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ボーンライフ  作者: ユキ
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アカリとヒカル

 お父さんは優しいドワーフだった。


 例えドワーフの世界で双子が不吉だと言われていても……不吉だと言われる由縁である、他のドワーフとは違うこんな見た目でも……私たちを愛し、守ってくれた。


 私たちはお母さんが命をかけて産んでくれた宝物だからと言って、大切に……本当に大切に、育ててくれた。


 でも、そんなお父さんはもうこの世にいない……。


 鉱夫だったお父さんは私たちが十二の時、落盤事故で天井の下敷きになり命を落としたのだ。



 両親を亡くし、行き場のなくなった私たち。


 不吉と呼ばれる双子で、ただでさえ見た目も他のドワーフと違うのに、私たちが産まれた事で体の弱かった母親は体調を崩して死に……そして父親もまた事故で亡くなった。


 そんな私たちを周りの大人は気味がり、引き取ろうとする者がいないどころか、両親が死んだのは私たちのせいだと言い、殺してしまえと言う者さえいた。



 そんな大人たちの話し合いと言うなの怒声響くその場で、私は震える弟のヒカルを後ろに庇い、自分も震えながらもこの醜い大人達から弟を守ろうと必死に睨み、自ら虚勢を張っていた。


 そんな時だ……一人の老人が私たちの目の前に歩み寄ってきたのは。



 その行動に一気に静まる大人たち。


 私はそれまでの大人たちの怒声により恐怖し、最早近付く老人の顔がドス黒い化け物に見え、表情すら認識出来ない程だったが、それでも必死に両手を広げてヒカルを庇う。


 私たちの目の前まできて立ち止まった老人の手が、ゆっくりと私たちに近付く。


 目の前まで来た大きなその手に恐怖し、思わずギュッと目を閉じる。


 私はここで殺されてしまうかもしれないけれど、せめて弟だけは……。



 藁をもすがる思いで願った願いは、次の瞬間、固くゴツゴツだがどこか優しさの感じられる温かな手に包まれる事でフッと消えていった。


「怖がらせてすまなかったな……お前達は娘に代わりワシが責任を持って守るから、もう何も心配しなくてよいぞ」


 突然包まれた事で、安心感と困惑とでぐちゃぐちゃになった私の感情に、スッと溶け込むように入ってくる老人の優しい言葉。


 ふと見上げると、そこにはドス黒い化け物の姿はなく、私たちを見つめる、お父さんと同じような優しい目をした老人の姿があった。


 老人の言葉とその優しい目にそれまで抑えていた感情が濁流の如く理性を押し流し……私とヒカルは、老人の手に抱き付きながら大声で泣いた。


 その老人こそ、この国では鍛治師国宝と呼ばれている程の凄腕の鍛治師で、私たちの祖父であるゴルズ・ワッフルだった。



  *****



「……て……リ。…きて…カリ。起きてアカリ」


 目を開けると目の前には私と瓜二つの顔の双子の弟、ヒカルが私を覗き込みながら揺すり起こしていた。


「ふぁ〜、おはようヒカル。……もう朝ごはん?」


「……出番」


 私の言葉に少し呆れ顔のヒカルは、言葉数少なく要件だけ伝える。


 少しぶっきらぼうにも聞こえるが、あまり喋るのが得意ではないヒカルは普段からこうな感じなので特に気にする事でもない。


 ……ん? 出番?


 その言葉におそろおそろ壁にかけてある時計を確認する。


「もうこんな時間!? 早く準備しなくちゃ!! もぉー、ヒカル! どうしてもっと早く起こしてくれなかったのよ!」


 この後の予定を思い出して飛び起きると、急いで着替え始める。


 あぁ〜! こんな事なら時間があるからって昼寝なんてするんじゃなかった!

 着替えが終わったら化粧して、ヘアセットして……うぅ……時間が足りない。


「……何度も……起こした」


 私の言葉に少しムッとして反論するように答えるヒカル。


 だが、その手は着替えの終わった私の髪を整え、支度を手伝ってくれている。


 何だかんだ文句を言っても、とても優しい子だ。



 ヒカルの手伝いのおかげで何とか時間に間に合った私は、既に準備万端のヒカルに手を差し出した。


「行こう! ヒカル!」


「……うん」


 部屋の扉を開ける私の頭の片隅にはまだ、先程見た夢の残影が残っている。


 さっき見た夢は、夢だけど夢じゃない……過去に実際に体験した現実の事だ。


 私たちがこうして今日まで生きてこれたのも、あの後私たちを引き取り、育ててくれた、お爺ちゃんのお陰。


 だから私たちは、少しでもお爺ちゃんの力になれるように、今できる事を頑張ろう……。


 そう決意を改めて、隣に立つ半身であるヒカルと共に、開かれた扉を出るのだった。



  *****



 俺は今、ゴルズさんに双子の孫であるアカリとヒカルの部屋に案内されている。


 ゴルズさんの家は鍛治師国宝と呼ばれるだけあり大きい。


 その為、双子の部屋までもそれなりに距離があるので、その間双子について話をしてくれているのだが、それにしても、誰ともすれ違わないな……。


 これだけ大きいなら使用人も結構な数いる筈だし、何より鍛治師国宝と呼ばれている程の鍛治の腕なら弟子が何十人と居てもおかしくないと思うんだが……。



「……と言う事で、両親を亡くした孫たちをワシが引き取った訳じゃが……」


 そんな事が気になったが、重要な話をしてくれているので意識を切り替える。


「ドワーフの間では双子は不吉の象徴と昔から呼ばれていてな……古い考えのドワーフ程当たりが強く、孫たちにとってこの国は、生きづらい場所なんじゃ……」


「それで孫たちを俺たちの街で保護して欲しいと……しかし、何でまたドワーフたちは双子を不吉だなんて考えるんだ?」


 ジンの言葉に俯きながら答えるゴルズ。



「双子で産まれたドワーフたちは、皆共通する特徴があってな……それはドワーフとしての誇りが欠落したワシらとは掛け離れた姿で……誇りを重んじるドワーフからしたら、その姿を畏怖し、不吉の象徴と呼ぶのも仕方のない事なのじゃ」


「誇りって、あの三つの……?」


 ゴルズの言葉に不思議そうに質問するミルカ。


「あぁ……そうじゃ。筋肉、髭、鍛治。……どれか一つならまだしも、それら全てが欠落したその姿のせいで、双子はドワーフとしての生すら認められず、昔からお腹の中にいる時点で双子と分かれば中絶させるのが習わしじゃた」


「そんなの……酷い……そんな事……許される訳がない」


 ゴルズの話に悲痛な表情で呟くルナーレ。


 人族の間で容姿だけではなくその行いから聖女と呼ばれていた程の彼女だ。

 ゴルズの話はなかなか受け入れ難い事だろう。


 しかし、見た目で生まれる事すら許されないなんて……筋肉と髭はまだわかるとして……鍛治が欠落した姿とは一体……。


「そうじゃの……ワシの娘も、長い事待ち望みやっと出来た子供が双子だと知り、同じ気持ちだったんじゃろうな……ワシや周りの説得も聞かずに家を飛び出し、ただでさえ大変な双子の出産を、生まれつき弱い体で行った結果……無理がたたって死んでしまいおった……」


「「「……」」」


 ゴルズの言葉にみんな一様に沈黙する。


「そんな気にせんでいい、その代わりとは言わないが……あんなにも可愛い孫たちを残してくれたんじゃからな」


 そう話すゴルズの顔は、それまでの常に厳しい表情から、緩み切ったお爺ちゃんの顔になっていた。



「本当に、大切なんですね」


「あぁ……だからこそ、あの子らには幸せになってもらいたいんじゃ」


 笑顔で言うルナーレに、釣られてゴルズも笑顔で答える。


 だが、その表情はすぐにまた険しいものになる。


「じゃが……それはこの国では無理な事でのぉ……この伝統と誇りを重んじる、この国ではな……。じゃからお前たちの所であの子を保護して欲しい。お前たちの所なら、ドワーフの価値観にとらわれる事なく、自らの容姿を気にする事もなく、胸を張って生きていけるじゃろう?」


 確かに多種多様な容姿を持つ魔王軍なら、どのような容姿でも差別される事はないだろう。


 更に俺たちの後ろ盾があり、祖父が四天王ともあれば下手な扱いも受けない筈。


 それならゴルズさんのお孫さんたちも幸せに生きていけるだろう。



「着いたぞ」


 俺がそんな事を考えていると、いつの間にか目的の部屋の前まで来ていた。


 その部屋の扉は、花やディフォルメされた動物が描かれた可愛らしい物で、よく見ると扉の横には小さな、これまた可愛らしい絵柄のペット用であろう扉が付いていた。


 孫の為にこんな凝った扉を作るとか、どんだけ孫ラブお爺ちゃんだよ。



「一度ワシから話をするから、少しここで待っていてくれ」


 そう言って扉を開け部屋へと入って行くゴルズさん。


 ドワーフたちに不吉と言われる見た目の双子……果たしてどんな姿なのだろうか……。


 どんな姿であろうとゴルズさんが四天王になってもらうには失礼のないようにしなくては。


 そんな覚悟をしたが、いつになっても呼ばれもしないし、出てくる事もなく、代わりにドタバタと走り回る足音と何かをぶち撒けるような音だけが部屋から聞こえてくる。


 もしかして喧嘩でもしているのだろうか……。


 俺たちは顔を見合わせ、そろそろ止めに入るべきかとアイコンタクトを取っていると、勢いよく扉が開かれ、中から涙目のゴルズさんが飛び出してきた。


 孫に言い負かされたか?



「ア、ア……」


 気が動転しているのか、上手く喋れないゴルズ。


 これは……よっぽど孫たちに酷い事を言われたな。


 孫ラブオーラ全開のお爺ちゃんだもの、そのショックは容易に想像出来る。


 俺がどう慰めるべきか考えていると、ようやくゴルズが喋り出した。



「ア、アカリとヒカルが……どこにもいなああぁぁい!!」


 やっと喋ったと思ったらそんな事を叫び出すゴルズ。


 へ? アレだけ血相変えて飛び出してきて、ただいないだけ?


「何だよ、ただ出掛けてるだけじゃないか」


 俺たちの気持ちを代弁するように言ってくれたジンの頭に勢いよく落とされる拳骨。


 ゴツン!!


「アイタァ!」


「バカモン!! アカリとヒカルはまだ十六の子供……しかもドワーフたちから不吉と呼ばれている双子なんじゃぞッ!! 明らかに双子とわかる見た目で二人だけで外出などする訳ないじゃろう!! ……下手をしたら殺されてもおかしくないんじゃぞ!! ……ハッ!? もしや誘拐か!?」


 なっ!? 殺されるって……そこまでこの国での双子のたちばは危ういのか……。


「それは……早く探さなくちゃいけませんね!!」


 ゴルズの言葉に真剣な表情で答えるルナーレ。


「私も手伝うよぉ!」


 ミルカも元気よく手を上げ捜索を申し出る。 


 ルナーレとミルカの言葉に涙を流しながらうんうんと頷くゴルズ。


 しかし、よせばいいのに余計な一言を言うバカが一人。


「そんな心配しなくても、年頃の子供なら外出位するだろ? その内戻ってくるって」


 ゴツンッ!!


「ぐあぁ」


「そんな事言ってる間にワシの可愛い孫たちが事件に巻き込まれていたらどうしてくれるんじゃ!! そんな事になったら四天王などワシはならんぞッ!! 絶対にな!! ああもう! こんな話をしている時間が惜しい! ワシは街に探しに行ってくる!!」


 ほら、怒らせた。


 せっかくルナーレたちの言葉で落ち着いてきたのに、ジンの余計な一言で怒り出し、そのまま廊下をかけて行ってしまった。


 後に残されたのは頭を抑えてうずくまるジンと、そのジンを呆れと軽蔑の混じった表情で見る俺たちだった。


「私たちも探しに行きましょう」


 アルスの言葉に頷く一同は、未だ痛がりうずくまるジンを放っておいて外へと歩き出した。

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