鍛治師国宝
「ようこそ、ドワーフの国へ! ここがドワーフ達の作りし武器の国、ワッフル公国よ!」
そう言って大袈裟に両手を広げて見せるアルス。
「これは……すごいですねぇ……」
「綺麗……」
規模もそうだが、ワッフル公国のその美しい光景に圧倒されたルナーレとミルカの口から、思わずそんな言葉が漏れる。
「凄いでしょう、この場所は貴重な鉱石が沢山取れるんだけど、元はその鉱石を取る為に掘られた穴から次第にドワーフたちが集まり街へと変わり……更に大きくなって今の国が出来たのよ」
「は? この巨大な空洞もドワーフたちがその手で掘ったって言うのか!? とんでもねぇな」
自分の種族でもないのに自慢げに話すアルスに驚くジン。
でも、確かにこの光景を一から人が作り上げたと言うのは、自分の事ではなくても自慢したくなるのもわかる。
「凄いでしょう。あの中心のお城も元は小さな石の小屋だったんだけど、下に掘り進めていく内にあんなにも巨大なお城になっていったのよ」
まさかあの城を作った方法が下に広がっていったパターンとは、驚きの事実だな。
そしてそれを実現するドワーフの技術力に脱帽する。
「あのお城にはこの国の王様が住んでいるの?」
ミルカの質問に首を横に振るアルス。
「いいえ、この国に王様はいないの。だからあのお城は誰かの居城ではなく、ドワーフたちの集会所として使われているわ」
「たかが集会所なのにあんな巨大な物を作ったのか!?」
「あんなにも大きくなったのは、ドワーフたちの凝り性な性格と……見栄ね」
ジンの驚きに苦笑いしながら答えるアルス。
見栄であんな巨大な建物を作るとは……しかもよく見ると細部まで装飾され、建物全体が芸術品のような作りになっている。
やはりドワーフは凄い種族なんだな。
改めて、それでこそファンタジー世界のドワーフ! と言ったその技術力に何だが嬉しくなってきた。
「王が居ないと言う事は、この国は誰が統治しているのですか?」
「この国で政治を取りまとめているのは、それぞれ各分野で頂点に君臨するドワーフ国宝と呼ばれる三人のドワーフ達よ」
ルナーレの質問に答えるアルスにミルカが小首を傾けながら呟く。
「各分野の頂点……?」
「えぇ、それはそれぞれドワーフ達にとって、とても……とっても大切な、種族の誇りとも呼べる事。一つはその強靭なパワーを生み出す肉体の要……筋肉!! 一つはそのしなやかさや見た目からドワーフの美しさを象徴する……髭!! 最後はドワーフと言う種族が最も得意とする作り出す力……鍛治師!! それら三つの分野よ」
そう言ってそれぞれに掛け声と共にポーズをとるアルス。
アナタはドワーフの回し者なんですか?
てか、筋肉はギリギリ良いとして……髭って……。
「これから会いに行くドワーフも、そのドワーフ国宝の内の一人で、ドラゴンすら両断する武器を作ると言われる伝説の鍛治師……鍛治師国宝、ゴルズ・ワッフルと言う人物よ」
鍛治師国宝…また手強そうな人物が出て来そうだなぁ……。
*****
彼の作り出す武器の数々は最高の性能はもちろん、性能を追求し、飾りけなどない筈のその見た目は、魔性の魅力を放ち、見る者を魅了する、最早芸術品とも呼べる代物達……鍛治師の頂点、鍛治師国宝ゴルズ・ワッフル。
俺たちは今、その人物の家で目の前に対峙している。
見た目はこれまで見て来たドワーフたちよりだいぶ歳をとって見え皺くちゃだが、その体はそこらの兵士より立派で、体から発する圧はさすがドワーフたちの鍛治師で頂点に君臨するだけありとても重く、一目で只者ではない事がわかる。
確かにアルスが四天王に進めるだけありそうだが……これは、説得も難航しそうだ。
そのゴルズが鋭い目をより鋭くしアルスを見つめると、話し始めた。
「久しぶりじゃなアルス……相変わらず素晴らしい筋肉をしている。その輝き……まるで宝石のようじゃ」
「もう、そんな褒めたって何も出ないわよ、ゴルズ」
「いやいや、心からそう思っとるって。……どうじゃ、今夜こそはワシと一晩共にせんか?」
……うん、ただのBLお爺ちゃんでした。
「ごめんなさいね。私はもうこの方のオンナなの」
アナタは俺のオンナでも、ましてや女性でもないですからね。
「そうか……それは残念じゃ。……じゃがワシはいつまでも待っているからな」
そう言ってウインクするムキムキのお爺ちゃん。
もう帰っていいかな……。
そのやり取りをでせっかくドワーフの国と言う幻想的な美しさとファンタジー要素に心躍らせていた俺の気持ちは急降下する。
「……それで今日はどう言った要件でここへ?」
おっと、そんな事考えている場合じゃないな。
俺にはここへ来た目的があるんだ。
「それは俺の方から説明させて頂く」
「ほぅ……アルスが惚れる程のオトコが、ワシに要だと……それでお主は何者だ?」
……なんか根に持ってません?
「……遅らせながら、俺は今回新しく魔王となったクリス十六世と言う。此度ここへ訪れたのは、俺が作る新たな魔王軍の四天王へ、ゴルズ・ワッフルさん……アナタを勧誘する為だ」
「ほう……ワシをお主の作る新たな四天王に?」
「ああ。アナタの他に、アルスとこちらのサキュンバスのミルカが既に四天王になる事が決まっている」
「なに!? アルスもお主の四天王に!? ううむ……アルス程の男がのぅ……」
「えぇ、それだけこちらの魔王様は凄いオトコって事。だって、魔王様は私に一対一の決闘で勝った男だもの」
「お主がアルスに勝った!? そんな筋肉の一つもない体でか!?」
その筋肉への絶大なる信頼はなんなんですかね……。
「……まぁ、アルスが言うのなら事実なのであろう……それで、四天王になる事でワシにどんな利があるんじゃ」
流石ドワーフ、力こそ全てのニューエルフと違って、鍛治師として商売をしているだけあり、こう言う所はしっかりしている。
ここで俺のとっておきを出してやる!
「もちろんタダとは言わない。四天王としてそれ相応の額の給与を支払うし、以前の魔王軍同様、完全週休2日制、残業は基本なく、例えあったとしても一分から計算される。各種休暇制度や福利厚生もしっかりしたホワイトな労働環境を約束しよう。詳しい事はそちらの資料に……」
そう言っていつの間にかけたのか、メガネをしたルナーレがゴルズに資料を手渡す。
俺の視線に気付いたルナーレが小さな声でこの為にコリアに借りましたとイタズラっぽい笑顔で教えてくれたが、秘書のつもりなのかな?
だが、そんな事よりどうだ! 俺なら確実に食いつく好条件だぞ!
「ハァ〜、お主らはワシが金に困っているとでも思っているのか? ワシはこの国に三人しかいない鍛治師国宝じゃぞ。ワシの作った武器が一体いくらで売られていると思っておるんじゃ?」
ですよね〜。
「……今話したのはあくまでゴルズさんが四天王になった時の雇用条件についての話だ。そしてゴルズさんにとっての利としては、……もしゴルズさんが四天王に入って頂けるのなら、今この国が抱えている問題に我らも助力する……と言うのは如何だろうか?」
本題はこちらだ。
この国に住む者として、今この国で起きている問題は重要な筈。
「この国の問題って何?」
俺の言葉にゴルズは目を瞑り、何やら考えているようで俺の言葉に真っ先に反応したのは後ろに控えていたミルカだった。
そう言えば話してなかったね。
「良いですかミルカ。この国は今、ヤマト王国から武力により脅されている状態なのです」
ルナーレが小さな声でミルカの疑問に答える。
「ヤマト王国ってナーレのいた国だよね? でも、どうして?」
「それはこの国が魔族にも人族にも属さない、中立を主張している国だからです」
「中立? それなら別に敵でもないんだし、わざわざ敵対する必要ないんじゃない?」
「それがそうも行かないのです……この国ではドワーフたちのその素晴らしい技術力によって、他のどの種族にも作る事か出来ない強力な武器の数々を作り出す事が出来ます。そしてその武器は中立を保つこの国により、人族にも……そして魔族にも平等に輸出されているのです。それは人族も魔族も互いに牽制し合っている内でしたら互いに抑止力となり問題にならないのですが……元魔王であるミュートさんが勇者に負けた事により、そのパワーバランスが人族側に傾いた今は、その抑止力もなくなり、ここぞとばかりにこの国に魔族への武器の輸出を禁止させようと、人族側が武力による脅しをかけているのです」
そう、それが現在この国が抱える問題だ。
説明ありがとう。ルナーレ君。
俺の思いが伝わったのか、ミルカに話す為前屈みになったことで少し下がった眼鏡の上からこちらを見たルナーレがニッコリ微笑む。
……。
普段の言動で忘れがちだが、人族でも一番と言われる程の絶世の美女であるルナーレの、そんな何気ない仕草に一瞬見惚れる俺。
「えー、なんでそんな周りくどい事するの? 人族自ら私たち魔族を根絶やしにすれば良くない?」
そんな俺の心境など察しない無邪気なミルカの言葉に我に帰る。
発言内容は無邪気じゃないが、グッジョブだ。
「自分達の事なのに随分簡単に言いますね……」
ミルカの発言に呆れ顔のルナーレ。
ここら辺は弱肉強食の社会で生きる魔族と、集団社会で生きる人族の価値観の違いであろう。
「まぁ、良いですが……それはですね、人族は魔族領のその厳しい環境に堪える事が出来ず、長期間魔族領で生きる事が出来ないからです。前回の魔王討伐の際も、魔王の討伐のみの強行軍だからこそ、大軍での進行が可能出した。しかし、それでも少なからずその厳しい環境や、襲いくる強力な魔物たちにより犠牲者も出ています」
「ふぅ〜ん……人族って弱っちいね」
「……そう、ですね……人族一人一人の力はとても弱いです。だから個の強さで自分たちより秀でた魔族を恐れ、徒党を組んで数で滅ぼそうとしているんでしょうね。……それは魔族だけではなく……私のように、普通の人とは違う考えを持った者にも……ね」
暗い顔でそう説明するルナーレ。
「いい、ミルカちゃん。普通の人族が弱いからって、舐めちゃダメよ。人族には魔王様すら倒してしまう勇者や、それ以外にも四天王に匹敵する強さを持つ特異な存在が複数人確認されているの……それに数の暴力だって侮れないわ。この国を脅しているのもその数の暴力によるものなのだから。……ほんと、人族って厄介な生き物よ」
ミルカに言い聞かせるように話すアルスの表情はとても真剣で、でもどこか暗く、それだけ過去に人族に苦労させられた事が伝わってくる。
「うん……勇者とは一度戦った事があるから知ってるけど……あれはヤバいよね」
一度勇者に負けて人族に捕えられていたミルカにも、暗い表情がさす。
「そのお嬢ちゃんとアルスの言う通り、ワシらは今人族に魔族への武器の輸出を今後一切しないよう脅されておる。それだけでなく、これからは人族の下に付き、人族の為だけに武器を作り続けろともな……簡単に言うとワシらに人族の武器を作る奴隷になれと言ってきているんじゃ。その為に人族領側の入り口では一万の人族軍の大軍が待機しており、この国に睨みを効かせているのが現状じゃな」
そこへルナーレたちの話を目を瞑り黙って聞いていたゴルズがようやく話し始めた。
「いくら人族がワシら魔族より弱いとは言え……非戦闘員も含めて人口三千人程のこの小さな国に、その数の武装した集団が攻めてくれば、簡単に制圧されてしまうじゃろう」
「それならば……」
「確かにこの国にとって悪い話ではないな……しかしそれはワシ個人の利にはなり得ぬ」
「……理由を聞いても良いかしら?」
「理由? 理由など簡単じゃ。ワシは鍛治仕事さえ出来るのなら、この地じゃなくともいいと思ってある。……それこそ、人族の奴隷になろうと、武器が作れるのならな」
マジかぁ……それじゃ他にも用意しておいた説得の条件は全て意味がないじゃないか……。
「だが……一つだけ、ワシの願いを聞いてくれるのなら、お主たちの望み通り四天王になってやっても構わんぞ」
「……その願いとは何でしょう?」
うわぁ……この流れ、無理難題を押し付けられるパターンじゃないか?
そう思い身構えていたが、その後のゴルズの言葉に拍子抜けする事になる。
「ワシの双子の孫であるアカリとヒカルを、お主たちの所で保護してくれ」




