさせなくちゃ……」
それでか、話を聞く限り二年以上もゴンズさんにバレずにアイドル活動をしてきたのだからこれまで偽造工作は完璧だった筈だ。それなのに今回のライブをする為に取った方法はお粗末過ぎる。
よっぽどゴンズさんが鈍感なのか……それともそうせざるおえないくらい急いでいるのか。
「つまり、その猶予として指定された期日までにアイドル国宝として認められる位ファンを増やさなくちゃいけないんだな……ちなみにその期日と大体それまでにファンを何人に増やせれば良いんだ?」
「……」
俺の質問に途端に黙り込むアカリ。
するとそれまでアカリの後ろに隠れていたヒカルが一歩前え出て代わりに答えた」
「……期間は三日……ファンは千人」
ヒカルの言葉にみんなは絶句する。
でも……やっぱりか。
アカリとヒカルがバレないようにコッソリやっていたとは言え、二年間でファンになったドワーフは427人。
それをたった三日で倍以上に増やさなくちゃいけないのだ。
「例えライブの回数を増やした所で、今までのやり方でそれは……不可能ですね」
「ッ!? そんなの! やってみないと、わから……ない」
ルナーレの指摘に本人達も不可能だと感じていたようで、反論しようとしたがそれは次第に弱々しくなり、最後は下を向き黙り込む。
「大丈夫だ! アカリたん! ヒカルたん俺たちもファンの素質がありそうなヤツらを探してるから!」
そんなアカリたちの姿に耐えきれなくなったのか話を聞いていたソルがそうフォローする。
「だが、それでも現実的に考えて今まで通りやっていたらとても間に合わないだろう? 他に方法はないのか?」
「それは……」
再び黙り込む双子。
そしてフォローする言葉も見つからないソル。
どうやら他に方法は思いつかなかったようだな……。
「そうか……確認なんだが、君達はお爺ちゃんの為にどれだけ侮辱や罵声を浴びせられてもいい覚悟と、そんな中でもプロとして変わらない笑顔でパフォーマンスが出来るか?」
「えっ?……も、もちろん!」
「……当たり前」
俺の言葉に何を言っているのかわからなかったようだが、それでもすぐに肯定したアカリとヒカル。
「例え君達がやっている事をこの先お爺ちゃんに否定されても……それでも最後までやり抜く事は出来るか?」
「……それでも結果的に、お爺ちゃんを笑顔に出来るなら……必ず」
「……宝物を取り戻す」
二人とも真っ直ぐな瞳で俺の質問に答えた。
うん、ゴンズさんは良いお孫さんたちを持ったな……。
「ならば……俺から提案がある
ゲリラライブをしよう!!」




