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ボーンライフ  作者: ユキ
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アイドルである理由

 小さなステージの上で、その小さく愛らしい姿からまるで妖精がフワフワと舞い踊っているように曲に合わせて華蓮に踊り、その見た目通り透き通った声でハモり歌う二人の少女。


 その少女たちこそ、ゴルズの孫でドワーフ族の双子、アカリとヒカルだった。



「オイオイ……マジかよ……」


「双子って他のドワーフみたいなオッサン顔じゃないんだね」


「ミルカ……それを言っちゃダメです。……ですが、流石にこのような姿は……想定外ですね」


 散々な言われようだが、それもしょうがないだろう。


 だってこの国に来て知った事だが、ドワーフたちは男も女も子供もみんな、オッサン顔に髭の生えた姿なんだもん。



「おっ、お前たち初めてか? 私はここを仕切っているクロッソってもんだが……どうだ、私たちのアイドル『トゥライト』は? 最高だろう?」


 俺たちが想定外の双子の姿に戸惑っていると、それまで俺たちの前で曲に合わせて激しいダンス……いわゆるオタ芸をしていたクロッソと名乗る赤いモジャモジャの髭が特徴のドワーフが俺たちに気付き話しかけてきた。



「あ……あぁ、確かに最高だな……だが、君達ドワーフとは姿がだいぶ違うようだが……」


 俺の言葉にそれまでの楽しげな表情から一転、悲しい表情へと変わるクロッソ。


「そりゃ彼女達は双子だからな……ドワーフで双子が生まれると昔から『誇り』の無い、あんな姿になっちまうんだ。……だけどそれが何だ! 筋肉は無いが、逆にその細い体から生まれる繊細ながらも激しいダンスは、おもわず見惚れる程美しいし、鍛治師の命であるハンマーも持てない小さな体はむしろ愛らしく、保護欲をそそる。髭がない事でガラスのような滑らかな肌が強調され、その透き通る声と伴ってむしろ神秘的な印象すら生み出す。……私たちのアイドル、アカリたんとヒカルたんは……このワッフル公国に生まれ落ち、私たちに宝物のような新たな価値観を見出してくれた、双子の天使様なんだよ!!」


 最初の悲しい表情はどこへやら、凄い勢いで双子の良さを力説するクロッソ。


 これはアレだ……オタク特有の好きな物は凄い早口になるアレだね。



 しかし……天使か……。


 改めてクロッソの話を聞いて双子のパフォーマンスを見るが、最初に感じた通りその透き通った声で歌われる歌は素晴らしく、歌と共に踊られるダンスはとてとキレがあり心を熱くさせる。


 幻想的な姿もあり、天使や妖精と言われても頷ける魅力を感じる。


「確かに……良いな」


「クゥ!? だろ!! お前わかってるじゃないかぁ、気に入った!! トゥライトの良さ、もっと聞かせてやるよ!! こっちこい!」


 思わず出た俺の独り言に食いつき……いや飲み込む勢いで別室へと連れて行かれて突然始まったトゥライトの魅力講座は、有無を言わさぬ勢いで、その後長々と聞かされる事となったのだった。



  *****



 コンコン。


「姉御……そろそろライブも終わっちゃいますぜ」


「……おっ!? もうそんな時間か! まだトゥライトの魅力の十万の一も説明出来てないんだけどなぁ……まぁ、しょうがない! クリス、悪いけど続きはこの次だ! この後やらなきゃいけない仕事があるから俺はもう抜けるぜ! ソル、ロート、後は任せた!」


「「ウス」」


 そう告げ風のよう去っていくクロッソ。


 やっと解放された……。


「姉御に目をつけられるなんて災難だったな……」


「……ウス」


 同情の声をかけてくる小さなドワーフ。

 後ろでそれまで殆ど喋る事のなかった太ったドワーフまで慰めのつもりであろう言葉を言ってくる。


 同情されるのも無理はない。


 結局あの後二時間近い時間、トゥライト魅力講座なる話が永遠と続いたのだからな。



「あぁ〜楽しかった! アイドルのライブって初めてみたけど凄いね!! 思わず真似して踊っちゃった!」


「ええ! 凄かったですね! ……私もあんなヒラヒラの際どいスカートでご主人様の前で踊ったら、興奮したご主人様に襲われちゃうかも……ふふふ」


 いや、襲わないからね! 俺はどんなケダモノだよ!


「それいいアイデアね! 私も着ちゃおうかしら」


 それは全力で勘弁して下さい!!!



 俺がライブ会場に戻ると、俺が捕まっている間ライブを堪能したみんなは、各々楽しげに感想を述べあっていた。



「トゥライト愛してるぞぉーー!! 最高のライブをありがとーぅ!!」


 ……。


 大声で幕下にはけたトゥライトに感謝の言葉を叫ぶドワーフたちに混ざり、同じように叫ぶ見覚えのある人族のオッサンが一人。


 誰に貰ったのか周りのドワーフとお揃いのトゥライトLOVEと書かれた鉢巻とはっぴを着て、その姿は完全に周りのアイドルオタクに溶け込んでいる。


 ……うん、見なかった事にしよう。


 変なオッサンはほっとく事にして集まった俺たちに、小さなドワーフが話し出した。



「今見てもらった通り、ゴンズさんのお孫さんであるアカリたんとヒカルたんは自らの意思でクロッソの姉御の仕切るここで地下アイドルをしている」


 小さなドワーフが改めて双子の説明を始めるが、たん呼びって……。


「そして俺はクロッソの姉御の部下で、トゥライトファンクラブ会員No.0002番のソルってもんだ。こっちのデカいのは俺の同僚の会員No.0003番、ロートだ」


「ウス」


 ファンクラブなんてあるのか……本格的にアイドルしてるんだな。


 しかし……。


「どうして双子は地下アイドルなんてやってるんだ?」


 この国では双子は不吉の象徴……外を出歩くのすら危険な状態でアイドルなんて無謀ではないだろうか。


 それは本人達が一番理解しているだろう事だが、それでもアイドルをやっていると言う事は、よっぽどの理由がある筈。



 俺の質問に神妙な表情になるソル。


「それは……ゴンズさんの為だ」


「ゴンズさんの?」


 ゴンズさんの為に地下アイドル……全く意味がわからん。


「詳しい事は二人に聞いてくれ、そろそろ支度も終わった頃合いだろうから、これから二人の所に案内する。ついてこい」


 時計を確認してからそう言って歩き出すソルと従うロートに続き、関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉へ向かう俺とルナーレとアルス。


 ふと後ろを見ると、ミルカがジンの元へ向かい幻術で作り出した実体のあるタライを頭の上に落としていたので、ジンはミルカに任せておけば良いだろう。



 それからしばらくして追いついたミルカと頭を押さえたジンが合流し、そのまま案内されて通路を進む。


 ミルカにはお礼に頭を撫でてやったらとても幸せそうな顔をしていた。


 後ろでルナーレとアルスの凄まじい視線を感じたが無視だ。



 そしてある扉の前でソルたちが立ち止まった。


 扉にはトゥライトと書かれた札がかけられており、そこがアカリとヒカルの控え室のようだ。


 ふと下を見ると、扉の横にはゴンズさんの家にもあったペット用と思われた小さな扉がある。


 なるほど、これはペット用ではなく、双子専用の扉だったんだな。



 トントン。


 そう自分で納得していると、俺たちがついてきた事を確認したソルが扉をノックした。


「アカリたん、ヒカルたん、少し宜しいでしょうか」


 そのたん呼び、本人たちの前でも一緒なのね……。



「どうぞー」


 中から可愛らしい声で返事があった事で扉を開けたソルは少し待てといって先に部屋へ入る。


 しばらくして扉が再び開けられると、許可が降りたと言いながら部屋の中へと俺たちを通してくれた。



 部屋に入って俺たちが最初に目にした物……それは、広い部屋の中央に置かれていた豪華なドールハウスだった。


 いや、サイズ的には丁度いいかもしれないけど……まさかなぁ。


 俺たち全員が部屋に入り、ロートが扉を閉めると、その音に反応したようにドールハウスでバタバタ物音がし、扉が開かれる。


 扉が開かれ中から現れたのは案の定、先程ライブ会場で見たまるで人形のように愛らしい瓜二つの双子の姿。


 こんな広い控え室があるのにわざわざドールハウスにいなくても……。


 そんな事を一瞬思ったが、出てきた二人の姿があまりなもドールハウスに似合い過ぎたので黙っておく。



「初めまして、私はトゥライトのアカリで、私の後ろに隠れているのがヒカルよ。あなたたちはお爺ちゃんのお知り合いで私たちを探してたって聞いたけど、急にどうしたの?」


 アカリと名乗った子は、オレンジ髪をツインテールで縛った姿が特徴の、活発そうな女の子だった。


「初めまして、俺はクリスだ。アルスとは顔見知りらしいからそれ以外の紹介から。こちらの金髪の女性がルナーレで、後ろの子はミルカ、横で間抜けな顔をしているのがジンだ」


「間抜け顔は余計だ!」


 俺の紹介に吠えるジン。


 だが、先程のライブでどハマりしたせいで、トゥライトの二人に会った事で顔のいろんな部分が緩みきってるその姿が間抜けな顔になっているのは事実だからしょうがない。



「俺たちはゴンズさんにある重要な話をしにこの国にやって来たんだが、その時君達が部屋にいない事がわかってな……君達を探しにゴンズさんが家を飛び出して行ってしまったので、話の続きをする為にも君達を探してたんだ」


「そうだったのね。私たちのお爺ちゃんがごめんなさい」


 申し訳なさそうに頭を下げるアカリ。


「……手紙」


 その後ろでそれまでアカリに隠れるようにしていた水色の髪をポニーテールにした女の子がボソリと呟く。


「そうだよ! ちゃんと部屋に置き手紙置いてきたのに、お爺ちゃんたら慌てん坊なんだから!」


 あぁ、そう言う事か。


 部屋に入って双子がいない事に慌てたのか、結構な音を響かせ部屋中ひっくり返して探し回ったようだから、その時手紙もどこかに行ってしまったのだろう。



「何にしてもゴンズさんがかなり心配していたぞ。聞く所によると、君達は外出するだけでも危険らしいじゃないか。それなのに、どうしてまた一目に晒されるアイドルをやっているんだ?」


「それは……」


 俺の質問に俯くアカリ。


 するとそれまで後ろに隠れていたヒカルがアカリの服の袖を掴みながらもスーっとアカリの前に出る。


「……信頼……回復」


 そのヒカルの行動に顔をあげたアカリ。


 ヒカルもアカリを見る事で見つめ合うと、覚悟を決めたように頷き合った。


 お互いがお互いを助け合う……本当に仲の良い姉妹なんだな。



「お爺ちゃんには内緒にしててね?」


「あぁ」


 俺の返事に満足したのか、ポツリポツリとアカリ理由を説明してくれた。



「お爺ちゃんは……鍛治師国宝と言うこの国でも最高位の立場なのに、不吉と呼ばれる双子の私たちを引き取った事で、多くのドワーフたちから批判や反発を受けの。……その結果鍛治師国宝と言う立場は残ったけど……国民からの信頼を失い、この国での発言力を失っただけでなく……それまでお爺ちゃんを慕い、集まった多くの弟子や部下の皆さんも離れていってしまったの」


 通りで……アレだけ広い家に、ゴンズさん以外見なかった訳だ。



「お爺ちゃん自信はそんな事気にしていないようだったし、私たちにも気にするなって言ってくれていたけど……私たちのせいで、お爺ちゃんの信頼も……仲間も……全て無くしちゃったんだもん……気にしないなんて出来なかった」


 悲痛な表情で話すアカリと、まったく同じ悲痛な表情でアカリにしがみ付くヒカル。


 自分たちが原因で、自分たちを引き取り守ってくれたお爺ちゃんの信頼と仲間が失われたなんて……確かに気にするなって方が無理ろうな。



「私たちを引き取る前、お爺ちゃんはいつも私たちに話してくれた。『鍛治師はワシの誇りで、弟子や部下、この国のワシを慕ってくれているドワーフたちみんなは、ワシの宝だ』って。……だから私たちは、失ったお爺ちゃんの宝物を取り戻したいって思ったの。でも、その為には……お爺ちゃんの信頼を失う原因になった私たち自身がみんなに認められなくちゃいけない。その為に考えた方法がアイドルなの」


 そう言う事だったのか……確かにアイドルとして自分たちがドワーフたちに認められると言う事は、ドワーフたちが双子を認めたと言う事だ。


 そうなれば双子を引き取った事を理由に失ったゴンズさんの信頼も取り戻せるだろう。


 しかしそれは……。



「クリスさんたちの顔を見れば言いたい事はわかるよ。この国で私たちの姿は異形……みんなに私たちがアイドルとして認められるのは難しいって……」


 表情のない筈の俺の顔を読んだだと!? ……いや、横を見ればジンの情けない表情が見える。きっと他の仲間も同じような表情をしているから雰囲気で察したのだろう。



「それでも……ここにいるソルやロート、この場所を用意してくれたクロッソは私たちを認めてくれた……そして、私たちを応援してくれているファンの人たちも!」


「アカリ、たん……」


「ウ、ウス……」


 アカリの言葉に涙ぐみながらも頷くソルとロート。



「お爺ちゃんの事もだけど、そんなみんなの期待に応える為にも……アイドルとして、この国のみんなに私たちは認められたいの! ……それこそこの国で……アイドル国宝と呼ばれる位に」


 それは不吉と呼ばれるこんなにも小さな体には大き過ぎる夢だった。



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